超次元ゲイムネプテューヌ:リバース・リ・バース 作:ひきがねコート@pixiv名アスラ
「これでラスト!」
切り裂かれたモンスターが光となって消える。
洞窟に立っているのはアシュレイただ一人となった。
「やれやれ、変に苦戦したな……」
剣を背負い、ため息を吐く。
黒い炎が全身を包み、女の姿にもどる。
「まぁ、苦戦の原因は汚染化モンスターの大量発生だがな」
洞窟の中にアシュレイの独り言が響く。
汚染化。
稀にモンスターが黒く変異し、攻撃性が著しく向上する現象のことだ。
黒い体に血管のように赤い線が走る姿は非常に禍々しく、そしてその姿に見合った戦闘能力を有する。
さらに厄介なのが、モンスターの近くに汚染化モンスターがいると、そのモンスターまで汚染化してしまう点にあるだろう。
「……にしても変だな」
汚染化自体は決してあり得ない現象ではない。
問題はその数だ。
「この一週間、汚染化モンスターに合わなかった日なんかあったか?」
汚染化はそれこそ、毎日モンスターを狩っているような冒険者でも半年に2、3体確認するぐらいが関の山だ。
それをアシュレイは一週間の間に2桁に到達するかというほど倒して回ったのだ。
「もしかしなくても、強力なモンスターほど汚染化しやすいのか?」
アシュレイは報酬目当てに男の状態で倒せるレベルの敵を狩るクエストを受けている。
だがやはり汚染化モンスターの発生と関係していると考えるのは苦しいものがあった。
「……まぁ、考えても仕方ない。戻るか」
最後にそう呟き、アシュレイは出口へまっすぐ歩いて行った。
……………………
「……で、帰ったら帰ったでコレかよ……」
コンパの家ではネプテューヌとアイエフが絶賛睨み合い中だった。
視線の間で火花を散らしている。
「コンパ、何があったかわかるか?」
「それが……わたしもキッチンから戻ってきたらこの状態でしたので……」
「そうか……」
頭をバリバリと掻きながらアシュレイが二人の近くへ。
「で、今日は何がどうしたんだ?」
「聞いてよアッシュ!わたしは絶対グリーンハート様はガチゲーマーだって思ってるんだけどあいちゃんがー!」
「だからあれは庶民アピールよ!そうに違いないわ!」
「……頼むから第三者が聞いて理解できるように話してくれ……」
その言葉で頭が冷えたのか、ネプテューヌとアイエフが事の終始をアシュレイに説明した。
「……つまり、この隠しリンクの内容が本人の物かそうでないかで言い争っていると……」
どうやらアイエフが見ていたリーンボックスの女神、グリーンハートのブログの中に隠しリンクが存在し、そこに書いている内容がゲーム用語でびっしりだったのが事の始まりらしい。
「はまじなんてわたしでも知らないような単語を平然と使ってるのが庶民アピールなわけないよ!」
「わたし達が知らないだけでリーンボックスでは一般的な言葉かもしれないじゃない!」
「……コンパ、いつもの頼む……」
「あんまりケンカしてると、二人のプリンをぼっしゅーとするですよ!」
「「すいません、調子こいてました」」
これで喧嘩が止むのもどうかと思う。
アシュレイの顔からはそんな思いがありありと感じられた。
「むー……こうなったら直接リーンボックスに行くっきゃないね!」
「望むところよ!」
「す、すごい理由でリーンボックスに行くことになったです……」
「もう好きにしてくれ……」
睨み合いを続ける二人の横でアシュレイとコンパがため息を吐いた。
……………………
「こ、ここがリーンボックスの教会です?」
「だな」
リーンボックスに行くことが決まった次の日。
プラネテューヌから船に揺られて半日。
ネプテューヌ達はリーンボックスへとたどり着いた。
子供や老人でも分かりやすいような案内板が各所に設けられており、今回は教会まで迷うようなことはない。
「ラステイションの時みたいに追い返されないとはおもうから、そう緊張しなくても大丈夫だよ」
「だといいですけど……」
「で、アイエフはさっきから何やってるんだ?」
アシュレイに呼ばれ、アイエフが携帯から顔を上げる。
「グリーンハート様のブログを見てるのよ。丁度さっき更新があったから、教会にはいるはずよ」
「いやいやーあいちゃん。それは夢見すぎだよ。この手のブログは、女神様じゃない別の人が代わりに記事書いて更新しているって相場は決まってるんだって」
もちろんあの隠しリンクは別だけど、と後に付け足した。
