超ブロリーです   作:モアニン

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無沙汰してました(n回目)

Lost butterfly 良かったです。特にバーサーカーとセイバーオルタの前半戦がえげつない枚数だった。ライダーの敏捷っぷりも小次郎とは違う方角から巧く描写されてとても凄し(語彙不足)。


罪の象徴

17号に担がれた18号、ブロリーは彼等人造人間が目覚めた荒山に眠る研究所を訪れていた。洞窟に蓋をするかの如く、互いに噛み合う様に閉じられていた分厚いスライド式のドアを、ブロリーと17号の二人が隔壁に五指を貫通させて力付くでこじ開けた。

 

「・・・手荒に脱出しなかった自分に感謝しなくちゃな」

 

沈みかけの陽射しにきらきらに光る埃。鼻口を手で庇った彼は近くの端末を弄るものの、起動スイッチの場所すら分からず苛立ちを募らせる。普段は宥める立場である彼が悪態を吐いたのは、彼の片割れの土気色の顔色と背中越しに伝わる冷たく濡れた体温が原因だった。

我慢という概念を暫く忘れて生きてきた彼が懸命に破壊衝動と戦い、思い付く端から考えを実行していると端末が起動した。それに連動してラボ内が強く、白く照らされる。

 

『この度は如何されましたでしょうか、17号様』

 

キーボードも叩いたことのない彼が端末の画面に現れた文字列に窮し、それを眺めていると続きがスクリーンに現れた。

 

『この端末には対ヒューマニティ・ヒューマノイドインターフェイスが備わっております。必要であらば音声を用いた入力方法をご利用ください』

 

必要外の情報を省き、自身の急務に関わる情報だけを汲み取った17号は逸るようにして機械に命令した。

18号の治療の要請に、壁際に幾つも立て掛けるようにして備え付けられ、一本のダクトパイプに繋がれた棺桶の様な巨大カプセルのハッチが、空気の抜ける音の後に開かれる。

機械の示す順序に唯々諾々と17号は18号の体をカプセルにすっぽりと納めると、彼は被験体の顔を覗くための窓から、柩に眠る遺族をその小さな扉から偲ぶ様に彼女を見詰めていた。小窓の色が18号の顔色を覆っていた為に、その光景は彼女が今にも動き出しそうな印象を見る者に与えていた。

その小窓に降り積もった埃を撫ぜ払った17号が、自己主張も甚だしいブロリーの腹の鳴き声に聞き咎めるように目を眇めた。

 

「・・・こんな時でも元気だな、お前は」

 

「・・・ごめん」

 

「・・・すまん、寧ろ調度良かった。外に行こうか」

 

外に出た彼等。食料の残存するヶ所を思い付いた17号がある廃都市へ飛び立とうとすると、ブロリーが自身とは逆方向へと行こうとするのが目に入り、ひき止めた。

 

「まてまてまて、何処へ行くつもりだ?」

 

「・・・あっちの方が一杯に生き物を感じる」

 

蛮族的な振る舞いで残された文明を搾取してきた17号は、より蛮族らしい食生活を送るブロリーの言わんとすることを飲み込むと彼に語りかけた。

 

「あっちの方が美味いもんが多くある。どうだ、来ないか?」

 

 

―――――――――――――――

 

 

一年後。

別の地球のとある国、中華人民共和国における武陵源の様な地帯。自然では有り得ぬ破裂音に脅威の程を悟った幾羽もの鳥が千々に飛び去っていく現象が頻発していた。剥き出しの切り立った崖に四方を囲まれた円柱状の山々。麓の直径と頂きの直径に余り差の無い、そんな特異な自然の城壁の上に悠々と安全を喫していた彼等の驚き様は如何程か。

 

山吹色に身を包んだ黄金の戦士と、筋骨隆々な彼よりも更に発達した肉体を持つ黒髪の戦士が互いに体を打ち合っていた。ブロリーの悟飯より長い手足から放たれる、より広いリーチと高い威力を誇る攻撃を防ぐために懐へ潜り、食らい付く悟飯。一撃でも受ければなし崩しに負け()が決まる。訓練と言えど半生の内に生と死の境に何度も立たされた事のある彼が見せる鬼気迫る気迫に、気後れするブロリーが押されていく。全く思い通りに行かない戦況に彼の脳内が怒りに染まらんという時、その思考と身体は硬直する。鳩尾に突き込まれた鋭い蹴撃に意識を取り戻した彼は、怒号(気合砲)を全身から発すると、怒りの丈を吐き出した(・・・・・)

