超次元ゲイムネプテューヌ:リバース・リ・バース 作:ひきがねコート@pixiv名アスラ
トンネルを抜けると、そこは雪国だった。
そんなフレーズが自然と口に出るほど真っ白い道をネプテューヌ一行は歩いていた。
「あ、あいぢゃん……ざ、ざぶいですぅ……」
「はい、カイロ」
始めてのルウィーの寒さに縮こまるコンパにアイエフがカイロを手渡す。
「ネプ子も使う?」
そう言いながらアイエフが振り返る。
「わーい!雪だー!凄いよあいちゃん!息が白くなるよ!」
が、当の本人は見慣れない雪に大はしゃぎで微塵も寒そうな素振りは見せていなかった。
「雪ごときでよくあれだけ喜べるな……」
「まったく……あ、アッシュはいる?」
「いらねーよ。むしろ今日はいつもより暖かいくらいだしな」
「そう。ベール様はどうですか?」
「ありがたくいただきますわ」
順番に聞いて回り、最後になぜか眼鏡をかけているベールに振る。
どうやら眼鏡は変装のつもりらしい。
ベールはあのリーンボックスでの一件の後、自国での溜まっていた仕事を片付け、ネプテューヌ一行に合流。
これからは一緒に旅に同行してくれる事になったのだ。
と言っても、仕事は部下にほとんど丸投げしたようだが。
「では……えいっ!」
カイロを手渡そうとしたアイエフに突然ベールが抱き着く。
「って何抱きついてるんですかベール様!?」
「だってカイロよりあいちゃんの方が暖かそうなんですもの」
「ひ、人前で恥ずかしいですから離れて下さい!カイロあげますから!」
突然ピンク色の空気を醸し出し始めた二人を少し離れたところでアシュレイ達が見ていた。
「何やってんだか……」
「これを乗せたら……よーし!完成!」
「……で、お前はお前で何してるんだよ」
アシュレイが振り向いた先には自分の身長を越える程の大きさの雪だるまを作り終えたネプテューヌが満足そうな顔をして立っていた。
「お前あの短時間でこれ作ったのか?」
「そうだよ!どやぁ!」
「……一周回って呆れる」
「さて、雪も堪能したし、あっちの二人は放っておいて教会に行こうか」
「そうだな」
再び教会へ向けて歩き出す。
するとアシュレイの後ろを着いてきていたコンパが雪に躓いた。
「ひゃあ!?」
「うおっと!?」
前のめりに倒れたコンパがアシュレイの腰にしがみつく。
急な重圧にアシュレイがよろめくが、その場で踏ん張りドミノ倒しになることだけは阻止する。
「コンパ、大丈夫か?」
「ご、こめんなさいです……」
謝りながらコンパが立ち上がる。
だがなぜかアシュレイの腰に回した手は外さない。
「コンパ?」
「アッシュさん、あったかいですぅ……」
「は?」
「へぇー。どれどれ……」
「おい、なんでお前まで……」
さらに今度は右腕にネプテューヌが張り付く。
「おお!ほんとだ!湯たんぽみたーい!」
「はぁ?」
「……三人とも何してるのよ」
ようやっとベールから解放されたアイエフがアシュレイ達に追いついたが、その異様な光景に呆れを隠せない。
「あいちゃんあいちゃん!アッシュが凄いんだよ!でっかいカイロみたい!」
「ふーん……」
アイエフが興味本位で空いていたアシュレイの左手を握る。
「……本当、凄い熱いわね。アッシュ、熱とかない?」
「……あったらもっと前から言ってる」
「もしかしなくても、これもあんたの力ってやつじゃないの?」
「アッシュさんの力と言うと、前にお聞きした?」
アイエフの頭越しにベールが会話に割り込んだ。
「たしか細胞変異だったっけ?」
「……俺の力……か」
アシュレイの脳裏にその記憶が蘇った。
それはリーンボックスでの一件の後、アシュレイが目覚めた直後まで遡る。
獣と化したアシュレイは全身ボロボロでまともに立つことすら出来ず、ベッドに寝かされていた。
「……お待たせしました」
ベールを含めたネプテューヌ達が集まっている部屋にグレイが入る。
「それで、大事な話って?」
「ええ。アッシュくんの体について、私なりに考えた結果をお話しようと思いまして」