「無責任に人の夢を壊すようなこと言わないで」
アイエフがネプテューヌを睨むと、ネプテューヌは少しバツの悪そうな顔をした。
「ごめんごめん。でもあいちゃんって普段はクールでかっこよさげな感じだけど、意外と乙女な一面あるよねー」
「……乙女で悪かったわね」
「『人に人を否定する権利は無い』ってな。そうやさぐれるな」
そんなことを言いながら四人揃って教会へと脚を踏み入れる。
「こんにちはー!女神様に会いに来ましたー」
「おやおや、これはまた元気なお嬢さんが来たものだ」
余計なほど大きな声で挨拶したネプテューヌを白い髭を蓄えた老人が出迎えた。
「ワシはイヴォワール。当教会に何用かな?」
「女神様に会いに来たんだけど、女神様いる?」
「素晴らしく運が無いな、君は。既に本日の面会時間は終わってしまったのだ」
現在午後6時。
確かに面会時間としては遅すぎるくらいだ。
「えー。けどいるんでしょ?ちょっとでいいから合わせてよー」
「ネプ子、過ぎてしまったものは仕方ないわ。また明日来ましょ」
駄々をこねるネプテューヌをアイエフがなだめる。
「あいちゃんこそ諦めていいの!?女神様がいるかどうかブログの投稿時間で調べるほど会いたかったんじゃないの!?」
「ちょ、ちょっとネプ子!何もこんなトコロでそんなこと言わなくてもいいでしょ!」
「ねぷねぷは容赦無いですねぇ……」
そんなやりとりを聞いていたイヴォワールが笑った。
「それほどグリーンハート様を慕ってくれるとは、仕える身としては嬉しい限りですな。しかし、規則は規則。それに既にグリーンハート様は次の仕事が入っていてな、申し訳ない」
「こっちの馬鹿が馬鹿言ってるだけだ。あんたが謝る必要なんて無い」
「ちょっとアッシュー!馬鹿馬鹿言わないでよ!馬鹿って言う方が馬鹿なんだよー!」
「馬鹿が馬鹿馬鹿言うな。馬鹿がゲシュタルト崩壊する」
「はいそこまで。そういうことだし、今日は適当に観光でもして過ごしましょ」
アイエフがネプテューヌとアシュレイを教会の外へ引きずっていく。
「あ、そうだ。イボ痔さん」
「い、イボ痔!?」
「鍵の欠片ってアイテム知らない?わたしたち、探してるんだ」
「ワシは切痔ではあっても、イボ痔ではないわ!」
聞き方がアレだったが、危うく忘れかけていた教会に来た本来の目的をイヴォワールに話した。
「なにか知っていれば、イボ爺さんも教えて欲しいです」
「イボ爺さん!?」
「ちなみに、形はこんな形をしてるんだけど、見たことないかな?」
「……いや、生まれてこの方70年。そのような物は知らぬな」
いちいちリアクションを取るのが面倒になったのか、イヴォワールが素直に返事を返した。
「そっかー……」
「しかし、グリーンハート様ならなにか知っておるかもしれん。なにせ、何百年も生きていらっしゃるからな」
「何百年も!?……ってことはグリーンハート様ってBB……」
「やめとけ。俺たちの立場まで危うくなる」
ネプテューヌが言わんとしたことを未然に察知したアシュレイがネプテューヌの口を両手で塞ぐ。
「あいちゃん、ねぷねぷが変なことを言う前にさっさと帰ったほうがいいかもしれないです」
「そうね。では、また明日来ます」
「あぁ、待っておるよ」
イヴォワールに見送られながらネプテューヌ達は教会を後にした。
「……おや、来客の方ですかな。今日は如何様なご用件で?」
そこにネプテューヌ達と入れ替わるようにフードを被った女が現れる。
「私はルウィーの宣教師、コンベルサシオンと申します……」
アシュレイ達がその女を追いかけることになるのは、これよりもう少し後の話である。
……………………
「そういえばリーンボックス観光って、具体的には何するの?」
「なら、隣町のカフェはどうかしら。紅茶とスコーンが美味しいって評判で、一度行ってみたかったのよ」
「あいちゃんがそこまでいうのなら、わたしも食べてみたいです」
「わたしもわたしも!」
「俺は休めるならどこでもいい」
教会を出た四人は現在リーンボックスの街を散策している。
リーンボックスの街は、文明が発達したプラネテューヌや工場が乱立するラステイションとはまた一味違う緑の生い茂る中世の街並みをしていた。
「決まりね。確か、馬車が出ていたはずだから、馬車で行ってみましょ」
「……あ」
アイエフの言葉にアシュレイが声を上げる。
「どうしたの?」
