超次元ゲイムネプテューヌ:リバース・リ・バース   作:ひきがねコート@pixiv名アスラ

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第11話 暗闇に沈む心

 

「……昨日の今日で教会に正面から入るのは、ちょっと抵抗があるですね」

 

ネプテューヌの解毒に成功した次の日。

ネプテューヌ一行はリーンボックス教会の扉の前に居た。

 

「きっとベール様がなんとかしてくれているわよ。信じて入るわよ」

 

不安そうな顔を浮かべるコンパの肩をアイエフが叩く。

そして扉に手をかけ、ゆっくりと手前に引く。

 

「……お邪魔しま……」

「すみませんでしたー!!」

「ひぃ!?」

 

アイエフが扉を開ききるよりも先に、イヴォワールが土下座の姿勢のままネプテューヌ達の目の前に滑ってきた。

その有様をみたコンパが思わず飛び上がる。

 

「先日は本当に申し訳ございませんでした!」

「いやいや、教会に入って早々スライディング土下座はさすがのわたしもびっくりだよ」

「……えと、これはいったい……」

「あら、あいちゃん。お待ちしておりましたわ」

 

困惑するネプテューヌ達の元にベールが現れた。

 

「えと、あの……これは、誤解が解けたということで良いんですよね?」

「ええ、これで安心してくださいな。今後このようなことは二度と起こさせませんわ。ね、イヴォワール?」

「ひいぃぃ!は、はい!今後このようなことは二度と起こしませんので、どうかお許しを!」

 

ベールがイヴォワールに向けてニッコリと微笑むと、既に青いイヴォワールの肌が更に青くなり、すぐさまベールが言ったことを復唱する。

 

「けっ……良いザマだな」

「こらアッシュ。そういうこと言わない」

「……早速ですが、急いでお話したいことがありますの。わたくしの部屋に来てくださいな」

 

そう言ってベールが教会の奥へと歩き出す。

一緒について行こうとしたアシュレイが何を思ったか振り返った。

 

「……可哀想なあんたにこいつをやるよ」

 

そう言ってアシュレイが懐から小瓶を取り出す。

中身は勿論先日の毒薬。

それを土下座の姿勢を続けるイヴォワールの目の前に置く。

 

「……そいつは服用すると体の細胞をズタズタにし、一日で死に至らしめる毒だが、心が綺麗な人間には無毒らしいぜ?試しに飲んでみるんだな」

 

それだけ言ってアシュレイは再び歩き出し、ネプテューヌ達に追い付く。

隣に居るアイエフがため息を吐いた。

 

「あんたも中々根に持つわね……」

「最初は腕でもへし折ってやろうかと思ってたぐらいだ。アレで許してやるってんだからまだ良心的だぜ」

「……お願いだから間違ってもやらないでよ?」

「善処する」

 

そこでふとアシュレイが一人足りないことに気がついた。

 

「ベール。グレイさんは?」

「ああ、あの人ですか?あの人は急用が入ったとかで今日は来れなくなったそうですわ」

「……相変わらずよくわからない人だ……」

 

昔からグレイという人物は誰に何とも言わずふらっと何処かに行ってしまうような人物である。

今回のようなドタキャンはアシュレイにとっては良くあることのようだ。

と、そんなことを話していると、ベールの部屋へあっと言う間にたどり着いてしまう。

 

「さて、単刀直入に申しますと、奪われてしまったわたくしの女神の力を取り戻すのに協力してほしいのです」

 

部屋に入り、それぞれが腰掛けると、ベールが口を開いた。

とは言っても、それはにわかには信じがたい話だったが。

 

「……とりあえず、女神の力が奪われたっていうのはどういうことなんですか?」

「というか、女神の力って奪えるものなのかよ……ん……?」

「アッシュさん?どうかしたですか?」

「いや……さっきのフレーズ……どっかで……」

 

アシュレイの疑問を無視してベールが話を続ける。

 

「……あれは、お忍びで参加したあるゲームイベントの帰りですわ。わたくしは会場で買ったグッズで両手が塞がり、更に一日中歩いたので疲弊していたんです」

「ということはまさか……」

「フラフラな状態を狙われたわたくしが次に目を覚ました時には、女神としての力がなくなっていたんですの……」

 

その話を聞き、一名を除いた全員が呆れたような顔を浮かべた。

その中から唯一除外されたネプテューヌはうんうんとうなづいている。

 