 

「オァァアアア!!」

 

アレが来る。背筋にどっと冷や汗をかいた彼は、落ちてくる水を受け、流す水車の様にくるりと上下に回り、ブロリーの吐き出す気の爆流を受け流した。

一つの円柱状の山にそれが当たると、溶け落ちる暇もなくコラージュの為に一部切り取られた画像の如く、ぽっかりと巨大な穴が開いた。瞬時にして地平線の彼方へと消え失せた(吹き飛んだ)それを背後に、しかし悟飯は避け様に全速前進し、ブロリーの背後に回ると脇に両手を通して彼の後頭部で両手を組んだ。

自らの攻撃に視界の大部分を覆い尽くされた彼が、己の体表を悟飯の腕が滑る感覚に気付いた頃にはその組技は既に決まっていた。自身の力なら問題なく振りほどける筈だ。ブロリーが迷い無く両腕の筋肉を隆起させるも、動かない。絶対と確信していた未来が訪れないことに呆れて放心していた僅かな間に彼の首に何かが押し当てられる。悟飯が自身の気を指の延長として伸ばしたのだ。その行為の目的を探り当てる思索はやがて、薄れて白んでいく。それをどうにかせんとした時、彼の意識はとうに落ちていた。

 

ブロリーが意識の落ちた事を確信するまで頸動脈に流れる血流を止めていた悟飯は、高揚が冷め(余裕が出来)るとホールドを解除してブロリーを肩に担いだ。

この上なく地味な手段ではある。しかし、従来では確実に倒せなかったであろう難敵に手が届いた事実に多幸感と達成感が津波の様に押し寄せてくる。

 

「はは…やった…やったんだ」

 

涙を滲ませてたっぷりと数ヵ月ぶりの白星を噛み締めていた悟飯は視界に小粒程に映る己の弟子を認めた。宙に佇む人間が自身の師匠である事を確信したトランクスは胸に秘めていた期待を歓喜に変え、溢れる思いと衝動のまま悟飯に飛び付いた。

良くも悪くも急速に成熟しつつ見えたトランクスの思いがけぬ行動に悟飯は面食らうも、触発された歓喜の念を分かち合うように彼とその弟子は暫くぶりの、心からの笑顔を浮かべて会話に没頭した。

 

――――――――――――――

 

瑞々しい緑ではなく、降水量の少なさからその土地に置ける生存競争の過酷さを思わせる、黄金に満ちたその草原に、奇妙なオブジェを前に佇む青年がいた。

17号は杭の様に両端を尖らせて加工した巨大な丸太を、二股に割けた二本の大樹の上に置き、杭に貫かれ、血抜きやモツ抜きが終わり、大雑把に調理の準備が整えられた恐竜を眺めていた。

 

「これが一日二日あれば腹の中か」

 

17号はこの場にいないサイヤ人達の来訪を待ち受ける間、思考に耽っていた。サイヤ人てヤツは全身高密度のプロテインから構成された筋肉人間なのかもしれない。常人の胃に収まる筈のないこの量は臓器を覆う筋肉と腹筋で圧縮でもされて、これまたとてつもなく強力な胃酸で溶かされるのだろう。すると、自然と胃潰瘍を患わぬ程にその臓器もまた常人を遥かに超えて頑丈な筈だ。消化器だけでも控え目にいって人間ではない作りをしているかもしれない。もしかすると、血が赤くとも彼等サイヤ人の臓器は奇々怪々な見目をしているやもしれない。

 

「・・・まぁ俺もあんなのと張り合える時点でそう変わりないか」

 

思考が一段落したところで、彼は巨大な――所謂肉焼きセット――オブジェに滑らかでないヶ所を発見すると、そこへふわりと浮かんでエネルギーで鑢をかけ始めた。

無聊の手慰みにと始めたエネルギーの操作を用いた作業のあれこれは、彼のエネルギーの操作技術を向上させた。その事に僅かながら覚えた喜びに蓋をし、彼は只々手を動かし続けた。

