超次元ゲイムネプテューヌ:リバース・リ・バース 作:ひきがねコート@pixiv名アスラ
「…………?」
目が覚める。
辺りを見回すが、どれだけ見ても見覚えはない。
違う。
見覚えがないのではない。
何も知らないのだ。
「気がついたようだな」
目の前から女性がゆっくりと歩いてくる。
「……私……は……」
「今は、何も言わなくていい」
その女性が自分に手を差し伸べた。
「話し相手になってくれないか?ここは暗くて寒い。それに私一人だ」
「……それが、私の役目ならば」
「役目なぞ仰々しい言葉を使うな」
そしてにっこりと微笑む。
「今日からお前は私の息子だ。お前は好きなように遊び、学び、私の知らない世界を見てこい。気が向いたら、私にその話を聞かせてほしい」
「私が……息子……」
懸命に手を伸ばす。
「私の……お母様……」
伸ばした手が、彼女の手を掴んだ。
……………………
天界。
空に浮かぶ浮遊大陸。
その一角に二つの人影が立っていた。
そこはかつて四女神が神の座をかけて戦った場所。
木は倒れ、地は抉れ、戦闘の余波かはもうわからないが、砕けた石たちがその大地を囲うように浮いていた。
「英雄の武器……二度もこの私の前に立ち塞がるとは……」
「…………」
「ちっ……自動人形なぞに任せず自分で破壊したほうが確実だったか?」
「…………」
独白のようにマジェコンヌは言葉を並べる。
それらには苛立ちがありありと浮かんでいた。
「おい」
「……如何致しましょう」
「貴様がやることはもう決まっているだろう?あのポンコツ共と違うというところを私に見せてみろ」
「……御意に」
マジェコンヌの指示に、グレイは従う。
従うことしかできないのだ。
踵を返し、グレイはその場を去る。
「……私は……どうすれば良かったのでしょうか……」
グレイの呟きを理解する者はいない。
……………………
「うまい!こんぱー、ご飯おかわりー」
ネプテューヌが空になった茶碗を掲げてコンパに意思表示する。
「ねぷねぷ、もう五杯目ですよ?食べ過ぎじゃありませんか?」
「育ち盛りだからね!あと三杯はいけちゃうよ!」
「じゃあ、ねぷねぷがもーっと大きくなるように昔話みないな山盛りにするですね」
「よろしくー!」
現在ネプテューヌたちは作戦会議も兼ねてコンパの家で少し早めの昼食を取っていところだ。
「おまたせー。唐揚げ揚がったわよー」
「おー、あいちゃん気が効くー!」
キッチンから唐揚げが積まれた皿を持ったアイエフが出てくる。
「じゃあ、わたしはレモン絞るねー。ぴゅー、っと」
皿がテーブルに置かれた直後、ネプテューヌが添えられていたレモンを唐揚げに満遍なく絞った。
それを見たブランがテーブルを叩く。
「てめぇ、何しやがる!」
「何って、唐揚げにレモンかけただけだよ。あ、もしかしてブランって、レモンそのまま食べる人だった?」
「ちげぇよ!何唐揚げにレモン絞ってんだよ!唐揚げにレモンとか唐揚げに対する冒涜以外の何ものでもねぇだろうが!」
どうやらブランは唐揚げにレモンをかけられたことがお気に召さなかったようだ。
「おぉっ!レモン絞らない派の人って実際にいたんだ!ネット以外で初めて見たかも」
「……いい、覚えておいて。レモンをかけると揚げたてサクサクの衣がしんなりしてしまうわ。それはギルティよ」
「そう?私はレモンをかけた方が味がさっぱりして好きだけど?」
「普通に食べても美味しいのですが、そのままだと少々コッテリし過ぎますしね……」
と、ノワールとベール。
この辺りで既にネプテューヌとアイエフは自分が食べる物が乗った皿を避難させている。
「ぼっちと年増は黙ってろ!」
「誰がぼっちよ誰が!」