「……まぁいい。そういえば、女神の力がないっていうのは、結局どういう状態なんだ?」

「そうですわね……具体的に言えば、人間に近くなりますわ。女神化……変身は勿論出来ませんし、シェアの恩恵も受けられず、何より人間と同じように年をとりますわ」

「つまり、普通の人と同じってことですか?」

「そのとおりですわ。なので、わたくしの美貌が衰えてしまう前に、なんとしても女神の力を取り戻さなくてはなりませんわ」

「一日二日でそうそう変わるモノじゃないがな」

 

ともあれ、それがベールを助けない理由には到底なり得ない。

 

「そういうわけですから、あいちゃんたちにはその犯人を捕まえるのを手伝って欲しいんですの」

「わかりました。ネプ子を助けてくれた恩返しも含めて協力させてください」

「流石にこの事は教会の方々には相談できなかったので、助かりますわ」

「ていうことは、教会の人たちはこのことを知らないんですか?」

「力を奪われた、なんてことが広まってみろ。シェアに響くのはまず間違い無い」

「ええ。それに、国民の方々を不安にさせる訳にもいきませんし」

 

そこでアイエフがふと閃いたような素振りをした。

 

「もしかして、ベール様が部屋に籠るようになった本当の理由って、ゲームの為じゃなくて……」

「バレないためにも、なるべく人との接触を避けていましたの」

「本当か……?」

「まぁ、その時期にネットゲームの大型アップデートが入った、というのもありますけど」

「やっぱりな……」

 

話が横に逸れかけた所でベールの携帯に着信が入る。

 

「はい、わたくしですわ……わかりました。今何処に?……今から急いでそちらに参りますわ。それまで足止めをお願いしますわ」

「ねぇねぇ、今の電話って何?」

「わたくしの力を奪った犯人を発見したそうよ。詳しい話は道中お伝えします。今は急いで向かいましょう」

 

リーンボックス教会を出て、ベールの力を奪った犯人が居るという場所に急いだ。

 

「で、力を奪った犯人っていうのはいったい誰なんだ?」

 

山岳地帯を急ぐ中、アシュレイが口を開いた。

 

「ネプテューヌの暗殺についてイヴォワールを問い詰めていると、コンベルサシオンという人物が出て来ましたわ。ルウィーの宣教師で、例の毒をイヴォワールに渡したのもコンベルサシオンですわ」

「そいつが犯人って訳ですね。でもなんでそのコンベルサシオンが犯人だと?」

「恐らく、コンベルサシオンはネプテューヌが女神だということを知っていると思われます。魔王崇拝者を始末するのが目的なら、ネプテューヌだけを狙うのは不自然ですもの」

「言われれば確かにそうです……!」

「女神を狙う人間や組織が多いとは考えにくい……だとすれば……」

「犯人はルウィーの女神、ホワイトハート様の手の者というわけですね」

「少なくともコンベルサシオンは黒だ」

 

考えは一つに纏まったようだ。

 

「なんかよく分からないけど名推理キター!」

「それにしてもなんでねぷねぷだけで、ベールさんは命を狙われてないですか?」

「……恐らく、わたくしが守護女神戦争に興味が無いことを知っていて、生かしていても害は無いと考えたのでしょう」

「それにしても、よくそれだけの情報で犯人を特定しましたね。流石ベール様です」

「わたくしはただ、手に入れた情報から推理しただけですわ……さあ、目的地が見えて来ましたわよ」

 

そう言ってベールが指差した先には簡易的な検問所が設置されていた。

そこにはフードを被った女が立っている。

 

「くそ……まさかこんな所で足止めをくらうとは……」

「やっと見つけたわよ!コンベルサシオン!」

「よくもわたしを殺そうとしたなー!絶対許さないんだからー!」

「ちっ……何かおかしいと思っていれば……女神共が来るまでの時間稼ぎだったとはな」

 

フードで目元は見えないが、その声には明らかに憎悪感を感じることができた。

 

「コンベルサシオンと言いましたわね。あなたにはネプテューヌを狙った罪の断罪と、わたくしから奪ったものを返してもらいます」

「ほぉ、ただのオタク趣味の腑抜けた女神だと思っていたが……一応頭は回るようだな」

「ふふっ……ゲーマーを舐めないでくださる?あなたの反抗は、先月発売した推理ゲームの犯人と手口が同じだっただけですわ」

「まさに、ゲーマー探偵ベールって感じだね!」

「新ジャンルの名探偵さんの誕生です」

「……つっこまんぞ」

「く……どこのメーカーか知らんが余計な物を……!」

 

