超次元ゲイムネプテューヌ:リバース・リ・バース 作:ひきがねコート@pixiv名アスラ
「……う……ぐ……」
「アッシュさん、目が覚めたですか?」
アシュレイが目を覚ますと、目の前には薄暗い牢屋の風景が写し出された。
「ここは何処だ……時間は?」
「リーンボックスの牢屋よ」
「わたしたち、捕まっちゃったです……」
「時間は……パーティが始まったのが9時だから、多分12時ぐらいよ」
あれからアシュレイ達はリーンボックス教会に取り押さえられ、地下牢に投獄されている。
気絶していたアシュレイは知るよしも無かったが。
「……ネプ公!」
今まで朦朧としていた意識が一瞬で覚醒する。
跳ねるように起き上がり、あたりを見渡すと、探している人物はすぐに見つかった。
近くに駆け寄り、冷たい肩を揺らす。
「ネプ公!おい!起きろ!」
「あ、アッシュさん!揺らしちゃダメです!今は安静にしてあげてくださいですぅ!」
「……アイエフ!なんでだ!」
「……今は、言いがかりよ。でもあそこであんたが暴れたら、それこそもうどうしようもなくなるじゃない!」
「……ああ!クソ!」
牢屋の扉に向かって魔法の火炎を放つが、扉に触れる前に炎がかき消えた。
もちろん扉には焦げ跡一つ付いていない。
「無駄よ。この牢屋全体に強力な魔力結界が張られているわ」
「ぐ……出せ!出しやがれ!」
ならばと扉を全力で蹴りつけるが、天井からパラパラと砂煙が落ちてくるだけだ。
「アッシュ。やめなさい」
「うるせぇ!早くしないとそいつが……!」
「アッシュ!!」
狭い牢屋にアイエフの怒声が響く。
「……ああ!クソ!」
目が覚めてから何度目になるかわからない悪態をつきながら冷えた壁を背にアシュレイが座り込んだ。
「アッシュさん……」
「あんた、ネプ子が倒れてから変よ!腹が立ってるのはわたしだって同じよ!でもだからってあんたのは明らかに異常だわ!」
「……なんでもねぇよ」
「……何か理由があるんじゃないの?」
「…………」
アイエフの言葉にアシュレイの頭が項垂れる。
その行動はアイエフの質問に対する回答としては十分過ぎた。
「……わたし達、アッシュの事を何も知らないわ……だから、教えてくれる?」
「…………」
「…………」
「……今から三年前だ……」
暫く黙っていたアシュレイだが、やがてゆっくりと口を開いた。
「俺はその年に旅を始めた……」
「…………」
「……その頃俺には連れが居た。そいつは大事な仲間で、かけがえのない親友で、愛すべき……家族“だった”」
「……だった……?」
アイエフの言葉にアシュレイの口角が釣り上がる。
その笑みはアイエフ達には酷く悲しげなものに見えた。
「回りの迷惑なんざちっとも考えねぇ、他人を振り回しといてケラケラ笑ってるような奴だ」
「……アッシュ……もしかして……」
「……死んだよ……一年前……俺の目の前でな……」
「っ……」
アシュレイが目を掌で覆い隠す。
「……間違ってるのはわかってるさ……だがどうしても、どうやっても……あいつの影が、ネプ公と重なっちまうんだよ……」
「……アッシュさん……かわいそうです……」
「……俺は、二度と俺の目の前で仲間を……友達を殺させない事を誓った……ネプ公を助けるためにも、こんなところでのんびりしている訳にはいかないんだよ!」
言いたい事を言い終わったアシュレイが再び立ち上がり、扉の前に立った。
「……荒れていますね」
「っ!?」
アシュレイが扉から素早く距離を取る。
「おや、私の声を忘れましたか?まぁ無理もありません。何せ三年ぶりですし、ね?」
「その声……その喋り方……!」
パチリ、と音が鳴った。
ゆっくりと扉が開く。
「……グレイ……さん?」
「久しぶりですね。アッシュくん」
白い髪にスーツを着、顔には笑みを貼り付けた男がそこに立っていた。
「グレイさん、どうしてここが……いや、どうしてここに?」
……………………
現在アシュレイ達はリーンボックス教会の中をグレイの先導の下、歩いていた。