「聞き捨てなりませんわ!歳はほとんど一緒のはずでしてよ!それに、子供みたいなあなたにだけは言われたくありませんわ」
「これ以上レモン派に唐揚げを穢される前にまとめてぶっ飛ばしてやる!」
「望むところですわ。何故、唐揚げにレモンがついてくるかも分からないようなお子様に、レモンの存在意義を分からせてあげますわ」
そう言って三人が食事そっちのけで立ち上がり、武器を構える。
もちろん英雄の武器だ。
「ベール、ここはレモンを絞る派どうし、共同戦線で行くわよ」
「えぇ。リーンボックスとラステイションの初の共同戦線ですわね」
「数じゃこっちが不利のようね……ネプテューヌ、あなたはどっちなの?まさか、レモンを絞る派ではないわよね?」
急な飛び火にネプテューヌが若干飛び跳ねる。
「ネプテューヌを引き入れようとしても無駄ですわよ、ブラン」
「さっきネプテューヌが唐揚げにレモンを絞ったことこそが、レモンを絞る派である証拠よ!」
「それのどこがレモンを絞る派の証拠だって言うの?レモンを絞る派に気を効かせて、自己犠牲の精神で唐揚げにレモンを絞った可能性もあるわ」
「あなた馬鹿なの?ネプテューヌがそんなに気が利くわけないじゃない」
「なんかの気の迷いがあったかもしれねぇだろ!」
「……なんかわたし目の前で凄い失礼なこと言われてるような気が……」
紛れもなく失礼な言葉の応酬に人知れずネプテューヌが凹んだ。
「実際のところどうなんですの、ネプテューヌ?」
「絞らない派だよな!」
「何言ってるのよ、レモン絞る派に決まってるわ。そうよね?」
「わたしは美味しければどっちでも!」
「「「あ?」」」
「ひぃ!?」
どちらにも加担しないことで事を穏便にしようとしたネプテューヌだが、どうやら逆効果だったようだ。
「テメェ、中立とかふざけてんのか!」
「唐揚げ論争は絞るか絞らないかの二つ限り……中立など認めませんわ」
「中立を通そうっていうのなら、レモンを絞らないことを認めている時点で、あなたはレモンを絞る派の敵よ!」
「こうなりゃ一人でも構わねぇ!てめぇら全員唐揚げの名の下にぶっ飛ばしてやる!」
そこにゆらりと現れる影。
ブランの肩が掴まれる。
「んだよ!こっちは今大切な話……を……」
ブランが振り向くと、そこにはとても、とても冷ややかな目をした黒髪の男が立っていた。
付けているエプロンがなんとも似合わない。
「……な、何……よ……」
「……俺が言いたいこと……分からないか?」
地の底から響くような声がアシュレイの口から発せられた。
「分からないなら……いいさ……」
するりとブランの肩からアシュレイの手が降りる。
「食事の礼儀作法も知らないような駄女神共には……きっちり教育を受けさせてやらないと……なぁ?」
鬼も裸足で逃げだすような殺気を放つアシュレイに、立ち上がっていた女神三人も腰が抜けたようにその場に座り込んだ。
「まぁ……とりあえず食えよ……冷めたり……ましてや残したりなんかしたら……食材に失礼だしな……」
「「「…………」」」
「返事」
「「「はいぃ!」」」
食事の後、ネプテューヌを除いた女神三人が正座させられたまま一時間ほどみっちり説教されたのは言うまでもない。
このことは直接の関係がないネプテューヌやイストワールたちを含めた7人のトラウマとなり、知らないのは私用で出かけていたMAGES.だけであった。
……………………
「……おお、戻ったか」
目の前の大きな扉を開けると、彼女はいつも通り大きな椅子に腰掛けていた。
こちらを見るのは一瞬。
彼女の視線はすぐさま自分の背後からついてくる人物に注がれた。
「まさか友人か?」
「あ、はい。初めまして」
