超次元ゲイムネプテューヌ:リバース・リ・バース 作:ひきがねコート@pixiv名アスラ
天界。
虹の橋。
その終点で、男は待っていた。
アシュレイたちの方をグレイがゆっくりと振り向く。
「……この先には彼女……マジェコンヌ様がいます。彼女の元に行きたければ、私を倒してから。簡単でしょう?」
皮肉を言うようにグレイは首を傾げた。
顔は笑っているが、その笑みは酷く自嘲的に見える。
「グレイさん……あなたは何故マジェコンヌの味方をするのですか?」
「…………」
「教えてください……」
「……良いでしょう」
一つ息を吐いて、グレイは話を始めた。
「私と彼女の繋がりを話す前に、私の本当の名前を教えておきましょうか」
「本当の……名前?」
グレイは目を伏せ、自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「私の名前は『自動人形1号』。マジェコンヌ様により作られた人工生命体です」
グレイの放った言葉は、ネプテューヌたちの思考を止めるのには些か強力すぎた。
回復する前にグレイが話を続ける。
「マジェコンヌ様は私の母親同然。彼女の意思が私の意思です」
「だったら教えてください……なんでマジェコンヌは世界を?」
「……私が生まれたのは、数百年前……先代の女神が現役だった頃です」
伝承の時代をその目で見てきた男の昔話はそう切り出された。
遥か昔、世界には五人の女神が居た。
四柱の女神は世界の覇権を賭けて争い、もう一人の女神は人々の負の感情を管理していた。
四つの国が争い、それから生まれた負の感情を国を持たない女神が請け負う。
そんな奇妙なバランスで世界は成り立っていた。
成り立っているつもりだった。
簡単な話だ。
たった一人の人物が世界中の全ての人間の不幸を背負えるだろうか?
答えは非。
管理を離れた負の感情……アンチエナジーは世界に拡散。
やがてそれは集結し、実体を持った。
人知では計り知れない異形の存在。
モンスターだ。
それは世界各地で発生、国を襲い始めた。
それだけならまだ良かったのだ。
あろうことか女神はモンスターを人為的に生み出していると解釈。
大々的に『悪の女神』を討伐すると言い放ったのだ。
モンスターは悪の女神を襲わないことがそれに拍車をかけた。
降り注ぐ雨を、溢れ出した泉を止めることなど出来はしない。
噂は世論となり、世論は世界の意思となった。
悪の女神と呼ばれた彼女には友人がいた。
彼女の息子が連れてきたのだ。
友人は彼女の力になると言った。
彼女は友人に力を与えた。
その友人は英雄たちと同じく女神の力の一部を得た、いわば5人目の英雄となった。
とはいえ、多勢に無勢。
結果的に彼女は敗北。
友人は生き絶え、彼女自身も封印された。
悪の女神討伐成功の知らせは瞬く間に世界に広がり、人々の不幸を消し去った。
皮肉にも無実の罪で封印された悪の女神によって、世界は平和になった。
めでたしめでたし。
「……本当に……おめでたいですね……」
グレイがそう呟いた。
「あなた達にわかりますか?捻じ曲げられた歴史の奥底に閉じ込められた、彼女の苦しみが……!」
怒り、悲しみ、苦しみ、絶望。
全てが混じったようなグレイの表情に誰一人として言葉を発せない。
「……彼女の死と、理不尽な運命にお母様の精神は壊れてしまいました……私が封印を解いた時、既にお母様は私の知っている優しい彼女ではありませんでした」
そこにあるのは世界への絶望と女神への復讐心。
そしてその思いを晴らすための力への渇望。
「……もう一つ……聞きたいことがあります」
「……なんでしょう?」
アシュレイはプラネテューヌの地下施設でグレイを見たときから、ずっと聞きたかったことがあった。
「……あいつを……殺したのは……あなたなんですか……」
「……そうです」
「っ!」
次の瞬間には、グレイが変身したアシュレイの剣を魔力障壁で受け止めていた。
「なんの……ために!?」
「……あなたの妹は、私とお母様の友人だった女性……5人目の英雄の生まれ変わりなのです」
「生まれ変わり!?」
腹部に向かって空気砲が発射される。
吹き飛びながらも剣を突き立て、地面に一本の線を刻む。
