超次元ゲイムネプテューヌ:リバース・リ・バース 作:ひきがねコート@pixiv名アスラ
「はぁ……はぁ……」
プラネテューヌの街を走る。
「ネプ子!」
「……あいちゃん!」
後ろからアイエフに呼びかけられたネプテューヌが足を止める。
「見つけた?」
「ううん、どこにもいない……」
「あーもう!こんな大事な時にどこほっつき歩いてるのよ、あのバカ!」
アシュレイが姿を消してから既に一週間が経過している。
かたっぱしからホテル、飲食店、病院、ギルドなどを回り、見ていないか探しているがどこにもいないのだ。
ノワールたち三人も念のため自分の国に戻り、アシュレイを探しているが見つからない。
「これだけ探しても見つからないなんて……」
「……アッシュ……」
思わずネプテューヌが俯く。
「……ネプ子、今日はもう帰りなさい」
「あいちゃんはどうするの?」
「……わたしはもう少し探してみる。それじゃあね!」
アイエフが再び走り出し、プラネテューヌの街に消えた。
その場に一人残されたネプテューヌは足を休める為に近くのベンチに座る。
『俺は……奴らと同じ……モンスターだ!』
「……アッシュは……モンスターなんかじゃ……」
一人呟いた言葉は人混みに紛れて消えた。
……………………
剣を振るう。
「はぁ……はぁ……」
切り裂かれたモンスターが光になって消える。
「ふん!」
地面に剣を突き立て、飛びかかってきたモンスターを龍の腕で掴み、握りつぶした。
指の隙間から光が漏れる。
「あああぁぁ!」
その腕を力任せに振るえば周りのモンスターを吹き飛ばし、叩きつければ地面が揺れた。
「逃がすか……」
背を向け、その場から逃げ出すモンスターの足を左の蔦の腕で掴み寄せる。
「死ね……!」
右腕が鋼鉄に変化。
引き寄せたモンスターの腹部を貫く。
醜い叫び声を上げながらモンスターが消えた。
「…………」
両腕を元に戻し、刺した剣を引き抜く。
隠れていた一体が背後から襲いかかってきた。
「…………」
直後、背中から剣山のように無数の棘が生え、モンスターを串刺しにする。
棘を元に戻すと同時にモンスターは変わらず光になった。
「なに……やってんだろうな……」
『男』は木に背を付け、その場に座り込む。
この一週間、ほぼ不眠不休無飲食で戦い続けていた。
何体殺したかは四桁を超えてから数えていない。
人間ならば倒れるどころか死んでいる。
しかし『男』は死ななかった。
死ねなかった。
空腹や喉の渇きは最初の2日だけ。
それ以降はまったく感じなくなった。
おそらく体そのものが食事や睡眠を必要としない体になったのだろう。
「…………」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ア ッ シ ュ ____
「っ!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ア ッ シ ュ ____
「違う……俺は……」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ア ッ シ ュ ____
「俺は……『あいつ』じゃない!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ チ ガ ウ ヨ ____
「黙れ……黙れ!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ア ッ シ ュ ____
「黙れぇぇぇええ!」
以前聞こえたあの時と同じ声に立ち上がり、背にしていた木を殴りつける。
メシリ、と音を立て、木はさも当然のように倒れた。
「はぁ……はぁ……!」
声は聞こえなくなった。
代わりに辺りに新たな気配。
「……いいぜ、来いよ……こっちは今すっごく機嫌が悪いんだよ……!」
剣を構えれば、また無数のモンスターが襲いかかってきた。
……………………
「伝説の武器?」
「はい。この前は言いそびれましたが、マジェコンヌを倒す為の唯一と言っていい方法です」
現在、コンパの家にはいつものメンバーにMAGES.を加えた7人が集まっていた。
もちろんこの場にアシュレイの姿は無い。
