狭間鎮守府、笛有鎮守府に並び成果を上げ続けている最も勢いのある鎮守府の一つである。
前任者の
そんな時、士官学校を卒業したばかりの
だが氏は着任からわずか3年で鎮守府の立て直しに成功したばかりでなく数々の海域の奪還、危険指定深海棲艦の討伐、上位個体『
それ故に九十九提督の率いる大数鎮守府は艦娘育成学校の生徒が選ぶ着任したい鎮守府ランキング7年連続1位を取り続けている。
そしてその大数鎮守府の執務室で瓶底眼鏡にやや痩せこけた男性、九十九提督が佇んでいた。
手を組み、無表情で執務室の扉を見続ける九十九提督。程なくして扉は勢いよく開かれ、軽巡の那珂とその後ろから正規空母の加賀が入室した。
「おっはよー!提督ー!!」
「12秒の遅刻だ、那珂」
「もー!まだ朝の6時だよ!?そんなに細かいとお嫁さん出来ないよー!」
入室してきた那珂達に対して顔色を変えずに淡々と述べる九十九提督。那珂は上官の相変わらずな態度にプクーッと頬を膨らませ愚痴を言う。
「……お前達2人を呼んだのは、だ」
那珂の愚痴をスルーし、九十九提督は本題を話す。
「『
「特に加賀、お前には良い機会だ。トップクラスの艦隊同士の戦いをその目に焼き付けろ」
一方、狭間鎮守府の食堂にて、大和は沈んだ顔でテーブルに突っ伏していた。
「あぁ…私の休日が……休日が………」
「あはは…ドンマイ……」
テーブルの向かい側で苦笑する陸奥。
「災難だったわねぇ…愛宕と星を見に、山に登ってたら野生のイノシシの突進を喰らって1日半も気絶してたなんて」
「あははは……はは………」
事実と全く違うと心の中で突っ込もうとするもそれ以上にせっかくの休日を台無しにしたまま月曜日を迎えてしまった絶望に打ちひしがれる大和。もはや乾いた笑いしか出てこない。
「おーい、むっちゃーん」
食堂の入り口付近で陸奥を呼ぶ声がする。駆逐艦の陽炎だった。
「あら、どうしたの?」
「提督見なかった?今日の合同演習で聞きたいことあったんだけど」
「いえ、まだ見てないわ。そういえば愛宕もいないから2人で何か話してるんじゃないの?」
「あ~なるほどね~。よく2人きりになってるから隠れてイチャイチャしてたりして」
「分かるわ~ホントあの2人は早く結婚しろって感じよね~」
「「あっはははははははは!!!」」
「ははは……私の休日が無駄に……無駄に………」
「テメエ…自分がやらかしたことが分かってんのか!?」
鎮守府外れの倉庫、結城提督は怒りに顔を染め上げ、愛宕の胸倉を掴んでいた。
「大和がイノシシの突進を喰らって気絶しただとぉ…?よくもそんなデタラメが吐けるもんだな……あえて口には出さねえがテメエが『
今にも噛みつきそうな猛獣のように結城提督は愛宕を睨みつける。だが当の愛宕はどこ行く風。胸倉を突かれながらもヘラヘラと笑いながら胸倉を掴む手を振り払う。
「あ~?だから謝ってるじゃねえか。それにあのガキは無事だったからいいじゃねえか。あんま細けえこと言ってっとハゲるぞ?」
「たまたま無事だっただけだろうが!!一歩間違えれば死んでたかもしれねえんだぞ!!」
「う〜る〜せえな~~!もうすぐ合同演習が始まるってのに、くだらんことで呼ぶんじゃねえハゲ」
「話はまだ終わってねえぞ!!待ちやがれ、『
「……!」
その途端、ピクリと止まる愛宕。そして振り返り、再び結城提督の前まで戻り、
「がぁっ……!!」
結城提督の腹に容赦のない蹴りをお見舞いした。たまらず嘔吐物が口から漏れ、結城提督は膝から崩れ落ちる。
「次にその名を口走ったら本当に殺す?」
氷のように冷めた眼で結城提督を見下ろすと愛宕はそのまま倉庫から出ていった。
残された結城提督は身体を動かせず、愛宕が出ていった先の扉を見つめることしかできなかった。