「前々から付き合いはありましたが、ここに来てみたいと言ったものですので」
「あの……ご迷惑でしたでしょうか?」
「いや、むしろ歓迎したいくらいだ。人々はここを恐れて近づかないからな」
朗らかな口調でそう言った彼女に背後からほっと息を吐く声が聞こえる。
「これからもそいつと仲良くしてやってほしい。無愛想だが、お前を嫌っているわけではない」
「わかっていますよ」
彼女が手を差し出せば、背後からの足音が自分を追い抜き歩きだす。
「暇な時はいつでもここに来るといい」
「ありがとうございます」
腰まで伸びた銀の髪が麗しいその人が、彼女の手を握り返した。
……………………
「こほん……さて、お腹も膨れたところで作戦会議を始めたいと思います」
食事を終え、食器も片付け全員がテーブルに戻ったところでイストワールが音頭をとる。
議題はもちろんマジェコンヌの居場所だ。
「あのイストワールが封印されていた場所は調べたけど、あれ以来誰かが入った形跡はなかったわ」
「あそこを探す時にほとんどの場所は回りましたが、拠点らしき場所や拠点にできそうな場所もありませんでしたし……」
「マジェコンヌの居場所はもうわかっています」
「本当……!?」
イストワールの言葉に全員が驚きの声を上げる。
「彼女は、恐らく天界にいます」
「天界に?」
「プラネテューヌにある天界への転送機にログが残っていました。間違いないでしょう」
「天界への転送機……そんなものがあるのか?」
「女神様たちは普段その転送機を使って天界と下界を行き来します。ノワールさんたちには馴染み深いのでは?」
「ええ、もちろん知ってるわ」
ともあれ、その転送機を使えば天界に向かうことができるようだ。
ようやくこちらから打って出れると思った矢先のことだった。
『ハーッハッハッハッハッハッハッハ!』
「いい加減聞き飽きたっつーの……!」
このような笑い声を放つ人物は一人しかいない。
『聞こえているか、下界に巣食うゴミ虫どもが!』
マジェコンヌの声が響き渡る。
どうやらこの声は天界から下界中に発信されているようだ。
『これより、私は神の力を持って下界を消滅させることを宣言する!』
「追い詰められてる癖に、相変わらず口だけはでかいじゃない」
「ですが、追い詰められた者ほど、何をしでかすかわかりませんわ」
ベールがそう言った直後、何かが爆発したような衝撃と音が部屋を揺らす。
「こっちか!?」
アシュレイが窓を開けて外を見る。
原因はすぐ近くにあった。
ネプテューヌもアシュレイの脇から顔を出し、音の原因を見つける。
「なにこれ?隕石?」
「いや……こいつは……」
道端には中くらいの岩がコンクリートを砕き、地面にめり込んでいた。
ネプテューヌの視線は下だが、それに対してアシュレイは上を向いていた。
「……まさか!?なんと恐ろしいことを……!」
「ちょっと、何一人で納得して驚いてるのよ!」
「こいつはただの岩じゃない……」
降ってきた岩の正体。
それは天界から降り注いだ岩だった。
「恐らくマジェコンヌは天界を……天界そのものを下界に落下させるつもりです!」
「天界そのものですって!?」
「そんなことができるの?」
「女神四人の力を手に入れた彼女なら、不可能ではありません」
「つまり、この隕石の何倍も大きいのがめちゃくちゃ落ちてくるってこと!?」
「冗談じゃない!衝撃波で何もかも吹き飛ぶぞ!?」
ネプテューヌたちがパニックに陥っているのと同時刻。
ヒロムはプラネテューヌ領土の平原でクエストに勤しんでいた。
「……ったく、好き勝手言いやがって……」
モンスターの討伐を終え、武器をしまった直後にマジェコンヌの声が聞こえてきたのだ。
