由比ヶ浜にタピオカを奢ったら、みみみに※※された。   作:菓子子

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語り部はオリ主です。
設定はできる限り原作に準拠しています。まちがっている場合は、ご指摘くだされば可能な限り修正したいと考えています。
一部の原作キャラが、不幸な目に遭う可能性があります。
オリ主がヒロインと絡んでいく展開が好みでない方は、ブラウザバックをオススメします。
『それでもいいよ!』という方は、どうぞお付き合いくださいませ(_ _)


序章『総武高校』
一話『視』


「はぁっ……ふっ…………」

 

 頭が痛い。目頭が熱い。横っ腹がズキズキする。

 

『……なんでそんなひどいこと、言うの……?』

 

 彼女に言わせてしまった言葉を思い出して、また涙が出た。

 泣くことはきっと許されないことなのに。

 彼女はまだ、僕が抜け出したアパートにいるだろうか。

 それとももう、出て行ってしまっただろうか。

 内心で、後者を望んでしまっている自分に、ほとほと嫌気が差す。

 

「くっ…………ううっ……」

 

 僕が悪いんだろう。

 でも思わず、問わずにはいられない。

 酸欠で朦朧とした頭の中で。額を通過していった涙を、ゴシゴシと拭いながら。

 自分自身で、自分自身を問わずにはいられない。

 

 

 ――まちがっているのは、どっちだったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、誰かに見られている気がする。

 始まりは、定期中間考査の結果が分かった頃合いだったように思う。

 気配を隠そうとすらしない、敵意に満ち満ちた視線。

 一体誰なんだろう。全く心当たりのない胸の中を、もやもやとさせながら歩みを進めていると、程なく目的地に着いた。

 

「……」

 

 なんの変哲もない、教室の廊下の隅にある一室。

 ここが……平塚先生の言っていたところか。

 ちょっとした躊躇を振り切って、扉をスライドさせると――、

 

「うーーーーーん………なんでだろ……」

 

 ――茶色に髪を染めた女子高生が、長机に肘を乗せながら、用紙片手にうんうん唸っていた。

 名前は……ええと、なんだっけ。確か、鎌倉にある海辺の名前だったはずなんだけど……ええと、そうだ。

 

「七里ヶ浜さん?」

「由比ヶ浜だし! ……って、え、ヒッキー……じゃない?」

 

 違った。ごめんなさい。

 即座に怒り顔でツッコミながらも、僕の顔を見るなり表情を変える。驚きからか、持っていた紙を取りこぼす。

 感情表現が豊かな人だな……。

 

「あ、わ、ちょっ……!」

 

 由比ヶ浜から放たれたその紙は、開けた窓から吹く浜風に揺られながら、僕の足元に音なく落ちる。

 怪しがりて、寄りてみるに、裏から赤ペンの跡が滲んでいた。拾って、裏を向けてみると、無数のナイキのロゴマークと、ほんの少しの丸が、乱暴な筆跡で赤く染まっている。

 そして、何より……そのテスト用紙右上には、『27』と、定期テストに於いて意味するところの赤点が、でかでかと下線付きで書かれていた。

 数刻の硬直……の後に、

 

「見……見ん……見んなし!」

 

 真っ赤にした顔を隠そうとしないで、初対面の僕の肩をバシバシと叩く由比ヶ浜。

 扉と窓からは、部活動に勤しむ生徒の声が聞こえてくる。また吹いてきた穏やかな風が、僕が手に取った紙を鳴らす。

 それが僕の、思ったより長い付き合いになる、由比ヶ浜結衣との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

『高校生活を振り返って』 2年F組 佐倉葉一

 

 高校一年生で出会った単元や分野は、往々にして難しかった。

 序盤では等加速度直線運動で躓きかけた。あまり十分に理解しないまま、一次元的だったはずの運動が二次元にまで拡張された時は本当にきつかった。X軸とY軸に速度を分解して考える発想は僕にとっては真新しく難しいように思ったけれど、なんとか理解することができたように思う。

 中盤では三角比の扱いに苦労した。正弦や余弦の値を、既存の三角形を想像しながら出す方法に固執し過ぎて、単位円を描いて導き出す手法がどうしても取っつきにくかった。一時はゴリ押しで解こうかと一瞬本気で考えてみたものの、三角関数に入った時に泣きを見ることは火を見るよりも明らかだったので、頑張って克服した。

 終盤では古文でコケた。序盤中盤で、『古文と言ってもどうせ元々の日本語だったのだから大丈夫だろう』と高を括っていたことが響いた。やっぱり、どの教科も侮ってはいけないと思った。油断は大敵である。

 このような紆余曲折があったにせよ、一年間を通して目標としていた成績を収めることはできたように思うので、引き続き、新しく転校してきたこの総武高校でも頑張っていきたい。

 

 

 

 国語教師の平塚静は、時折ため息を挟みながら、わざわざ僕の作文を音読してくれた。

 文章に関する感想は特にない。でも、自分が書いた文章を誰かが喋ってくれることは、なんかこう、不思議な感じがした。アニメ化志望のライトノベル作家の夢を、一足先に叶えてしまった気分だ。

 平塚先生は読み終わると額に手を当てて、深々とまたため息をついた。

 