テーブルの上には以前伝承について調べてくれると言った教会職員が纏めた資料が並べられている。
少し前に置いていったらしい。
「伝説の武器ってなんなんですか?」
「伝説の武器っていうのは、かつて四英雄が悪の女神のいる天界への道を開くと同時に、災厄を振り払った……つまり悪の女神を倒した武器のことよ」
「伝説の武器は女神の天敵とも言える存在です。悪の女神との戦いの後は、悪用されないよう各国に祀られています」
つまり各国に一つづつ存在する伝説の武器を全て集めれば、マジェコンヌを止める事ができる。
「祀られている詳しい場所はわからないの?」
「わからないことはないですが、調べるのに3日かかります」
「3日もかかるの!?」
「これなら、ググった方が早そうだな」
3日も待っていればマジェコンヌが動き出してしまう。
のんびりしている時間はもう残されていないのだ。
「すみません。歴史の全てを確認していると、自然とそれだけの時間がかかってしまうのです」
「じゃあ、しばらくは自分たちで伝説の武器を探しつつ、アッシュの捜索を続けましょ」
「せっかくプラネテューヌまで来ましたし、今日はわたくし達もプラネテューヌでアッシュさんを探しますわ。いいですわよね、ネプテューヌ?」
「…………」
「ネプテューヌ、聞いてるの?」
「ねぷっ!?な、何?どうしたの?」
一言も話さなかったネプテューヌが慌てたように顔を上げる。
「だから、今日は私たちも一緒にアッシュを探してあげるっていってるのよ」
「ほ、ホント!?ありがとう、ノワール、ベール、ブラン!」
「……無理に笑わなくてもいいんですのよ?」
「なんのこと?えっと……わたし、アッシュ探しに行ってくるね!」
「ちょっと、ネプテューヌさん!?」
逃げるようにネプテューヌがコンパの家を出ていった。
「ネプテューヌ……」
「ショックなのはわかるし、心配なのもわかるわ」
「けど、何をあんなに焦ってるのかしら……」
「……ネプテューヌさんがああなったのも、アッシュさんが居なくなってしまったのも、全ては私のせいなのです」
「いーすんさん?」
「……その話、詳しく聞かせて」
今日この日まで、ノワールたちは『彼』のことを知らなかった。
「嘘でしょ……」
「アッシュが……」
「……のんびりしている場合ではありませんわね」
最初に立ち上がったのはベールだ。
「わたくしも探しに行ってまいりますわ!」
「ベール様!わたしも!」
アイエフもそれについていく。
「では、私も動こうか」
「わたしもお手伝いするです!」
MAGES.とコンパ。
「わたしも行くわ……」
「……もう、みんなわがままなんだから!」
続けてブランとノワールも探しに出て行った。
「……アッシュさん……どうかご無事で……」
残ったイストワールが呟いた。
……………………
「…………」
夜、『彼』はプラネテューヌから西の森を越えた先の崖に立っていた。
下は海だが、それの手前には岩が積み上がっている。
「…………」
こんなところまで来て、することなど一つしかない。
「これは……持っていけないな」
背負った剣を地面に突き刺す。
つぎはぎだらけのコートを脱ぎ、剣の柄に引っ掛ける。
「…………」
一歩踏み出す。
崩れた小石が落下し、岩とぶつかり砕けた。
「……俺も……あいつらみたいに消えるんだろうかな」
これまで散々見てきたあの光。
ここから飛べば、『彼』もその光を放つのだろうか。
残念ながらその光を『彼』が見ることはない。
「……ふぅ……」
息を吐き出し、後ろを向く。
前からだと、反射的に身を守ってしまうかもしれないからだ。
後は後ろに倒れるだけ。
しかしそれは出来なかった。
「やっと……見つけた……」
「……何をしに来た」
目の前には十字キーのような髪留めを付けた少女が立っていた。
「アッシュ……みんなのところに帰ろう?」
「俺に名前はない……帰る場所も……意思も記憶も……」
「でも……」
一歩踏み出したネプテューヌの頬から血が流れ出す。
背後の木にはいつの間にかナイフが突き刺さっていた。
「それ以上近づくな」
「っ…………」
「俺は人間じゃない……俺といれば、いつか必ず後悔することになる」