「俺の……体?」
アシュレイがベッドに寝たまま首だけを動かして疑問を投げかけると、グレイが静かに頷いた。
「まずお伝えしなければならないことがあります」
「なんですか?」
「アッシュくんの体……と言うより細胞と言った方がいいでしょう。その細胞はもはや人間とはかけ離れたものになっています」
「……まぁ、あんなことが出来る時点でそんな気はしてましたけどね」
グレイ曰く、使えなかった筈の魔法の使用、男への変身、異形への変異などはアシュレイの細胞そのものが根本から変化したと仮定すれば全て辻褄が合うらしいのだ。
「そうなった原因に心当たりはありますか?」
「……モンスターに喰われた、ぐらいですかね」
「……ふむ。ではそのモンスターの影響でその力を手に入れた……と言うのが自然ですかね」
「あのモンスター……俺をこんな体にして何がしたかったんですか?」
「……さあ?」
「さあって……」
「私達には理解出来ない何かがある……としか言えませんね」
グレイの言葉にアシュレイは顔を顰めるばかりである。
「ところで、アッシュってまたあんなのになったりするの?」
ネプテューヌのあんなの、とは先日の獣のことだ。
「いえ、あれは外的要因が作用した結果です。自然にあの姿になることはありませんよ」
「よかったぁー。またアッシュと戦うことになるのは嫌だしね」
もう獣が出てくることはないと聞き、ネプテューヌの顔に安堵が浮かぶ。
「アッシュくんの力……今は便宜上、細胞変異と呼びましょうか」
「細胞変異……」
「端的に言えば、その場その場の状況に合わせて体を自由に変化……いえ、進化させることができる力ですね」
「なるほど。だからアッシュは自由に男に戻ったり腕を変形させることができるってわけね」
「全てはアッシュくんの意思のまま、です」
聞けば凄い事だが、その力のせいで今回のようなことが起こってしまったのだ。
アシュレイは素直に喜べない。
「グレイさん、コンベルサシオンがわたくしの姿の時に撒いた煙は何か分かりますか?」
「あの時コンベルサシオンが撒いた黒い煙は汚染物質と言い、人々の負の感情が粒子化したものです」
「もしかして、モンスターが汚染化したのもそれが原因?」
アイエフの言葉にグレイが頷く。
「だからモンスターさん達がみんな汚染化したですね」
「そして、アッシュくんの細胞は汚染物質に強く反応する性質があるようです」
「もしかして、アッシュがあんな姿になったのも……」
「あの異常な密度の汚染物質が原因ですね。汚染物質は空気中に微量ながら含まれていますが、モンスターは汚染物質を集める性質があるので、あの様な異常濃度地帯やモンスターの密集地では注意が必要です」
「不意に来る頭痛はそれが原因か……」
アシュレイはあの獣になる前に感じた不快感はそれより以前にも感じたことがあった。
ラステイションで工場に閉じ込められた時、変身をしようとした直後、突然の頭痛に苦しめられた。
グレイの話を聞いた後ならあの頭痛も頷ける。
「では、最後にこれを」
「これって!?」
「それを探しにリーンボックスまで来たのでしょう?」
グレイが取り出したそれは紛れもなく鍵の欠片だった。
「やったー!これで二つ目だー!」
「どこで見つけたの?あれだけ探しても見つからなかったのに」
「コンベルサシオンが逃げる際に落として行ったんですよ」
「道理で見つからないはずです……」
「ですが、おそらく宿っていたであろう魔力は既に失われているようですね」
「ということは……今回はいーすんタイムは無しかぁ……」
「ともあれ、これで二つ目だ。残り半分……だな」
こうして鍵の欠片を手に入れ、リーンボックスでの目的を果たしたネプテューヌ達は一旦プラネテューヌに戻り、そして現在、コンベルサシオンがルウィーに入るところを見たという情報を入手し、教会に急いでいるところなのだ。
「こんにちはー。ホワイトハート様いますかー?」