ネプテューヌを背負ったアシュレイが疑問を投げかけるが……。
「付いてくればわかりますよ」
その一点張りで話が前に進むことはない。
「……ねぇ、アッシュ……あのグレイって奴、本当に信用できるの?」
「……正直、わからん。昔からあんまり何を考えているのかわからないタイプの人間だったしな」
「アッシュさんとグレイさんはお知り合いなんですか?」
「昔、俺に色々教えてくれた先生役だ。一般常識から剣の修行まで全部のな」
そんな事を話していると、グレイが一つの扉の前で立ち止まった。
扉を丁寧に三度ノックする。
「お客人を連れてきました。入って大丈夫ですか?」
「ええ、構いませんわ」
部屋の主のものと思われる声を聴き、グレイが扉を開き、部屋の中へ入っていった。
「嘘……さっきの声……この部屋ってまさか……!?」
続いてアイエフが慌てたように部屋の中へ駆け込む。
「またお会いしましたね、あいちゃん」
「ベール……様!?」
その部屋は昨日、アイエフが偶然訪れたベールの私室だった。
「……誰だ、あんた?」
「あいちゃん。お知り合いですか?」
「え、えぇ……この人はベール様……リーンボックスの女神、グリーンハート様その人よ」
「め、女神さんですぅ!?」
アイエフの言葉にアシュレイとコンパの二人が焦りを隠せなくなる。
目の前にいるのが女神グリーンハートなら、自分達を投獄した教会の大将が目の前にいるということと同じだからだ。
「聞いてください、ベール様!誤解なんです!ネプ子もわたし達もただ……!」
アイエフが自分達にかけられた濡れ衣をなんとかしようとベールに掛け合うが、それをベールは口に立てた人差し指を置いて言葉を遮った。
「皆まで言わずとも、あいちゃんが牢屋に入れられるような人じゃないのはわかっていますわ」
「ベール様……!」
「詳しい話をお聞かせくださいな。お茶とスコーンぐらいならご用意できますわ」
……………………
「とりあえず、彼女はベッドに寝かせましたけど……まさか、わたくしの知らないところでこんなことになっていたなんて……」
事情を聞いたベールが申し訳なさそうに項垂れる。
どうやらこの一件はイヴォワールの独断によるもののようだ。
「……で、どうしてグレイさんがリーンボックスの女神サマと?」
「私ですか?」
窓際で紅茶を啜っていたグレイがアシュレイに呼ばれて顔をあげる。
普段何をしているかわからない人物であるグレイが地下牢に現れたのはどうとでも説明が付く。
だがアシュレイにはどうしてもグレイとベールの接点だけがわからなかったのだ。
「実は私、アッシュくんの連れの少女……ネプテューヌさんの暗殺を頼まれまして」
「……イヴォワールですか?」
「ええ、もちろん。毒殺では服用までの過程に確実性がありませんからね」
驚くことにグレイは秘密裏にネプテューヌの暗殺依頼を受けていたそうだ。
「リーンボックスでクエストをしていたら、急に呼び止められたんですよ。ゲイムギョウ界に災いをもたらす存在と言われれば、興味も湧くじゃないですか」
「つまりは興味本意って訳ですか……で、なんで女神サマと?」
「実は待ち伏せしていた場所で偶然ベールさんと鉢合わせしましてね。どうも話が食い違うので独自に調査したところ、面白いように不自然な箇所が出てきまして、はい」
「それで、そこの女神サマと協力体制になった、と……」
いけしゃあしゃあととんでもないことを口にし続けるグレイにアシュレイはため息を吐くばかりだ。
「なんでベール様はそんなところに?」
「退屈なパーティなんていつものように欠席して部屋で積みゲーを崩そうと思っていたのですが、あいちゃんが来るとわかってこっそり裏口から参加しようと思っていたらばったり……といった具合ですわ」
「そ、そうですか……」
「……グレイさん」
「はて、なんでしょう?」
「ネプ公……こいつが毒にやられてるんです。どうにか出来ませんか?」
