由比ヶ浜にタピオカを奢ったら、みみみに※※された。   作:菓子子

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モチベーションが限界になってきたので、一旦途中まで書けている部分(1000文字程度ですが)を掲載してお休みします。
再投稿時期は未定ですが、遅かれ早かれあと5話程度の連載になる予定です。
申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。


十九話『』

「は……え……?」

 

 僕は、七海が急に声を荒げた意味が分からなくて。

 ベッドの上で腰を曲げながら、呆然と目に涙を浮かべている七海を見ていた。

 

「別に、いいじゃん。友達なんだからさ……もしかして、見舞いに来られるの、迷惑だった?」

「いや……遠回しに迷惑だってことを伝えてる訳じゃなくて。僕はただ……」

「だったら、さぁ」

 

 七海は立ち上がって、それでも僕を睨みつけたままで。

 荒げても、よく通った声で、僕に伝えてくる。

 

「素直に……受け取ってよ。熱出したって聞いて、心配だったんだって。ずっと今まで、私の面倒を見てくれた感謝を……さ」

 

 素直に……七海の感謝の気持ちを、だって?

 そんなことを言われても……困ってしまう。

 七海は受験のために僕を利用した。僕は僕を変えるために、七海を利用した。

 ただの共利共生の関係にあった……はずなのに。義理や優しさなんて、温もりのある気持ちが一切発生していない関係だったはずだったのに。

 それなのに……僕は急に相手の気持ちを持ち出されて、素直に困っていた。

 

「それとも……何? いいバディになれるって思ってたのは……私だけだったの?」

「だからそれは……受験期の間だけの話だって……そういうことだったんだろう?」

「……ひどい」

 

 分からない……本当に分からない。

 ただ一つだけ分かることは……僕が七海を、言葉で深く傷つけてしまっていること。

 それは、今まで友人を作ってこなかった僕へのツケのようだった。

 喋る度に泥沼に嵌っていきそうな感覚。

 

「そもそもさ……バディとか友達とか何だか知らないけど、それならそれこそ……たま? って人とか、葵とかが相応しいよ。自分を卑下する趣味はないけど……でも、君の周りの人が持っているモノより、僕が手に持っているモノの方がよっぽど少ないと思う」

 

 僕のことは僕が一番よく分かっているから。

 小さな自尊心と、繊細な正義感と、あと、勉強で培った知識だけ。

 それが僕の殆どで、且つ殆どの人が持ちうる凡庸な性質で。

 明るくて、気が遣えて、中途半端が嫌いで、可愛げがあって、誰とでも仲良く接することができて、そこそこ頭がよくて、運動ができて、元気溌剌としてて、一途に一人を想い続けることができて――数え出したらキリがない七海の性質は、殆どが僕にないモノで。

 憧れずにはいられない。

 そんな羨望の気持ちがある限り――僕と七海はいつまでも、対等になれない。

 

「そ……そんなことないって」

 

 ほら――またそうやって。

 情けない僕を気遣って、励まそうとしてくるじゃないか。

 自分の怒りさえ差し置いて。

 

「そんなこと、あるんだよ!」

 

 それが、頗る僕の癪に障った。

 自身の気持ちを犠牲にして、柄にもなく卑屈な言葉を吐いた僕を宥めようとしてきた七海に、イライラした。

 いや……イライラしたのは、同級生に慰められている、情けない自分自身か。

 分からない。頭が回る。クラクラして、思わずベッドの上に手をついた。

 

「あのな、七海。お前は、」

 


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