超次元ゲイムネプテューヌ:リバース・リ・バース 作:ひきがねコート@pixiv名アスラ
「あー……もうだめ……疲れた……」
「のっけからノワールさんが怠け者になっている件……」
ここはラステイションのホテル。
ベッドの上では疲れ切ったノワールがぐったりしていた。
理由は簡単。
「博覧会の一件から今日までずっと働き詰めだったんだから仕方ないでしょ……」
と、いうわけだ。
怪我人の救護、建物の改修、アヴニール分社及びその工場の解体。
ついでにモンスターに関するトラブルの解決を含めた書類と顔を付き合わせては現地に赴き、帰ればまた書類とにらめっこ。
そんな生活が一週間も続けばこうなるのも頷ける。
「けど良かったじゃん。あの事件のおかげで復権できたんだからさ」
「ようやく元通りって訳だな」
「その件に関しては感謝してるわ。ヒロムもありがとう」
「あれくらいなら朝飯前だって」
あの一件からノワールのサポートについていたヒロムが肩を竦めた。
サポートとは言うが、モンスター討伐系のクエストはほぼ全てヒロム一人がこなしていた。
「……ノワール、体は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。何回も言ってるじゃない」
アシュレイがこう聞くのには意味がある。
あの一件の直後、瓦礫に埋もれた人がいないかなどを確認していると、隠れていたマジェコンヌが一瞬目を離した隙にノワールの女神の力をコピーしたのだ。
強大な敵を倒し油断していたのかもしれない。
疲弊していなければ防ぐ事が出来たかもしれない。
とはいえ、それは起こってしまった。
幸い三人がすぐさま助けに入った為、完全には力を奪われずに済んだ。
「……そういえば、お仕事はもういいんですの?」
空気が重くなってきたと判断したベールが話題を変える。
「えぇ。教会からアヴニールの連中も追い出したし、街のみんなのお陰で博覧会の開場の修理も順調よ」
「アヴニールはどうなるの?」
「教会の管理の元、まっとうな会社に変えていくわ。本社も解体しても良かったんだけど、技術力は目を見張るものがあるから、ラステイションの発展のために活かそうと思ってるわ」
ノワールはこう言っているが、それはアヴニールの解体によって出てくる失業者を抑える面が大きい。
これもノワールなりの優しさである。
「もちろん、兵器開発なんて二度とさせないけどね」
「そう……良かったわ」
「じゃあ、ガナッシュや社長のサンジュは?」
「サンジュの方は責任をとって社長を辞任。今はシアンの所で働いてるわ」
「シアンのとこで!?なんでなんで?」
ネプテューヌの疑問にはアシュレイが答えた。
「元々サンジュは俺とシアンの親父達とは共通の友人でな。流石に可哀想だったんだとよ」
「ガナッシュはどうなったの?」
「行方不明よ。けど、たぶんルウィーに帰ったんじゃないかしら?熱心なブランの信者だったし、アヴニールが利用できない以上この国にいる必要はないもの」
「案外、次はプラネテューヌやリーンボックスに来てたりして!」
「悪い冗談はよしてくださいな……」
「ねぷねぷ……それ笑い事じゃないですよ……」
「なんにせよ、その辺で途方に暮れるほど頭は悪くない。どこかで生きてるだろうさ」
そんな話をしていると、不意に部屋にノックの音が響いた。
「おっす、お前ら久しぶりだな!」
「シアンこそ久しぶり!元気してた?」
部屋に上がり込んできたのはシアンだ。
「お陰様でな。今じゃ忙しくて猫の手も借りたいくらいだぜ」
「ノワールから聞いたよ、社長さんを雇ってあげたんだって?」
「長いこと現場から離れていても、元は技術屋なだけあってだいぶ助けてもらってるよ。っと、それはそうと今日はお前らに渡したいものがあってきたんだ」
シアンが腰のポーチに手を突っ込んでまさぐる。
「これ、もしかしてお前らが探してたものじゃないか?」
しばらくしてシアンが取り出したのは光る石のようなもの。
紛れもなく、それは鍵の欠片だった。
「シアン、これどうしたの?」
「お前らがぶっ壊したハードブレイカーを解体してる時に出てきたんだよ。どうも、こいつを動力源にしてたみたいなんだ」