普段であれば頃合いだ、と彼は北の方角を見やると何時も通りに悟飯を担いだブロリー(何時も通りの結果)、を認めるはずが今回ばかりは違った。あの日から自身にとって絶対の味方であった彼が敗れたのだ。その敗北がまぐれで訪れるようなものでは無いことは、彼の力量を知る人間ならば断じることが出来る。故に17号は慌てた。自身の生命が脅かされることに。しかし、間も無くして彼はストンとその場に腰を下ろした。それは、生に執着する理由が無いからだと改めて悟ったからである。

彼は半ば諦めの境地に(確信して)いた。18号は目覚めないのだと。死んだような彼女に思いを馳せる度、自身が恐怖に顔をひきつらせ(玩具にし)て楽しんでいた人間達と似たような思いを抱いている事に気付く。幾度と無く繰り返された、真綿で首を締めるその行いは、気付かぬ内に彼自身を正気の崖縁に追いやっていた。その帰結として、何時からか彼は18号の顔を見に行くことがなくなった。

 

彼女は彼にとって掛け替えのない存在なのだから。

 

 

―――――――――――――――

 

 

恐竜に熱を通し始めた彼の元に、三人が降り立つ。開口一番に17号は意識のある師弟に訊ねた。

 

「よう、お前ら。俺を殺す算段はついたか」

 

17号のみであればそれは可能と言えた。しかし、ブロリーがいる。17号の死後、ブロリーが癇癪を起し、悟飯達地球人が地球と共に消え失せる可能性が懸念事項として彼の脳内にはあった。何故ならサイヤ人と言うのはとにかく頑健でおぞましいほどの生命力を持つ。地球上に現存する病原菌程度ではサイヤ人の白血球にすら太刀打ち出来ず、今回の策を採ったのも彼はブロリーを物理的破壊力を有する手段では倒せないと考えた故であり、恐らく17号を消す前に気絶させるであろうブロリーを処理する手立ての無い悟飯は力を蓄え 、未だ絶好の機会を待つしかなかった。

正直、彼は倒した後直ぐにでもブロリーが目を覚ますものだと考えていた。

 

「・・・貴様に教えては意味が無いだろ」

 

「・・・それもそうだな」

 

一片の温情まで取り除かれた言い方に催された苛々。納得と共に飲み込んだ17号がそっと降ろされたブロリーの元へ向かい、火の番をする位置にまで17号がブロリーを引き摺らんと先ずは手を伸ばしたとき、唐突に手首をがしりと握り締められた。予想外の感触に震えた17号は――硬直のせいか――悟飯の手を咄嗟に振りほどけずにいた。

 

「・・・何時までブロリーに縋るつもりだ」

 

言うべきでない。直感した17号はその言葉を口にした。

 

「お前、コイツが恐いんだな?だからご機嫌を伺ってるわけだ」

 

 

機嫌を伺っているのは俺の方なのに。17号は内心自嘲する。さもなければ彼が他人のために恐竜(食料)なぞを調達し、調理する訳もない。

 

「機嫌を伺うだと?」

 

「あぁ、そうだ。じゃなきゃ何で勝ったお前は傷だらけで、負けたこいつが掠り傷もないんだ」

 

機嫌を伺っているのはお前もだろう。その言葉を胸の内に圧し殺した悟飯の表情を見取った17号は、また一つ取り返しのつかない過ちを犯してしまった事を感じた。

力を蓄える。そう前述したが、悟飯は自身の力に対し歯痒い程に限界を感じることがままあった。鍛練する意気はあろうとも、らしくないあの戦法は、奥底にはどうしようもない、という諦念が彼にあった事の裏返しであった。自身の弱さを指摘された事による激昂の情は、直ぐ様に殺意すら伴うような口惜しさへと転じた。

17号と悟飯のやり取り。それを第三者の視点で見ていたトランクスは今回も違和感を感じていた。彼等は互いを敵視しているのではなく、立場からそうしようとしている様な、そんな。彼自身考え過ぎであると思うものの、疑問視できる点が彼らの会話にはあった。ここを訪れて最初の、17号からの質問への悟飯の対応。そして手首を悟飯に掴まれた17号の対応。互いを忌々しく思っているなら悟飯はあの時即座に回答を拒否しても良かった筈で、17号は条件反射で腕を振り払ってもなんら可笑しくはなかった。そもそも不倶戴天の敵と同じ釜の飯を食うという状況からして可笑しい。ブロリーが17号に絆される事への危惧を始まりとした17号への監視とブロリーとの懇談を兼ねた行為。よもや尊敬する師匠が絆されつつあるのではないか、との疑問が鎌首をもたげた所でトランクスは自身の思考を打ち切った。何故なら相手は人造人間。人類を殲滅手前にまで追い込んだ殺戮者。いかにこの数ヵ月、しおらしく、無害であるかの様に振る舞っていようが、殺された人間の数は変わらないし、彼らとその遺族の怨嗟と残念を彼一人の感情と天秤にかければ言うまでもない。