「……後悔したっていい。わたしは……」
「黙れ!」
叫ぶ。
「帰れって言ってるのがわからないのか!そんなに死にたいのか!」
「わたしの知ってるアッシュはなんの理由もなく人を傷つけたりしない!」
「そんな奴はもうこの世にいない!死んだんだよ!」
「死んでなんかない!ここにいるよ!」
「っ!」
ネプテューヌの喉に何かがぶつかった。
足元にはナイフが転がっている。
さっき当たったのはナイフの柄だ。
「次は当てる……さっさと帰れ……!」
「…………」
「……俺は、この世界に必要ない存在なんだ……最期くらい……一人にしてくれ」
「……嫌だ……」
俯いたネプテューヌが呟く。
「ここまで一緒に頑張って来たのに!こんなのが最後だなんて!そんなの嫌だよ!」
「駄々をこねるな……俺は人間じゃない……モンスターなんだ。いつか必ずお前らを傷付ける」
「それでもいい!一緒に居たいよ!」
ネプテューヌが歩を進める。
ナイフの柄に手を付けるが、何故かそれ以上動けない。
「たとえモンスターだったとしても、アッシュには死んでほしくない!」
「……っ!」
「わたしは……ううん、わたしだけじゃない……ノワールも、ベールも、ブランもあいちゃんもこんぱもみんなみんな!」
ネプテューヌの小さな体が『男』を抱き締める。
「みんな……アッシュのことが大好きなんだよ!?」
「…………」
「お願いだよ……死ぬなんて言わないで……」
『男』の震える両手がネプテューヌの肩に。
そのまま突き飛ばす。
「それでも俺は……お前と一緒にはいられない……」
傍のコートと剣を手に取り、尻餅を着いたネプテューヌの横を通り過ぎる。
「あばよ……ネプ公……」
声の主は暗い森の中に消えて行った。
一人残されたネプテューヌは後を追うことも出来ない。
「……うぅ……ひっく……なんでさ……なんで……えぐっ……」
栓を切ったように溢れ出したそれは冷たい土を湿らせた。
「ネプテューヌさーん!」
「っ!?」
不意に聞こえた自分を呼ぶ声に急いでそれを引っ込める。
「……いーすん!こっちだよ!」
「ネプテューヌさん!どうしてこんなところに?」
「そんなのどうだっていいでしょ!それよりなんか用事?」
「はい、実は……」
……………………
「各国に女神の偽物!?」
今朝の7人は再びコンパの家に集まっていた。
「はい。どうやらマジェコンヌはその偽物に英雄の武器を破壊させるつもりのようです」
「不味いわね……先手を打たれた……」
「けど、これで英雄の武器がある場所はわかったも同然。これはチャンスよ」
「偽物の後を付け、英雄の武器の場所まで案内してもらうわけですわね」
偽物の後を付ける作戦が成功すれば、イストワールが検索を終える3日後より早く伝説の武器を集められるかもしれない。
「けど、モタモタしてたら偽物を見つける前に破壊されてしまうわ。ここはパーティを分けましょう」
「そうですわね。今回ばかりは全員で各国を回る訳にはいきませんし……」
「となれば、女神化が出来ないネプテューヌに人数を割いて、わたしたちは一人で偽物を倒しましょう」
「当然よ。私たちが偽物なんかに負けるわけないじゃない!」
「それが最善の策ね。ネプ子、良いわよね?」
アイエフが黙ったままのネプテューヌに同意を求めるが、当のネプテューヌは黙ったまま。
しかし今回は話を聞いていなかったわけではなく、なにやら悩んでいるようだ。
「うー……ん」
「何よ?文句あるの?」
「んー……ある!」
「はい!?」
「では、ネプテューヌはどのような割り振りが良いんですの?」
「……先に言っておくけど、この場にいない人は頭数に入れちゃだめよ」
「大丈夫だよ、ブランー。さすがのわたしもそんなことしないよー!」
釘を刺したつもりのブランにネプテューヌはいつも通りの笑みを浮かべる。
「えっとね、ノワールたちが自分の国に行くのは変わらないんだけどね」
「まぁ、当然よね」
「で、MAGES.はノワールのお手伝いに行ってあげて!」
「ふむ、構わないが……それだけか?」
「そんでもって、あいちゃんがベールのとこで、こんぱもブランと一緒に行ってきて!」
ラステイションにはノワールとMAGES.。