「どうりで、どこを探してもないわけです」
「あそこの鍵の欠片を持っていったのはアヴニールの奴らだったって訳か」
ノワールがラステイション復興に走り回っている間もネプテューヌ達は鍵の欠片を探していたが、ハードブレイカーの内部にあるのでは見つけるとこが出来ないのも当然だ。
ともあれ、これで鍵の欠片が四つ全て集まったことになる。
「けど、どうして動力源なんかに使われてたのかしら?」
「これはガナッシュが偶然見つけてきたらしいぞ。調べると凄いエネルギーを持っていたから動力源にしたんだとさ」
「まさに、瓢箪から駒とはこのことね」
「驚いたで思い出したけど、本当に驚いたのはこっちなんだぞ。お前も知ってたなら教えてくれれば良いのに……」
「言ったら博覧会に集中出来なくなるのは目に見えてたからな」
シアンが言っているのはネプテューヌやノワール達が女神だったということだ。
あれだけ会いたがっていた女神がまさか自分の知り合いだったとは夢にも思わないだろう。
「……けど、本当にいいのか?女神様相手に今までどおりに接しろって……」
「いいのいいの!シアンとはそういうの抜きにしたお友達なんだから。ね、ノワール?」
「えぇ。私もあなたのことは大切なお友達だと思ってるわ。それに、今更他人行儀になられても困るわ」
「そういうことだから、いい加減諦めなさい、シアン」
「……だな。ま、わたしとしても今までどおりの方が気が楽だしな。それじゃ、渡す物も渡したし、わたしはこれで!」
「ああ、またな」
言うが早く、シアンが来た扉をくぐって部屋を出て行った。
「……さて」
「経緯はともあれ、これで4つ揃ったわね」
「揃ったのは良いとして、それどうするんだ?」
部屋の壁に背を任せながらヒロムが呟く。
「こいつがあれば、イスト何某の封印を解く事ができるんだとさ」
「イスト……何?」
「……話を聞いた方が早いだろ」
「という訳で!いでよ、いーすーん!」
テーブルに置かれた鍵の欠片が光を放ち、その場に浮き上がった。
「どうやら、4つ全ての鍵の欠片を手に入れたようですね」
「この人がイストワール……」
「……っていーすんじゃねぇか!」
「あれ?ヒロくんいーすんのこと知ってるの?」
「ああ、こっちの次元にもいるからな。俺の知ってるいーすんとは随分雰囲気が違うけど……」
「ヒロムさん。ネプテューヌさん達を助けて頂き、本当にありがとうございます」
「いいんだよ。友達だしな」
「けど、いーすんごめんね。マジェコンヌにノワールの力をコピーされちゃったよ」
「……ノワールさんの力を手に入れ、マジェコンヌは女神様三人に匹敵する力を持ったことになります」
女神三人に匹敵する力。
強大すぎて、どれほどかも想像出来ない。
そして問題はさらに強くなる可能性があるということだ。
「ネプテューヌさんの力が奪われる前に、一刻も早く私の封印を解いてください」
「で、あなたが封印されている場所って何処にあるの?まさか、天界だなんて言わないわよね?」
「安心してください。わたしが封印されている場所はプラネテューヌです」
「……えらく大雑把だな」
「プラネテューヌのどこなんですの?」
「……申し訳ありません。詳しい場所までは……」
イストワールが封印されている場所はプラネテューヌ。
情報はこれだけのようだ。
何もわからない、よりはマシといった所か。
「なら、一旦プラネテューヌに行きましょ」
「そうね。コンパの部屋を拠点にしたほうが効率的だわ」
「けれども、どうやってイストワールを探すんですの?」
「情報が無いなら、手に入れるまでだ」
「かたっぱしからいーすんを探すっきゃないね。今までもなんとかなったんだし、だいじょーぶ!」
「そうです!きっとなんとかなるです!」
そんな状況でもなぜかネプテューヌ達は楽観的である。
「まったく、呑気というか前向きというか……」
「けど、こういうのは嫌いではないですわ」
「そうね。悲観的になるよりはマシ」
「じゃあ、次はいーすん探しに、プラネテューヌに行ってみよー!」
次の目的は決まった。
不意にヒロムが手を挙げる。
「俺もパーティーに参加するよ」
「ほんと!?やったー!ヒロくんが居れば百人力……」
「駄目だ」
