カ月にもわたる野宿生活は、やはり小学校2年生には少々きつかったようである。ごはんをたっぷり食べて、歯を磨いて、お風呂に入って、清潔な衣服を借りて、おやすみなさい。
チコモンを抱っこしながら、大輔は眠りについたのである。もちろん空に手を握ってもらいながら。ふかふかのベッドで眠りながら、大輔とチコモンは豆電球のついている部屋で寝ている。
寝息を立て始めたのを確認して、ゆっくりと空は立ちあがって、バクモンに言われるがまま、メンタルケアを受けるべく別室のベッドルームに招かれていく。ぱたん、とドアが閉められた。
5人の子供達がいる。大輔もチコモンも見たことがない顔ぶればかりであり、服装もなんだか時代錯誤な気がしてしまうが、ここは夢の中なのだろうと思い込んでいるので、てんで気にしていなかった。
傍らにいるのは、これまた見たことがないデジモン達ばかりである。チコモンも首をかしげていた。ただ、その顔ぶれの中に一人だけ、大輔が知っている人がいたのである。
「遼さん!」
思わず大輔は反応するが、彼はおろか他の4人の子供達は誰一人として反応しないのである。まるで透明人間のごとく扱われ、ムッとするのだが、いくら近づいても距離が縮まらない。
まるでガラス越しの世界にいるみたいな気がしてしまう。ああ、あれがもしかして、遼さんの言ってた、俺達を助けるためにって言ってた、遼さん達の仲間達なんかしらん、て大輔は思うのだ。あれが遼って男の子なのかあ、とチコモンは目にしっかりと焼きつけるのだ。
ただ風が吹いている。
「あーあ、結局、アンタだけになっちまったなあ」
「そうだね、どこにいるんだろう?」
「これだけ探しても見つからないとなると、ほかの大陸では?」
「ま、そのうちでてくんじゃないの?ほっときゃいーじゃないのさ、
アタシらと違って、こいつの相棒完全体なんだし。んなことよりどうすんのよ、これから」
「まあ、まあ、そういわずに、探そうよ」
「探すっつったってあんたねえ。もうこの島ぜーんぶまわっちゃったじゃないのさ。手がかりもくそもないわよ、どーしろっつの。つーかさあ、アンタねえ、未来から来たんだから、こいつの融合相手なんているわけえ?未来から来たくせに何にもわかんないんじゃ話になんないわよ。完全体連れてるからっていい気になんないでよね」
「そういうなよ、未来からの知識のおかげで僕たちは大分助かっているんだから」
「でも、たしかにこのままではまずいのでは?これから先どうすればいいのかわかりませんよ。決戦の時は近いというのに」
「そんときゃ、俺たちで何とかやっつけちまえばいいんだよ!」
「はいはいちびっこはだまってなさい」
「んだと!?」
「俺のことなら心配しなくてもいいよ。みんなはミレニアモン以外に集中してくれたらいい」
「は、はああ!?おいおい、足手まといなんていってねーぞ!?お前いなきゃ超究極体どうやって相手していいんだかわかんねえじゃねーか!こっちは融合体しかいねえんだぞ!?」
きゅうきょくたいってなんだろう?と大輔は首をかしげるが、チコモンもさあ?っていうだけである。
「言い方がわるかったよ。違うんだ、俺しかミレニアモンは倒せない」
「ふーん、ずいぶんとまあ自信たっぷりじゃないの。根拠でもあるわけえ?」
「聞かせてくれるかい?」
「僕も聞きたいですね、あなたのことだからおそらく何か理由があるのでしょう。いつだってあなたは理由なき嘘はつかない人だ。ぎりぎりまで黙っているのは大いに気に食いませんが」
「心配しなくてもいい。俺のサイバードラモンの融合相手ならもう検討はついてるんだ」
「え?」
「心当たりあるのかい?」
「なーんだ、ならそれならそうと早くいえよなあ。完全体同士の融合だったら、ぜってー俺らんなかじゃ最強じゃねーか。超究極体だってめじゃねえぜ。もったいぶんなよな」
「ふうん、どんなやつなわけ?さっさと会いにいかないとまずくない?」
「俺のサイバードラモンの融合相手はミレニアモンなんだ」
「………は、はああ?この場に及んでなんつー笑えねえ冗談いうんだよ、お前!」
「どういうことか説明しなさいよ。場合によっちゃ殴るわよ?なに?あんた何さまよ、ふざけんのもいい加減にしなさい。あんた、ミレニアモンを倒すために未来からわざわざこの時代に来たって言ってたじゃないの。あれから全部覆す気?」
