マイがブロリーを先導する形で、二人は廃墟が墓石のように並ぶゴーストタウンの路地裏を歩いていた。
彼女はレジスタンスなる組織に所属しており、食糧の備蓄もあるとの下りに話が来たところで彼は土竜の真似事を止めてついていくことを即断した。
人目のつかない道を通っていた彼等は、奇縁にも同じくして人目を避けんとする者達に出会う。十七号と十八号である。
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嗅ぎ慣れた臭いがすると思えば、手負いの人造人間達が身を寄せ合うようにして道を曲がった先にいた。
マイは彼等が視界に入った瞬時に引き返そうと試みるが既に同行者が彼らの目に身を晒していた。彼女は物影に隠れるもその場を離れることは出来なかった。人造人間が破壊活動を開始すればその行動に意味はない。この行動は彼女の良心と本能のせめぎあいの結果か。それとも、極寒の中、身を寄せ合う双子の人鳥めいた人造人間達の様子がそうさせたのだろうか。
傷だらけの姉に寄り掛かられた十七号は何時もと変わりない、心中の推し量れぬ態度でブロリーと対峙する。
「・・・よぉ、元気にしてたか」
「・・・」
「口数の少ない奴だな、お前は」
「大丈夫・・・?」
「・・・御覧の有り様さ。俺も、いや。俺を庇った十八号なんか虫の息だ」
前に出ていた十七号が徐に体をずらし、十八号を支えながら彼女をブロリーとマイの目に晒した。
十八号のレッドリボンがあしらわれた鮮やかな青のジャケットは貧民街の住人が着る襤褸と変わりのないところにまでくすみ、刷りきれており、彼女がみすぼらしく見えた。嫌悪していた天狗貴族が没落した様な有様に彼女の胸が空
く。しかし、こうあって然るべきだという思いに対し、そんな害意を正当化する己に嫌悪を感じていた。彼等は余りにも多くの屍を積み上げた。一体何を躊躇う必要があるのだろうか。
ブロリーが瞼を僅かに見開いた。
「・・・左腕をやられたんだ。あと眠いらしくてな、こうして寝かせてる」
「・・・」
「まぁ行きすぎた貧血みたいなもんだ」
力無く十七号の体にもたれ掛かる十八号。傍らの彼女に目を向けていた彼は、ブロリーを見上げる。二人の目が合った。
「話し相手が欲しくてな。お前、俺と来ないか」
「わかった」
何故そう応えたのか彼自身分からなかった。
しかし、その
「ダメだブロリー!そんな奴に着いていっちゃあ!ソイツ等は悪いヤツなんだよ!」
「・・・そうなの?」
「そうだ!皆の大事な人の命を奪っていった悪いヤツ等なんだ!ピラフ様も、シュウも・・・」
知っている限りの彼らの悪行を諳じていこうとしたマイは、違和感を覚えて舌が止まった。体は 此方を向く彼は俯いていた。説教をされる子供のようにも、突き付けられた罪過を苦しみの内に飲み干そうとする罪人の様にもそれは見えた。
「・・・」
「・・・やっぱり、この人と行く」
「・・・」
「・・・なんで・・・なんでだ?」
私は間違ってたのか?
彼はその呟きを背にして、崩落した廃墟の隙間から差し込む日の光も届かない十七号の元に歩み寄った。暗がりに入るブロリーの表情が十七号の目に入った。
「いこう」
「・・・すまないが、十八号を運ぶのを手伝ってくれ。俺もあちこち響いて落とさない自信がない」
丁重に十八号を担ぎ上げたブロリーと共に立ち去っていく十七号。
事の大きさに気付くまで、彼女はその光景によってこんがらがった思考そのままに立ち竦むしかなかった。
「なぁ、ブロリー。俺はあいつ等の言う通りだ。どうしようもない奴だよ。沢山の人間を殺してきた」
どうしてお前は俺に着いてきたんだ。
「・・・殺してきたんだ、食べるために、生きるために、いっぱい」
生きるために、徒に命を奪うのは違う。そう言った十七号をブロリーは否定した。強い語調に十七号は目を瞬いた。ブロリーからの主張らしい主張はこれが初めてだからだ。
「命は生きてる皆にある。沢山の命を奪った事は変わらない。それに――」
その続きを言わんとしたブロリーは、遮るもののない上空から降り立つ人間に意識を奪われた。山吹色の胴着、激情の丈を表す様に燃え立つ金の焔、金色の怒髪天を衝く戦士。静けさを孕むあの男たちとは違う、怒りを薄皮一枚から覗かせる悟飯の様子と体に染み込んだ
「君は・・・どうして人造人間と行動を・・・」
だんまりになった悟飯の視線を十七号は追った。初対面の、十八号が彼の腰巻きを虚仮にした時の、またはそれ以上の反応。コイツが囮になってくれるならそれで構わない。どうぞ好きにやってほしい。だが、ヤツは担いでいる十八号の存在を忘れちゃいないか。
そう考えた十七号がブロリーに掛けた制止に悟飯は目を丸くし、直ぐに覚った。
「君はコイツ等がどんなヤツ等か知ってるのか」
「・・・」
「コイツは自分の為に君を利用するつもりなんだぞ」
悟飯は十七号の顔を一瞥する。その内心を彼は覚らせなかったが、肝の冷える余りその事実の正否に気付けなかった。
「・・・父さんもそうだった。でも、さいごまで一緒にいてくれた」
他者から見れば幾ら歪んでいようとも、ブロリーにとっては唯一の親から与えられ続けた唯一の愛であった。