ヒロムの提案を切ったのはアシュレイだ。
「えーなんでさー!人が多い方が楽だし楽しいじゃーん!」
「お前は黙ってろ」
「なんで駄目なんだ?別に皆の足を引っ張ったりは……あ……もしかしてまだあの時のこと怒ってたりする?」
「……あれは別にどうでもいいし、そうじゃない」
アシュレイが真っ直ぐにヒロムの目を見つめる。
「曲がりなりにもお前は異世界の人間だ。これ以上俺たちには深く関わらないでくれ」
「けど……」
「……いいか、これは俺たちの世界の問題だ。俺たちの世界で起こった問題は、俺たちが片付ける……そうだろ?」
アシュレイの言葉にヒロムが目を閉じ、暫く考える。
そしてふぅ、と息を吐いた。
「俺たちの世界……か」
決心がついたのか、ヒロムが顔を挙げる。
「わかった。俺はこの件に関してはもう踏み込まないようにするよ。あーけど、助けが欲しいなら言ってくれよ?すぐに駆けつけるぜ!」
「……期待しないで待ってろ」
「じゃあ、ヒロくんとはここでお別れだね。助けてくれてありがと!また会おうね!」
「おう!またな!」
三人が拳を軽く突き合わせる。
それが再会の約束になることを信じて。
……………………
「第128回!いーすんはどこだ会議ー!」
「100回近く盛ってんじゃねぇよ……」
ここはコンパの家。
全員が思い思いの位置でのんびりしている。
「それじゃ、さっそくだけどみんなが集めてきた情報の報告をお願い」
「わたしはなんにもなっしんぐー!」
「……あんたには端から期待してないから……他のみんなは?」
アイエフが他の5人を見渡す。
「わたしも何も見つけられなかったです」
「私も全然駄目だわ」
「わたくしも、それらしきところは見つけられませんでしたわ」
「わたしも見つけられなかった……」
「同じくだ。ここまで見つからないと本当にプラネテューヌに封印されてるのか怪しくなってくるな」
「冗談でも言わないでよ。ただでさえ苦労してるんだから……」
この会議は毎日の終わりに行っている。
つまりラステイションの鍵の欠片を手に入れてからもうすぐ一ヶ月が経とうとしているのだ。
しかしどれだけ時間が流れようと、全員の口から発せられる言葉はほぼ同じであった。
「あいちゃんはどうだったの?」
「わたしも知り合いの子たちに協力してもらってるけど、なんの情報もないわ」
「全員ダメダメかぁ……こんな時、もう一回いーすんとお話し出来ればもう少しヒントもらえるかもしれないのに……」
「あれから全然連絡ないですぅ……」
いかに場所がプラネテューヌとわかっていても、協力者含めてたった数十人で国を隅々まで探すのには骨が折れる。
現にこれ程の期間を費やしている。
一ヶ月もあればマジェコンヌの傷も全快し、再び行動を起こすかもしれない。
そこでネプテューヌの力が奪われでもしたら……。
「……ふと思ったんだけど、プラネテューヌの教会に協力は頼めないのかしら?」
「そうですわね。プラネテューヌのことは、やはりプラネテューヌの教会に頼るのが一番ですわ」
「たしかに、そう言われればそうかも。なんで今まで気づかなかったんだろう?」
「他の国の教会が役立たずだったのがだいたいの原因だろ。なぁ?」
アシュレイのセリフにネプテューヌ以外の女神三人がバツの悪そうな顔を浮かべた。
「あんまり大っぴらにしたくなかったけど、背に腹は代えられないわね。そうと決まれば、さっそく教会に行きましょ」
全員が頷き、教会……プラネテューヌの象徴でもあるプラネタワーへと向かった。
……………………
同時刻、某所にて。
「…………」
静かな部屋。
青い壁と床。
正方形の空間の真ん中には台座。
その上には一冊の本が浮かんでいる。
「…………」
本の名前はイストワール。
彼女は何も言わず、ただその場に存在していた。
そうするしかなかった。
「ふん、気分はどうだ、イストワール?」
「マジェコンヌ……」
壁の一面が開き、マジェコンヌとボロボロのローブを被った男が姿を現した。
「女神共はお前を探すのに手間取っているようだな」
「…………」
「私の傷も癒えた。後はネプテューヌ……あいつの力を奪うのみだ」
「ネプテューヌさん達はあなたには決して負けません」
「信じたければ信じるがいいさ。私の勝利は揺るがん」