「……この時間、もう馬車は走ってないぞ」
「えぇ!?馬車が走ってないってどういうこと!?」
「馬車が走る為の街道にモンスターが増えたらしくてな。モンスターの活動が鈍ってる朝方しか馬車は出せないらしい」
「じゃあ、隣町にはどうやって行けばいいですか?」
「歩き、だな」
「そんなぁ……」
アシュレイの言葉にコンパががっくりと肩を落とす。
「あいちゃん、どうするです?」
「しょうがないわ。それほど時間のかかる距離じゃないし、歩いて行きましょ」
「そうですね。ところであいちゃん。隣町への道はわかるですか?」
「あー……そうだった。馬車が出ていることぐらいしか知らなかったんだ。とりあえず、誰か人に訊いてみましょ」
「お前、肝心な時に抜けてるよな……」
「それなら、愛嬌いっぱいみんなの人気者たるこのわたしに任せてよ!」
三人の前にネプテューヌが無い胸を張りながらそう言い放つ。
「……ねぇ、コンパ。このネプ子の自身はどこから来るのかしら?」
「さ、さぁですぅ……」
暫く辺りを見渡した後、アシュレイが口を開いた。
「どうでもいいが、ネプ公。お前って笑うと可愛いよな」
「「!?」」
「おお!?とうとうアッシュもわたしの魅力に気づいちゃった!?」
「ああ、お前は可愛い。というわけでこの辺りにいる奴、誰でもいいから捕まえて来い。お前なら出来るさ」
「ふふーん。そこまで言われちゃしょうがないなー!ちょっと待っててね!四十秒で捕まえて来るよ!」
そう言うと、ネプテューヌが弾丸の如くその場を走り去っていった。
「ふぅ……」
「あ、アッシュ?熱でもあるの?」
「……豚もおだてりゃ木に登る。後はわかるな?」
「……ああ、そういう……」
辺りに人影が無いことを確認したアシュレイは、上手いことネプテューヌを使いっ走りとした訳だ。
それから2分ほど後、ネプテューヌが一人の女の子を連れて戻ってきた。
「連れてきたよー!」
「はいはい、ご苦労さん。こいつから話は聞いたか?」
「うん。隣町へ行きたいんだよね?」
「ああ、分かるか?」
「隣町へは、この街の南口から出てまっすぐだよ。そんなに道が入り組んでるわけじゃないから、わかりやすいと思うよ。この地図、もうわたしには必要ないからあげる」
「悪いな、助かる」
「…………」
アシュレイが女の子から地図を受け取る。
「……ん?」
「じー……」
そして、女の子は何故かネプテューヌを凝視していた。
「どうしたの?そんなにまじまじと人の顔を見て」
「……もしかして、ネプテューヌさん?」
「そうだけど……」
「やっぱり!うわぁ、会えて嬉しいよ!」
「あれ?もしかして、わたしを知ってる人!?」
「うん。って言っても、わたしが知ってるのは別の世界のネプテューヌさんなんだけどね」
「別世界?」
そのワードにアシュレイが反応する。
同じようなことを言っていた人物を知っていたからだ。
「お前、もしかしてMAGES.って奴知ってるか?」
「うん、知ってるよ。そういえばまだ名前言ってなかったね。わたし、鉄拳。よろしくね」
「つーことは、俺のことはもちろん知らないよな。俺はアシュレイ。呼ぶ時はアッシュだ」
「よろしく、アッシュさん」
「……じゃ、俺たちはそろそろ行く。気が合えばまたどこかでな」
「地図ありがとね、鉄拳ちゃん!」
「うん。またね、ネプテューヌさん、アッシュさん」
鉄拳と別れたネプテューヌ一行は南口から街を出て、地図を頼りに山岳地帯へと脚を踏み入れた。
「だいぶ歩いたけど、まだ着かないの?」
「わたし、疲れたですぅ……ちょっと休憩しないですか?」
山岳地帯を歩くこと1時間。
とうとうネプテューヌとコンパが音を上げ始めた。
「地図によれば、もう少しのはずなんだけど……まぁいいわ。少し休憩してから行きましょ」
「……アイエフ。無駄に甘やかすのは毒だぞ」
そう言いながらそれぞれが日陰に手荷物を置いた時だった。
「あ、そこの君たち。ちょっといいかな」
大量の荷物を抱えた男が、まるで示し合わせたように現れた。
「誰だ、あんた?」
「ねぷ?お兄さん、もしかしてナンパ?」
「いえ、ナンパとかじゃなく、ただちょっと話を聞いてもらいたいだけなんです」
「お話、です?」
「えぇ。あなたたちは魔王ユニミテスをご存知ですか?」
男は魔王といういかにも仰々しいワードを口にする。
「ユミニテス?」
「いえ、ユニミテスです」