ネプテューヌは以前青い顔をしており、体温も順調に下がってきている。
「……流石に症状を見ただけではどんな毒かはわかりませんね」
「あ、それなら……!」
そう言ってアイエフがコートのポケットから例の小瓶を取り出した。
「アイエフ……お前それ……」
「勘違いしないでよ?あのイボなんとかに無理矢理渡されて、こっちも処理に困ってたんだから」
グレイがアイエフから毒薬を受け取り、暫く見つめる。
「…………」
「何かわかりました?」
「……ええ。この毒はかなり古い時代の物のようですね」
毒の種類が判明したらしく、グレイがその解説を始めた。
「この毒は服用後、速やかに全身に拡散。その後、体細胞を緩やかに侵食破壊していく非常に凶悪な毒です。心拍、体温の低下、頭痛や嘔吐、最終的には体の麻痺、皮下出血を伴い、死に至る、といった症状ですね。毒名は……」
「そんなことはどうでもいいんです!どうすれば助かるかだけ教えてください!」
「……この世の毒には全て解毒剤があります。可能性はゼロでは無いですが、解毒剤の生成方法までは知りませんねぇ……」
「嘘だろ……」
グレイの言葉にアシュレイの顔が青くなる。
「……諦めるのはまだ早いですわ」
「……なんだって?」
先ほどまでパソコンを弄っていたベールが不意に口を開いた。
「その毒の解毒剤を作る方法はありますわ。と言っても、作るにはリーンボックスの秘境に棲むモンスターの素材が必要ですけど」
「知ってるのか!?」
「ええ。と言っても、先ほど教えてもらったばかりですけどね」
「……は?」
ベールの言葉の中にあった不自然な箇所にアシュレイが突っ込む。
「ついさっき、グレイさんがおっしゃっていた情報を元に、匿名掲示板で質問してみましたの。偶然専門家の方が居て、親切に解毒剤の材料と作り方を教えて下さったのですわ」
「…………」
「あいちゃん……もしかしてベール様って……」
「ええ、ガチのゲーマーよ」
ともあれ、これで情報は揃った。
「この毒は服用から死に至るまで一日を要します。調合の手間を考えてもまだ時間はありますし、暫く仮眠をとっては如何です?」
「ミイラ取りがミイラになったらそれこそおしまいよ。グレイの言う通り、少し休みましょ」
「賛成です!」
「でしたら、是非ともわたくしの部屋で休んで下さいまし」
「……ネプ公、もう暫く耐えろよ……」
タイムリミットまで、後20時間。
「さて、全員起きましたわね」
仮眠を取り、全員が起床したのは朝五時。
現在は出発の最終確認をしているところだ。
「早速出発したいところだが……」
「どうしました?アッシュさん」
「……コンパ。お前はグレイさんとここに残って欲しいんだ」
「ええ!?わたしもねぷねぷを助けたいです!」
アシュレイの突然の言葉にコンパが戸惑うが、アシュレイは首を横に振る。
「何も足手まといだから来るな、なんて言わない。今のネプ公はお前にしか任せられないんだ」
「でも……」
「私からもお願いします。ほら、服を着替えさせたり汗を拭いたりは私じゃ出来ませんしね?」
「頼む……」
「……ひとつ約束して欲しいです」
コンパが真剣な眼差しでアシュレイ達を見る。
「絶対に、素材を持って三人無事で帰ってくるです!」
「……言われなくてもわかってる」
「ええ」
「当然ですわ」
それを聞いたコンパがにっこりと笑った。
「……さぁ、行くぞ!」
「行ってらっしゃいですぅー!」
「お気を付けてー」
コンパとグレイに見送られ、三人はベールの部屋を出て行った。
「……行っちゃいましたね」
「ああは言いましたけど……やっぱり心配です……」
扉が閉まった直後、コンパの表情が一気に暗くなってしまう。
「きっと大丈夫ですよ」
「どうしてわかるですか?」
「……さぁ?どうしてでしょう?」
タイムリミットまで、残り15時間。
……………………
「おらよ!」
アシュレイが目の前のモンスターを切り裂く。
これで周囲のモンスターは一掃できたようだ。
「くそ……敵の数が多すぎる」