マジェコンヌがつかつかとイストワールに歩み寄り、乱暴に掴み上げる。
「貴様はもう暫く、女神共をおびき寄せる為の餌になってもらうぞ。この世界を手に入れる為には貴様の協力も必要なのだ」
「誰があなたに協力なんて……」
「フフフ……今の内に強がっておくんだな」
それだけ言ってマジェコンヌはイストワールを元の位置に戻し、部屋を出て行った。
「……ネプテューヌさん……」
「女神達が心配ですか?」
機械的な声が男の口から発せられる。
顔は狐の面で隠され、ボイスチェンジャーをつけているかどうかはわからない。
もしかしたらロボットの類の可能性もある。
「……ついて行かなくて良いんですか?」
「もはや彼女の目に私は写っていません。それに私自身があなたに用があるのです」
「マジェコンヌの側近であるはずのあなたがわたしに?」
「……あなたに教える事、そして同時に伝えてほしい事があるのです」
「わたしに……ですか?」
マジェコンヌの側近である人物からの伝言。
正体すらわからない人物からの言葉など嘘か本当かもわからない。
「……わかりました」
しかしイストワールはその頼みを断る事が出来なかった。
顔も、声もわからないが、男は酷く悲しそうに見えたのだ。
「では……」
男の話は暫く続いた。
そしてそれはイストワールでさえ驚かざるを得ない事だった。
……………………
「こんにちはー」
「おおっ!誰かと思えばいつぞやのロリっ子じゃないか!」
ネプテューヌの声に気づいたのは前にネプテューヌとコンパにパスを作ってくれた職員だ。
「わたしたち、プラネテューヌにあるダンジョンについてお話が聞きたいんです」
「誰にも知られていないような超珍しい超レアな、いかにも隠しっぽいダンジョン知らない?」
「超珍しいレアでいかにも隠しっぽいダンジョンか……」
職員が顎に手を当て、暫く考える。
そして思いついたように拳を打った。
「噂でしかないんだけど、昔々……それはもう凄い昔、先代の女神様の時代に伝説の四英雄たちが修行をしたと言われているダンジョンがプラネテューヌにあるらしいんだ」
「おおっ!?なにそれ、なんかすっごくそれっぽいね!それでそのダンジョンはどこにあるの?」
「あくまで伝承でしか伝わってないから、誰もどこにそのダンジョンがあったかなんて知らないんだよ……」
「そっかー……」
ダンジョンの場所はわからなかったが、手がかりゼロではなくなった。
後は伝承とやらを紐解けば答えが見つかるかもしれない。
「私の方でも調べてみるよ。教会にはそういった伝承に詳しい人もいるだろうしね。時間が経ったらまたおいでよ」
「うん、わかった。それじゃ、教会のお兄さん、よろしくね!」
「あぁ、任せてくれ」
情報を貰ったネプテューヌたちは教会を後にし、再び街を歩き出した。
「さて、わたし達も伝承について調べましょ」
「けど、どうやって調べるの?」
「そういえば、女神さん達はその時代のことは何か知らないんですか?」
「私たちもその時代のことはよく分からないのよ。生まれた後も、ほとんど天界にいたし」
「そうですわね。生みの親である先代の女神様のこともおぼろげですし……」
女神三人もこの事は知らないようだ。
ネプテューヌがため息を吐く。
「頼りの綱のノワールたちも駄目かぁ……」
「記憶喪失のあなたに言われるとイラッとくるわね……」
「……伝承についてなら、知ってる」
口を開いたのはアシュレイだ。
「女神様でも知らないような事をあんたが!?」
「昔、グレイさんに教えて貰ったんだ」
そう切り出したアシュレイが伝承について話を始めた。
その昔、世界には女神が五人居た。
人の幸せや喜び。
正の感情を受け、それを糧とする四柱の女神。
そして人の悪意や憎悪。
負の感情を一身に受け止めるたった一人の女神。
四柱の女神はお互いに争い合い、その領土を増やす。
負の感情を司る女神はそれを一人見守る。
世界はそんな女神達の存在によって均衡を保っていた。
しかしそれは突然崩壊した。
負の感情を司る女神がモンスターを生み出し、人々を襲わせ始めたのだ。
四女神はそれぞれの国を守る為に戦ったが、モンスターの力は凄まじく、ゆっくりと疲弊していった。