結論に至るまでの過程はどうあれ、既に反抗を自白したも同然である。

不意にコンベルサシオンが着ているフードを脱ぎ捨てた。

血が通っていないのかというほど白い肌。

茨をあしらった服装に魔女風の三角帽子。

 

「……あー!プラネテューヌで会ったおばさんだー!」

 

目の前に居るのは始めて鍵の欠片とエネミーディスクを見つけた場所。

そこに現れた女その人だった。

 

「そのとおり、コンベルサシオンは私の仮の姿だ!」

「あなたたち……彼女を知っているの?」

「はい。プラネテューヌでわたしたちから鍵の欠片を奪おうとしてきた悪い人です」

「力を奪う……どっかで聞いたことあると思ったら……!」

「あの時は遅れをとったが、今日はそうはいかんぞ」

 

女がアシュレイを憎たらしそうに睨む。

前にやられたことを根に持っているようだ。

 

「そっちがその気ならこっちだって!」

「もう一回やろうってんなら、もう一回ぶちのめすだけだ!」

 

ネプテューヌが光に包まれ、女神の姿となる。

それと同時にアシュレイも男へと変身する。

 

「覚悟は出来てるんだろうな?」

「相手があなたなら、手加減はしないわ」

「ほう、ならばやってみるがいい!」

 

二人に向けて魔法弾が発射された。

それを回避し、ネプテューヌが接近する。

 

「ヤァ!」

「ふん!」

 

女がネプテューヌの一撃を何も無い空間から作り出した槍で防いだ。

そのまま数回剣を打ち合い、鍔迫り合いになる。

 

「ぬぅ……邪魔だ!」

「くっ……」

 

剣を弾かれた勢いでネプテューヌが後ろに下がる。

 

「悪いな。次は俺だ!」

 

そこにアシュレイが割り込んだ。

 

「おおおおおお!」

 

絶え間ない連打に耐え切れず、女がバランスを崩す。

 

「フォーム・ドライ!」

「ぐおぉ!?」

 

剣を大鎌へと変形させ、それをフルスイングで振り抜いた。

衝撃を吸収するように女が後ろに下がりながら耐える。

 

「法陣展開……!」

 

アシュレイの目の前に六つの小さな魔法陣が円形に現れ、シリンダーのように回転を始める。

 

「ぶち抜け!ガトリングレイジ!」

 

魔法陣一つ一つから高速で火炎弾が打ち出される。

 

「舐めるな!」

 

女はそれに対し、自分も魔法弾を高速連射して相殺する。

 

「収束……!」

 

それを見たアシュレイが六つの魔法陣を一つに束ねる。

 

「解放!」

 

一つになった魔法陣が爆発的に巨大化。

そこに渾身の掌打を打ち込む。

 

「ルビーブレイズ!」

 

先ほどとは比べものにならない大きさの火炎弾が発射され、女を飲み込んだ。

 

「…………」

「……はっ!」

 

黒煙を振り払いながら女が姿を表す。

倒すことは出来ていないが、結構なダメージは与えたようだ。

 

「チィ……やはりその姿はハッタリではないようだな……」

「返す物を返せば、今なら見逃してやらんこともない」

 

鎌を突き付けながらアシュレイがそう言うと、女が不意に笑い始めた。

 

「フッフッフ……これが私の本気だとでも思っているようだな……」

「悪いけど、そんなハッタリはわたし達には通用しないわ」

「この姿を見た後で同じ事がいつまで言えるかな?」

 

女が光に包まれる。

それ様子はネプテューヌが女神化する時に放つ光と全く同じだ。

 

「まさか……その姿は!?」

 

緑の髪に周囲に浮いた多数のユニット。

電源マークのようなものが見て取れる紫の目は明らかに女神のものだった。

 

「そうだ。貴様の女神の力を利用させてもらった!」

「いくら見た目が変わっても!」

 

ネプテューヌが偽グリーンハートに突撃する。

 

「ハァ!」

 

剣が振り下ろされる。

完全に捉えた。

 

「遅いな」

「なっ……!?」

 

残像のみを残して偽グリーンハートの姿が掻き消えた。

 

「ネプ公!」

「おっと危ない」

 

ネプテューヌの背後で槍を振り下ろそうとしていた偽グリーンハートにアシュレイが斬りかかる。

だがその一撃もあっさりとかわされ、あまつさえ首を掴まれてしまう。

 

「ぁぐ……!?」

「フン!」

「アッシュ!」

 

投げ飛ばされたアシュレイが地面を転がる。

 

「この……!」

「止まって見えるぞ!」

 