「……魔王ユミニテス、ね。魔王なんてわたしは始めて聞いたけど、コンパは知ってる?」
「だからユニミテスですからね、ユ・ニ・ミ・テ・ス!」
「わたしもバルサミコスさんなんていう魔王さんは知らないです」
「あんたら絶対わざとやってるでしょ!?もはやミとスしかあってないよ!?」
男は三人のノリに振り回されて話がまるで前に進めることが出来ない。
「で、そのソクラテスだかミコミコナースだかなんだか知らないが、それが俺たちに何の関係があるって言うんだ?」
「……もういいです……実は僕、ユニミテスの使いと言いまして、魔王様の布教をしているんです。だいぶ遠回りしてしまいましたが、今日はお嬢さんたちに魔王ユニミテス様の良さを知ってもらおうと声をかけたんです」
ユニミテスの使いと名乗った男は、通りすがりのネプテューヌたちに魔王ユニミテスを信仰させようとしているようだ。
その所業は新手のキャッチセールスと言われても大差ないだろう。
「胡散臭いわね。残念だけど、諦めてちょうだい。わたしたちは魔王ユ何とかなんて興味無いし、ちゃんと信仰している女神様がいるわ」
「はいです。わたしは、パープルハート様を信仰しているです」
「……俺は女神だろうが魔王だろうがそんな一文の得にもならないものに興味なんか無いがな」
「……あれ?そういえば、ねぷねぷはどうなんですか?」
「わたし?」
コンパに不意に呼びかけられ、ネプテューヌが首を傾げた。
「わたしが信仰するって言ったら、もちろん、わ・た・し。なんちゃってー!」
「…………」
さすがのユニミテスの使いの男もこれには絶句である。
「あ、あれ?もしかして……滑っちゃった?」
「ま、まぁまぁ、そんな魔王様を邪険にしないで。楽しいよ、魔王崇拝」
「いや、邪険にしているのはあなたなんだけど」
「そうだ!ここで会ったのもきっと魔王様のお導きのおかげ。君たちには特別にこの“魔王ユニミテスグッズセット”をあげよう!」
そう言って男は抱えた手荷物の一部をネプテューヌ達に渡していく。
「いや、わたしたちそんなのいらないから」
「そう言わずに受け取ってよ。便利な日常品だって入っているんだよ。ほら君も」
アイエフ、ネプテューヌ、コンパと順番に渡し終わった男が同じようにアシュレイにも荷物を差し出した。
「いらん。失せろ」
「良いから良いから。何だったら、この缶バッチも……」
近づいてくる男に対して、アシュレイの脚が降り上がる。
「失せろ。三度目は無いぞ」
わずか一秒と掛からず、男の喉元にはアシュレイのブーツから伸びた刃が突きつけられていた。
「……し、失礼しました〜!」
すっかり白くなった男は脱兎の如くその場から逃げ出していった。
「ああいう奴にはこれが一番だ」
「……アッシュってたまに突拍子も無くとんでもないことやるわね……」
「で、お前らはそれ、どうするんだ?」
アッシュが指すそれとは、アイエフたちが持っている魔王ユニミテスグッズセットなる物のことだ。
「あー、そうだった……どうすんのよ、これ」
「さすがに、捨てていくわけにもいかないですから、お持ち帰りですねぇ……」
「はぁ……なんでこうも変なのに絡まれなきゃいけないのかしら……ってネプ子は何してるの?」
日陰で座り込んでいるネプテューヌにアイエフが声を掛ける。
ネプテューヌの手には先程のグッズセットがあった。
「せっかくもらったんだし、休憩ついでにどんなのがあるか見てみようかと思って」
「どう考えてもいらない物しか入ってないと思うがな」
「えーと……マグカップに、脂取り紙……スタンプカード?と……」
ネプテューヌが魔王グッズを順番に取り出していく中、そのうちの一つで手が止まる。
「何これ。えーと……魔王様シチュエーションディスク?……ってあれあれ?」
「どうしたんです、ねぷねぷ?」
「うん。このディスクなんだけど、なんかモンスターが出てくるあのディスクに似てない?」
「なんですって!?ネプ子、ちょっと貸して!」
そう言ってアイエフがネプテューヌのディスクを近くで見ようと近付く。
だが一歩遅かった。
「あわわわわわわ!なんか光だしちゃったんですけどー!?」
「わたしとあいちゃんの紙袋の中も光り出したです!」
「あの男、騙したわね!」
そうこう言っている間にモンスターが姿を表す。
幸い数は少ないようだ。
「ねぷねぷ、変身です!」
「あいあいさー!」
ネプテューヌが光に包まれ、女神パープルハートへと姿を変える。