「ここはリーンボックスでも秘境中の秘境。観光客はおろか、腕の立つ冒険者でさえほとんど近付かない場所ですわ」
「人の手が入ってないのは当然か……」
息を整えつつ武器をしまい、再び奥へと歩き出す。
足を踏み入れてから立て続けにモンスターに襲われ、ペース配分を意識するだけで精一杯な状態が続いていた。
「ここはモンスターにとっても居心地のいい場所みたいね。幾つか巣みたいなのも確認できたわ」
「ですが、着実に前へ進んでいますわ。もうすぐ目的のモンスターが……」
そう言っている三人に大きな影が覆いかぶさる。
「噂をすれば……ですわね」
「こいつか……」
三人の頭上を巨大な船のようなものが飛んでいた。
よく見ればそれにはヒレや尻尾が付いており、暫くしてようやくそれが巨大なクジラだということに気がついた。
モンスターはこちらに気がついていないのか、そのまま飛び去ろうとする。
「逃げんじゃ……」
黒い炎に包まれ、男へ変身したアシュレイが右手をクジラに向ける。
「ねぇよ!」
魔法陣を展開し、そこから火球を放つ。
火球が腹に命中し、こちらに気付いたクジラがゆっくりとこちらを振り向いた。
「ブオオォォォォ!」
「ようやくその気になったか……来るぞ!」
クジラが吠えながらアシュレイに突進を仕掛けてくる。
「よっと!」
アシュレイがスライディングでクジラの腹の下に潜り込み、突進を回避した。
「アイエフ!ベール!」
「承知しておりますわ!シレットスピアー!」
「魔粧・煉獄!」
突進の隙を突いて放たれた二人の魔法がクジラに命中する。
だが倒すには至らない。
「流石にタフだな……だったら!」
アシュレイの左腕から蔦が伸び、クジラの尾ビレを絡め取った。
「ブオォォ!?」
それを嫌がるクジラが尾を振り、引き剥がそうとする。
「じっとしてろっての!ボルトストリーム!」
蔦を線とし、魔法の高圧電流がクジラを貫いた。
動きが止まる。
「それで良い!」
植物の腕を操り、宙に浮くクジラへ飛んでいく。
「おおおぉぉぉ!」
そのまま剣を背に突き立て、頭部に向かって駆ける。
「ぜぇい!」
クジラの頭部を踏み抜き、飛び上がると同時に体を捻り魔法陣を展開。
「ウィンドブラスト!」
クジラの頭上から暴風の塊をぶつけ、地面に叩き落とすことに成功した。
「ダージリンローテ!」
「真魔烈皇斬!」
そこにアイエフとベールの二人が連続攻撃を浴びせる。
「こいつで……!」
アシュレイの剣を炎が包む。
「消えろぉぉぉ!」
炎で作られた特大の剣を振り下ろし、クジラを一文字に切り裂いた。
光を放ち、クジラが消える。
その光が収まると、そこには小さな結晶が落ちていた。
「……これが?」
「ええ。これが解毒剤を作るのに必要な森のエキスの結晶体ですわ」
「アイエフ、時間は?」
「大丈夫。十分間に合うわよ」
「そう……か……」
そう言って女に戻ったアシュレイがふらつき、そのまま尻餅を付いた。
「ちょっとアッシュ、大丈夫!?」
「……足がふらついただけだ」
剣を地面に突き立て、ゆっくりと立ち上がる。
「顔も青いですわよ?無理をなさらないで下さい」
「そんなことより、目的の物は手に入れたんだ。急いで戻るぞ」
「……もう」
アイエフがアシュレイの手を取り、それを肩に回すように掛ける。
「お前……」
「あの時のお詫びよ。普段頼りっぱなしなんだし、こんな時ぐらい甘えてちょうだい」
「……わかったよ」
「ベール様、道中頼めますか?」
「ええ。他ならぬあいちゃんの頼みとあれば、当然承りますわ」
三人が森の出口へと歩き出す。
「……とんだお人好しだよ、お前らは」
「あんたも人のこと言えないでしょ?」
タイムリミットまで、あと12時間。
……………………
「戻ったわよ」
「おかえりなさいです!」
ベールの部屋に戻ると、早速コンパが出迎えに出てきた。
「ネプ子はどう?」
「症状は進行していますが、まだ生きていますよ」
アイエフの質問にネプテューヌの様子を見ていたグレイが答える。