「にしても……これはやばいな……」
ヒロムが空を見上げる。
だだっ広い平原に視界を遮る物はない。
その様はまさに世界の終わり。
濁った空から伸びた光と、それを追いかける煙がいくつもの線を描いていた。
あの光の中には天界から落下してきた大小様々な岩が存在するのだろう。
「とりあえず、プラネテューヌに戻るか……」
ヒロムが歩き出そうと思ったその時だった。
背後から波が押し寄せるような音が聞こえてきた。
もちろんヒロムが立っている場所は平原の真ん中。
海などない。
「……い!?ちょっと待てよ!」
ヒロムがすぐさま飛翔魔法のエアログライドを発動し、その場から飛び上がる。
迫るソレを確認したヒロムは続けて高速移動魔法のアクセルダッシュを使い、ゲイムギョウ界を見下ろしながら高速で飛び回った。
「おいおい……マジかよ……」
全ての国の領空を飛び回ったが、ヒロムが目にしたものはどれも同じような光景だった。
ポケットから携帯を取り出し、すぐさまコール。
「……MAGES.!不味いことになった!」
「ヒロムか。そんなに慌ててどうしたのだ?」
MAGES.がかかってきたコールに応答すると、自然とネプテューヌたちの視線もMAGES.に移った。
「なになに?ヒロくんと話してるの?」
「……ふむ、知っている。先ほど現物を確認したところだ……なんだと!?」
MAGES.が珍しく驚きの表情を浮かべる。
「……了解した。他の奴らには私から連絡を取る……無理をするなよ……ルクス・トュネーヴェ・イメイグ・ノイタミナ・シスゥム」
いつもの別れの挨拶を交わし、携帯をしまう。
いつになく神妙な表情だ。
「ヒロムは何だって?」
「……世界各地で大量のモンスターが発生。それぞれの国へ一斉に進行を始めたそうだ」
「世界各地!?」
「なんでこのタイミングで!?」
「どうやら先ほどのマジェコンヌの言葉とこの隕石が人々の不安を煽り、モンスターの発生を促進したようですね」
モンスターはアンチエナジーの塊。
そしてアンチエナジーは人々の不安や悪意などから生まれる。
いかに女神が強かろうと、人々の心に巣食う『もしも』を消し去ることは出来ない。
「私はこれから同じ次元の仲間たちとモンスターの迎撃にあたるつもりだ」
「このモンスターの発生と降り注ぐ隕石を止めるには、マジェコンヌを倒す他ありません」
「おお!ようやく最終決戦って感じだね!」
「そうと決まれば、早速天界に行きましょ!プラネテューヌのゲートに案内して!」
素早く身支度を整えたネプテューヌたちがコンパの家を飛び出す。
目指すは、プラネテューヌ教会。
……………………
静かながらも平和な日々。
それは突然終わりを告げた。
「女神様!モンスターを生み出して人々を襲わせてるなんて嘘ですよね!?」
扉を開けて早々に銀の髪の彼女はそう言った。
「…………」
「女神様……」
「今すぐここから出て行け。そしてこれ以上私に関わるな」
「……嫌です」
「……私の制御下を離れたアンチエナジーが結晶化し、モンスターとなった。元を正せば私が引き金なのだ」
「だからって……あなたが全部責任を背負うなんておかしいですよ……」
二人は俯き、会話も途切れる。
モンスターの原因がわかった途端、あれほど争いあっていた四女神は急に一致団結。
お母様を討伐すると大々的に宣言したのだ。
女神は自分の国のから勇者なる人物を選び出し、女神の力を分け与えたらしい。
自分も含めてこちらは二人。
絶望的な状況だった。
こちら側から下界へのアクセスを遮断して時間を稼いでいるが、長くは持たないだろう。
「……私も戦います」
「馬鹿を言うな。負け戦に手を貸すなど……」
「構いません!」
