人々の記憶も薄れつつある今・・・
永斗は研究室から窓の外を眺めていた。
木々の緑が心を落ち着かせる。
静寂をぶちやぶるように
スマフォの着信音がなる。
ポップアップに表示された送信者名は
「武道家」
圭太からのメッセージだ。
机に置いたままのスマフォ画面をスライドして
肘をつきながらメッセージを確認する永斗。
(なあ、おまえ放射線とか専門だろ?
大丈夫なのかよ?)
「相変わらず、目的語がない文章投げてくるやつだ・・・」
(なにが、どう?)
ランチも食べ終わりゆったりとコーヒーを飲む時間に
親友からの意味不明なメッセージに
なぜだか安心感に包まれている永斗だったた。
もう一度窓の外に視線を移動して着信を待つ。
(ほら、あれ、爆発したあと、やばかったんだろ?
そのあとどーなったんだよ!!
なんか、海とかやばくねえか?
りーさ、魚すきだろ?)
「はいはい、いつもおまえは李衣紗中心だな。
そんなに好きなら結婚しちゃえ」
大きな独り言に隣室の後輩研究生が驚きながら
「なにかありましたか?」
とノックもせずに入室してきた。
「あ、SNSに反応してた。なんでもない。ごめん」
すると後輩は微笑みながら
「あ、それなんですね。了解です。うちも今教授外出中なんで
のんびりレポート書いてたとこでした。先輩も研究結果まとめ
大変なのかなっておもって」
肩にかかるストレートの髪の毛を揺らしながら
愛梨(あいり)は永斗の反応を待った。
「オレのことを心配してくれてありがと後輩。
そういえばおまえも知ってるかも?
猪突猛進でウソがつけない武道一直線男・・・」
永斗の問いかけに即座に反応する愛梨。
「圭太さんですよね!有名ですよ。知らない人はいない・・
男子からも女子からも人気でした!小学生の時から。
でも、私は永斗先輩派だったんで!」
思わぬ告白に面食らう永斗。
「派、っておれとあいつと二分してたの?人気?
それあんまうれしくないんだけど」
テレ隠しに愛梨をいじろうとする永斗。
「え・・・あ、うんと・・・・
推しの話です!」
何気に告ってしまっている愛梨にどう反応してよいか
困る永斗。
「ま、今度ゆっくり昔の話でもしようや。
今はその人気男子に返信しなくちゃだから
ごめんな!」
「あ、すいません・・・・部屋に戻ります」
愛梨はつっぱしってしまったことを反省しながら
部屋を後にした。
(おい、中学から人気者の圭太くん。話が唐突すぎて
どこからどう説明したらよいかわからないから、今日一緒に
飯しない?)
すると、待て、を食らっていた犬のように
圭太は速攻でリプってきた。
(いいねいいねいいね!!!外食もここ3年ほとんど
してなかったから、ながちゃん、最初の会合だよ!!!
さんきゅーーーーーー!!!!!!)
時間と場所を指定し、永斗はレポートをまとめあげた。
作業が終わり、パソコンを閉じて、プリントアウトした書類をそろえファイリングして
部屋を後にした。
久しぶりに級友に会えるうれしさで、歩みが弾んでいた。
待ち合わせ場所にいくと、すでに圭太が到着し
中堅ハチ公のように永斗の到着を待ちわびていたような表情で
「お待たせされました。なに頼む?」
店内の時計をみると待ち合わせ時間よりも2分早い。
「お前が勝手にはやくきてたんだろ?
好きなのたのんじゃえよ。オレはいつものでいいよ」
永斗が「よ」と言う前にすでにタッチパネルを操作し始めていた
圭太は、永斗の好きなオムライスを画面に表示させ3と入力した。
「はあ?おまえ、2つもたべんの?」
永斗があきれる。
「だって今日も練習試合あったんだもん。いいでしょ?」
「お手、待て、みたいな顔してんじゃねーよ。
好きにしろ」
「わーい。じゃあ、あとはコーラとコーヒーとパフェ3つね」
相変わらずの食欲に呆れながらも、昔と変わっていない圭太にホッとする永斗。
食事が運ばれてくるとすかさずスプーンを取り口にほおばる圭太。
「おまえさ、大人になっても変わってないってのは、進歩がないのか
純粋なままなのか・・・・」
「両方両方!」
「素直というかなんというか・・・で?お前の知りたいことは?」
口にものをいっぱい頬張りながらもしゃべることができるという
特技を持った圭太は懸念事項を説明し始めた。
パンデミックも落ち着いたころだから、そろそろみんなも外食やら
飲みやらはじまるだろうと。
李衣紗は仕事柄、同僚との会合も多いだろうし、研修で
出張もあるときいている。
今はほとんどの人が忘れているように思える世の中の反応だが
放射能汚染は大丈夫なのか?
永斗が以前それを懸念して放射線技師の道を目指そうとしていたことを
思い出した。
それで意見がききたい。調査結果など知っていたら教えてほしいと。
「おまえってさ、不思議だよな。勉強きらいなくせに
へんなとこ記憶力学者なみに細かいところ覚えてるよな・・・
まあ、好きって感情はすべての奇跡を産むっていうけど
まさにそれだよなあ」
永斗はうらやましそうに、パフェを頬張っている圭太をながめた。
「いや、らってそえって、とっれもらいじなころじゃん?」
「アイス溶けてからしゃべろ!!」
久々の漫才劇を内心楽しみながら永斗は説明を始めた。
もう今の小学生はあの大きな災害を知らないんですね・・・
風化は警戒心を弱くしてしまう懸念が。
圭太の気づきはとても大切なことなのかもしれません。
後世の人たちに伝えていかなければいけません。