「僕も賛成できませんね、あなたらしくない」
「パートナーデジモン同士じゃないと融合はできないといったのは君だよ?どうして宿敵が融合相手なんだい?サイバードラモンがかわいそうじゃないか」
「本当にサイバードラモンはかわいそうな奴だよ、いい奴だよ、泣きたくなるくらい!パートナーデジモンでもないのに、俺のためにわざわざ時間飛び越えてまでついてきてくれたんだから!」
「え?」
「俺は選ばれし子供だよ。みんなみたいにパートナーデジモンがいるわけでも、未来のみんなみたいにデジヴァイスがあるわけでもないけどね。俺の、俺だけのものなんて何一つないんだ。
いつだって俺と一緒に冒険してきたデジモン達は、パートナーのもとに帰っていくんだ。どれだけ仲良くなっても一番は超えられない。俺はどんなデジモンとも心を通わせられるからっていうわけのわからない理由で選ばれたんだよ。
その力があるからこそ、どんなデジモン進化させられるからっていう意味不明な理由でね。このデジヴァイスだって紋章だって借りたままで返してないんだ。俺のじゃないよ。
どんなデジモンとでも仲良くなれるっていう理由だけで、俺は今ここにいるんだ。俺はミレニアモンに呼ばれたからここにいるんだ」
「まさか、お前」
「ああ、そうだよ。いっただろ?パートナーとパートナーデジモンはいつだって惹かれあうんだ。磁石みたいに。かけがえのない存在さ。離れてたって、いつだって、そばにいるんだ。
もうひとりの自分だから。だから、俺はこの時代に来たんだ。あいつに会うために。ミレニアモンと会うためにね。どこでどう間違えたのかわからないけど。
原始のデジタルワールドまで飛んで、根本から抹殺しようなんて言う無茶苦茶なことを目論んでるあいつと戦うために。俺のパートナーデジモンと戦うために!」
「ほんとなのかい?」
「3回だよ。いや、4,5、パラレルワールドでの戦いも含めたら結構な数になっちゃうから3回でいいや。
俺はあいつと戦ってきたんだ。倒してきたんだ。でもダメなんだ。あいつは死にたくないって理由だけで時間を超える。
世界すら超える。だから絶対に倒せないんだ。俺が因果律の中心にいるからどんどん強くなっていくんだよ。パートナーとパートナーデジモンのつながりはパートナーデジモンを強くしていくから。
そして何度だって俺を呼ぶんだよ。殺しあおうって。一人ぼっちはいやだから、俺と会いたいから、俺と一緒にいたいからって、何度だって俺に戦いを挑んでくるんだ。あいつ、俺をこの時代に飛ばせるとは思ってなかったみたいだ。
俺がここにいるのは奇跡みたいなもんだよ。だって、俺がここにいるのはミレニアモンが死ぬときは一緒だってもろとも自爆して、心中したと思ったらここにいたんだ。俺だってミレニアモンともう戦いたくなかった。
大好きだって言ってくれるパートナーデジモンなんだよ、いくらデジタルワールドにとっての脅威でも。疲れたからもういいやって思っちゃったから逃げられなかったんだ。最悪だよ、俺。俺には残してきた人たちがいるってことすっかり忘れてた」
「じゃあ、そのサイバードラモンとはいつから?」
「こいつと出会ったときは、まだモノドラモンっていう成長期のデジモンだったよ。この世界にもいるみたいだね。未来の選ばれし子供達を助けてくれって、初めてデジタルワールドに迷い込んだ時にたまたま知り合ったんだ。
なんにもしらなかった俺のためについてきてくれてからの付き合いだよ。でもこいつは野生のデジモンなんだ。だからサイバードラモンになるとしゃべらなくなっちゃうんだ。
俺とこいつ、パートナーデジモンじゃないから、ほんとならどっかいっちゃっても文句は言えないんだ。でも、ついてきてくれたんだ。パートナーになりたいってついてきてくれたんだ。デジモンの声が聞こえる力がこれだけうれしかったのは初めてだよ」
「じゃあ、まさか」
「うん。俺がこの時代に来たのは、ミレニアモンをデジタルワールドにとっての脅威じゃなくして、パートナーデジモンにして、元の時代に連れて帰るためなんだ。
サイバードラモンは、俺のパートナーになりたいって言ってくれてる。
ミレニアモンを助けたいって言ってくれてる。ずっと一緒にミレニアモンとの戦いについてきてくれたこいつなら、ミレニアモンもきっと一緒になってくれると思うんだ」