リーンボックスにはベールとアイエフ。
そしてルウィーにはブランとコンパ。
各国に二人づつ分配するようだ。
しかしこれには大きな問題がある。
国は四つ、頭数は七。
余った一人は……。
「馬鹿ネプ子!それだとあんたが一人で偽物の相手しなくちゃいけないじゃない!」
「そうです!今のネプテューヌさんには女神の力はないんですよ!」
「それにもし一人のところをマジェコンヌに狙われでもしたら……」
全員から猛反発を受けるが、ネプテューヌはいつも通りだ。
「大丈夫大丈夫!一人で無理なんかしないし、女神の力のないわたしはマジェっちにもノーマークでしょ!」
「でも……」
「みんな心配性だなー。そんなに心配なんだったら自分の偽物をパパッと倒してプラネテューヌに戻ってきてよ!」
「ネプテューヌ……」
「ほらほら、モタモタしてたら偽物に英雄の武器を壊されちゃうよ!」
「……わかったわ」
以外にも最初に頷いたのはノワールだった。
「ノワール……!?」
「私は自分の偽物を速攻で倒してネプテューヌの援護に行く予定よ。ま、あなたたちには出来ないでしょうけど」
「……んだと!?」
「……そこまで言われて黙っていては女神の名が廃りますわね」
ノワールの挑発にブランとベールが乗せられる。
「そうと決まれば早速参りますわよ!あいちゃん!」
「え!?あ、はい!それじゃあ、行ってくるわ!」
嵐のようにベールとアイエフの二人が出ていった。
「おいコンパ!わたしたちも行くぞ!何がなんでも二人より先に偽物を倒してやらぁ!」
「ぶ、ブランさん!?目が怖いですぅ……!?」
コンパがブランに引きずられるように出て行く。
「では、そろそろ私たちも行くぞ」
「……ノワール」
「なによ、こっちは急いでるんだけど」
「……ありがと」
「……後で美味しいもの奢りなさいよね」
それだけ言ってノワールとMAGES.も後を追うように出ていった。
残ったのはネプテューヌとイストワールの二人。
「……行ってしまいましたね」
「そうだねー……なんかお腹空いてきちゃったなー」
「こんな時に何を言っているんですか……」
「いいじゃん!お腹空いたんだもん!そうだ、いーすん。コンビニでなんか買ってきてくれない?」
「自分で買いに行けばいいじゃないですか」
「わたしは、いーすんが買ってきたものが食べたいな?なんちゃってー!」
「……わかりました。適当になにか買ってきます」
「プリンもよろしくねー!」
イストワールもコンビニへ行き、ネプテューヌだけが残った。
「……そんじゃ、わたしも頑張っちゃおうかな!」
そして、コンパの家は無人となった。
……………………
「…………」
薄暗く、埃っぽい部屋。
窓からは月明かりが差し込む。
ベッドには死体のように動かない人影があった。
「俺は……」
手にした写真立ての中には四人の人物が写っている。
しかしその人物達はそれを眺める『男』とは別人だった。
「…………」
この家はかつて『男』が『アシュレイ』だった時に住んでいた場所だ。
現在は一人しか住んでおらず、その住人も滅多に家に戻らないため、半分空き家のようになっていた。
とは言っても、その最後の一人の住人も死んでしまったが。
「よっと……うわ、きったね」
木の軋む音と共に部屋の扉が開かれた。
「……やっぱりここにいたか」
「…………」
入ってきたのは青い髪にゴーグルを付けた女。
『アシュレイ』の幼馴染だったシアンだ。
「なにしてんだよ、こんなところで」
「……俺が……知りたいね」
シアンはつかつかと歩み寄り、『男』の隣に座る。
「……なんか、昔を思い出すな」
「…………」
「1年前、あいつが死んで……お前も抜け殻みたいになっちまって……」
「それは『アシュレイ』だ」
「……なんだって?」
「今の俺に……名前はない……名無しの……モンスターだ……」
「…………」
暫く沈黙が続く。
「んー……いや、やっぱりお前はアッシュだ」
「違う……『あいつ』はもう死んだ」
「だったら、お前をその『あいつ』だって思い込ませてくれ」
「……どういう意味だ?」
シアンの言葉は今の『男』には理解出来なかった。
「『あいつ』の姿で、『あいつ』の声で、『あいつ』みたいな事をしてる……お前以上に『あいつ』に似た奴なんか絶対いない」