「なぁ、佐倉。私が授業で出した課題は何だったかな?」

「……ええと、『高校生活を振り返って』……でしたっけ」

「そうだな。それでなぜ君は犯行声明……失礼、勉強の感想文を書き上げてるんだ? 頭がいいのか? それともバカなのか?」

 

 平塚先生はため息をつくと悩ましげに髪を搔き上げた。

 そういえば、意味の似ているあの二つの単語はため息よりも、吐息と言った方がエロさが増すように思う。……なんか今、誰かに意識を乗っ取られた気がする。

 そんなことを考えていると、紙束で頭をはたかれた。

 

「真面目に聞け」

「すみません」

「はぁ……君は成績はいいんだが、何かが決定的にズレている気がするんだ」

「ふむ」

 

 僕の何かが他生徒の何かと決定的にズレている。

 それは当たり前で、僕だけにじゃなく誰にだって当てはまることだ。

 と言うや否や、先生による鉄槌が振り下ろされるのは目に見えているのでやめておこうか。

 先生の顔の皺を増やす趣味も、もちろん僕は持っていないのだし。

 

「こちらから見れば、危なっかしいことこの上ない」

「放っておいてくださいよ」

「馬鹿者。それが教師の仕事で、使命なんだよ」

「……なるほど」

 

 なんてないことを名言っぽく言ってのけた平塚先生の表情は、心なしかドヤ顔が混じっている気がして。

 まさかとは思うけど……この人、今頃になっても少年ジャンプとか読んでいる口だろうか……いや、まさか。

 

「それに……嫌いじゃないから、な。そういう役回りは」

「?」

「なんでもない。それより……」僕からの追及を嫌ったのか、平塚先生は話題を戻した。「普通、『高校生活を振り返って』と聞かれたときは、定期テストの成績じゃなく、自分の生活を省みるものだろう」

 

 なん……だと……?

 

「……っ!?」

「おい……どうして今、コペルニクス的転回を得たような表情になる」

「その発想はなかった……ですね」

「……」

 

 要領の悪い僕に腹を立てたのか、平塚先生は僕を睨んだ。

 この状況で僕が出せる選択肢は、一つしかなかった。

 

「すいませんでした。書き直します」

 

 謝罪と反省の意を表すのに最適化された言葉を選択。

 だが、平塚先生には満足いただけなかったご様子。なぜだ。自分の非を認めて謝っているのに、平塚先生の表情が和らぐ様子は一向にやってこない。

 平塚先生は、はちきれそうな胸ポケットからセブンスターを取り出すと、フィルターをとんとんと机に叩きつける。おっさんくさい仕草だ。葉を詰め終わると、百円ライターでかちっと火をつける。ふぅっと煙を吐き出すと、至極真面目な顔でこちらを見据えた。

 

「……あ、いや、悪い。怒っているわけじゃないんだ」

「はぁ」

「君と同じような受け答えをした生徒がいてな……そいつが、本当に手のかかりそうな奴で……、」

「ええと?」

「なんでもない」平塚先生は言う。「ところで……君も、部活はやってなかったよな?」

「はい、まあ」

 

 親が転勤族だから、入ったとしてもすぐに抜けないといけないから。……という自分語りは面倒なので伏せておこう。

 

「……友達とかはいるか?」

「そうですね。まだ、あまり作れてないです」

「そうか! じゃあ、」

「だから、先生の気持ちも分かりますよ。新米の市立高校の教師って、よく異動で飛ばされるらしいですね。なので、他の先生と深い付き合いができない。……平塚先生が独り身なのも、仕方がないのかなって」

 

 風が吹いた。

 グーだ。ノーモーションで繰り出されるグー。これでもかというくらいに見事な握り拳が僕の頬を掠めていった。

 

「次は当てるぞ」

 

 マジな平塚先生を見て、僕は先生の持っている地雷を踏み抜いてしまっていたことを悟る。

 友達がいないことを喜ばれてしまったことの意趣返しだったつもりなのに、なんて割に合わないしっぺ返しなんだ。

 ともあれ素直に謝らないと。

 

「すみません」僕は言った。「でも、嘘じゃないです」

「……あのなぁ、佐倉、」

「僕は六月にはもうこの学校にはいないんです。だから、友達が作れたとしてもせいぜい馴れ合い止まりでしょう。だから、平塚先生が気を遣う必要はない……と思います」

 

 中学の頃に、自分が一方的に仲が良いと思っている友人がいた。別れ際に年賀状を送り合おうとか、時々LINEでやり取りしようとか、そんなことを約束した。数年経った今、僕は彼の顔も、声も口癖も、ほとんど思い出すことができない。

 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、平塚先生は食い下がってこなかった。

 

「……そうか。なら、他に相談したいことがあれば――」

 

 『なんでも私に相談するといい』。今時珍しい、熱い血が入った平塚先生の次の言葉が読めた。だから、その言葉に対する返答も、即座に口に出すことができるだろう。

 でも、違った。

 

「――奉仕部に行ってみるといい」

 

 ……奉仕部?

 混乱する僕の頭を他所に、平塚先生はハッとするような優しい目で、僕を見つめている。

 




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