雪道をカイロや人肌で凌ぎ、ネプテューヌ達はようやっとルウィー教会にたどり着いた。
「ところで、いきなりルウィーの教会に来てよかったのかしら?」
「どういうことですか?」
「コンベルサシオンがルウィー教会の回し者なら、ある意味ここは敵の本陣ですわ。そんな本陣の中に入っても捕まったりしないのかしら」
今のところ、コンベルサシオンとルウィー教会が繋がっている線はかなり濃厚だ。
だとすれば、その大将がいる場所へ正面から作戦もなしに乗り込むネプテューヌ達は飛んで火に入る夏の虫も良いところである。
「……そう言われると今までのノリで教会に来たけど、凄い逃げ出したい気分です」
「どの道、ここでの俺たちの立場を知った方がいい。これからどう動くのが正解かわからないしな」
「はいったからにはしょうがないです。とりあえず、ホワイトハート様に会って鍵の欠片とコンドルさんのことを聞くです」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、か……あと、コンドルじゃなくてコンベルだからね」
なんてことを話していると、奥からメイド服姿の少女が出てきた。
「ルウィー教会へようこそ。ホワイトハート様との面会をご希望ですか?」
一瞬ただの一般人かとも思ったが、セリフを聞く限りどうやらこのルウィー教会の職員のようだ。
「はいです。聞きたいことがたくさんあるです」
「わたしの名前はフィナンシェ。ホワイトハート様の侍従をさせていただいております」
「わざわざ女神サマの侍従がお出迎えか。人員不足なのか?」
皮肉めいたアシュレイの言葉だが、それもその筈。
他の教会では忙しなく歩き回っていた職員が殆ど目につかない。
「他の職員はみんな別の仕事に当たってまして……外は寒かったですよね、お待ちの間に温かいものを用意しますね」
「あ、わたしじっくりコトコト煮込んだプリン(ホット)で!」
「わたしはお砂糖たっぷりのココアがいいです」
「わたしはミルクティーで」
「わたくしにもあいちゃんと同じ物をくださいな。あ、茶葉はダージリンピュアブレンドでお願いしますわ」
「な、何贅沢言ってるんですかこの人たちは……」
「別に無視して構わない……全員後で説教だ」
……………………
しばらく備え付けられたソファで待っていると、再びフィナンシェが現れた。
「お待たせしました。面会の準備が整いましたので、ホワイトハート様の元へご案内いたします。わたしについて来てください」
「はいはーい!了解!」
ソファから立ち上がり、フィナンシェの後をついていくと、間も無くいかにもな大きな扉の前にたどり着いた。
その扉をフィナンシェが三度ノックする。
「ホワイトハート様、旅の方をお連れしました」
「……入ってもらって」
扉の向こうから消えいるような小さな声が聞こえて来た。
フィナンシェはそれを聞き逃すことなく、扉を開ける。
そこには白い帽子を被った少女が自身の大きさとは正反対の巨大な椅子に座っていた。
「はじめまして、ホワイトハート様。わたし、ネプテューヌ!で、こっちのが……」
「自己紹介はいいわ」
ネプテューヌが挨拶し、続けて全員の紹介を始めようとするが、ホワイトハートはそれを遮った。
「あなたたちのことなら、よく知っているもの」
「あれ?もしかしてわたしたちって有名人?」
「……ちなみに、どういう意味で有名なんだ?」
アシュレイがこんな質問をした理由など一つしかない。
「もちろん、魔王崇拝者……ユニミテスの使いとしてよ」
ホワイトハートが指を弾く。
その直後、多数の兵士が背後の扉から湧き出し、出口を塞いだ。
「まさか!?」
「ここでもですか!?」
「さぁ、異教徒……いえ、邪教徒を囚らえるのよ」
「んなこったろうと思ったよ……」
どうやら教会内に人が少なかった理由は、ユニミテスの使いの濡れ衣を着せられたネプテューヌ達を捕まえるため、別室で待機していたかららしい。
「こいつらがユニミテスの使いか……」