もぞり。草のかさ張りと砂利の擦れる音と共に唐突にブロリーが上体を起こした。

 

「18号を見に行ってくる」

 

「・・・晩飯には戻ってこいよ」

 

「うん」

 

実は疾うに意識があり、起きるタイミングを逃し、やがて居たたまれなくなったブロリーはこの場を最もらしい理由と共に退出することにした。それが理由足り得たのは彼が今や18号の様子を定期的に見に行っていたからだ。

 

 

――――――――――――――

 

 

 

「お邪魔します」

 

以前AIに教えられた事を実行し、ハッチを通り、カプセルの蝶番に当たる部品が砕けるようにして乱暴にそれが開けられているのを見た彼は、直ぐ様外に出て彼女の姿を探した。大声で18号と叫ぶものの、彼女は現れない。何故だ。そう考え、彼は彼女の意識があった内は味方として認識されていなかったことを思い出す。よって彼は戦闘時と変わらぬ程に気を高める事で悟飯達を呼び寄せることにした。

やがて金髪の師弟と焦燥を浮かべた17号が現れる。

 

「18号のヤツはどうした」

 

「見つからない。だから、呼んだ」

 

「・・・戦いに発展してないだけマシか」

 

17号が姉の名前を叫んで回る。残った三人は互いの顔を見合わせると頷いて方々に散った。

 

―――――――――――――――

 

夜も更け、空気は冷え込み、荒涼とした大地に辺りは物寂しい雰囲気に転じる頃。辺りを手当たり次第見て回った彼等はこれ以上潰すヶ所もなく自然と1度合流することになった。

 

「どうだ、ブロリー、サイヤ人。見付かったか?」

 

「・・・」

 

「いや。それよりもトランクスは・・・」

 

悟飯がそう呟くと、噴き上がった覚えのある気が急速に萎んでいくのを彼とブロリーが感知した。彼がこの現象に考えを巡らす最中、悟飯は妙な肌寒さを覚えた。それが後押しとなって悟飯は驚く二人を余所に一目散に弟子の元へと飛翔した。

 

切り立つ小山の多い凹凸の激しい一帯。風前の灯火であろうと気を頼りにしなければ決して発見できなかったであろう場所にトランクスは倒れていた。

倒れ伏す彼の元に近付き、膝を付いた悟飯は愛弟子の上体を起こして、気付く。

 

―――軽い。

 

慣れてきた夜目を凝らすと、彼は骨と皮だけに痩せ果てていた。

なんだこれは。

ブロリー程とは言わずとも、普通の地球人に比べると凄まじい筋肉量だったトランクスの体が寝た切りの、否。それよりも酷い飢餓状態のソレに目を離した隙に変わり、肌は子供特有のふっくらとしたハリを失い、ともすれば痩せこけた老人のように皺だらけになっていた。

彼の容態に対する憂慮の念が頭を埋め尽くす中、けれども静かに彼の体を抱き起こし、周囲に気を向けた彼は、一瞬の風切り音と体重の変化から発される砂と足裏の摩擦音に横へと飛び退いた。

掴めたのは偶然だったのだろうか。酷く緩慢に彼の視界が音の在処へと移る。目前を通過する尻尾も酷く遅く映った。その時の彼にとってはそれを(捕ら)えるのは至極容易な事であった。逃すまいと握られた尻尾には万力の様な力が加えられ、誰かが悲鳴を上げる。悟飯の視線の先、尻尾の持ち主は人型をしておりながら、異形であった。凡そ如何なる動物にも近似した種族はいないであろうと一目で推察できるほどに。

 

 

 

 

そうか、こいつか。

 

 

 

 

迸発する憤怒に照らされた、醜男の間抜けた面に悟飯の怒りが噴火する。激しい噴煙の合間から雷が顔を見せた。自然と込められる握力に尾の痛覚が緊急を訴え、我に返った怪物に悟飯が冷たく宣告する。