「……俺はモンスターだ」
「人間じゃなかったら何がいけないんだ?」
「なんだと……?」
「『機械の価値は密度で決まる』……『あいつ』の親父さんの言葉だ。意味、わかるよな?」
皮ではない。
大切なのは中身。
「お前は、わたしの工場を命がけで守ってくれたし、お前のおかげでわたしは今もこうやって仕事を続けられる」
「…………」
「『あいつ』じゃない。『お前』に助けられた奴はわたし以外にも沢山いるはずだぜ?」
シアンは『男』の言葉の全てを否定し、同時に『男』の存在全てを肯定した。
「シアン……教えてくれ……俺は……なんなんだ……?」
「……少なくとも、お前はわたしの命の恩人。ついでに、幼馴染のそっくりさんってところだな」
「…………」
「さっき、ノワールが来たよ」
「ノワールが?」
「アッシュを見かけたら、伝えてくれってな。けどあいつはもう死んでるらしいし、代わりにお前に伝える」
一呼吸置いて、再びシアンが口を開く。
「腐れ縁の奴が危ないってな」
「あいつが……」
「……いってやれ」
シアンが『男』の背を叩くが、『男』は動かない。
「まだ踏ん切りつかないか?」
「…………」
「だったら、半年前に言いそびれたことを言ってやる」
「半年前?」
「『あいつ』の親父さんから、知り合いが悩んでたら言ってやれってな」
「なんだよ……それ……」
「『やりたいことをやれ』……だとさ。そのまんますぎると思わないか?」
「……そうだな」
二人が少しだけ笑い合った。
「……けど、わたしはこの短い言葉に親父さんの全部が詰まってる気がするんだ」
「…………」
「お前のやりたいこと、やりに行けよ」
「……俺の……やりたいこと……」
立ち上がり、傍にあった誰かの形見の剣を背負った。
窓を開け、縁に足をかける。
「……なぁ、シアン」
「どうした?」
「俺には名前が無い。お前が……付けてくれ」
それを聞いたシアンがニヤリと笑った。
「アシュレイ……それがお前の名前だ」
「……アシュレイ、か……いい名前だ」
「だろう?」
「……行ってくる」
埃を撒き散らしながらアシュレイは空へ飛びたった。
「おいおい、もう少し静かに行けないのかよ……」
言いながら、地面に転がった写真立てを拾い上げ、テーブルの上に戻す。
写真立ての中の四人はみんな笑っていた。
……………………
「はぁ……はぁ……」
走る。
目指すはプラネテューヌ。
「……おい……『俺』はもっと早く走れないのかよ……!」
自分のようで自分ではない自分に文句を言う。
「もっと早くだ……もっと……!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ア ッ シ ュ ____
「こんなもんじゃねぇだろ!おい!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ イ コ ウ ____
「ああ……!行くぞ!『俺』!」
いつの間にかアシュレイは黒い豹の姿になり、四つの脚で走っていた。
朝日がアシュレイの黒い毛を照らす。
……………………
「てやあああ!」
ネプテューヌが剣を打ち合う。
相手は自分。
女神パープルハートの姿をした偽物。
「よいしょお!」
剣を弾き飛ばす。
腕をかち上げられ、偽物が隙を晒した。
が、そこを攻めることは出来ない。
「あっぶなぁ!?」
サイドから攻撃してきた偽物の対処に追われていたからだ。
攻撃を受け止めるとさらに背後から殺気。
「いいぃぃい!?」
剣を流し、同時に横に転がって背後から振り下ろされた剣を回避した。
急いで立ち上がり、剣を構え直す。
「いやー……ここまで自分の顔が沢山あるとさすがのわたしもドン引きだよ……」
現在ネプテューヌは四方八方を偽パープルハートに囲まれていた。
一体一体はそれほど強くなく、こんな状態でも数体は倒すことは出来たのだが、敵は現在進行形で増殖しておりそろそろ取り返しがつかなくなってきたところだ。
「うーん……無理して一人でくるんじゃなかったなー……っと、そんなこと考えてる場合じゃないね!」
前方から二人が迫る。
「よい……」
ネプテューヌはそれに怖気付くどころか前進。