「子供ばかりじゃないか」
「見た目に騙されるな。遠慮はいらない」
「まるで袋のネズミね」
「ブラン……あなた正気なの?」
ベールがホワイトハート改め、ブランを見据える。
「正気よ。この機会に、あなたも始末してあげるわ」
「あらあら、せっかくの変装が見破られてしまいましたわね」
「……変装、ね」
「はじめからバレバレだよねー」
「そ、それよりもどうすればいいですか……?」
「さすがに、ここで戦うのは得策ではないわ」
そんなことを言っている間にも兵士達はジリジリと距離を詰めてくる。
「……アイエフ」
「わかってるわよ」
直後、アシュレイがホルダーからナイフを引き抜き、ブランに向かって投げつけた。
「っ……」
ブランはそれを命中する直前で受け止める。
当たりはしなかったが、周りの目を引き付けるならこれで十分だ。
「みんな!わたしについて来て!」
「あいちゃん!?そっちはステンドグラスです!」
「ということはまさか……!?」
「そのまさかよ!」
アイエフは躊躇なくステンドグラスを蹴破った。
冷たい空気が一気に流れ込んでくる。
「なっ!?」
「もうこうなりゃやけくそだー!」
「ま、待ってくださいですー!」
「一度でいいから、ガラスを割って脱走したかったんですのよね。それ!」
「あばよマヌケ共!」
全員が割れたステンドグラスの穴から飛び出し、脱兎の如く駆け出した。
「まさかあんなところから逃げるなんて……追って。何が何でも捕まえなさい」
「はっ!」
兵士達もその穴を通り、ネプテューヌ達を追いかけていく。
「……さて、わたしも追いかけましょうかね。彼らよりも先に追いつければ良いのですが……」
それを部屋の隅で見ていたフィナンシェは兵士達が向かった先とは少し違う方向へ走っていった。
……………………
「はぁ……こ、ここまでくればもう大丈夫かな?」
「いえ、きっと追いつかれるのも時間の問題よ。この街道は街に続いているはずだから、一先ずそこを目指しましょ」
ネプテューヌ達が街道をひた走る。
降り積もった雪はこちらの足音を消してくれたようで、追手を引き離すことに成功した。
だが雪が消すのはこちらの音だけではない。
ネプテューヌ達はいつどこから来るともわからない追手に怯えながら逃げ続けることしか出来なかった。
「うぅ……さぶいよぉ……鼻水が凍るぅ……」
「あいちゃん……街はまだですか?わたし……眠くなってきたです……」
「きっともう少しだから我慢しなさい」
逃げ続けるというプレッシャーと雪国の寒さ。
そして足を捕らえる雪がネプテューヌ達の体力を確実に奪っていった。
「……けど、困りましたわね。教会がわたくし達を敵視している以上、別に協力者を見つけなければいけませんわね」
「リーンボックスではベール様が協力してくれたからなんとかなったものの、この状況は詰んでるわね」
「なら、先に協力者を探した方がよさそうですわね」
「問題は協力してくれる奴がいるかどうか……だな」
まだ体力に余裕のある三人が今後のことについて相談をするが、あまり希望は見られないようだ。
「はぁ……やっぱ、すんなり鍵の欠片は見つからないかー」
「でも、一つだけはっきりしたことがわかりましたわ」
「ねぷ?何がわかったの?」
「姿は見せませんでしたが、コンベルサシオンのバックにいるのはルウィー教会ですわ」
「でなければ、わたしたちをユニミテスの使いになんて仕立てないわ」
今回の件でコンベルサシオンとルウィー教会の繋がりは疑惑から確信に変わった。
「けど、わかったからといってわたし達はこれからどうすればいいの?」
「協力者を探しましょ。何も女神様や教会だけが協力してくれるわけじゃないわ」
「まぁ、教会が役立たずなのは今に始まったことじゃないがな」
「なら、早く街に行って協力者を見つけて、お部屋で温まらせてもらうです」
「……残念ですが、そう簡単にはいかないみたいですわ」
そう言ってベールが睨んだ先には既にこちらを発見したらしい教会の関係者が立っていた。