「で、目的の素材は手に入りましたか?」
「ええ、もちろんですわ」
「時間が無い。急いで解毒薬を作るぞ」
「コンパさん、お願い出来ますか?」
ベールに呼びかけられたコンパが不意に曇った表情になった。
「コンパさん?どうかしましたか?」
「……わたし、薬剤師さんじゃないので……薬の調合はできないんです……」
「それは困りましたわね……医療の分野ではコンパさん以外に頼れる方がいませんのに……」
「グレイさんはどうなんですか?」
「私も毒の種類はわかりますが、調合をしたことはありませんね」
手をひらひらと振りながらグレイも否定の意を示す。
「そういうことだから、お願いコンパ。頼れるのはあなたしかいないのよ」
「けど……」
「……えらく歯切れが悪いな。何かあるのか?」
「…………」
アシュレイの言葉にコンパが俯いてしまった。
暫く悩むような間を置いた後、コンパがゆっくりと口を開く。
「……じつはわたし、クラスじゃ落ちこぼれなんですぅ……」
「落ちこぼれ……ですか?」
「勉強も実習も苦手で……クラスのみんなと比べるとダメダメなんですぅ……だから……こんな大切なこと、わたしがやっちゃダメなんです」
そう言ったコンパはいつの間にか目に涙を浮かべており、その姿はとても苦しそうに見えた。
「……なぁんだ、そんなことか」
だからこそ、アイエフはそう言ったのだろう。
「何事かと思いましたけど、そんなことでしたのね」
「……え?」
「はぁ……」
ため息を吐いたアシュレイがコンパの前に立つ。
「誰もお前一人に責任全部被せる気なんざねぇよ」
「そうですわ。わたくし達も可能な限り協力しますわ」
「だからコンパはわたし達に指示でもアドバイスでも、知っていることを教えて?」
「私も好きにこき使って構いませんよ」
アシュレイがコンパの頭を優しく撫でた。
「背負うものは……みんな同じだ。全員でネプ公を助けるんだ」
「……はいです!」
コンパの目から涙が溢れるが、それは少し前とは真逆のもののようだ。
「さ、コンパ!何でも言って!」
「……じゃあ、誰か試験管……無ければコップを沢山持ってきて欲しいです!」
「わたくしが探してきますわ!他に必要なものは?」
「えーっと……結晶を粉末にするので、すり鉢とすりこぎ……後、いらない紙と計量器が必要です!」
「ベール様一人じゃ持ちきれないし、わたしも行きます!」
「では、私も着いて行きましょうかね……」
「……もう少しだ。耐えろよ!」
タイムリミットまで、残り11時間。
……………………
「これで……」
管に吸い上げた液体をコップの中の毒薬に数滴垂らす。
コップを軽く振り続けると、紫色の毒薬が瞬く間に無色透明の液になった。
「……で、できたです!これでねぷねぷを助けられるです!」
「苦戦するかと思ってたけど、案外簡単に作れるのね」
「何時の時代も、知恵を絞るのは先を行く人です。この解毒薬を発明した人に感謝するばかりですね」
「なんだっていい。これ以上苦しい思いをさせる前に早く飲ませるぞ」
コンパが完成した解毒薬が入ったコップをネプテューヌに差し出す。
「さぁ、ねぷねぷ。一気に飲むですよー」
「んんー……」
ネプテューヌの体を半分起こし、口元にコップを持っていくが、ネプテューヌはそれから逃げるように顔を逸らした。
「……飲むのを嫌がってますわね」
「作っている時も相当な匂いがしましたし、きっと味も苦いんですよ」
「部屋中薬品の匂いにまみれるほどですしねぇ。窓でも開けましょうか」
「好き嫌いは駄目です、ねぷねぷ!口を開けるです!」
コンパがそう言うが、やはりネプテューヌは嫌がって解毒薬を飲もうとしない。
それを見ていたベールが閃いたように手を叩いた。
「そうですわ!こういう時は、口移しで飲ませるに限りますわ!」
「く、口移し!?」
「えぇ。まるで王子様のキスで眠りから覚めるお姫様のようでロマンチックではなくて?」
「……で、ベールさん。その王子役、誰がやるんですか?」