ネプテューヌが剣を振り切る前に偽グリーンハートの攻撃がネプテューヌを打つ。

アシュレイとは反対方向に吹き飛ばされ、地面に強かに体を打ち付けた。

 

「ねぷねぷ!大丈夫ですか!?」

「わたしは大丈夫よ……それよりアッシュが……!」

 

コンパがネプテューヌに駆け寄り、応急処置を施す。

 

「せやぁ!」

「はあぁ!」

 

ベールとアイエフが偽グリーンハートに攻撃を仕掛ける。

 

「シレットストーム!」

 

だがその攻撃が届くよりも先に偽グリーンハートの魔法が二人を吹き飛ばした。

 

「あいちゃん!ベールさん!」

「テメェ……何のつもりだ!?」

 

現在偽グリーンハートを挟んでアシュレイが他の四人から孤立しているような状態だ。

 

「なに、お前には苦汁を飲まされたからな。礼として最初に冥土に送ってやる……」

 

そう言って偽グリーンハートがパチンと指を弾く。

すると何処からともなく多数のモンスターが現れ、ネプテューヌ達を取り囲んだ。

 

「モンスター!?いったい何処から!?」

「わからない!けど、とにかく倒してアッシュを助けに行かないと!」

「この程度のモンスターでわたくし達を止められると思ったら大間違いですわ!」

「そう言うな、今回は特別な舞台を用意したのだ!」

 

偽グリーンハートが手にした槍を地面に突き立てる。

するとそこから禍々しい煙が噴き出し、一瞬にして辺りを包み込んだ。

 

「な、なんですかこれは!?」

「目くらましのつもり!?」

「フッフッフ……今に分かる……」

 

モンスターの一体に黒い光が集まり、体が黒く変色し、血管のような赤い模様が体に浮かぶ。

汚染化という現象だ。

変化はその一体だけではない。

一体が汚染化すると、その周りにいるモンスターも釣られるように体を黒く変色させていった。

 

「嘘でしょ……!?」

「汚染化モンスターでいっぱいですぅ!?」

「ハーハッハッハ!さぁ、暫くそいつらと遊んでいるが良い!」

「くっ……アッシュ……」

 

暗い視界の中でもアシュレイの姿だけはしっかりと捉えることができた。

 

「どうだ?仲間が苦しんでいる様を眺めている気分は?」

「……最悪……だ。舐めやがって……」

「悲しむことはない。お前を始末すれば、すぐにあいつらにも後を追わせてやろう」

「誰が……死ぬかよ……!」

 

アシュレイがゆっくりと剣を構え直した。

 

 

……………………

 

 

「……ああ!」

「ほらほら、さっきまでの威勢はどうした?」

 

アシュレイが懸命に剣を振るうが、偽グリーンハートには擦りもしない。

それもそのはず、アシュレイの動きは先程よりも段違いに鈍くなっていた。

 

「ぐ……」

「そぉら!」

 

まるで遊ぶように槍を振るう。

だがそれも避け切れないほどアシュレイは疲弊している。

長時間の戦闘を行えば、それは無理も無いものかもしれなかった。

 

「つまらん。まさか始める前からこの有様ではな!」

「が……!」

 

倒れ伏したアシュレイの背中を踏み躙る。

実は戦闘を始めてからまだ五分と経っていない。

それどころか対した攻撃も食らっていない。

だがそれでもアシュレイは既にボロボロだった。

 

「(くそ……力を入れれば入れるほど……体の不快感が増していく……なんでだ……?)」

「ふん、抵抗もしない奴を嬲っても何も面白くない……そうだ」

 

偽グリーンハートの顔が狂気に歪む。

 

「これからネプテューヌ達をお前の目の前で殺してやろう」

「な……!?テメェ……!」

「貴様は寝ていろ!」

 

立ち上がりかけたアシュレイの脇腹に蹴りがめり込んだ。

おもちゃのように地面を転がる。

 

「恨むのなら、自分の無力を恨むのだな」

 

偽グリーンハートが魔方陣を展開する。

矛先はネプテューヌ。

 

「やめ……ろ……!」

 

だがネプテューヌはモンスターの対処に追われ、こちらに気が付いていない。

 

「やめろ……!」

 

偽グリーンハートの腕が降り上がる。

 

「ヤ……メ……」

 

腕が、振り下ろさ

 

「ロォォォオオオオ!!」

「っ!?」

 

アシュレイの体から発生した衝撃波に飲まれた偽グリーンハートが吹き飛ばされる。

空中で体を捻り、墜落は阻止した。

 

「くそ……今回はなんだ!?」

 