「早くこいつらを片付けて、教会に報告に戻りましょ。こんなのを街中でばら撒かれたら大惨事よ」
「そういうのは後だ。速攻で仕留めるぞ!」
剣を構え、襲いかかる敵を迎えた。
……………………
「デュアルアーツ!」
ネプテューヌが高速の連打を叩き込む。
「痛いのいくです!」
そこにコンパが圧縮した注射液を射出して援護。
「トドメよ!ラ・デルフェス!」
「スパイラルブレイズ!」
トドメにアシュレイとアイエフの魔法が炸裂。
光の柱を包むように紅蓮の炎が渦を巻いた。
「……だいぶ手こずったわね」
「あの野郎……舐めやがって」
アシュレイがエネミーディスクを片手でへし折る。
「あの男は放っておきましょ。今はこのことを教会に報告にしに行くのが先よ」
「分かってる。急いで戻るぞ」
ネプテューヌ達は踵を返し、元来た道を全速力で戻って行った。
「……これでよかったでしょうか」
「えぇ、成功です。きっとユニミテス様も喜んでおられるでしょう」
ネプテューヌ達がいなくなった後、岩陰から先程のユニミテスの使いの男と、リーンボックスの教会にてコンベルサシオンと名乗った女が現れる。
「で、では約束どおりこのスタンプカードにスタンプを!」
「はい、これでよろしいですね?」
「やったー!これでスタンプコンプリートだ!」
「では、早速魔王様抱き枕カバーと引き換えてはどうです?」
「はい!それでは僕はこれで失礼します!」
全ての欄をスタンプで埋めたスタンプカードを嬉しそうに眺めながら男はその場を去って行った。
「フフフ……ネプテューヌ……これで貴様も終わりだ……」
目深に被ったフードの下でコンベルサシオンの口元がつり上がった。
……………………
「……これは思っているより深刻かもしれないわ」
次の日、リーンボックス教会のある街まで戻ってきたネプテューヌ達。
その道中、電話を切ったアイエフがそう呟いた。
「どうしたんです、あいちゃん」
「独自の情報網で調べたんだけど、最近ユニミテスの使いを名乗る魔王信者が増えているらしいのよ」
「やれやれ、アヴニールの次は魔王崇拝か……女神サマって本当に信仰されてるのか?」
立て続けに女神以外の物を信仰している団体の話を知ったアシュレイが皮肉を込めてそんなことを言う。
「心配しなくても女神信仰が廃れることなんて無いわよ。さ、教会に急ぎましょ」
リーンボックスの街を急ぐこと数分、ようやっと教会へとたどり着くことができた。
「やっほー!イボ何とかさーん。またきたよー」
「またお邪魔しますです」
「おやおや、あなた方は確か先程の……」
「…………?」
「アッシュ、どうしたの?」
「いや……」
不意に解せないような顔をしたアシュレイにアイエフが声を掛けたが、曖昧な返事が返ってくる。
「何か当協会に急用でも?」
「……急用もなにも、ユニミテスの使いという奴に出会ったわ」
「なんと!?」
「それで、信者にならないかって勧誘されて、モンスターを生み出すディスクをもらったです」
「むむっ!?モンスターを生み出すディスクとな!?……その話、詳しく聞かせてくれんか?」
「えぇ、もちろん」
アイエフがモンスターを生み出すディスクを知った経緯からさっきあった出来事までを細かく説明した。
「なんと……そのような危険なディスクがあったとは……」
話を聞き終わったイヴォワールが顎に手を添え、唸る。
「あんなもの街の中でばら撒かれたらただじゃすまないわ。だから、すぐにグリーンハート様に伝えて欲しいの」
「……確かに、それだけは避けねばならぬな。早速、グリーンハート様に伝えさせてもらおう」
「そうしてくれ」
「そして、お主らはよくこのことを伝えてくれた。褒美として、ちょうど今夜開催されるパーティに特別に招待しよう」
「おおっ!イボっち太っ腹!やっぱり美味しいものたくさん出るの?」
「イボっち!?」
パーティという単語に騒ぎたがりのネプテューヌが過敏に反応した。
「あ、もしかしてそのパーティって、女神様もきたりするのかな?」
「グリーンハート様は常にご多忙な身。保証はできませんが、もしかしたらご出席なさるかもしれません」
「本当!?」
「会えるといいですね、あいちゃん」
「では、日が落ちた頃にまた教会に来なさい。ワシが会場まで案内しよう」
「じゃあ、それまで適当にこの街で時間を潰しましょ」
「それなら、ちょっと早いですけど宿を取りに行くです」