その不安から発された負の感情は悪の女神に降り注ぎ、さらにモンスターはその数を増やした。
事態を重く見た四女神は戦争を中断。
四ヶ国が結集して悪の女神を倒そうと考えたのだ。
その時、女神は自らの祝福を受ける勇者を一人づつ選び出した。
勇者達は厳しい修行の末、何者にも劣らない力を身につけた。
四女神と四人の勇者は見事悪の女神を打ち倒し、世界を平和に導いた。
四人の勇者は四英雄と呼ばれ、その生涯を終えるまで人々から感謝され続けた……。
「……俺が聞いたのはここまでだ」
アシュレイの話に六人は思い思いの顔をしていた。
「五人目の女神……」
「そんなの居たの?」
「わたしが読んだ絵本にはそんなの書かれてなかったですぅ」
「わたしだって知らないわ。災厄を呼ぶ存在から人々を守ったってことしか……」
どうやら全員話に出てきた悪の女神のことは知らないようだ。
「ちょっと待って……」
ブランが口を開いた。
「なんでグレイはそんなことを知っていたのかしら……?」
「確かに……一般には知られていないことですわね」
「そうなのか?」
特に改めて調べる気もなく、これが常識だと思っていたアシュレイが疑問符を浮かべる。
「……まぁ、そのことはまた改めて本人に聞きましょ。今はダンジョンのことよ」
「とはいえ、先ほどの話からはダンジョンの情報はわかりませんわね」
「……よーし!じゃあもうこれしかないね!」
ネプテューヌが足元に転がっていた木の枝を拾い上げた。
「……どうすんだよそれ」
「これを倒して、倒した先に進むの!きっとわたしたちを導いてくれるはず!なぜならわたしは主人公だから!」
「何、その凄く古典的な方法」
「……『立ち止まるぐらいなら適当に走れ』ってやつか」
「そういうことー!えい!」
コトリ、と倒れた木の枝は西を向く。
「この方向は……郊外の森を指してるわね」
「けど、あっちには森林公園と地下の洞窟があるくらいよ。例のダンジョンなんてあるかしら……」
現実的に考えれば無いという結論になるのが自然だろう。
「……ねぇ、あいちゃん。せっかくだしさ、行ってみようよ」
しかしネプテューヌは僅かな可能性に賭けるようだ。
「案外身近な所にあるかもしれないしさ。一から探してみるのもアリだと思うな」
「……一から……か。どうだ、アイエフ?」
「……そうね。何もしないより動いた方が建設的だし、行きましょ」
こうしてネプテューヌ達は三度あの自然公園へと足を運んだ。
……………………
「さて、これで一周か」
「なんもないね」
自然公園内をくまなく探したが、それらしき入り口は見つけられなかった。
「そういえば、ここがネプテューヌが落ちた場所なの?」
「そうだよ。ここでこんぱに拾ってもらったんだ。で、記憶の手がかりを探して初めてきたダンジョンもここなんだ」
「アッシュさんともここで?」
「ああ」
「じゃあ、あそこに空いている大穴は?」
ブランが指差した先には不自然な穴がすっぽりと口を開けている。
「あれは、わたしが落ちて突き刺さったところが陥没してできた穴だよ」
「あの時はいきなりだったのでびっくりしたですよ。けど、ねぷねぷとのいい思い出です」
「俺の中では災難の始まりだけどな」
「……あれ?もしかしてネプテューヌさんたち?」
背後から呼びかけられ、振り返るとそこには獣の耳を模した帽子を被った少女が立っていた。
「お、サイバーコネクトツーじゃん!久しぶりー!何してんの?」
「最近、この辺りに不審者がよく出没するらしいから、見回りをしてるんだ」
「不審者だと?」
「通報によれば、狐のお面をした奴らしいんだ」
「狐の……面?」
そのワードにアシュレイの苦い記憶が蘇る。
「ネプテューヌさんたちはどうしてこんなところに?」
「そうそう、この辺りにいかにも怪しい隠しダンジョンの入り口みたいなの見つけなかった?」
「入り口……は見なかったけど、怪しいといえばこの下の洞窟なんて凄く怪しそうだよね」
「この下の……洞窟です?」
サイバーコネクトツーが地面を指差し、つられてコンパも地面を見た。
あの洞窟はこの自然公園よりも多くの思い出がある。
1度目はネプテューヌの女神化、イストワールとの出会い。