 

「お前の顔は決して忘れない」

 

―――――――――――――――

 

『ごう』風が吹く。ブロリーが砂埃に手で目を覆うも、その颶風の発生源から共に発される光は彼の目にしっかり届いていた。そして、その気の質が今までとは文字通り桁が違うことに彼は少なからず驚いていた。

その時、ブロリーと17号の隣を、風を裂く轟音と共に小山が彼方に吹き飛んでいく。気のせいでなければ誰かが電車に轢かれた蛙の如く大の字になって貼り付けられていたように見えた。

少なくとも18号の体格ではなかった。尾すら生えていたような気もしていた彼等は、西の都へ曾て無い速度で飛び去っていく悟飯に尋常でないものを感じていた。17号にはまだしも、ブロリーに何も告げないのは奇妙だった。

兎も角、現時点の彼等に悟飯に追い付く術はない。そも人間のいるところに17号は顔を出せない。不穏な物を感じていた二人は互いの確認が直ぐ出来る距離を保ちながら、正体不明の人物を追いかけることにした。

 

小規模とは言えクレーターのある所に二人がやって来る。彼等のいた一帯と別バイオームの境界線の辺りにあったそれを見て17号は恐々と呟いた。

 

 

「一体どんな膂力をしてたら岩の塊をこんな所まで投げれるんだか」

 

降り立った二人は非効率的と知りながらも、一組になって行動する。が、特別なものはこれといって見付けられない。

 

「なぁ、ブロリー。さっきこっちに誰か飛んで行かなかったか」

 

「うん・・・誰か、いた」

 

17号と顔を見合わせたブロリーが捜査を続行しようとした所、彼の巨躯が17号の目前をサッカーボールのように撥ね飛ばされていった。

 

「ブロリー!」

 

蹴飛ばされた彼に意識の逸れた一瞬の後、下手人の方を見た17号は、辺りが暗闇に覆われていることに気付く。戸惑う間に闇が彼の体に迫り、段々と締め付けていく。ぬめりを帯びたソレに彼は直感した。

 

捕食されている。

 

怯えと恐れを吹き飛ばすような雄叫びと共に彼は全身からエネルギーを爆発させた。

自滅するリスクを思考の埒外においた予想外の抵抗に体内を攻撃された怪物は怯み、続いてその体を槍の様な一撃が襲った。怪物の知覚した戦闘力を超えたその一撃に、全身のコントロールを一時失った彼の元から粘液にまみれ、呼吸を乱した17号が脱出した。

目前の敵を見据えるブロリーを横目に礼を述べた17号。彼等が後ずさった敵の顔を宵闇から暴かんとすると、月明かりに照らされ、怪人の全容が明らかになった。

 

「お前は…?」

 

「私はお前の兄弟だよ。17号」

 

斑模様の緑を主軸にした体に時折入る濃い目の橙色。人間のシルエットを覆う甲殻の様なパーツにセミの口吻めいた長い尾。17号にそんな特徴を持つ人間は覚えが無い上に、血を分けたにしては冗談が下手にすぎる。

17号。怪人が17号をそう、兄弟と呼んだことに彼はある発想に思い至る。

 

「・・・人造人間か!」

 

「御名答。では、お前()頂くとしよう」

 

「―――気を付けろ!奴は普通じゃな

 

その言葉を切るよりも早く、17号の反応速度を超えた一撃を彼の目前に出たブロリーがもろに受け、感触にほくそ笑むセルの顎を殴り返(不意打ち)した。どちらも人が殴り、殴られる音ではなかった。

ふらつく彼を尻目にブロリーが17号へ呟く。

 

「17号は逃げて。こっちなら、大丈夫」

 

戦えない。何時の間にか開いていた力の差を体感してしまった17号は、覚束ない返事を返す他無かった。

飛び去る17号を追わんとする彼の前に立ち塞がるブロリー。血液混じりに唾を吐き、薄ら笑いを消していたセルは再度ほくそ笑んだ。

 

「今私は腹が空いて虫の居所が悪くてな。折角だ、私の相手()になってくれ給えよ」

 

「・・・」

 

衝突する拳と拳。二人の()が打ち鳴らされた。

 

 

 

 

 

 

 




セルは自称甘いマスクの第二形態です

サイヤ人の免疫力は両津勘吉をイメージしてます

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