剣を逆手に持ち替え、一体の攻撃を受け流すと同時にもう一体の武器を絡め取って奪う。
「しょっと!」
二人のちょうど間をすり抜けたネプテューヌが振り返りざまに奪った剣でなぎ払い。
その一撃で二人の偽物が同時に光になって消えた。
「そーれ!」
奪った剣を集団に投げる。
避けきれなかった偽物が胴を貫かれて消えた。
今度は三方向から三人。
「おりゃりゃりゃりゃー!」
それに対してネプテューヌはその場で回転しながら全ての攻撃を弾き、流し、受け止める。
「隙あり!」
首を狙った一撃をしゃがんで回避しつつ一体に足払い。
左手で浮かんだ足を掴む。
「でりゃぁぁあ!」
そのまま回転し、残りの二人を巻き込んで投げ飛ばす。
「32式エクスブレイド!」
落下地点に魔力で形成した巨剣を落とす。
爆風に巻き込まれて落下地点の近くにいた偽物達も巻き込んで消滅させた。
「いっ!?」
剣を背中に付けるように背後に回す。
直後、強烈な衝撃がネプテューヌを襲った。
左足を前に出し、なんとかその場に踏ん張る。
しかしその判断は間違いだった。
前方からもう一人。
剣はすでに振りかぶられている。
「あー……やば……」
すでに踏ん張っている足の力を抜いて移動なんて事は出来ない。
剣は背中で前に構え直す時間なんて存在しない。
苦し紛れに空いた左腕で頭を庇った。
「邪魔するよ」
不意に聞こえた声。
来るはずだった痛みは無い。
ネプテューヌがゆっくりと目を開ける。
「やれやれ……同じ顔ばっかりで気色悪いな」
つぎはぎだらけのコート。
短い黒髪。
奇妙な剣を手にした男がネプテューヌの前に立っていた。
「待たせたな」
「……おせーよタコ!……だっけ?」
その人物は間違いなくアシュレイだった。
二人が剣を構え直し、背中を合わせる。
「……ネプ公」
「ん」
「このしばらく、色々考えた」
「…………」
「考えた……けど、やめた」
「やめた?」
「何も変わってなかったんだよ」
肩越しに視線が交差する。
「俺は、俺のやりたいことをやるだけだ。俺が何なのか、なんてのは抜きでな」
「……そっか」
「けど、正直お前の前に立つのはもう飽きた」
「…………」
「だから……」
アシュレイが思う今のネプテューヌへの感情。
それはもう保護ではない。
「背中は……任せろ」
信頼だ。
「……そこまで言われちゃネプ子さんもやぶさかじゃないよ!」
二人の視線は再び前に。
もう背後を見る必要はない。
「行くぞ、ネプ公」
「行くよ、アッシュ」
二人の踵がトンとぶつかり、その足が地面に着くと同時に二人の姿がかき消えた。
「おおぉぉぉお!」
「それそれー!」
集団の中に突っ込み、剣を振り回す。
瞬く間に包囲網は崩れ、半ば乱戦のようになっていた。
「遅いっての!」
アシュレイが背後からの突きを逆手に持った剣を後ろに回して防ぐ。
そのまま足を後ろに振り上げ、上空に蹴り飛ばし。
「そらよ!」
同時に飛び上がり、龍の腕で叩き落とした。
そして剣を上段に構える。
「バーンダイブ!」
着地と同時に剣を振り下ろせば、あたりを爆炎が包んだ。
「よいしょお!」
ネプテューヌが相手の剣を上空に弾き飛ばし、武器を失った偽物を横一閃で切り捨てる。
「はい後ろ!」
剣を逆手に持ち直し、背面突き。
防ぐことも出来ず、偽物の一体が消滅した。
そこに全方位から偽物が殺到。
「ところがそう上手くはいかないんだなーこれがー!」
弾き、上空に飛ばされていた偽物の剣が落下してくる。
それを掴み、回転。
二本の剣で防ぐと同時に切る。
「んー、今度から二刀流にしようかな?」
そんなことを言うネプテューヌの周りには偽物が多数倒れていた。
「ネプ公!」
アシュレイの呼びかけにネプテューヌが振り向く。
アシュレイがネプテューヌの方にまっすぐ走ってくる。
「オッケー!」
理解したネプテューヌもアシュレイに向かって走る。
アシュレイが剣の切っ先を地面に付け、大きく一歩を踏み出すと同時にネプテューヌが跳んだ。
「そら……」
「よっと!」
ネプテューヌの下をくぐったアシュレイがネプテューヌの背後に迫っていた偽物を切り上げる。
そしてネプテューヌもアシュレイの背後の偽物を縦真一文字に切り裂いた。