2度目はアイエフとの出会い、マジェコンヌとの初遭遇、そしてアシュレイの変身。
忘れたくとも忘れられない。
「そっちも探索するか……」
「じゃあ、わたしたちは洞窟に入ってくるよ!またね!」
「うん。気をつけてね」
サイバーコネクトツーに見送られながら一旦自然公園を出る。
そのまま真下にある洞窟へと足を踏み入れた。
「ねぇ、アイエフ。プラネテューヌの鍵の欠片ってここにあったのよね」
「えぇ、そうよ」
「……そう」
「どうしたの、ノワール?」
「んー……気のせいだといいんだけど、何か引っかかるのよ」
「隠し通路のこと?」
「えぇ。けど、具体的に何がどう引っかかってるのか全然わからなくて……」
「考えてわからないことは放っておけ」
ノワールが唸っていると不意にネプテューヌが立ち止まった。
「あれ?」
「ん?どうしたのよ、ネプ子。そっちは行き止まりよ?」
「ねぇ、あいちゃん。なんかこの先変じゃない?行き止まりなのに、風が吹いてるよ?」
「なんですって!?」
全員が行き止まりを見つめる。
「……本当ですわ。僅かですけど、この壁に向かって空気が流れていますわ」
「…………」
アシュレイが壁にナイフを投げる。
するとナイフは壁の中に消え、更に壁の向こうからカラカラとナイフの転がる音が響いた。
「……ビンゴ、だな」
「この壁……よく見ると魔法でできた幻影ですわ」
「音から判断するに、この先に道が続いているみたいだな」
「ねぷねぷ、お手柄です!」
「いやぁ、それほどでもー。これも主人公たる幸運ってやつ?あ、ご褒美はバケツプリンがいいな!」
褒められたネプテューヌが照れた様に体をよじる。
「馬鹿言ってないで先に進むぞ」
「きっと、この先にイストワールが封印されているはずよ」
7人が壁の中へと入っていく。
そこには先ほどの洞窟とは打って変わって機械的な壁と床が辺りを埋め尽くしていた。
「いかにも、な所だな」
「そうね」
そして目の前には大量の敵。
どうやら意地でもここから先には行かせたくないらしい。
「随分な歓迎だな」
「なら、こっちも全力で答えるだけ」
全員が一斉に武器を構える。
「さぁ、行くぞ!」
……………………
敵を蹴散らしながら道を進んでいく。
「魔粧・氷結樹!」
「インパルスブレイド!」
アイエフが魔法で敵を凍結させ、すかさずそこにノワールが剣撃波で追撃。
氷像となった敵がバラバラに砕け散った。
「……打ち止めか」
「こうも長時間戦うと、流石に疲れますわね」
「けど、かなり奥まった所まで来たわ」
目の前の扉を潜ると、一際広い空間に出た。
「いーすんがいるところって、ここかな?おーい、いーすーん!」
ネプテューヌが叫ぶ。
「待っていたぞネプテューヌ。随分遅かったではないか」
直後、部屋の奥の扉が開いた。
現れたのは先ほどの声の主。
「テメェ……」
「マザコンヌ!」
「誰がマザコンヌだ!」
マザコンヌ改め、マジェコンヌが7人の前に立ちはだかった。
「あなたがいるということは、どうやらここにイストワールが封印されていることは間違いないようですわね」
「そのとおりだ。鍵の欠片を揃えた貴様ならきっとたどり着くと思って待っていたぞ」
「そっか、なにか引っかかると思っていたら、そういうことだったのね」
ノワールが呟く。
どうやら先ほどの違和感の正体を掴んだようだ。
「簡単なことだったのよ。鍵の欠片を揃えた私たちがここに来ることなんてわかりきったことだったんだわ」
「っ!ネプ子、あんたは逃げて!」
「え!?」
アシュレイが戸惑うネプテューヌの手を取り背後の扉へ走る。
「…………」
「ちぃ!いつの間に……!」
しかしそこには狐の面を被った男が立っていた。
「ふん、せっかく誘い込んだのだ。ゆっくりしていけ」
「はいそうですか……なんて行くかよ!」
五人が変身し、一斉に狐の面の男へと斬りかかる。
「…………」
男が指を鳴らす。
異変は突如起こった。
「……え!?」
「どゆこと!?」
ネプテューヌたちの変身が強制的に解除されたのだ。
空中で一気に失速し、隙を晒す。
「…………」
男は何も言わず、眼前に巨大な魔法陣を展開し、ネプテューヌたちを弾き飛ばした。
「く……う……どうして女神化が……」