「いたぞ!森の中だ!」
「見つかったですぅ……」
幸い数はそれほど多くない。
ならばやることは一つだ。
「さぁ、神妙にお縄につけ!」
「えー、寒いし縄って食い込んで痛そうだから、わたし的には遠慮したいかなー」
「ふん、逆に縛って木に吊るしてやるよ」
「この期に及んでふざけたことを……!」
「お、やるっての!?」
「貴様らの相手をするのは我々ではない!行け、ドラゴン!君に決めた!」
するとその教会関係者は懐からディスクを取り出し、さらにそこから巨大なドラゴンを呼び出した。
「あれって、エネミーディスクです!?」
「なるほど、やっぱそれの出処はルウィーだったわけね」
「だったら、本気を出すです!ねぷねぷ!」
「ラジャー!」
ネプテューヌが光に包まれ、女神の姿となる。
「な!?変身しただと!?」
うろたえる教会関係者をよそに、ベールがアイエフをじっと見つめる。
「……あ、あの、なんですかその期待のこもった眼差しは」
「もちろん、あいちゃんが変身命令をくれるのを待っているのですわ」
どうやらベールもコンパとネプテューヌのやりとりのようなことがしたいらしい。
「さあ、あいちゃん。わたくしに指示を……」
「え、えと……今はふざけてる場合じゃ……」
「さあ、あいちゃん!」
「あーもうヤケよ!ベール様、お願いします!」
「その言葉、待っていましたわ!」
ベールがネプテューヌ同様に光を纏い、女神化を行う。
「こちらも、本気でお相手をして差し上げますわ」
「もう一人変身した!?」
「いくら変身して見た目が変わろうが関係ない!ユニミテスの使いよ!俺たちのスーパーパワーを受けてみるがいい!ウーッ!ハーッ!」
「御託は……」
黒い炎に上がり、そこから男になったアシュレイが飛び出す。
「いらねぇ!」
そのままドラゴンの顎を蹴り飛ばし、
よろめいたドラゴンが地面に倒れ伏た。
「ああ!?」
「強さを口で説明する前に殴るべきだったな」
「くそ!立て!ドラゴン!」
倒れたドラゴンがゆっくりと立ち上がる。
怒りのこもった眼でネプテューヌ達を見据え、吠えた。
「フン!」
振り下ろされたドラゴンの腕をアシュレイが魔方陣で受け止める。
「ヤァ!」
「せい!」
その隙にネプテューヌとベールが攻撃を加える。
「ガアアァ!」
「ぐっ……」
ドラゴンがとんぼ返りと同時に尻尾で攻撃を行い、ネプテューヌ達はそれをなんとか受け止めた。
先ほどからこうして攻撃の僅かな隙をついて攻撃をしているが、決定打を打てずにいた。
「流石に……強いですわね」
「こんだけ騒げば他の追手がこっちに気付くのも時間の問題だ。一気に仕留めたいところだが……」
アシュレイがドラゴンを睨む。
ネプテューヌ達が攻撃を加えたにも関わらず、やはりダメージを受けた様子はない。
硬い鱗と分厚い筋肉が刃を通さないのだ。
かといって、大技を叩き込むような隙は無いに等しい。
どうしたものかと考えていると、ネプテューヌが不意に口を開いた。
「アッシュ、ベール。暫くあいつを引きつけてくれないかしら」
「はぁ?」
「わたしに良い考えがあるの」
「……信用ならねぇ……」
「わたくしはどちらでも……いかがいたします?」
「……1分だ」
「ありがとう」
直後、ドラゴンが爪で地面を抉り、雪混じりの瓦礫を投げつけてくる。
それを合図に三人が散開。
アシュレイは前進しながら瓦礫を掻い潜り、すぐさま跳ぶ。
「ほらこっちだ!」
そしてドラゴンの頭を踏みつけ、背後へと着地。
「グオォォオ!」
振り返りざまの攻撃を転がって避ける。
薙ぎ払いを剣で受け流し、叩きつけをバックステップで回避。
時に下がり、不意に詰め寄ることで的を絞らせないように集中する。
だが目の前で飛び回る羽虫をいつまでも仕留められないドラゴンではない。
「ちぃ……!」
巨大な腕から放たれる風圧を伴った一撃にアシュレイの体制が崩れる。
「わたくしを忘れては困りますわ!」