以前男になったアシュレイにやられた記憶が蘇り、歯を噛みしめる。

アシュレイの周囲には黒い渦が出来上がっていた。

 

「ネプ子……これ!?」

 

一方その頃、ネプテューヌの側でも変化が確認できた。

 

「煙が……引いていってる!?」

「それだけではありませんわ!」

 

汚染化していたモンスターが次々に倒れていく。

そして倒れたモンスターから少量だが、例の煙が噴き出す。

するとどうだろうか。

煙を吐き出したモンスターが汚染化状態から元に戻ったのだ。

 

「モンスターさんが元に戻っていくです!?」

「よくわからないけど好都合よ!急いで倒すわよ!」

 

全員が邪魔になるモンスターを蹴散らしていく。

 

「高圧縮です!」

「カオスエッジ!」

「ティコフォトン!」

「デュエルエッジ!」

 

それぞれが周囲のモンスターにトドメを刺し、アシュレイの元へと急ぐ。

急ごうとした。

 

「なに……あれ……!?」

 

ネプテューヌ達の足が止まる。

それもそのはず。

アシュレイがいたはずの場所には真っ黒い繭のようなモノが出来上がっていたのだ。

 

「……っ!……ちょっとおばさん!アッシュにいったい何をしたの!?」

「黙れ!私が知るか!」

「はぁ!?」

「あの男……アンチエナジーを取り込んだのか?だとすれば……」

 

繭が蠢き始める。

 

「皆さん、構えてください。何が起こるかわかりませんわ!」

 

蠢く繭は割れることなく粘土のように形を変え、やがて一つの形で定着した。

 

「あれは……」

「人……?」

 

それはまさしく人の形だった。

強いて違う所を挙げるとすれば、その腕が目立つ。

直立しているにも関わらず、腕は地面に着くほど長く、肩から遠ざかるほど太くなっており、その大きな先端部分に酷く湾曲した巨大な爪のような物が刺さるように生えている。

まるでマネキンの肩に肉塊をぶら下げたような姿だ。

 

「もしかして……アッシュなの……!?」

「嘘でしょ……!?」

 

真っ黒いだけの頭部に黄色く光る丸い目玉が開く。

鉄を引き裂くような音と肉を千切るような音を同時に響かせながら獣が口を開き、

 

「オオオォォォオオ!!」

 

吠えた。

 

「オオオォォォ!」

 

獣が駆ける。

 

「チィ!」

 

偽グリーンハートが殺気を感じて回避運動を取った。

その一瞬後に獣が残像を突き抜ける。

 

「ゥゥゥウオオオ!」

 

地面を抉りながら獣が半ば無理矢理方向転換し、歪な腕で殴りかかる。

あり得ない筈のタイミングで放たれた攻撃を間一髪で避けた。

 

「アアアアァァァ!」

「ぐあぁ!?」

 

だがさらに勢いのまま反転して放たれた裏拳のような攻撃は回避しきれず偽グリーンハートを叩いた。

そのまま崖にめり込む。

 

「オオオ!」

 

獣の腕がゴムのように伸び、めり込んだ偽グリーンハートをその爪で崖を抉りながら掴み、そのまま空中でギリギリと締め始めた。

 

「ぐ……ふ……くそ……力が……抜ける……!」

 

偽グリーンハートの体から緑色の光の玉のような物が抜け出る。

それと同時に偽グリーンハートの変身も解けた。

 

「ベール様!あれって!」

「ええ、恐らくわたくしの力ですわ!」

 

ベールが目を閉じると、吐き出された光の玉がベールの体に吸い込まれていく。

玉を完全に取り込むと、ベールが目を見開いた。

 

「この力が漲る感じ……懐かしいですわ」

「ということは……!」

「ええ。後の問題は……」

 

そう言ってベールが獣を見据える。

女は変身を解いたが、それでも獣は握り潰す力を緩める気は無いようだ。

 

「アアアァ!」

 

不意に獣が腕を振り上げ、掴んだ女を地面に叩き落とす。

 

「くそ……これ以上は危険か……!」

「グガアァ!」

 

女がふらつきながらも立ち上がり、獣から離れようとするが、獣は逃がすつもりは無いようだ。

 

「ちょっとアッシュ!あんたなんでしょ!?もうやめなさい!」

「アッシュさん!返事をするです!」

「くっ……!」

 

見かねたネプテューヌが獣の背に近づく。

 

「アッシュ!もうやめて!相手に戦意は無いわ!」

「ル…………」

 