「あぁ、アイエフさんとアシュレイさんはちょっと別件の用があるので少し残ってもらえますかな」
教会を後にしようとしていたアイエフとアシュレイをイヴォワールが呼び止める。
「わたしとアッシュが?」
「えぇ。少し三人だけで話したいことがありまして……」
「……ネプ公、お前ら二人だけで宿取ってこられるか?」
「もっちろん!任せといて!」
「頼んだぞ」
ネプテューヌとコンパが並んで教会を出て行った。
その後、教会の奥へと入り、人目のつかないような場所までやってきた。
「……で、話っていうのはなんだ?」
「その前にそれぞれに一つづつ確認しておきたいことがあります」
そう言ってイヴォワールがまずはアシュレイの方を向く。
「あなたはグリーンハート様はおろか、女神そのものを信仰していないとか」
「……女神なんか居なくたって俺は生きて行ける。実際俺は今まで生きてきたしな」
「……今はひとまず置いておきましょう。次はアイエフさん」
続けてアイエフ。
「あなたはグリーンハート様を信仰しているものの、この国の者ではありませんね」
「それがどうしたっていうの?」
「それどころか、どの国にも所属していない根無し草でもある。違いますか?」
「……調べたのね」
「失礼ながら」
「そういえば、昔聞いたことがあるのを思い出したわ。リーンボックス教会の長は他国の信者どころか、例えグリーンハート様を信仰していても自国民以外は認めない、って」
「贅沢なこって」
「……で、わたしたちをどうするの?異端の者として始末するつもり?」
「やるってんなら、最低限の抵抗はさせてもらうぜ?」
「本来ならそうしていただろう。だが、今はこの奇妙な巡り合わせに感謝しましょう」
アシュレイが背中の剣に手を掛けるが、イヴォワールは平然とそう言った。
「……どういう意味?」
「あなた方の連れにいる少女……ネプテューヌを始末してもらいたいのです」
「なっ!?意味分かんないわよ!どうしてグリーンハート様を慕ってる教会がネプ子を始末してほしいなんていうのよ!?」
激しく反発するアイエフに対して、あくまで冷静にイヴォワールが話を続ける。
「あの者はグリーンハート様だけでなくゲイムギョウ界にとっても災いをもたらす者。遅かれ早かれ、グリーンハート様ご自身が制裁をお加えになるだろうが、私は女神様に御手を汚すような真似はしてほしくない」
「だから代わりに始末しろってか?」
「見事ネプテューヌを亡き者に出来たなら、あなた方をリーンボックスの正式な一員として受け入れてくれるだろう」
「……わたしが、リーンボックスに?」
「えぇ。今まで根無し草だったあなた方はさぞかし自分の国が欲しいことでしょう。それを報酬として与えると言っているのです」
「……やれやれ、ここに来た時にテメェから感じた違和感はこれのせいか」
イヴォワールの話を聞き終わったアシュレイがそう言った。
冷静を装っているが、その顔からは怒りがありありと感じられる。
「ネプ公が災いをもたらす?だったら証拠を見せろ。御手を汚してほしくない?んなのはテメェのわがままだろうが。リーンボックスの正式な一員?それこそお笑いものだ。一緒に旅を続けてきた仲間を……友達を殺してまでテメェの国の一員になんざなりたくないね」
「ちょ……ちょっとアッシュ……」
「俺は降りる。俺やネプ公を殺そうってんなら……腕の一本は覚悟しておくんだな」
勢いのまま言いたいことをぶちまけたアシュレイは早足に教会の外へと出ていった。
「……あなたは、どうしますか?」
「……確かにわたしは自分の国が欲しいわ。けど、だからってネプ子を殺すなんて……!」
アイエフは気付いていた。
さっきアシュレイが言ったことは自分に対しても向けられていることを。
もちろん、アイエフを押し留めるものがそれだけという訳ではないが。
「なら、なおのことこの毒薬を受け取るのです」
そう言ってイヴォワールが懐から小瓶を取り出した。
中にはいかにもな毒液が詰まっている。
「この毒薬は邪なるものにのみ効果を発揮し、清き者には水のように無害とされているのです」
「な、なによその妙に都合のいい毒薬は……」
「あなたがあの者を清き者だと信じるのであれば、堂々と飲ませればいいだけの話です」
「……わたしも断ったら?」
「例え国民に不安を与えてしまおうが、邪の者の疑いがある者は軍隊を使ってでも排除するだけじゃ」