「え?融合体ってこの時代にしかねえのかよ?」
「この時代に来たのは初めてだから俺もよくわかんないけど、少なくても俺のいた時代にはなかったよ。進化経路はすっごく多いけど、融合なんて進化経路は初めて見たんだ。デジタルワールドもいろいろあるんだね」
「へー、そっか。ならしかたないわねえ、アタシも一肌脱ごうじゃないの。ってことは、この戦いが終わったらお別れってわけね。残念だわあ」
「まあ、別の時代からきたって聞いた時からお別れはつらくなるだろうとは思ってたけど、そういう理由なら仕方ないな」
「残念です。デジタルワールドでお別れなんて」
「ったく、見せ場とられちまうのかよ、つまんねえ」
「まあ事情が事情だから仕方ないさ。始まりの街で会えるといいね」
「ってことは、うっわーアタシら爺婆になってんじゃないの、最悪」
「けっ、しんきくせえこというんじゃねえよ。未来からきたんなら、いいんじゃねえか、見つけ出せばいいんだから。えーっと、なんねんだっけ?お前の生まれ」
「1999年で小学校5年生だよ。選ばれし子供になるのはこの年の大晦日なんだ」
住所は、と告げられる未来予知の言葉がメモされる。見つけてね、会えるの楽しみにしてるから、と5人目の選ばれし子供は笑ったのである。
なんの因果だろうか。光が丘テロ事件において、すでに優しさの紋章が解析されていた弟分と近くに住んでいた彼は、光が丘ではなく、港区の田町に住居を移すことになる。
「じゃあ、お膳立てに俺たちはミレニアモンが引き連れてる究極体どもを倒すしかねえってことか」
「そういうことになるわね」
「やってやろうじゃないか」
「そうですね」
「ありがとう、みんな」
5人は頷いた。
「だめえ」
「チコモン?」
「やめてええ!」
「おい、どうしたんだよ、チコモン!」
「倒しちゃダメだよおっ!消えちゃうよおっ!」
「え?」
「だいしけぇ、だいしけぇ、ここっ、おれのうまれたせかいだよおっ!おれたちがいっぱいいたころのでじたるわーるどだよっ!」
「え?」
「ゆうごうっていうのはね、おれたちのなかでも、すっごくすっごくなかよしのやつらがね、ひとつになっちゃうっていう、すっごくすっごくとくべつなしんかなんだよ。だいしけ、とめてええ!あのこたちはわるくないよ、でも!でもおっ!
きえちゃうよ、なんにものこんないよっ!おれたちがいたときには、だーくえりあないんだよう!みれにあもんとかいうのはいいけどさあ!ほかのでじもんたちはどうなっちゃうの?おいてきぼりなの?
みらいからきたのに、ほんとなら、だーくえりあで、いきかえるのか、とじこめられちゃうのか、きえちゃうのか、えらべるのに、まだしななくってもすむのに、しんじゃうの?おれたちはいいよ?そういうせかいだったから。
でもきゅうきょくたいのでじもんたちはどうなっちゃうのさあ!なんでおいてっちゃうのさあ!だめだよおお!」
「・・・・・・・・まじかよ、なんだよ、それ、そんなのねえよっ!かわいそすぎるだろおおっ!ミレニアモンだって遼さんと一緒になりたいけど、デジタルワールドじゃ危ないから一緒になれねえから、この時代きたのに!一緒になるためにきたのに!ねえよ、なんだよそれ!誰も悪くねえのにっ!誰もわるくねえのにいい!」
ぱりん、と世界が砕け散る。そこにいたのは、大輔とチコモンが大好きな大好きななっちゃんだった。
「なっちゃ……っ!なっちゃああああんっ!」
こらえきれなくなった大輔は少女の姿をしたなっちゃんに抱きつくのである。わんわん泣きわめく大輔とチコモンを思いっきり抱きしめながら、なっちゃんも思いっきり腕をまわして抱きしめるのである。
「ありがとう、だいすけ」
「え?」
「だいすけなら、きっと、きっと、そういってくれるとおもってたの。ありがとう、だいすけ。あのこたちのためにないてくれて。あのこたちがわるいんじゃないんだっていってくれて、ほんとうに、ほんとうに、ありがと」
「なっちゃん……あれ……なに」
「あのこたちはね、ただね、かえりたかっただけなの。しにたくなかっただけなの。きえたくなかっただけなの。