そうするとベールが文字通り横槍をドラゴンの腕に打ち込み、攻撃を逸らした。
「悪いな」
「当然のことをしたまでですわ」
「ネプ公!まだか!」
「準備できたわ!二人とも下がって!」
上空から聞こえたネプテューヌの声にベールがアシュレイを抱きかかえ離脱する。
「せえぇやぁ!」
ネプテューヌの掛け声の一瞬後、雪崩かと勘違いするほどの雪がドラゴンを埋め尽くした。
「……驚きましたわ。どうやってこんな大量の雪を?」
「まさかわたしの雪だるま作りのスキルがこんなところで役に立つとは思わなかったわ」
「何にせよお手柄だ、ネプ公」
「もっと褒めてくれても良いのよ」
「それは断る」
直後、雪を跳ね除けながらドラゴンが立ち上がる。
だが天然の雪の氷室の寒さはかなり堪えたようで動きがかなり鈍っていた。
「では、トドメはわたくしが!」
ベールが練り上げた魔力を槍に宿し、ドラゴンを貫く。
するとドラゴンの真下に魔方陣が出現し、竜巻と共にドラゴンの体躯が空中へと打ち上がった。
「わたくしの究極槍技……その身でとくと味わいなさい!」
さらにドラゴンを連続で貫きながら上空へと登っていく。
竜巻が止むと同時にベールがドラゴンの真上で槍を構え直す。
「これで……トドメですわ!」
ベールが槍を真下へ投げる。
突き立った槍はそのまま地面の魔方陣へとドラゴンを縫い付け、直後に魔方陣から吹き出した風の刃がドラゴンを切り裂き、跡形も無く消滅させた。
「ふぅ……アッシュさん、そっちはどうなりましたか?」
「この通りだ」
「燃え尽きたぜ……真っ白にな……」
アシュレイがくいと親指で指した先には縄でグルグル巻きにされ、蓑虫のように気にぶら下げられた教会職員が居た。
アシュレイの左手には真っ二つになったエネミーディスクが握られている。
「アイエフ!」
「はいはい。すっかり斥候役が板に付いちゃったわね……」
アシュレイの声に戦闘中居なかったアイエフがひょっこり顔を出した。
「すぐ近くに敵はいないわ。けど、これだけ派手に暴れれば間違いなく誰かが気付いてると思うし、早めに移動した方が良いわね」
「だそうだ。行くぞ」
「えー……わたしもう疲れたよー。アッシュおぶって!」
「わがまま言っちゃだめですよ。ねぷねぷ」
少し考える。
「俺の顔に触れたら考えてやる」
「ホント!?」
「やすやすと触らせはしないがなっと!」
「ねぷ!?逃げるのってアリ!?待てー!」
「ねぷねぷ!?待ってくださいですー!」
アシュレイ達は再び走り出した。
……………………
「もう……走れないですぅ……」
「さて、これからどうするか……」
道なき道を走り続けること数分。
木の影からアシュレイが様子を伺う。
「1、2、3……軽く8人はいるか……」
「多勢に無勢。もう逃げ場がないわね……」
雪道を走り、スタミナを使い切ったコンパを休ませる為に森に隠れたが、その僅かな時間に追っ手との距離を詰められ辺りを囲まれてしまった。
ここがバレるのも時間の問題だろう。
「まさに八方塞がりですわね」
「もう強行突破しか無いんじゃない?」
「下手に突っ込んでも状況が悪くなるだけだ」
とアシュレイは言ったが、このまま何もしないというのは最も愚かな選択だ。
意を決し、木に手を掛けた時だった。
「困っているみたいだね」
アシュレイが反射的に動く。
「……辺りの奴らと随分雰囲気が違うが……誰だ?」
「わたしはサイバーコネクトツー。ある人から君たちの道案内を頼まれてきたんだ」
サイバーコネクトツーと名乗った少女はにっこりとそう返事を返す。
アシュレイに右腕を掴まれ、喉にナイフを突きつけられているにも関わらず、だ。
「……あなたがルウィー教会の手先じゃない証拠は?」
「証拠か……こればっかりは、君たちに信じてもらうしかないね」
下手な返答をすれば殺されるかもしれない状況でサイバーコネクトツーはあっさりとそう言い放つ。
「あいちゃん、アッシュさん。ここはサイバーコネクトツーさんを信じるです。悪い人が堂々とわたしたちの前に出てくるわけないですよ」