イヴォワールは堂々とそう言い放った。
「……あのイボなんとかめ。あんな風に脅されちゃ、嫌でも毒薬を受け取らなきゃいけないじゃない」
イヴォワールと別れたアイエフが教会を大股でズンズンと進んでいく。
その手には渡された毒薬が握られていた。
「……それにしてもこれ……どう見ても毒、よね。こんなの誰が飲んでも死ぬに決まってるじゃない」
毒薬を目の前で軽く振ると、気味の悪い泡が次々と発生する。
見ているだけで寒気が走り、アイエフはその毒薬をコートのポケットに乱暴に突っ込んだ。
「はぁ……まいったなぁ。どうすればいいのよ……って、考え事してたら迷ったみたいね」
先ほどまでイヴォワールと話していた部屋は教会のかなり奥まったところだった。
だだっ広い教会の通路に立ち尽くす。
「えー……と、たしかこんな扉のある部屋を通って来たような……おじゃましまーす……」
曖昧な記憶を頼りに、アイエフが余り期待をせずに扉を開けてみる。
「ふ……あぁー……ん。ま、眩しいですわ……もう、誰ですの?せっかく気持ちよく眠っていたのに、邪魔をするのは……」
扉を開ける音で目が覚めたのだろう。
長い金髪に緑のドレスを着た女性が目を擦りながらベッドから起き上がった。
「あ、すみません。今閉めます……」
そう言ってアイエフが大人しく立ち去ろうと扉を閉める。
「……って、ええっ!?も、も、もしかしてグリーンハート様!?」
閉め切る前にもう一度扉を開いて叫んだ。
「……あら?女の子の、声?」
その金髪の女性はこのリーンボックスの女神、グリーンハートその人だった。
……………………
「えっと……じゃあ、そろそろ帰ります」
「あら残念。もう少しお話をしたかったのですけど……仕方ありませんわね」
あれから30分ほどたっただろうか。
アイエフとグリーンハート改め、ベールはお互いのメールアドレスを交換するほど仲良くなっていた。
と言っても、積極的に距離を詰めるベールに押されるまま友達関係になったのが事実だが。
「また、遊びに来ます」
「えぇ。またいらしてくださいな。あいちゃんなら、24時間、いつでも歓迎いたしますわ。その時は、もっと美味しいお茶を用意しておきますわね」
そう言いながら顔の横で手を振るベールに、アイエフは軽く会釈をしながら部屋を出ていった。
……………………
「そんな訳でパーティ会場にやって来ましたの巻ー!」
「元気だな……」
そしてその夜。
ネプテューヌ達四人はリーンボックス教会にある大広間へと脚を踏み入れた。
「美味しそうなお料理がいっぱいです!」
「こんなにあると流石に何を食べるか迷っちゃうよね!」
ネプテューヌとコンパがところ狭しと並べられた料理を前にはしゃぐ。
そんな中、アシュレイがアイエフへ近寄り、二人にしか聞こえないような音量で話し始めた。
「……やるのか?」
「……!」
言葉は短いが、そこにはアシュレイの不信感を感じることができた。
「……しないわよ。ネプ子もあんたも、わたしの友達よ。二人を裏切ったりしないわ」
「……だといいがな」
そう話していると、四人にイヴォワールが近づいてきた。
手には料理皿を持っている。
「おやおやみなさん、楽しんでいますかな?」
「……今来たばかりだ」
「ちょうどこれから楽しむところだよ」
ネプテューヌの後ろにアシュレイが立つ。
ネプテューヌはその意図に気付いていないが、それは紛れもなくネプテューヌを守るためであった。
「そうだ。せっかくだからオススメの料理教えてくれないかな?やっぱ旅先の料理は地元の人にオススメを訊くのがセオリーだと思うんだ、わたしは」
「おお、でしたらちょうどオススメの料理を持ってきたところじゃった」
そう言ってイヴォワールが空いているテーブルに自分が手にしていた料理を置く。
「この“山越シェフ特製・トリュフとフォアグラのキャビア添え”はどうじゃ?世界三大珍味を惜しげもなく使った、リーンボックスでしか食べられない超高級料理じゃ」
「さすがリーンボックス!まさに高級食材の三味一体だね!」
「三位一体、な」
気を張っているアシュレイに対し、相変わらずネプテューヌはマイペースだ。
「じゃあ、さっそくこの大きいのをいただきまーす!」
そこでアイエフは気がついてしまった。
イヴォワールは確かに毒薬を渡してきた。
その毒薬は今もポケットに入ったままだ。
だがもし、毒薬が自分が持っている物だけでは無かったとしたら?