今にも追撃を加えようとしていた獣の動きが止まった。

 

「……よかった。止まってくれたわ」

「そうね……っ!ネプ子!後ろ!」

「え……」

 

アイエフ達の方を向いていたネプテューヌが振り返る。

そこにはネプテューヌ目掛けて巨大な腕を振り上げる獣が居た。

 

「キャア!」

 

ネプテューヌがギリギリで攻撃を回避する。

伸ばした腕による追撃も剣の腹で受け止めた。

 

「……仲間割れか?まぁいい……今のうちに下がらせて貰う……」

 

女がその場から去っていくが、獣は気にも留めていない。

 

「アッシュ……」

「気をつけてください!アレには敵味方の判別が出来ないようです!」

「オオオォォォオオ!」

「来るわよ!」

 

獣が真っ直ぐに走ってくる。

三人が後ろに下がるが、ネプテューヌは剣を下ろしたまま微動だにしない。

 

「バカネプ子!何してるの!」

「…………」

 

アシュレイがあの獣になってしまったことで放心状態になってしまっているのだ。

 

「ねぷねぷ!危ないです!」

「ネプテューヌ!」

 

獣の腕がネプテューヌに迫る。

肉の潰れる音が響いた。

 

「…………」

「……間一髪、間に合ったようですね」

「……え?」

 

ネプテューヌが不意に聞こえた声に顔を上げる。

そこには黒いスーツに白い髪の男が、展開した魔方陣で獣の腕を受け止めていた。

 

「昨日ぶりですね。ネプテューヌさん」

「あなた……グレイ!?」

「話は後です」

 

魔方陣から衝撃波が発生。

吹き飛ばされた獣が崖に激突し、岩雪崩に埋まる。

 

「ねぇグレイ、教えて!アッシュはどうなったの!?」

「後って言ってるじゃないですか……まぁ良いでしょう……」

 

岩雪崩から這い出ようとしている獣を見つめたままグレイが話を始めた。

 

「今の彼は大量の汚染物資を取り込み、暴走状態になっています。あの獣にアッシュくんの意思はありません」

「汚染物資?取り込むって……アッシュはいったい……」

「詳しいことはお伝え出来ませんが、今やることは一つです」

 

瓦礫を跳ね除けた獣が咆哮を上げながら立ち上がる。

 

「あの獣を止めることです」

 

それだけ言ってグレイが獣に歩みを進める。

 

「グルルルル……!」

「……聞こえていないでしょうが……あなたにはまだ私の本気を見せていませんでしたね」

 

突然グレイのスーツがドロリと蠢き、形を変える。

瞬く間にスーツが黒いフードとなった。

さらに多数の魔方陣を自分の周囲に展開する。

 

「さて、始めますか……」

 

被ったフードの下で、グレイがニヤリと笑った。

 

「オオオ!」

 

怒り狂う獣がグレイへ走る。

 

「おっと」

 

グレイが魔方陣の一つを動かし、獣の攻撃を防いだ。

 

「アアアアァァァ!」

「甘いですねぇ」

 

獣が凄まじい速度で拳の連打を叩き込むが、その全てを魔方陣を巧みに動かし受け止める。

 

「では……」

 

魔方陣の一つが獣の腹に張り付く。

 

「次はこちらの番ですよ!」

「アガァ!?」

 

魔方陣から真空の刃が溢れ出し、獣の腹を切り裂いた。

さらに獣の真下に潜り込んだ魔方陣が衝撃波で獣の体を宙に打ち上げる。

 

「イグニススフィア!」

 

さらに空中に浮いた獣の周りに大量の火炎弾が現れ、一斉に獣に迫る。

 

「グ……オオォァアアア!」

 

獣は空中で体を捻りながら腕を振り回し火炎弾を弾くが、防ぎきれなくなった弾が獣に張り付き、体を焦がす。

それどころか張り付いた弾は一つに集まり、より大きくなっていく。

数秒後には獣を飲み込み、巨大な火の玉となっていた。

 

「……エクスプロージョン!」

 

グレイが指を弾くと、火の玉が熱波を撒き散らしながら炸裂。

凄まじいダメージを負った獣がベシャリと地面に落下した。

 

「アア……ガ……」

「…………」

 

だがそれほどのダメージを負ってなお、獣が立ち上がる。

すると獣に変化が起きた。

 

「グ……ギガ……ガアア!」

 

メキメキと音を立てながら獣の欠損部位が回復していく。

それどころか頭からは角のような器官が生まれ、巨大な尻尾や翼のようなものも確認出来るようになった。

 

