その一心が生きる力になっている。
凛々子は大切な人たちに思いを馳せていた。
妹のようなかわいい李衣紗は
あんなに明るいのに、実父ではない義父に苦しめられている。
苦しめられているからこそ
友達との時間を大事にし、皆を明るくしようと
懸命に生きている。
李衣紗が小さい頃、実父は精神を病み
入院し、回復は難しいと診断された。
母は父の回復を信じ、小さい李衣紗を女で一つで
育てていたが、李衣紗両親は実父との離婚を強いて
今の義父との再婚を進めた。
幼稚園を経営している義父は
土地も所有し、生活には困らない。
小さな李衣紗を抱えて生きていくには
生活の安定が必要だ。
母子が共倒れしてしまっては
意味がないと、実父との別れを決意せざるを得なかった。
義父は李衣紗をかわいがってくれたが
自身が幼稚園を経営している手前
世間体を気にし
李衣紗が品行方正であることを強いて
あれこれがんじがらめにしていた。
義父の恩は忘れてはいないが
縛られている状態が苦痛で仕方なかった。
そんなとき、圭太はじめ友人は
李衣紗を楽しませてくれた。
姉のような凛々子も自分を思ってくれる。
それに応えようと李衣紗は必至だった。
凛々子自身も絶望の淵から助けられ
今の自分がある。
幸せをくれる人たちに恩返しがしたい。
また、ほかの人々にも。
昔見た洋画 Pai it forwardが印象的だった。
自分がやさしくされたり恩を受けたら
それを別の人に与える。
それを与えられた人はまた別の人に。
幸せの種が広がる。
自分もそんな種をまく人になりたい。
そう決意して、日南田母が勧めてくれた道を
歩むことに決めた。
小さい頃の記憶が脳裏をよぎる。
大好きな父に連れられ手をつないでいる。
「パパどこいくの?」
「楽しいところだよ」
連れていかれたのは、住宅街の一角にある
古い団地だった。
「ここがたのしいの?」
「いいからおいで」
幼い凛々子は父に言われるままに
ついていった。
団地の一室にはなにもない
質素な家具があるだけの空間だった。
「ここで遊んでて」
小さい凛々子はなにもないこの
空間で何をしろというのだ?と
幼な心に疑問を抱いた。
振り返ると父の姿はなく
別室でなにやら女性らしき声がする
「パパ!」
「あっちいってなさい」
部屋から父の声が聞こえた。
一人にされ不安になった凛々子は
声のするほうに入っていった。
すると、そこでは
男女が生まれたままの姿で重なっていた。
見慣れた男は、凛々子の叫びにも
答えることがなく、行為を続けていた。
凛々子は泣きながら
何もない空間に戻っていった
ふっ・・・と意識がなくなり
その場に横たわり、深い眠りに落ちていった。
「凛々子起きなさい」
父に連れられ家に戻った凛々子。
男女がいったい何をしていたかは
2歳の凛々子には理解できなかったが
ただことでないことは察知していた。
母にそのことを伝えなければと
必死に訴えた。
次の週末にまた、父が凛々子を連れ出そうとしたが
断固拒否し、凛々子は家にとどまった。
数分して、凛々子は母のエプロンの裾をつかみ
懸命に訴えた。
「ママ、パパ、さとうのねえのところにいる」
「え?」
「ママー!こっち」
凛々子は母親を全力でひっぱり
外に連れ出した。
母親も凛々子のただならぬ様子に
何かを感じ取り、凛々子の歩く方向に続いていった。
目の前にあるアパートは
確か・・・あの娘がいる・・・
両親を亡くし困っていた女子大生を
凛々子父は援助し助けていた。
凛々子母も気の毒に思い、差し入れなどを
していた。
そのアパートに一体なにがあるというのだろう?
恐る恐る凛々子についていくと
やはり、あの女子大生の部屋だった。
インターホンを押すが誰も出てこない。
しかし人の気配はする。
ふと、玄関ドアの前をみると
凛々子父のネクタイピンが落ちていた。
大きくなる疑念を取り去るのと
なぜこんな小さい子がここを案内したのか
ぐるぐる回る頭で懸命に考えようとする凛々子母。
すると、となりのドアが開き
主婦らしき女性が声をかけてくれた。
「あの、お隣にご用事で?」
「はい。主人がここにいるようなんです」
「ああ、30代前半で細くて色の白い方ですよね?
その方なら、よくここにいらっしゃってました。
お隣さんのお兄さんかな?と思っていたんですが」
「ええ、兄のようなものですが・・・
中にいるようなんですが出てこないんです」
「さっき、お隣さんと二人で中に入っていきましたよ。
下のポストに取りに行った帰り、ご挨拶したんです。
出てこられるまで、どうぞうちにお入りください。
お嬢ちゃんもお腹すいたでしょ?クッキーあるからおいで」
親切な女性に促され、数時間、世間話をしながら
時間をつぶしたが、凛々子父は出てくることはなく
母子はこの部屋を後にした。
数週間後、女子大生が凛々子の家を訪れ
「凛々子さんをください」
と、突然の訴えに、3歳になろうとしていた凛々子も
漠然と状況を察知した。
「やだ!」と叫び、母の後ろに隠れた。
女性は凛々子父と別れたくないために、凛々子を引き取りたいと
そう願い出てきたのだった。
父は、この女性と別れようと話を切り出したが
女性が応じず、娘と離れたくないと強く主張したところ
それでは、娘をひきとるなら、一緒になってくれるかと
そう詰め寄ってきたのだった。
結局、父も凛々子とは別れたくなく
母も、凛々子父に戻ってきてほしかったため
元のさやに戻る方向で話が進んでいたとき
この女性は自殺を図った。
真っ白な部屋で、喉に管を刺されたままの女性が
横たわっている。白い服をきた人たちが、その女性に
処置を施している。
心肺蘇生機が打ち付ける恐ろしい音に
おびえながら、幼女は部屋の隅で震えていた。
ここは病院か・・・おぞましい光景を目の前にしながら
訪れた祖母に抱き着く凛々子。
「ばあば!」凛々子母の親である
おばあちゃんは、やさしく凛々子を抱きしめた。
「もうだいじょうぶだよ・・・怖かったね・・・」
大昔の話だ。記憶に閉じ込めて、しらないトラウマと
戦っていた凛々子を救ったのが、亡くなった婚約者であり
幸せな日々を過ごしていたときに、突然のフラッシュバックが起こり
この状況を思い出した。
故婚約者は、自らのトラウマを思い出せるようになったということは
傷を治すことができるようになったってことだよと
暖かく見守り
凛々子の心のリハビリに貢献してくれた。
いろいろと助けてくれた学生時代の担任も
実は義母に育てられ、弟とは腹違いだったということが
あとになってわかった。
苦労した人程、明るく前向きに生きようと
しているその姿に打たれた凛々子は
強く明るく生きようと決意し、立ち上がる力を得られたのも
こうした背景があった。
長いトンネルを抜ければ、必ず光が差す。
明けない夜はない。
冬が長くても必ず春が来る。
凛々子は悩み苦しんでいる人がいれば
行って助け、自分のできることをしていきたい。
大切な人たちに楽しいをあげたい。
自分も楽しいことをどんどんみつけていきたい。
それが生きることだと
高くなっていく秋空を見上げていた。
笑顔がまぶしい人程
実はものすごい苦労をしていたり
被災地の人々の笑顔に助けられたと
ボランティアに訪れた人々が口にしているように
困難な時こそ明るく生きようとする
人間の強さを
ひしひしと感じたりします。