でもね、でもね、みれにあもんもそうだけど、わたしたちのせかいでは、あまりにも、あまりにも、いろんなものがおおきすぎて、どうしても、どうしても、こういうほうほうでしか、すくえないの。たすけられ
ないの。
わたしたちは、いまのでじたるわーるどをまもることしかできないから。みらいやかこのおきゃくさままでは、どうしても、いっしょにすめないの。せかいがこわれちゃうの。だから、あなたたちをよんだの。だいすけ」
「なっちゃん……」
「たすけてあげて。あのこたちはね、ただ、しにたくないっていってたこたちがかわいそうで、かわいそうで、しかたないからね、
わたしたちのせかいにある、だーくえりあで、うまれかわろうとしただけなの。でも、ながい、ながい、あいだ、たびをしてきたから、どうしてここにいるのかわからなくなっちゃってるの。
うらやましいっておもっちゃうの。どうして、どうしてって。みんな、みんな、いなくなっちゃえばいいのにっておもっちゃうの。わたしたちはいまのでじたるわーるどをまもることしかできないから、あのこたちをおくりかえすことしかできないの。
たすけられないの。いっぱいのおもいをつめこみすぎて、おおきくおきくなっちゃったあのこたちを、たすけてあげられるのはね、だいすけ、あなたたち、えらばれしこどもたちしか、いないの。ひとりぼっちをわかってくれる、だいすけ、あなたしか、いないの」
かなしんでくれる、あなたしか、いないの、となっちゃんはそういって抱きしめるのである。ひとりぼっち、という言葉に泣きじゃくる大輔は、ごめん、なっちゃんって言うのだ。
「なっちゃん、おれさあ、分かんねえよ。だってさあ、でびもんって、みんないなくなっちゃえばいいっていう、暗黒の力にさあ、騙されたんだろ?なんで?」
「……きいて、だいすけ」
「ん」
「でびもんは、むかし、てんしだったってきいた?」
「ん」
「わたしの、せいなの」
「なっちゃんのせい?」
「あのね、きいて、だいすけ。でじたるわーるどの4ねんと、だいすけのせかいの4ねんはね、ちがうの」
「え?」
「だいすけのせかいのいっぷんはね、このせかいのいちにちなの。わたしはね、だいすけのせかいの1にちしかいきられなかったの」
「え」
「だいすけに「ごめんなさい」っていいたくて、ずーっとずっとだいすけのことまってたのそのときがくるまで、ずっとずっとわたしはまってたの。あなたのこと。いっぱい、いっぱい、200のねんげつ。そのあいだ、でびもんはね、わたしのおせわをしてくれたの。
でも、わたしがまってるひとのことはね、わたしのだいじなだいじなおしごとだから。そとからのおきゃくさまにばれちゃったら、だいすけたちが、あぶなくなっちゃうから、どうしても、いえなかったの。ないしょにしてたの。
でびもん、てんしだったころはね、とってもやさしいてんしだったの。
どうしてないているのか、だれをさがしているのか、まいにち、まいにち、うまれかわりつづけるわたしをね、たすけてくれたの。
ひとりぼっちにしないでくれたの。わたしのかわりにおこってくれたの。どうして、さがしにいかないのか、どうして、なんにもしないのか、おこってくれたの。でも、どうしようもないの。そのときがくるまで、ちこもんがあなたのことをまっていたように、まちつづけるしかないかったの。
わたしは、でじたるもんすたーだから。まっているのはなれてるから。
でもね、でびもんは、そうじゃなかったの。てんしのじぶんがきらいになっちゃったの。だからでびもんになったの。みんないなくなっちゃえばいいってこえをきいてね、わたしをたすけようとしてくれたんだとおもうの。
ずっとずっとくるしみつづけるわたしをみるの、つらいから、せめて、せめて、しんじゃったほうがいいんじゃないかって」
「・・・・・・・・そんな」
「だからね、この、きずあとは、わたしのせいでもあるの。だいすけ。
でびもんはね、そのせいで、えらばれしこどもたちも、てんしのえんじぇもんのことも、だいっきらいになっちゃったんだとおもうの。
でびもんがほんとうはなにをかんがえていたのかは、もうわからないけど。わたしは、そう、おもいたいから。だから、あげる。だいすけ。
あなたがわたしをたすけてくれたように、こんどはね、わたしがあなたをたすけてあげる。めをとじて、だいすけ」
「ん」
目を閉じた大輔に、温かな光がこぼれおちる。
