唐突に訪れた戦々恐々とした日々から
早3か月が過ぎた。
やっと学校も始まったが
以前の通りとはいかない
人間と人間の距離の確保や
消毒、会話を極力避けるなど
あれやこれやと注意事項が多い。
李衣紗達はティーンとは言え
大人に近い理解力や忍耐力があるため
なんとか乗り越えられるだろうが
小学生などは
禁止事項が多すぎて
ストレスがたまっているようだ。
「李衣ちゃん、学校どうだった?」
手作りマスクを李衣紗に手渡しながら
凛々子が尋ねた。
「なんかさ、みんな久しぶりで
会えて嬉しかったけど、あんまり会話するなとか
言われて、時間も短くて、すぐ帰るかんじだった」
李衣紗は寂しそうに、凛々子から離れて着席し
出されたドーナツとコーヒーを口に含んだ。
「本当は密集しちゃだめなんだけどさ
換気OK。消毒OK。距離OK。ってことで
圭太を呼んだよ」
李衣紗は動揺してコーヒーをこぼした。
「きゃっ!ごめんなさい!」
「大丈夫。てか、りいちゃん火傷してない?」
「うん。大丈夫。テーブルクロス汚しちゃった・・・」
「あ、気にしないで。そのためのテーブルクロスなんだから!
珈琲入れなおすね」
李衣紗は泣きそうになりながら、凛々子といっしょに
こぼしたコーヒーを拭っていた。
すると玄関の呼び鈴が鳴った。
「ごめん、りぃちゃん出てくれる?」
「あ、うん!」
はやる心を抑えながら、李衣紗は玄関に向かった。
ドアを開けると、むさくるしい男子二人が玄関前に現れた。
「おーーーーーーーー!李衣紗なんでここにいる?」
第一声を発したのは、日南田だった。
「あれ、日南田!」
「あれって、なんだよ。ご挨拶だな。
圭太だけの方がよかったって、顔してんな」
「え?そ、そんなことないよ・・・
みんなに会えて嬉しいんだよ」
「ま、玄関先もなんなんで、中にはいりまーす」
へらへらしながらも、日南田も久しぶりに
李衣紗に会えてご機嫌だった。
「ねーさーん!!!
特性デカプリン買ってきたよーーー」
いつもは爆音でしゃべる圭太が
今日はやけに静かだった。
代わりに、日南田がテンションをあげてきた。
「うるさいなー。そんな大きな声出さなくても
聞こえるよ!日南田はさすがだね。
私がドーナツ用意してるのわかってて
ゆるゆる系のスィーツ買ってきてたんだね。」
「ええ、僕、ねーさんのマネージャーすから
きっと、ねーさんなら、ドーナツ用意してくれてると
思って、プリンにいたしやした!」
「ありがとね。圭太!どした!
おとなしいね」
凛々子はちょっとからかい半分で
圭太の頭を小突いた。
「や、別に・・・」
「久しぶりの登校で疲れたかー?」
凛々子が笑顔を李衣紗に向けながら
さりげなく圭太と李衣紗が隣になるように
日南田側に陣取った。
すると、日南田がバックパックから
本を取り出し読み始めた。
「あれー?日南田、いつから読書家になったんだ?」
凛々子が笑いをこらえながら日南田に話しかける。
いかにも李衣紗の気を引こうとしているのがわかったからだ。
「いや、俺、前から読んでるし。」
「へえ~。何読んでるの?」
凛々子がのぞき込むと『虹を超える猫』と書かれてあった。
「にじをこえるねこ、ねぇ~。日南田猫好きだもんね?」
凛々子が関心しながら話しかけると
「そ。猫がわかれば、女子がわかるって言うしね。昔から」
凛々子はこらえられずに声をあげて笑った。
「日南田、おもしろすぎ!」
そんなやりとりをしていたら、李衣紗が壁にもたれながら
目を閉じていた。
「あらら・・・李衣紗、疲れたのねー。ねむちゃったわ。
圭太、あっちに毛布あるからもってきてくれる?」
圭太はちょっと戸惑ったが、凛々子の足を気遣って
黙って取りに行った。
「ん」
と、毛布を差し出す圭太。
「ん、じゃないよ。かけてあげてよ。李衣紗に」
圭太は真っ赤になりながら、李衣紗にそっと
毛布をかけてあげた。
そして、そっと隣に寄り添いながら
持ってきたプリンの蓋を開けて、静かにスプーンですくった。
「圭太も大人になったねぇ~
ちゃんと、李衣紗を気遣って、静かにできるよになって」
「いつまでも子供じゃねーし。」
と、言いながら、成長を見守ってくれた
凛々子の思いが嬉しかった圭太だった。
圭太に会えて嬉しかった李衣紗は
夢の中で、圭太と手をつないで海辺を歩いていた。
李衣紗は圭太が大好きで
圭太も李衣紗が好きなのに
なぜか日南田を思いやって、譲ろうとしている。
日南田も李衣紗が好きなくせに
本当は奪ってしまいたいぐらい愛おしいのに
大好きな圭太を飛び越えて、李衣紗を奪いにいくのは
躊躇してしまう。
圭太がいない間、寂しさを埋めてくれた日南田。
二人の間で揺れる李衣紗。
恋の行方はー