「……まずいですね」

「グレイ?どうしたの?」

「……彼は人としての限界を超えつつあります」

「どういう意味……?」

 

振り向かずにグレイが答える。

 

「このままでは、彼は死んでしまいます」

「……え……」

 

全員の顔に絶望感がありありと浮かび上がった。

 

「ちょっと……アッシュが死ぬってどういう意味よ!」

「このまま攻撃を続けても、彼はあの様に再生をしてしまいます。しかしそれは痛みを先送りにする行為です。許容量を超えた痛みはいずれアッシュくんに襲いかかり、それに耐えきれなかった場合……」

 

それ以上をグレイは言わないが、先に続く言葉はこの場にいる全員が知っている。

 

「何か……何か方法は無いの!?」

「…………」

「グレイ!」

「……賭けになりますが、聞きますか?」

「……教えてちょうだい!このまま何もしないで終わるなんて嫌!」

 

それを聞いてグレイが少しだけ笑った。

 

「ネプテューヌさん……あの獣があなたに襲いかかった時のことを思い出してください」

「わたしに?」

「あの時あの獣は、目の前にさっきまで標的にしていた人物か居たにも関わらず、それを無視してあなたに襲いかかりました」

「そういえば……不自然ね……」

 

そこでグレイがこれから言うことに何の根拠も無い、と前置きしてから話を続ける。

 

「恐らくあの獣はあなたの持つ女神の力を嫌っていると思われます。ならばそれをあの獣にぶつけることができれば……」

「アッシュを助けられる可能性があるってこと?」

「限りなくゼロに近いですが……ね」

 

くるりとグレイが振り返る。

 

「ベールさん。あなたも協力してくれますか?」

「ええ、当然ですわ」

 

そう言ってベールが光に包まれ、女神、グリーンハートへと変身する。

 

「これがベール様が女神化した姿……」

「ベール……ありがとう」

「そういうことは後にしてくださいまし。今は……」

「……ええ。わたしも……覚悟を決めたわ」

「アイエフさんとコンパさんは私の後ろに。お二人に何かあっては成功率にも響きますしね」

「わかりましたです!」

「ネプ子!わたしたちのことは気にせず思いっきりやりなさい!」

 

ネプテューヌが剣を。

ベールが槍を構える。

 

「アッシュ……目を覚まさせてあげるわ!」

 

「グ……ウゥ……!」

 

ネプテューヌとベールが前に出ると、明らかに獣の動きが鈍った。

 

「来ないのなら、こちらから行きますわ!」

 

ベールが獣へ突進し、槍を突く。

 

「ガアア!」

 

獣が槍を弾き、反撃を繰り出す。

 

「セイ!」

 

反撃の腕をネプテューヌが切り払う。

すると獣の切り裂かれた箇所から煙のような物が吹き出した。

 

「効果あり、ですわね!」

 

さらにベールが三段突きを打ち込む。

そこからも同様に煙が噴き出した。

 

「グアアアァ!」

 

痛がるような素振りを見せながら獣が尾を薙ぎ払う。

それをネプテューヌは飛んで回避し、ベールは後ろに下がる。

 

「はあぁ!」

 

ネプテューヌが獣に連続攻撃を繰り出す。

 

「オオオ……!」

 

ネプテューヌの攻撃を獣が防御するが、強烈な連撃に耐えきれず防御に隙ができた。

 

「クロス!」

 

胴に一閃。

獣の体が浮き上がった。

 

「コンビネーション!」

 

ネプテューヌも飛び上がり、トドメの一撃を加える。

が……。

 

「なっ……!?」

 

獣はその翼で空中で体制を整え、あろうことかネプテューヌの剣を片手で白刃取りしたのだ。

そのままもう片方の腕でネプテューヌを掴み、地上のベール目掛けて投げつける。

 

「キャア!?」

「うあ!?」

 

ベールは突然の出来事に避けることも受け止めることも出来ず、そのまま衝突してもつれ合いながら地面に転がった。

 

「バアアァァア!」

 

さらに獣が口から黒い火炎弾を身動きの取れないネプテューヌ達目掛けて吐き出した。

ネプテューヌ達に命中したそれは同じ色の火柱を立てる。

 

「ねぷねぷ!?」

「ベール様!」

 

黒煙の中から火傷を負ったネプテューヌとベールが出てきた。

 

「……ベール。大丈夫?」

「当然ですわ……」

 

致命傷には至っていないが、足がふらついている。

 

「身の安全を省みない分、長期戦はこちらが不利ですわ」

「ええ……次の一撃に、わたしの全てを込めるわ!」

 