「それに、力が入りませんわ……」
「くそっ!どうなってやがる……!」
「アヴニールの作ったハードブレイカーに搭載されているジャミング装置……まさかあいつらが独自に開発したとでも思っていたのか?」
「まさか……お前らが……」
剣を杖にアシュレイがなんとか立ち上がる。
「そうとも!あいつらは女神化を封じる魔法を機械に組み込んだに過ぎん!」
マジェコンヌが歩き出す。
目線の先は……。
「いけない!ネプ子、逃げて!」
「あいちゃん……けど……」
「く……おぉ!」
ふらつきながらもアシュレイが男に斬りかかる。
だがそれはあっさりとかわされ、逆に足払いで地面に倒されてしまった。
男はその背を容赦なく踏みつける。
「美しい友情劇だな。だが、ネプテューヌ!貴様が逃げれば、ここにいる連中を皆殺しにするぞ」
「そんなのハッタリよ!いいから逃げなさい!」
「なら、ハッタリかどうか貴様の命で証明してやろう」
マジェコンヌの足が止まり、アイエフの目の前に杖に取り付けられた刃が突きつけられた。
「……くっ!」
「あいちゃん!」
「どうだ、ネプテューヌ。貴様の力を差し出せば、こいつらの命は助けてやるというのは?」
「わたしの、力と交換?」
「そうだ、悪い条件ではないだろう?貴様が持つ女神の力と交換だ。コピーではなく、差し出してもらう」
「ふざ……っけんな!」
アシュレイが踏みつけられながらもなんとか立ち上がろうと腕を地面に押し付ける。
「ここでお前の力がこいつの手に渡ったら……こいつはその力でもっと沢山の人を殺す……ゲホッ……お前が助かれば、死ぬのは俺たちだけだ……!」
「……そいつを黙らせろ」
不意に背中の重圧が消えた。
すると今度は逆に体が宙に浮かぶ感覚。
逆さまになった男が魔法陣を展開しているのを見たアシュレイがようやく男に投げ飛ばされたのだということを認識した。
「ぐああぁぁぁああ!?」
魔法陣から放たれた魔法の剣がアシュレイの体を貫き、壁に縫い付ける。
「…………」
男が新たな剣を召喚し、ピクリとも動かないアシュレイへ近づいていく。
「待って!」
男の歩みが止まる。
声の主はネプテューヌだ。
「……わかったよ。わたしの力をマジェっちにあげる。だから、みんなを助けてあげて!」
「バカネプ子!何考えてんのよ!」
「わたしの女神の力でみんなが助かるんだったら、安い取引だよ。それに、記憶がないせいかな?女神であることに執着とかないんだよね」
「ねぷねぷ……」
「ネプ子の馬鹿……」
絶望的な状況だが、ネプテューヌは笑っていた。
「みんなの命に比べれば、女神の力なんて安いもんだよ。特にわたしのはね」
「懸命な判断だ。ではそこで大人しくしていろ」
マジェコンヌが杖を振りかざすと、ネプテューヌの体がゆっくりと宙に浮き始めた。
そしてネプテューヌの胸に槍の切っ先を突き立てる。
「きゃあああああっ!!」
禍々しいオーラと共にネプテューヌの体から紫の光が抜けていく。
マジェコンヌが槍を引き抜くと、光は玉となり、マジェコンヌへと吸い込まれていった。
ネプテューヌに傷はない。
「ハーッハッハッハッハ!やっと……やっと女神の力を全て手に入れたぞ!!」
マジェコンヌが高らかに叫ぶ。
「これで!私は真の女神に……いや、それすらも超越する神になったのだああぁぁぁぁっ!!」
地面に倒れ伏すネプテューヌが顔を上げた。
「約束だよ。みんなを助けて……」
未だニヤついたままのマジェコンヌがネプテューヌを見下ろす。
「つくづくおめでたい頭をしているな。あんな約束、誰が守るものか」
「そんな!約束したじゃん!わたしの力をあげる代わりにみんなを助けてくれるって!嘘つき!」
「何とでも言え。所詮は弱者……負け犬の遠吠えにしか聞こえん!」
ふとそこでマジェコンヌが何かを思いついた。
「そうだ。せっかくだ、冥土の土産に面白い余興を見せてやろう」
指を鳴らす。
するとマジェコンヌの傍に一冊の本が転移してきた。
「これを見ろ。この本こそ、貴様らの探すイストワールが封印された姿だ」
「それが、いーすん……」
「おい、イストワール。聞こえているのだろう。やっとわたしは真の女神へとなったのだ」
「マジェコンヌ……あなたという人は……」