「だいすけ、め、あけて」
「・・・・・・・」
「どう?」
なっちゃんが心配そうに手をかざす。
「・・・・・・・・・・・・あれ?」
「ひとのきずまではいやせないけど、ひとのこころはいやせるの。あたたかなひかり。あなたがくれたひかり。あるふぉーすっていうの、だいすけ。これが、あなたのちからのなまえ。おもいをかたちにかえるなまえ。
おぼえておいて。これがあのこたちをすくうから。たすけられるから。あなただけにはじめからあったちから」
「ある、ふぉー、す?」
「うん」
「なあ、なっちゃん、200のねんげつってほんと?」
「うん」
「ごめん、なっちゃん。おれ、おれ、もっとはやくきたらよかったんだ。そしたら、そしたらぁ!デビモンだって、なっちゃんだって、もっともっと早くにさあ!なんで今なんだよおっ!おせえよ、ばかあ!」
「そんなこと、いわないで、だいすけ」
「でもっ……!」
「ちこもんから、きいてるでしょう?だいすけ。でじたるもんすたーはね、ほんとうはね、おなまえないの。すべてのはじまりのかみさまのでじたるもんすたーしかいないの。「わたし」はね、しんかするたびにきえちゃうの。
しんかするたびに、「わたし」はうまれて、しんかするたびに「わたし」はしんでいくの。でもだいすけは「わたし」をくれたの。ずっとずっと「わたし」が「わたし」でいられるちからをくれたの。
「わたし」に「おなまえ」までつけてくれたの。「なっちゃん」っておなまえくれたでしょう?わたしのおねがい、かなえてくれてありがとう」
「え?」
「わたしね、うらやましいなっておもったの。あなたのおうちのぱそこんからでてきたときにね、ジュンといっしょにおねんねしてるあなたをみて、てをつないでいるあなたをみて。
まっくらになってこわいようってないているあなたをみて、やさしくはなしかけてくれるひとがいて、おもいっきりだきしめてくれるてがあって、ほほえみかけてくれるえがおがあって、
あなたにだけむけられるあいじょうが、あなただけのあたたかいせかいが、そこにあったから。
わたしもほしいなっておもったの。だから、「いまのわたしがある」の。おなまえがいちばん、ほしかったから」
「………でも、なっちゃん、タケルみてえだよ」
「おもいだせなかったの。わたしがおぼえていたのは、ほほえみかけてくれるひと、あたまをなでてくれるひと、なまえでよんでくれるひと、だっこしてくれるひと、ぼんやりとしたせかいだけ。
このせかいににんげんはいないから、ひっしでね、あつめたの。わたしだけのひと。だから、ぜんぜん、ちがうけどね、だいすけ、このすがたはね、あなたがせかいでいちばんだいすきなひとなの」
「・・・・・・・ジュン、おねえ、ちゃん?」
「うん。わたしはジュンおねえちゃんにはなれないけれど、でじたるもんすたーだけど、さみしいなっておもったら、いつでも、よんで?わたしはあなたのそばにいる。こころのなかにいる。
あなたがよんでくれたら、わたしはいつだって、とんでくるから。ジュンおねえちゃんのかわりに、ゆめでまたあいましょう?そらおねえちゃんといっしょに、がんばるから、もうすこしだけ、がんばって、だいすけ」
「うん」
「できたらわたしがあなたのぱーとなーでじもんになりたか」
「だめええええええ!」
「だから、ごめんなさい」
「ゆっだんもすきもないんだからああああ!なっちゃんなんかきらいだああ!」
「わたしはだいすきだよ?」
「うっるさあああい!だいしけはおれのなの!おれだけのぱーとなーなのおっ!なっちゃんはだめええ!」
「ちこもんがいやになったら、よんでね?」
「むああああ!」
「ありがと、なっちゃん」
「だいすけ、おぼえていて。なにかにまよったときのまほうのことば、おしえてあげる。あのひのよるはね、わたしとだいすけは、まだであっちゃいけなかったのかもしれないの。
このであいもあってはならなかったのかもしれないの。わたしたちはであってはならないそんざいだったのかもしれないの。
わたしたちのであいははやすぎるものだったかもしれないし、おそすぎるものだったのかもしれないの。
でも、ね、だいすけ、いまこうしてわたしたちはであったの。それってとってもすてきなことなの。だって、だからこそ、わたしたちは、いまここにいるの」