桜の咲く頃   作:coltysolty

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凛々子は李衣紗のことを考えていた。


感謝して

事故直前に送られた李衣紗からの

メッセージを読み返す凛々子。

 

事故のあったあの日、李衣紗は

凛々子と会うことになっていた。

 

「李衣紗は何を伝えようとしたのだろう・・・

今はあの日のことを尋ねると、李衣紗の様子が

おかしくなるから、そっとしておいてほしいと

男子たちから言われたけれど・・・」

 

無事に退院したとは言え、あの時

もう少し凛々子が早く李衣紗を見つけていれば

あんなことにはならなかっただろうに。

 

と、凛々子は自分を責めている。

つらさから、ひざの痛み止めを服用しながら

アルコールも飲んでしまい

凛々子は深い眠りに落ちた。

 

 

凛々子は森の中にいた。セーラー服のまま

歩き続け、靴は泥だらけになっていた。

 

数分前に事務長から言われた言葉を

反芻していた。

 

「凛々子さん。このままでは卒業させられないの」

 

ミッションスクールだったため、事務長は

シスター。つまり修道女である。

 

グレーのベールを見つめながら凛々子が尋ねる。

 

「シスター横室。なぜですか?」

 

「・・・実は、高校に上がってから

一度も月謝が払われていなかったのよ。

中学までは支払われていたんだけど

 

このままでは卒業させられないのよ」

 

目の前が真っ暗になった。

それでも、懸命に思考しようとし、凛々子はなにか言葉を発しようとした。

 

「あの・・・母が滞納していたということですよね。

奨学金をいただいていたので、そのお金で月謝に充てると

言っていたのですが、入金されていなかったということですよね?」

 

「・・・そういうことになるわね」

 

「あの・・・一生かかって支払いますので

どうか、卒業だけはさせてください」

 

「・・・校長先生ともお話していてね。

あなたは、まじめな子だから、どうにかしてあげたいと

言っていたのよ。

 

あなたのことは信じるわ。だから、毎月、支払えるだけ

返還してくれるかしら?ただし、銀行振り込みとか

そういう形じゃなくて、あなたが直接学校に来て、

私にお金を渡してちょうだい。

 

あなたの様子もみておきたいし」

 

「わかりました・・・できるだけ早く返せるよう

がんばります」

 

「無理はしなくていいのよ。ただ、約束してちょうだい。

必ずあなたが学校に来るのよ。」

 

「はい・・・わかりました。ありがとうございます」

 

深々と頭を下げ、凛々子は事務室を後にした。

 

凛々子の祖父は鉄道会社の重役だったため

凛々子の母は何不自由なく育っていたらしい。

ただ、一人っ子だったため、かなり厳しく育てられ

金銭に苦労はなかったが、自由は奪われていたようだ。

 

さらに、自分でお金を管理したことがなかったため

普通のサラリーマンと結婚してからも、湯水のごとくお金を使い

着物や高級食器などを買い、生活費が足りないことすら気づかずに

娘を中・高一貫の私立校にいれたのにもかかわらず

 

月謝を払っていなかったのであった。

再三の督促状も無視していたため、最終手段として

学校側がとった措置は、学生本人へ、未納金を請求するという

手段を取らざるをえなかったのだった。

 

大学進学を希望していた凛々子だったが

このことにより、大学受験は断念、就職し、がむしゃらに

働きながら、200万円近くの借金を返還した。

 

その後も、世間知らずの凛々子母は、クレジットカードを凛々子名義で無断で作成し

不要な買い物をしたあげく、督促状が凛々子の元に届いたりと

苦労を強いられる毎日だった。

 

さらに、脱サラをし、旅行会社を設立した凛々子父は

おひとよしで、知り合いを社員にし、その社員に

会社の金を持ち逃げされ、自分で立ち上げたその会社が

倒産してしまうという災難に見舞われた。

 

父の死後、その借金督促状も凛々子の元に届いた。

生きているのが嫌になるほど、どん底だった。

 

そんなとき、凛々子に救いの手を差し伸べたのは

亡くなった婚約者だった。

 

その彼がこっちをみて何か言いたそうにしている。

どうしたんだろう。

 

あれ?声が聞こえる。

 

「今がつらくても、必ず光が差す。君がそれを

一番わかっているはずだ。

 

それを大切な人に伝えなさい。君は僕がいなくなって

魂が抜けたような日々を送ったが、いろんな人に助けられて

立ち直って、今の自分がいる。

 

ヘルプって言えることも大事なんだ。

君は、それが自然にできたから、すっかり立ち直って

本来の自分より、さらにバージョンアップした状態にいるだろ?

 

それを君の大切な人に伝えてあげなさい。

きっとその人も、わかる日が来るだろう。

 

苦しみは決して永遠じゃない。

時には長く感じる時もあるだろうけど

乗り越えた時に、本当の幸せを手にするんだよ。

 

それを一番わかっているのが

君のはずだ。

 

君なら伝えられる。君しか伝えられない。

勇気をもって、今の状況を打開するんだ。

そして、HELPって言えることが大事。

 

人間はお互い様。助け、助けられる。

助けて、っていうのは決して恥ずかしいことでも

罪でもなんでもない。助けられて、そして助けていくんだよ。

 

さあ、立ち上がって大事な人にそれを伝えに行きなさい。」

 

 

 

はっと目が覚めると、凛々子は自分のベッドに横たわっていた。

ずいぶん長い夢を見た気がする。

シーツが濡れていた。無意識に涙を流していたようだ。

 

小さいころからつらいことばかりで、どうして自分だけ

こんな不幸なんだろうと、何度思って、もがいてあがいて

周りをねたみ、苦しんだことか。

 

それでもあきらめずに、前を向いて歩いて、歩き続け

自分の目標を達成しようと、進み続けた結果

今の幸せがある。

 

今でも小さいいざこざや、ハプニングはあるものの

幸せな毎日と思える日々を送ることに感謝しながら生きている。

 

そうだ。大切な人にこれを伝えなければ。

 

凛々子は、重い体を起こして、すぐに行動に移そうと

ダイニングに向かった。

 

 




大切な人に心からの思いが届けばいいのに。
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