「早速だが、イストワール。貴様の力を使わせてもらう」
「言った筈です。あなたに貸す力なんてありません」
「ならば、無理にでも貴様の力を使うまでだ!」
「まさか!そんなことができるはず……」
イストワールが天高く掲げられる。
「さぁ!史書イストワールよ!人々の畏怖の記憶を呼び起こし、魔王ユニミテスを作り出すのだ!」
直後、閉じられた本の隙間から次々と黒い粒子が溢れ出す。
その粒子は一つに固まり、どんどんその大きさを増していく。
「〜〜〜〜〜〜!!」
この世の物とは思えない音が部屋に響く。
異形の存在。
魔王ユニミテス。
「そんな、ウソでしょ……ユニミテスってあいつが広めた架空の魔王じゃなかったの!?」
「その通りだ。だが、その記憶を具現化し、モンスターとして誕生させたのだ!空想上の魔王をな!」
「何よその馬鹿げた話は!」
「だが、事実魔王ユニミテスはここに誕生した!」
マジェコンヌはイストワールを手放し、再び傍に浮かべる。
「さて、誰から殺してやろうか……」
「……コンパ?」
アイエフの呼びかけにコンパは答えず、代わりにジリジリとマジェコンヌとの距離を詰めていく。
「……なるほど……マジェコンヌ!」
「……なんだ?絶望して自ら殺されたいのか?」
「そんな訳ないでしょ!」
「では、なんだというのだ?」
「わたしがそのハッタリ魔王を倒してやろうってことよ!」
アイエフの眼前に黒い魔法陣が広がる。
「見せてあげるわ……わたしの真の力を!」
「面白い。やってみろ」
さらにユニミテスの足元にも魔法陣が発生。
「さぁ、血に飢えた死霊の宴を始めましょ!」
魔力の玉が魔法陣から打ち出され、ユニミテスの頭上に集う。
「魔界粧・黒霊陣!」
魔力玉がユニミテスに降り注ぎ、爆風が辺りを包んだ。
舞い上がった煙が視界を奪う。
「…………」
「……ふん」
「〜〜〜〜〜〜!!」
煙の中には無傷のユニミテスが立っていた。
咆哮が辺りを揺らす。
「もう終わりか?」
「……そうね。あれがわたしの全力。もう打つ手ないし、煮るなり焼くなり好きにすれば良いわ」
「ようやく無駄な足掻きだとわかったか。では……」
アイエフの口元が歪んだ。
「なんて、ね」
「いーすんさん、ゲットですぅ!」
「何ィ!?貴様アアアアァァァ!」
「ひいぃぃ!?逃げるですぅぅぅ!?」
走るコンパ。
追うマジェコンヌ。
直後、マジェコンヌに魔力弾が殺到した。
「ちぃ!今度は何だ!」
「流石だな、アイエフ。あの密度の魔力反応なら、転移も楽だったぞ」
マジェコンヌの前に立ちはだかったのはMAGES.だ。
「っ……おおおぉぉぉおお!」
アシュレイが無理矢理剣を引き抜き、MAGES.に攻撃しようとしていた目の前の男を殴り飛ばす。
「……どうして……ここがわかった?」
「事前にアイエフから連絡を受けていたのだ。自分の強い魔力反応をキャッチすれば助けに来てくれ、とな」
イストワールを救出し、全員が一箇所に集まることができた。
とは言っても、前方にはマジェコンヌとユニミテス。
後方には正体不明の男。
取る手は一つのみ。
「逃げるぞ、準備は良いか?」
「ああ……」
「ふん、健闘に免じて今回は逃してやろう。そしてアッシュとか言ったか?」
マジェコンヌが女神達ではなく、アシュレイを呼んだ。
「なんだよ……」
「貴様に良いことを教えてやろう」
「何の話だ……!?」
「後ろをよく見るんだな」
「……?」
アシュレイが後ろを振り向く。
そこには変わらず男が立っていた。
「…………」
男が半分割れた狐の面を外す。
「…………は?」
「え!?」
「嘘……でしょ?」
「フフフ……貴様が貴様を知った時、貴様は絶望せずにいられるかな?」
「……転移、開始」
アシュレイには既にマジェコンヌの声は聞こえていなかった。
光に包まれるアシュレイの視界に最後まで映っていたもの。
それはアシュレイがグレイと呼んでいた人物の顔だった。
はい、張った伏線の回収が始まった第19話でした。
今回でイストワールを助け出し、次回からは最終決戦に向けての準備。
その裏で、アッシュ君に纏わるエピソードの話を進めていきます。
当時、この物語を書き始めた当初から書きたかった話ですので、楽しんで頂ければ幸いです。