あ、もちろん私はパスで、と付け加えたグレイの言葉に全員が異様な空気に包まれた。
「さ、流石に口移しはちょっと……」
「わたしもそれはちょっと早いかなーと……」
「わたくし的には、コンパさんとネプテューヌの口づ……もとい、口移しが良いかと思いますわ」
「な、なんでわたしなんですか!?」
「あら、嫌ですの?仕方ありませんわね……ではあいちゃんの口移しで我慢いたしますわ」
「こ、今度はわたしですか!?」
「さぁさぁあいちゃん。ぐいっと!」
ベールがコンパの手から受け取った解毒薬入りのコップをアイエフに差し出す。
困っているアイエフとは対照的にベールは非常に楽しそうな顔をしている。
「あー……えー……?」
「さぁ。さぁさぁ!」
「……しゃらくさい!よこせ!」
ベールの腕からコップがひったくられ、それをアシュレイが一気に口に含む。
そしてその勢いを殺さぬままアシュレイがネプテューヌの顔を掴み、そのまま二人の口が重なった。
無理矢理舌で口を開き、そこに口の中の解毒薬を流し込む。
「ん……んく、んく……」
ネプテューヌは一瞬抵抗したが、既に喉を伝っているそれから逃げることなど出来ず、喉を鳴らしながら解毒薬を飲み込んだ。
「……ぷぁっ……けほっ……にっが……酷い味だな……」
「あ……アッシュさん……?」
「あ、あんた……」
「……んだよ……」
アシュレイが何時ものしかめっ面を浮かべながら振り返ると、口を開けたまま固まるアイエフとコンパ。
その後ろにニコニコ、あるいはニヤニヤと言う擬音語がピッタリの顔をしたベールとグレイが立っていた。
「いやはや、アッシュくんも日々成長しているのですねぇ……」
「えぇ、美味しく頂かせてもらいましたわ」
「時間がねぇってのにモタクサしてるからこうなったんだろうが……」
そう言うアシュレイの顔は少し赤い。
「……おい、ネプ公。いつまでも寝てねぇでさっさと起きろ」
「うー……ん」
アシュレイが肩を揺らすと、ネプテューヌが不機嫌そうに唸った。
その顔は明らかに先ほどより回復しているように見える。
と、アシュレイがネプテューヌの顔を見つめていると、不意にネプテューヌの目が一気に開いた。
「ネプテューヌ、ふっかー……!」
岩同士がぶつかったような音が部屋に響く。
「「いってぇー!?」」
ネプテューヌが勢い良く起き上がろうとした所、前かがみで顔を見つめていたアシュレイに予想外の頭突きをしてしまったのだ。
「ちょっとアッシュ!せっかくわたしが盛大に復活をアピールしようと思ったのにー!邪魔しないでよー!」
「周りも確認せずに急に起き上がる馬鹿があるか!……ったく……心配して損した気分だぜ……」
ネプテューヌが打ち付けた頭を摩りながら改めてベッドから起き上がる。
「はぁ……あんたらは起きたら起きたですぐそれなのね」
「でも、いつものねぷねぷだってことは良くわかったです!」
「あ、コンパにあいちゃん!よく覚えてないけどごめんね、わたしが迷惑かけちゃったみたいで」
「あら?わたくし達にはお礼はありませんの?」
「……えぇ……っと……この人たち誰?」
アシュレイ達の下に、欠けていた喧騒が戻ってきた。
「……というわけで、ねぷねぷを助けるのをベールさんたちが手伝ってくれたんです」
「いやぁー、まさかわたしとしたことが毒殺されかけるとは面目ない。これじゃあ主人公失格だねー」
「これに懲りたら今度からはもっと身の周りに気を張ることだな」
毒で苦しんでいる間、記憶が曖昧だったネプテューヌにベールやグレイの事を話した。
そんな時、アイエフの顔が不意に沈んだ。
「……ごめんね、ネプ子。防げてたかもしれないのに、苦しい思いさせて……」
「あいちゃんは気にしすぎだってー。ほら、いつものきっつーいツッコミするあいちゃんに戻って戻って!でないとわたしのボケが輝かないんだからさー」
「……まったく、病み上がりの癖に調子に乗って……」
そう言うアイエフは少し嬉しそうな表情を浮かべた。