獣が咆哮を上げ、空中からネプテューヌ達に向かって猛進してくる。

 

「セイヤァ!」

「はぁぁあ!」

 

剣と槍が同時に振るわれ、空中の獣を地面に打ち落とす。

背中を削りながらも獣が尾で地面を叩き、その勢いで回転して体制を整える。

 

「さぁ、行きますわよ!ネプテューヌ!」

 

ベールが三つの魔方陣を後方に展開。

 

「任せて!ベール!」

 

さらにネプテューヌが獣の上空に巨大なエネルギーの剣を召喚する。

 

「これで!」

 

ベールの魔方陣から巨大な槍が現れ、獣に向けて高速で打ち出された。

 

「ルルルァ!」

 

獣は打ち出された槍を両腕と口で受け止める。

 

「トドメよ!」

 

そこにネプテューヌの剣が降り注ぐ。

 

「グガガ……!」

 

獣は上からの攻撃を翼を盾の様に広げ、それ以上の落下を妨げる。

 

「はあぁぁぁ!」

「あああぁぁあ!」

「ギグ……ギ……!」

 

だが二方向からの攻撃に獣の限界が来た。

防ぐことが出来なくなった二人の攻撃が獣を貫き、辺りを閃光が包んだ。

 

「……っはぁ、はぁ……もうダメ……限界……」

「流石に……疲れますわね……」

 

ネプテューヌとベールが女神化が体力切れで解除され、そのままその場にへたり込む。

 

「グ……」

 

そこに聞きたくない声が聞こえてきた。

 

「ガ……ア……グ……」

「……まさかあれだけの攻撃を受けて、まだ立っていられるなんて……」

 

砂煙の中にはあの獣が立っていた。

尾は千切れ、翼は根本を残すのみ。

角も片方が折れ、全身から黒い煙を吹いているが、それでも獣はそこに存在していた。

 

「……時間切れです」

「グレイ?」

 

悲しげな目をしたグレイがネプテューヌの肩を叩く。

 

「……アレはもう放って置くだけでも自壊を始めます。残念ですが、賭けは失敗です」

「そんな……」

「とは言っても、もう暴れないとは限りません。すぐにでもここから……」

「……嫌だ……」

「ねぷねぷ?」

 

ネプテューヌが立ち上がり、獣へと走り始めた。

 

「ちょっとネプ子!危険よ!戻りなさい!」

 

アイエフの静止も聞かず、ネプテューヌが獣の前に立ち塞がる。

 

「ねぇ、アッシュ!わたしだよ!ネプテューヌ!わかるでしょ!?」

「ア……アアガ……アアァ!」

「アッシュ!」

 

ネプテューヌが暴れようとする獣を抱き締めた。

 

「アッシュ……お願い……目を覚まして……!」

「……ア……」

 

獣の動きが一瞬止まる。

 

「ア!アアア!アアアァァアア!」

「ねぷっ!」

 

獣に突き飛ばされ、ネプテューヌがその場に尻餅を突いた。

 

「ガアアアァァアア!アアアアアアアア!!」

 

突然もがき苦しみ始めた獣から大量の煙が噴き出す。

煙の勢いが弱まると、獣の動きも次第に鈍っていった。

 

「ア……あ……」

「……アッシュ!」

 

膝から前のめりに崩れ落ちる獣をネプテューヌが支える。

黒い体が揮発性を持った物質のように空気に溶けていき、後には見慣れた姿が残った。

 

「……ああ?……俺……どうなったんだ……?」

「……アッシュ!」

「いって……ネプ公……?」

 

ネプテューヌのことをネプ公と呼ぶその人物は、紛れも無くアシュレイだった。

 

「アッシュ!」

「アッシュさん!わたし達がわかるですか!?」

「……コンパに……アイエフ?……お前ら……」

「バカアッシュ!心配したじゃない!」

「……ギリギリ、なんとかなったようですわね」

「……アッシュくん」

「グレイさん……なんでここに?」

 

アシュレイの質問にグレイは静かに首を振る。

 

「今は、休んでください。お願いではありません。警告です」

「…………」

「……アッシュ」

「悪い、ネプ公……このまま……寝かせて……く……」

「アッシュ?……アッシュ!」

 

アシュレイの意識はその言葉を最後に途切れた。

 





はい、アッシュ君が大暴走な第11話でした。
これでアッシュ君の設定は半分くらい公開になりましたかね。
細かい話はまた今度。
次回はもう一度番外編を挟みます。
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