「・・・その人造人間達は君にとってのお父さんを色んな人達から奪ってきたんだぞ」
「・・・」
「許せるのか?そんな奴等がのうのうと生きてる事を、これからもそんな事を繰り返していくただろう奴等を」
「・・・許せない」
「――なら」
「僕も、僕のお父さんを殺したから」
「・・・どういう・・・」
これ以上は話すつもりはないという巨漢に対し、青年は没交渉を許すつもりは毛頭なかった。底を既に見せた双子の片割れ程度なら彼の健闘次第では屠る事が出来る。だが彼には懸念があった。継続的に、しかし爆発的に膨れ上がった目前の巨漢の気。自分はこの男との戦いを経て尚人造人間を葬る
「・・・なら君が人造人間達を止める。そう約束してくれないか」
トランクスが聞けば仰天しただろう。この不倶戴天の怨敵を斃す千載一遇の機会を見逃す等有り得ない、有り得てはならないだろう、と。彼の事だ、飛び出していたかもしれない。悟飯は人知れず安堵していた。
「そして俺に証明して見せてくれ、と言っても戦う必要はないけど」
「・・・?」
「戦うと周りに被害が出る。だから君の最大限に高めた気を俺に見せてくれ」
「気を、高める・・・」
そうだ、と返事をして間が空いた。見せ掛けだけ思考に耽るブロリーの様子に悟飯はまさか、と一つの可能性に行き着いた。
「気の高め方が分からないのか?」
「・・・気?」
「あぁ・・・そこからか」
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結果だけ言えば意外の一言に尽きた。悟飯が気の能動的な上昇を実演してみせただけで完璧に真似してみせたブロリー。面食らった悟飯は子供を諭すように彼へ天井の高さを見せることを促した。一般的な容姿の黒髪黒目であるはずのサイヤ人から感じられる、逸脱した気の高まり。もしかしたら彼は父やベジータとは違う異星人なのかもしれない。異星人、彼にとっては尽くが大なり小なりベジータの様な格好をしていた記憶と、下半身のみに残った紫のインナーと彼らとは色の違う緑のブーツが結び付いた。
「君は・・・フリーザの仲間か?」
「・・・?」
「いや、何でもない。終わった話だしね」
そして彼の疑問はそれだけではなかった。経過時間に伴い逓増の線を描いていた気の上昇がピタリと止まったのだ。腕を力めば込められた力の上昇量は限界に近づくにつれ緩やかになり、結果的に逓減する筈だ。気にも同じことが言える。しかし、その最後の段階で見られる筈の現象が無かった。だから、彼はこう質問する。
「君はまだ全力じゃないな」
断定の物言いにブロリーは隠す必要性も感じられなかったので大人しく白状した。「周りの事が分からなくなる」と。
「・・・正気でいられなくなる、のか?」
コクリと頷いたブロリー。爆弾が爆弾を抱えた状況に彼は悩む。今更先程の発言を撤回しても彼は引き下がるのか。出来たとしても彼という爆弾が野放しにされたり、敵意を顕にされて手元で監視するどころか敵対されれば想像を越えて不味い状況に発展するかもしれない。地球に襲来してきたベジータでさえこの星を壊すことは可能だった。十七号や十八号にその意思はなくとも、彼が暴れれば生存者どころか星ごと消え失せるかもしれない。
彼はそこまで思考が行き着くと正直にこれからとるつもりだった行動をブロリーと十七号に告げた。
「地球が消し飛ばされても困る。君の気の修行の一環で君達の元に僕は定期的に訪れる。それと君が約束を守ってるか確認する為に十七号と十八号には発信器を着けさせてもらう。君もいずれ気を感知できるようになるけど彼らにはそれが無いからね」
「いいね?」彼が懐から何かを取り出して掌に乗ったものをブロリーに見せた。彼にはそれがピンと来なかったが、その形状は四星球のイヤリングであった。それを受け取ったブロリーは嫌々といった表情を隠さない十七号におずおずと渡す。十七号はそれを受け取ると握り潰した。愕然とするブロリーと平静を見せる悟飯の前で十七号は苛立ちと笑みを浮かべていた。ブロリーが慌てて振り返ると、悟飯は小さな四星球を再び取り出していた。
「まずは1つだな。今度は十八号に君がやってくれ、ブロリー」
悟飯の様子に十七号が直感によって結論へと至り、反射的に粉々になった手元のイヤリングを見ると、オレンジの欠片や粉末が皮膚に沈み込んで行くのが見えた。
「十七号のした様にそれを砕いてから十八号に掛けてくれたら良い」
「お前・・・!」
「どうやら怒らせてしまったらしい。じゃ、後は君に任せるよ」
また。根深く只ならぬ関係に右往左往するしかないブロリーへ飛び去っていく悟飯は自然と笑みを浮かべていた。力の扱い方も知らず、戦場にいるには未熟すぎた頃の自分が彼には思い出されて。しかし、彼は表情筋を引き締め直した。彼の内包する強さに可愛げはない。訓練の最中に
払われなければ気付かれもしないような力しか持ち得ない存在であるかもしれない非力な身である己を悟飯は悔やみ、どうあっても届かないだろう現実(限界)に諦めと苛立ちを感じつつも、彼は新しい修練の構想へ自身を没頭させようとした。