しかし彼女は食い下がった。
「私は女神様の力になりたいんです!お願いします!」
「…………」
「…………」
「……いいだろう」
お母様の手から光が放たれ、それが彼女の体に吸い込まれる。
「私の力の一部だ。お前に渡しておく」
「……必ず返します」
彼女の目には、絶望は浮かんでいなかった。
……………………
「ちーっす!おっひさー」
教会の扉を開けた直後、ネプテューヌがフランクな挨拶をする。
「ああっ!き、君は……!」
「どーもー!プラネテューヌの女神、パープルハートことネプテューヌでーっす!ちょっと天界へのゲート借りるねー」
「あんたはふざけてないで、早く先にいく!」
アイエフがネプテューヌの首根っこを掴んで奥へと進んでいった。
イストワールに案内されるまま教会の扉を開けていく。
やがて中央に魔法陣が設置された部屋にたどり着いた。
「これが天界と下界を繋ぐゲートです」
イストワールがゲートの近くにある端末を操作し始める。
「…………」
「イストワール?」
「ダメです……天界側からアクセスをカットされているようです」
「ちょっと!それじゃあ天界に行けないじゃない!」
ノワールが叫ぶ。
天界側からアクセスをカットできるならプラネテューヌ以外の国も同じだろう。
これで天界への道は断たれてしまった。
「困りましたわね……」
「みんな、死んじゃうんですか……もうどうにもならないんですか……?」
「コンパ……」
「話は聞かせてもらった!」
「下界は滅亡する?」
「縁起の悪いことを言うな……」
扉を開けてやってきたのは以前から世話になっている教会職員だ。
「あなた、ここの人よね。私たちになんの用かしら?」
「のんびりしている暇はないの。用件があるなら早くして」
「は、はい。ゲートが使えないのであれば、かつて四英雄が天界に行くのに創りだした道……虹の橋を使うというのはどうでしょう?」
「そうですよ、その手がありました!」
虹の橋。
かつて四英雄が悪の女神のいる天界へ渡る際に使ったものらしい。
「問題は今も使えるかどうか……」
「既に教会のものが遺跡のシステムも作動すべく準備しています。あとは、鍵さえ揃えば動いてくれるはずです」
「鍵、です?」
「ロリっ子……じゃない。パープルハート様、これを……」
「え、なにこれくれんの?ありがと!」
教会職員が差し出した刀をネプテューヌが受け取る。
鞘から柄を引き抜けば、乾いた音と共に鍛え上げられた鋼の刃が顔を出した。
埃一つない刀身が鏡のように照明の光を反射している。
「遺跡より天界に虹の橋をかけるための鍵となるのは四英雄の武器です。そして、マジェコンヌを倒すのにも必要だと知り、至急ご用意しました」
「つまりこれが英雄の武器って訳か」
アシュレイがふと横を見ると、イストワールが頭を抱えていた。
「まさか……」
「数百年以上前の武器が使い物になるはずがないからね。他の女神様たちの武器同様、パープルハート様に合うように打ちなおしたんだ!」
「……やっぱりな」
何故そのままの形で保存しておけなかったのか。
理解の追いつかないアシュレイとイストワールが溜め息を吐いた。
「ともあれ、これで天界に行けるって訳だな」
「はい。それでは、さっそく遺跡に向かいましょう!」
四つ目の英雄の武器を手に入れたネプテューヌたちは教会を後にする。
目的地である遺跡はプラネテューヌの近郊に存在し、移動にそれほど時間はかからなかった。
中に入り先に進むと、すぐに行き止まりにたどり着いた。
「ここです。ここから四英雄と先代の女神様は天界に向かったのです」
「けど、行き止まりだよ?天界にはどうやって行くの?」