「………ケイ、俺にはお前が分からねえよ」
結城提督の呟きは誰にも知られることなく埃の舞う倉庫に埋もれていく。
午前10時前、狭間鎮守府前の港に2つの小型船が停泊した。
「なんだ、一二三も来てたのか?君のところとも戦えるのは楽しみだな」
片方は
「勘違いするな、俺達は合同演習の観戦に来ただけだ。それ以外に目的は無い」
もう片方は
「あーもー提督!ごめんね可憐さん悪気は無いの!」
「ははは、気にしてないさ。一二三は昔からこうだからな」
「那珂、なぜ今の言葉に悪意があったかのように言うのだ?俺にそんな気など毛頭無い」
「提督はちょっと黙ってようか!?」
緋剣提督は目の前のやり取りを微笑ましく見守るが、その横でこちらを見つめる加賀に気付く。
「君が一二三のところに新しく入った加賀くんだね?笛有鎮守府で提督をやっている緋剣可憐だ、よろしく」
「………………どうも」
加賀は小さな声でポツリと挨拶を返す。すると隣で九十九提督に雷を飛ばす那珂はすぐさま反応する。
「ちょっと!『
「………………………………」
那珂の弁明に呼応してコクリと頷く加賀。それを見て笛有鎮守府側の新人艦娘、川内が近づく。
「おっ、あんたも新人艦娘か~!私は笛有鎮守府に軽巡川内として着任した
「…………………………よろしく」
「だからあいさつはちゃんとしなさーーい!!!」
再び那珂の雷が落ちる。その時、緋剣提督の隣に控えていた秘書艦、長門がピクリと反応する。
「……来たか」
長門が見据える先には、
「やっほー!ここあーー!ひっさしぶりーー!!」
「京子さん!会えて嬉しいです!!」
演習用の観戦席にて、大和と川内の2人は喜びのあまり勢いよく抱き合う。
「………………………………………」
「あっ、これは失礼しました…。えぇ~と、あなたは……」
「この子は九十九鎮守府から来た正規空母加賀の白波さくらっていうんだって」
「さくらさんですね!私、戦艦大和の甘神ここあです!よろしくお願いしますねっ!!」
「………………………………………」
加賀は小さく頷く。そして海面上の演習場を見つめる。
「………重巡洋艦愛宕を旗艦とし、戦艦陸奥、軽巡洋艦天龍、駆逐艦陽炎、軽空母龍鳳、正規空母翔鶴で構成された狭間鎮守府第1艦隊。そして戦艦長門を旗艦とし、戦艦金剛、重雷装巡洋艦北上、重雷装巡洋艦大井、正規空母赤城、正規空母
突然饒舌に喋り出した加賀に、大和と川内はポカン、とする。
「お、お詳しいですね……」
「…………………どうも」
「あっ、2人とも!そろそろ演習が始まるみたいだよ!!」
川内が指差す演習場では狭間鎮守府第1艦隊と笛有鎮守府第1艦隊が互いに向き合っているところだった。
「さぁ~、ちゃっちゃと終わらせて帰るぞ~~…って大井っち、どうしたの?」
やる気なさげに手をブラブラさせる北上だが、相方の大井の顔が険しいことに気付く。
「………北上さん…聞こえませんか?」
「?…なにが?」
「何かが迫ってくるような……でも、どこにもそんなものは見当たらな……いや…違う………この音……海の中から……ッ!!?」
大井の声を遮るように狭間鎮守府第1艦隊と笛有鎮守府第1艦隊の間に突如、巨大な水柱が噴き出した。
あまりに勢いが強いためか、狭間・笛有第1艦隊の両艦娘の内の数名が吹き飛ばされた。
やがて水柱が治まるとその中から左の頬が大きく裂けた屈強な大男が姿を現した。
「テメエら面白いことやってんなぁ……俺も混ぜろや」
その男は
九十九一二三提督はモデル無しのオリジナル登場人物で
班目豪提督のモデルはトリコのゼブラです。
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