ネプテューヌが食べようとしている料理はイヴォワールが運んできた。
トリュフとキャビアの黒は毒薬を隠すには良いカムフラージュになるだろう。
「……っ!ネプ子!食べちゃ駄目!」
アイエフが叫ぶ。
「もぐもぐもぐ……ごくん」
だがそう言った時には既に料理はネプテューヌの喉を通っていた。
「ん?どうしたの、あいちゃん?もしかして、わたしが食べた塊狙ってた?けど、残念!もうお腹の中なんだなーこれが!」
ネプテューヌがいつものように戯けてみせる。
「……あ、あれ?もしかして、わたしの勘違いだったの……?」
だがそこでネプテューヌの体が傾いた。
近くにいたアシュレイが反射的に体を支えた。
「ネプ子!?」
「ねぷねぷ、急に倒れてどうしたんですか!?」
「おい、ネプ公!しっかりしろ!」
三人が呼びかけるが、ネプテューヌは青い顔で荒い息を吐くばかりである。
「……イボなんとか!あなたね、ネプ子に毒を盛ったのは!」
「毒……だと!?」
ネプテューヌをコンパに預け、アシュレイがゆっくりと立ち上がる。
視線の先にはイヴォワールが当然のように立っていた。
「そのとおりです……しかし、これで彼女が邪の者だと証明されました」
「邪の者って……あんなの誰が飲んでも猛毒に決まってるじゃない!」
「者共、今すぐにこの邪の者四名を捕まえるのだ!こやつらはグリーンハート様に仇なすユニミテスの使いじゃ!」
「はっ!イヴォワール様!」
イヴォワールの声に何処からともなく槍を携えた僧兵が四人を取り囲む。
「なっ!?違うわ!なに勝手な事言ってるのよ!?」
「……言っても……無駄だ」
アシュレイが背中の剣を掴み、その場に振り下ろした。
剣が突き刺さり、床のタイルを砕く。
「……イボジジイ……残りの人生、五体満足で生きられると思うなよ……!」
剣を引き抜き、周りを取り囲む僧兵に切っ先を突き付け、あらん限りの殺気を放ち、威嚇する。
「死にたい奴から前に出ろ!その首、順番に跳ね飛ばしてやるよ!」
そう言いながらアシュレイが一歩踏み出すと、僧兵達が二歩下がった。
「アッシュ……」
「アイエフ、コンパ。二人でネプ公を抱えて逃げろ。俺の事はいないものと思え」
「……っ……アッシュ、ごめん!」
アシュレイの目の前に回り込んだアイエフが肩を掴み、アシュレイの腹にニーバットを打ち込んだ。
アシュレイが剣を取り落とし、その場に崩れ落ちる。
「……かはっ……ア……ィェフ……テメェ……!」
「……ホントにごめん……」
肺に残った空気を絞り出すように喋るアシュレイがアイエフを睨んだ。
アイエフがアシュレイの側に座り込む。
「こうするしか、あんたを止める方法が思いつかないの……」
直後、首筋に鈍い衝撃が走り、そこでアシュレイの意識は途切れた。
はい、またやたらと場面転換の多い第9話でした。
水面下の動きが多い話だと区切りがどんどん雑になっていきますね。
こういうのをすっきりと纏めるのはどうすれば良いんでしょうね。
今後にも活かせる課題なので、のんびりと考えていきたいと思います。