「……四方の壁に大きなへこみがあるわね。もしかして、ここに四英雄の武器をはめ込むんじゃないかしら?」
「……ちょっと待て。はめ込んで認証ってことは……」
「はい。もはや面影がなくなってしまった武器では、はめ込むことも無理だと思います」
ここにきて形を変えたことの弊害が出てきた。
ここが無理なら本当に道は閉ざされてしまう。
「無理矢理はめ込むしかないんじゃない?」
「そんな無茶苦茶な……」
「なら、今の形に合うようにくぼみを大きくするだけ」
「頼むからやめろ……壊れでもしたら一発アウトだぞ……」
「ダメで元々。可能性があるなら試してみる価値はあるはずよ」
無理を通せば道理が引っ込む、と言わんばかりの女神たち。
そもそも今困っているのはその女神たちのせいだということには気がついていないようだ。
「で、イストワール。どこに何をはめ込むんだ?」
「……まず、北の壁に英雄の槍を」
「わたくしですわね!」
「違います!この場合は英雄ハイブリッジの連槍ですから、ブランさんの武器です!」
「あら、そうでしたわ……おほほほほほほ……」
意気揚々と出てきておいて勘違いだったということにベールが若干顔を赤らめながら後ろに下がる。
代わりに出てきたブランがハンマーと化した槍をくぼみに……。
「イストワール、はめたわ」
「今、変な音がしませんでしたか?」
「気のせいじゃないかしら」
「何故目を逸らすんですか……えと、次は東の壁に英雄マウスロープの双式巨銃を」
「次は私の番ね!……けど、元々銃だったくぼみにどうやってはめようかしら?」
英雄の銃は元は二丁の拳銃だったようで、どう考えても剣がはめ込めれるようなくぼみではない。
「ノワールさん。くれぐれも無理なはめ方はしないようにお願いしますね」
「大丈夫よ、こうやって……」
ノワールが慎重に刃を掴み、柄をくぼみに押し込む。
奇跡的にくぼみと柄の幅が同じだった為、はまるにははまった。
「側から見ると壁から剣が突き出ていて非常に危ないんですが……まぁ、いいとしましょう。次は、南の壁に英雄ツイーゲの大賢弓を」
「だと思って、既にはめてみましたわ。ほら、ぴったりですわ」
「ベールさんなにやってるんですか!?」
イストワールの視線の先には弓の形に合うようにはめ込まれ、ありえないほどしなった槍があった。
これで折れないのは流石腐っても英雄の武器といったところか。
「最後はわたしの番だね!」
「ネプテューヌさん、くれぐれも無理なはめ方だけはしないでくださいね?」
「大丈夫!だってほら!カリカリ削って刀の形にしておいたもん!」
「それが無理なはめ方だっつってんだよ馬鹿ネプ公!」
「あいだー!?」
「あぁ……神聖な遺跡の壁になんてことを……」
嘆くイストワールの後ろでネプテューヌがアシュレイから拳骨をもらう。
多少、というより問題しかなかったが、なんとか全ての武器をはめ込む事ができた。
「……色々納得できませんが、天界に向けて虹の橋をかけてみます」
「……頼む」
イストワールが部屋の中央で目を閉じる。
「古の英雄たちよ……いざ、神界への扉の封印を解き放ってください!」
すると部屋から湧き出した光が空へと伸びていく。
それは雲を突き抜け、光の軌跡は虹となった。
まさに虹の橋だ。
「これで天界への道は開かれました。よかったです……」
イストワールがほっと胸を撫で下ろす。
不安要素まみれだったが、なんとかなって安心したようだ。
「……それじゃあ、わたしたちはここまでね」
ネプテューヌたちが虹の橋に足を掛けようとしたところで不意にアイエフがそう言った。
「え?あいちゃん、ここまでってどういうこと?」
