「あの…愛宕さん?」
「あん?」
「これからどこに行くのですか…?」
「しつけーなぁ…来れば分かるっつってんだろうが」
「いや…でも………」
すっかり日が沈み切った空にザザーン、と波飛沫の音が聞こえてきます。私達は鎮守府からしばらく歩いた先の人気の無い海岸にいました。夜の海にいったい何をしにきたのでしょうか?
「オイ、艤装つけたら海に入るぞ」
えっ、艤装の意味はそれですか?もしかしたらどこかの島に渡るのでしょうか?いやそれよりも…………
「主砲無しで渡っても大丈夫なんですか?」
この一帯の海域は取り戻したとはいえ深海棲艦が出てこないとも限りません。主砲や防具といった艤装を着けてなければ私達艦娘は人間と変わらないので、襲われたらひとたまりもありません。
「あ~?大丈夫だよ、むしろ邪魔なだけだし」
私の心配をよそに愛宕さんは足に艤装をつけると、スィーッと海を渡っていきます。
「オイぼさぼさすんな!」
「わっ、分かりましたぁ~!」
愛宕さんに怒鳴られたので、しぶしぶ足に艤装をつけて愛宕さんの後を追いかけました。
しばらく夜の海を渡っていると愛宕さんが急に止まりました。でも周りには何もありません。真っ暗な大海原が続いています。すると突然ボコボコと海面から泡が吹き出し、そして…………
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!」
「でっ!出たあああああああああああああああああああ!!!!!???」
海面から深海棲艦、駆逐イ級が1体現れました。普段なら難なく倒せる相手ですが、今の私達は足以外に艤装を付けていない私服の人間。叶いっこありません。あぁ、もう終わりだと諦め目を瞑りました。
パパ、ママ、京子さん、先立つ不孝をお許し下さい……
「…………………………………………」
(あれ?)
いつまで経っても何も起きません。恐る恐る目を開けるとイ級は海面に浮かんだままその場から動いていません。いや、よく見るとガタガタと震えています。
「おーおー、せっかく来てやったのに何の準備も無しに出迎えたぁ舐めてんのか?」
「ピィ……」
「3分で用意して来いや、できなかったら……分かってるな?」
「ピィィッ!!?」
そう聞くや否や、イ級は瞬く間に海に潜り姿が見えなくなりました。
突然のことに頭が追い付かないでいると愛宕さんはケラケラ笑いながら話しかけてきました。
「ところでバンホーテンちゃん、お前ジョーズは好きか?」
「ギャッハハハハwwwwwなんだあれwwタコ足のジョーズwwwタコザメwwwww」
缶ビールを片手におつまみが乗ったテーブルをバンバンと叩きながら大笑いする愛宕さん。
いや、あれはジョーズじゃなくてシャークトパスという別物の映画ですよとは言えず、隣で黙ってテレビに映る映画シャークトパスを見る私。
そして周りには戦艦ル級、タ級、レ級に空母ヲ級、戦艦棲姫、南方棲鬼、港湾棲姫など艦娘育成学校の教科書でしか見たことが無い強力な深海棲艦達が沈んだ顔で正座していました。
何でこうなったのか、少し時間を巻き戻しましょう。
あの後、駆逐イ級は同じ大きさの潜水艦を引っ張って浮上しました。そして愛宕さんに無理矢理乗せられるとイ級は潜水艦を引っ張ってドンドンと海の中を潜っていきます。そして愛宕さんに「着いたぞ」と言われ潜水艦を降りるとそこはなんと深海棲艦のアジト。
すぐに多くの深海棲艦に見つかったのですが、私達を見た深海棲艦達は子犬のように怯えていました。
愛宕さんに何がどうなっているのかを聞いたら
「コイツらがあまりにも命乞いしてくるからよぉ、見逃してやってる代わりに時々遊びに来てんだよ。まっ、アタシとしちゃ鎮守府よりここの方が伸び伸びと出来て最高だわ」
別荘みたいなもんだケケケ、と笑いながら干し貝柱を口に放り込む愛宕さん。暴力と脅迫による関係が出来上がっています…。ちなみに艤装を付けない理由についても、「艤装が無くても簡単にぶちのめせるし、何だったら無い方がやりやすい」と、とんでもないことをサラッと言われゾッとします。
出撃の時に遭遇する深海棲艦が愛宕さんにだけ当たらないように攻撃を仕掛けてた理由が分かった気がします。万が一にも愛宕さんに攻撃が当たればこのアジトもろとも沈められかねないんだと思うと深海棲艦達が可哀想に思えてなりません。
すると、ふとした疑問が頭によぎりました。
「あれっ、そういえば私達がここにいることって提督さんは知ってるんですか?」
「あ〜?知るわけねえだろ。あのクソに知られたらここでのんびり出来ねえし、そもそも艦娘が敵である深海棲艦のところに入り浸ってることが大本営にバレたら即刻死刑……いや、国賊、人類の敵扱いされて死ぬまで国に追い回されるだろうなぁ。まっ、アタシなら国だろうが負けねえけど」
…………それって、愛宕さんと一緒にいる私も共犯なのでは?冷や汗とともに全身の血の気が引きました。そんな私をよそに愛宕さんは「オイつまみ切れてんぞ!テメエら早く持って来いや!!」と深海棲艦達に怒鳴り散らしています。その時、
コツン
放心状態の私の頭に小石のようなものが当たり、我に帰りました。ぶつかった方向を見ると、深海棲艦の北方棲姫が涙目でこちらを睨みつけていました。
「カエレ…!オネエチャンタチヲイジメルナ!カエレ…!カエレ……!!」
泣きながら貝殻を投げつけてくる北方棲姫に港湾棲姫は急いで駆け寄りました。
「コラッ!ホッポ!ヤメナサイ!!」
「イヤダ!!オネエチャンタチヲイジメルコイツラハユルセナイ!!!」
「スミマセン!イマスグヤメサセマスノデドウカコノコダケハ……!!」
………完全に私達悪役ですよね、これ。いや、こんなことされて黙ってる愛宕さんじゃありません…。恐る恐る愛宕さんの方を見ると、いつのまにか愛宕さんは北方棲姫の目の前におり、北方棲姫の目線までしゃがみこんでいました。
「おうクソガキ、アタシ達に帰ってほしいか?」
予想とは裏腹にニコニコと話しかける愛宕さん。
「バーカ!バーカ!オマエラナンテハヤクカエレ!!」
「まぁ待てよ……勝負に勝ったら帰ってやる」
勝負……なんだか嫌な予感がします。そんな私をよそに愛宕さんは私の肩をポンと叩きました。
「そうだバンホーテンちゃん、このクソガキと相撲とれよ。クソガキが勝ったらアタシ達は潔く帰る。お前が勝ったらアタシ達はこのまま楽しく居座る。分かりやすくていいだろ?」
………はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!??
次回、地獄の相撲対決。
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