「……きりがないな」
再び背中を合わせる。
「こういう偽物は、本体を倒すと全部消えるっていうのがセオリーだよね!」
「その本体はどこだよ」
「奥で動かないやつだよ!」
アシュレイが視線をずらすと、集団の奥に一体だけ孤立している個体が見えた。
「……行って!」
ネプテューヌは本体の相手をアシュレイに任せた。
つまり今二人を囲んでいる偽物達を全て自分一人で相手をするということだ。
一見無謀にも思える。
「……任せた」
「任された!」
しかしアシュレイはネプテューヌを信じる。
信じて、走る。
「さぁ来い!」
剣を構え直したネプテューヌに何度目かわからない剣が振り下ろされた。
「退け!」
目の前に立ち塞がった偽物達を切り捨てながら前に進む。
そしてようやく本体の目の前にたどり着いた。
「……悪いが、倒させてもらう」
「…………」
「何も言うことは無いってか……」
向かい合った二人が静かに剣を構える。
「…………」
「…………っ」
先に動いたのは偽物の方だ。
袈裟切り。
「ふん!」
剣を受け止め、すぐさまカウンター。
しかし相手も負けじと受け止めた。
お互いが剣を打ち合う。
それはだんだん速さを増していき、やがて剣をぶつける音が一瞬たりとも途切れることがなくなった。
そして終わりは一瞬。
「あぁ!」
「…………」
ひときわ大きな音を響かせ、衝撃で後ずさりながらも体制を整える。
「フォーム・ドライ!」
SSSが駆動。
一瞬で大鎌と変形したそれを構え、距離を詰める。
「…………」
袈裟切り、反転して殴打、抉るような切り上げ、振り下ろし、踏み込んで切る……と見せかけて刃を敵の背後に回し、引き寄せるように刃をぶつける。
緩急の激しい連撃が敵の判断力を鈍らせていった。
アシュレイの横薙ぎの一閃が受け止められる。
「かかった!」
「!?」
腕が翻る。
鎌の刃が剣を絡め取り、真っ二つにへし折った。
「フレイムリッパー!」
バックステップで距離を取りつつ、鎌を振る。
吹き出した炎が刃となり、敵に迫る。
「っ!」
もちろん当たってくれる敵ではない。
だが、これでいい。
「逃がすか!」
アシュレイの左腕が蠢く。
蔦が敵の脚を絡め取り、地面に叩きつけた。
「終わらせる……」
フォーム・アイン。
長剣に炎を灯し、アシュレイが走る。
「オラオラオラオラ!」
連撃が偽物の体を切り裂く。
そして左腕のアッパーと同時に魔法弾を放ち、上空へ。
炎の結界が広がり、敵を閉じ込めた。
「方陣……展開!」
さらに結界の周りに多数の魔方陣が生み出される。
「フォーム・ツヴァイ……」
薙刀を構え、結界の中の敵に一撃。
移動先の魔方陣を蹴ってさらに一撃。
蹴って、さらに一撃。
「おおぉぉぉお!」
結界の周りを赤い閃光が走る。
真下から切り上げ、上空で体を捻る。
フォーム・ドライ。
「デモン……」
真上に展開した魔方陣を蹴る。
「ブレイズ!」
鎌を振り抜き、地面に降り立つ。
臨界点を超えた結界は強烈な熱線を撒き散らしながら爆散した。
「……終わった……な」
残っていた偽物も動きが止まり、消えていく。
その集団の中に一人だけ立っている人物。
「……ネプ公」
「アッシュ……」
武器をしまい、お互いが歩み寄る。
「……本当にアッシュなんだよね?」
「ああ」
「本当の本当?」
「そうだよ」
「夢じゃない?」
「……さあな」
曖昧な返し。
沈黙が流れる。
「アッシュー!」
「うおぉぉおお!?」
いきなり飛びついてきたネプテューヌにアシュレイが押し倒された。
「いって……お前な……!」
「えへへー……」
「……ったく」
自分の胸に笑顔で頬ずりする少女を見て、文句を言う気も失せる。
「アッシュ」
「なんだよ……」
ネプテューヌが顔を上げ、アシュレイを見つめる。
「おかえり!」
「……ただいま」
『男』はようやく、帰る場所を見つけたようだ。
はい、あっという間にアッシュ君が復帰した第21話でした。
展開自体は悪くないと思ってるんですが、動きの少ないシーンを長々と書くのは今でも苦手です。
この話で当初から書きたかった場面をざっくりと書き終え、この物語も残すところ4、5話ほどです。
最後までよろしくお願いします。