「えっと、ベールとグレイもありがとね」
「お気になさらないで。あいちゃんの為ですもの、当然ですわ」
「……私はお礼ついでに教えて欲しい事があるのですが」
「なになに?わたしが答えられることならなんでも答えちゃうよ!あ、でもスリーサイズを聞きたいなら事務所かプロデューサーを通してね!」
「あなたは世界の災厄となる存在だとお聞きしたのですが、本当ですか?」
「華麗にスルーされた!?しかも質問がなんか意味不明!?」
「……まぁ、期待はしていませんでしたが、まんまと乗せられていたようですね」
だがグレイの顔には悔しそうな表情は微塵も見て取れない。
「今回は無事でしたが、あなたも女神なのですから、今後は気をつけるのですわよ?」
「……あれ、ベール様、もしかしてネプ子が女神だって知ってたんですか?」
「えぇ、知っていましたわ」
「……守護女神戦争とかなんとかをやってた仲じゃないのか?」
そう。
ネプテューヌとベールはお互い自分の国を持つ女神の一角。
本来なら天界でいつ終わるとも知れない戦いをしている筈の人物なのだ。
凍りついた空気を割って話し始めたのは他でもないベールだった。
「皆さん、ご心配はありませんわ。元より、わたくしは守護女神戦争には興味はありませんの」
「……そうなんですか?」
「えぇ。敵対しているのであれば、いくらあいちゃんのお友達とはいえ、助けたりしませんわ」
「けど、女神なのにどうして興味がないんですか?」
「確かに、先代の女神の言葉に従い、守護女神戦争を続けてきましたわ。けれど、わたくしには女神としての力と、ゲームさえあれば世界の神になんて興味はありませんわ」
「……ぶっ飛んだ考えの女神もいるもんだな……」
「ある意味、わたしが思っていた以上に凄い人かも……残念な意味で」
これにはグリーンハート信者のアイエフも苦笑いである。
「その点、ネプテューヌはどう思っているのですか?」
「んー……実はその辺よくわかんないんだよね。わたし、記憶喪失だしさ」
「……それは、本当ですの?」
「名前以外全部吹っ飛んでるらしい」
「自分が女神だっていうこともノワールから教えてもらったしさー」
「ノワール……あぁ、ラステイションの。ということは既にノワールとは……」
「はい。今ではすっかり仲良しさんです」
「……あなたたちなら信用してお話ができそうですわね」
いきなりベールが神妙な顔付きになった。
「あれ、もしかしてネトゲの勧誘?」
「それはまた今度、キャンペーンが始まったらお願いしますわ」
「ベールさん、脱線ついでに真面目な話はまた今度にしませんか?今からは厳しいですし」
「……それもそうですわね。明日、また訪ねて来てくださる?」
「あ、けど、わたしたち……教会にはユニミテスの使いとして……」
「そんなことなら、お気になさらないで。全てわたくしに任せて、あいちゃんはゆっくり休んでくださいな」
「……わかりました」
ベールの言葉にアイエフが頷き、部屋を出る為に立ち上がる。
「では、また明日ですわ、あいちゃん」
「はい。また明日」
ネプテューヌ達がベールの部屋を後にする。
部屋に残ったのはベールとグレイのみとなった。
「……よかったですね。協力者が見つかって」
「えぇ。持つべきものは友達ですわね」
「……では、私も宿に戻りましょうかね」
グレイが立ち上がり、ドアノブに手を掛けると、思い出したように振り向く。
「……ご老体に鞭を打つのはほどほどにしてあげてくださいね?」
「うふふ……少しキツいお灸を据えるだけですわ」
それを聞いたグレイも、ベールの部屋を出て行った。
はい、番外編で出てきたグレイさんが本編での初登場となった第10話でした。
カウントダウンして煽るくらいならもう少しオリジナルの流れとかあっても良かったな、とは当時から思っておりました。
しかし次回がどうしても書きたかった私は強行突破しました。
というわけで次回はこのお話全体の中でも大事なシーンがあります。
お楽しみに。