「それに、こんなもふもふの尻尾や耳生やしてる人に悪い人なんていないよ!」
「……お前の判断基準がわからん」
「あはははっ。相変わらずネプテューヌさんはこっちの世界でも面白いね」
「……はぁ……」
深い溜め息を吐き出したアシュレイがサイバーコネクトツーを解放する。
「わたしの事、信じてくれるかな?」
「いいとも、とはいかない。あくまで今後の返答次第だ」
ナイフを持ち直し、それの切っ先を向け直す。
「返答って?」
「MAGES.って奴は知ってるか?」
「……なるほど。うん、もちろん知ってるよ」
「……そうか」
アシュレイがナイフを手の中で回し、ホルダーに仕舞った。
「案内してくれるらしいな。連れていけ」
「分かった。わたしについて来て」
そう言ってサイバーコネクトツーが走り出す。
事前に嘘の情報を流していたのだろう。
先導されるまま走る道には敵の足跡すら見つけることができなかった。
「さ、君たちを待っている人はこの先だよ」
「サイバーコネクトツーちゃんは一緒に来ないの?」
「まだ追っ手をまいたとは限らないからね。街に帰るついでにもう少し撹乱してくるよ」
「何から何まで悪いわね。気をつけて」
「うん。それじゃ!」
言い終わるより先にサイバーコネクトツーは来た道をこちらに手を振りながら戻って行った。
「お久しぶりです、みなさん」
「……今度はお前か……」
道を先に進もうと振り返った目の前には遠くない昔に見た顔が立っていた。
「あなたは確かブランの……」
「はい、ブラン様の侍従のフィナンシェです」
「まさか、騙されましたの……!?」
「落ち着けベール。で、なんでお前がここにいるんだ?」
「もちろん、みなさんを教会から逃がすためです。サイバーコネクトツーさんに協力を仰いだのもわたしです」
「……にわかに信じられない話ですわね」
ベールが不信感を募らせるのも無理は無い。
フィナンシェはルウィーの女神であるブランの側近も側近。
第三者のサイバーコネクトツーはともかく、教会と密接に繋がっているであろう彼女を信じるなんていうのは無理というものだ。
「時間がありません。わたしについてきてください……もし、わたしがあなたたちを騙すような真似をしたのであれば、その時は斬っていただいてかまいません」
「…………」
フィナンシェの言葉に全員が固まる。
暫くの沈黙を破ったのはアシュレイだった。
「……分かった」
「アッシュさん……」
「アッシュ……あんた本気なの?」
「『行くも地獄、行かぬも地獄。だったら行って死ねばいい』。意味は言わなくても分かるだろ?」
「だからって……」
「それに……」
アシュレイが素早く背中の剣を引き抜き、SSSを稼働させる。
「騙したってんなら、こいつの首を刎ねるだけだ……そうだろ?」
フィナンシェの首には大鎌の白い刃が蛇のように巻きついていた。
「ねぇ、なんか訳ありっぽいしさ、信じてあげようよ」
「ねぷねぷの言う通りです。疑う前に信じてあげるです」
「……はぁ。まったくあなたたちときたら、とんだお人好しですわね」
「決まりだ」
アシュレイが鎌を剣に戻し、背中に背負う。
するとフィナンシェが突然その場に座り込んだ。
「……どうした?」
「す、すみません……腰が抜けちゃいました……」
「…………」
「あー、アッシュいけないんだー」
「まぁ、あんなの突きつけられて平然としてる方がおかしいわね」
「これは、殿方として責任を取らなければいけませんわね」
「アッシュさん。頑張るです!」
「…………」
重苦しい空気を雪国の冷たい風が流していった。
はい、四カ国最後の国であるルウィー編入った第12話でした。
今回は冒頭でアッシュ君の能力の正式名称がようやっと明かされました。
何故こんな力を得てしまったのかはまた後ほど。
原作の内容的にも薄味なルウィー編ですが、なるべく退屈しないように当時は色々と考えていました。
引き続き楽しんで頂ければと思います。