「そのままの意味よ。正直、わたしとコンパはアッシュみたいに特別な能力を持ってる訳でもなければ英雄の武器を使える訳でもないしね。足手まといになるだけよ」
「少し前から、あいちゃんと一緒に決めてたです」
どうやらアイエフたち二人は地上に残り、天界の戦いには参加しないようだ。
「けど……」
「あーもー!決まったことをうじうじしない!わたしたちは地上であんたたちを待つ!あんたたちは天界でマジェコンヌをぶっ飛ばす!簡単なことでしょうが!」
「あいちゃん……うん、わかったよ!」
「ねぷねぷ、頑張ってくださいです!応援してるです!」
「ありがとう、コンパ!」
二人ににっこりと笑ったネプテューヌが踵を返す。
「……それじゃあ、行こっか!ゲイムギョウ界を救うために、天界に!」
6人が虹の橋を登っていく。
ネプテューヌたちの姿はあっという間に見えなくなった。
「……それじゃ、わたしたちも準備を始めましょうか!」
「はいです!」
それを見送った二人も遺跡を後にする。
二人にはまだやることがあるのだ。
……………………
目を逸らしたかった。
目は逸らせなかった。
「う……あ……」
「ぐ……げほっ……」
彼女が切られたのとお母様の胸が貫かれたのはほぼ同時だった。
剣が引き抜かれ、お母様がその場に倒れる。
「……哀れなものね」
血に濡れた銀の髪を見下ろしながら紫の女神が呟く。
「あんな奴の肩をもつからこんなことになるのよ」
「あんな……奴……?」
「これはあなた自身が招いた結果。自業自得よ」
そう言って紫の女神は彼女の血を避けるように通り過ぎる。
「自業、自得……?あなた達が来なければ……こんな……」
「わたしたちがここにいるのはあなた達が原因よ。そんなことも忘れたのかしら?」
「……何も……知らない癖に……知ろうともしなかった癖に……」
彼女が一度離した剣を握り締めた。
「パープルハート!」
「……え?」
「お前が!あの人を語るなぁぁぁあああ!!」
紫の女神は咄嗟に身を庇い、腕に大きな切り傷が刻まれる。
「貴様!」
「待って」
黒の勇者が銃を構える。
それを制止したのは紫の女神その人だった。
彼女の体がゆっくりと傾き、べちゃりという水音と共に倒れ伏す。
「女神……様……」
「お前……」
光のない目がゆっくりと閉じられ、彼女は呆気なく死んだ。
「嘘……だ……そんな……」
ずりずりと這いずりながら彼女に近付く。
彼女の頬に触れるが、既に温もりはなかった。
「う……あぁ……ぁ……」
「ぐ……おおぉぉぉおお!女神……共ぉぉぉおお!」
「みんな、こいつを封印するわよ」
立ち上がろうとするお母様の体を弾丸と矢が貫く。
膝から崩れ落ちたお母様の足元に魔法陣が現れた。
「許さん!私は!必ず貴様らを……!」
魔法陣から現れた棺桶にお母様の体が吸い込まれる。
蓋は閉じられ、何重にも巻かれた鎖を錠前が繋ぎ止めた。
そして現れた鍵は4つに砕け、女神の手に。
「……終わったわね」
棺桶が消える。
何処かに転送されたのだろうか。
銃口が頭に突きつけられる。
「おい、こいつは……」
「……放っておきましょう。こいつ一人で何が出来るとも思えないわ」
8人が歩き出し、最後尾の紫の女神が扉を閉める。
暗く寒い部屋に残されたのは自分一人だけとなった。
「…………」
冷たい肉の塊。
壊れたそれを壊れるほど抱きしめた。
静かな部屋に、小さな水滴の音がやけに大きく響く。
「…………」
「……グレイさん」
「……来ましたか」
アシュレイの呼びかけにグレイが静かに目を開けた。
はい、ついに最終決戦の地である天界に到着した第23話でした。
グレイさんの回想とネプ子たちの行動を挟みながらの進行となりました。
回想のまとめと詳しい話はまた次回。