「彼女の魂には、生まれ変わってもなお分け与えられた女神の力が宿っていました。そしてお母様はそれを望んだ。だから私は彼女を……殺したのです。魔封じの結界を使ってね」
「……全部……あんたのせいかよ……」
強く握り締められた剣がガチガチと震えている。
「……ようやく戦う気になったようですね」
グレイの周囲に六つの魔法陣が展開された。
「……やるしか、ないようですわね」
「言われなくても最初からそのつもりよ……」
ネプテューヌたちも女神化を行い、それぞれが武器を構える。
「さぁ、来なさい。手加減は……できませんよ!」
魔法陣が一斉にその矛先を向けた。
「おおぉぉぉお!」
アシュレイが突っ込み、グレイに剣を振り下ろす。
しかしそれは間に割り込んだ魔法陣に受け止められた。
「ぐっ!?」
「エナジーチェイン」
殺気を感じ、アシュレイが素早く下がる。
足元に別の魔法陣から放たれた魔法の鎖が足元に突き刺さった。
ギリギリかわしたと安堵した直後、鎖が突き刺した地面ごと引き抜かれ、そのまま岩を投げ飛ばしてきた。
急いで剣を振り岩を砕くと、次は岩の向こうから魔法の剣が飛んでくる。
アシュレイは既に剣を振り抜いており、防ぐことはできない。
「アッシュ!」
割り込んだネプテューヌが魔法剣を叩き斬り、なんとか無傷で済んだ。
バックステップで全員のところに戻る。
「一人で走らないで!わたしたちがついてるから!」
「……悪い」
ネプテューヌの言葉に頭に登った血を下ろす。
次にアシュレイが前を向いた時、グレイの目の前で四つの魔法陣が円を描くように回転しているのが目に入った。
「来るぞ!」
「カエルム・ルーメン」
四つの魔法陣から巨大な光線が発射される。
全員が素早く真横に飛び、攻撃を回避。
同時にグレイを挟み込むように動く。
「ブラン!」
ベールとノワールが左右から切り掛かり、それを残った2つの魔法陣が防いだ。
その隙にブランがグレイに肉薄。
「懐に入りゃこっちのもんだ!」
大斧がグレイに振り下ろされる。
「ぬるいですね」
「なっ……!?」
グレイは一歩足をずらした。
その僅かな動作だけで轟音をたてながら岩盤を砕いた斧を回避してみせた。
「それ……っと!」
斧の持ち手を蹴り上げ、宙に飛ばすと同時にブランに正拳突きを打ち込む。
ブランも負けじと腕を交差させ、それを防いだ。
反動で背後に飛ばされる。
「ほら、忘れ物ですよ!」
グレイが落下してきた斧をさも当然のように掴み、ブランに投げ返してきた。
避けようと動くブランを2つの魔法陣が挟む。
「っ!ちっくしょお!」
それぞれ魔法陣から二本の鎖が伸び、四肢を絡め取った。
強制的に大の字に開かれたブランに回転する斧が迫る。
「ちぃ!」
アシュレイが龍の腕をブランの前に差し出し、斧を自ら受け止めた。
刃が肉を裂き、骨を打つ。
「ぐ……ぅ……!?」
「アッシュ!」
「……っらぁ!」
ブランが自力で鎖を引きちぎり、四人がアシュレイのカバーに入った。
その五人を魔法陣が取り囲む。
「っ……タスク・ファイアウォール!」
「ジャックフロスト」
アシュレイの声にノワールが剣を地面に突き立てる。
魔法陣から液体窒素が噴射されるのとネプテューヌたちを炎の壁が取り囲んだのはほぼ同時。
触れるものを全て凍てつかせる冷気に炎が勢いを弱めていく。
「はぁ!」
ベールが槍を振るう。
突風に押し出された炎の壁が火力を増し、急激にその範囲を広げた。
一気に押し返す。
「ふむ……」
グレイは正面に魔力障壁を展開。
難なく迫る火炎を凌いだ。
一旦魔法陣を自身の周囲に呼び戻す。
「ふっ……あぁっ!」
アシュレイが左腕からブランの斧を無理矢理引き抜く。
斧を手放し、血の溢れ出す腕を抑えると、ゆっくりとだが、血はその勢いを弱めていった。
細胞変異の力で治癒力は増加しているものの、傷は深い。
「すまねぇ、アッシュ……」
「っはぁ……そういうのは、後にしろ……」
「強い……ですわね」
「でも、ここで止まるわけにはいかないわ」
「……お前らに、頼みがある」
グレイが軽く腕を振るうと六つの魔法陣が組み合わさり、一つの大きな魔法陣となった。
「ファントムブレード」
巨大魔法陣から無数の剣が射出される。
「……頼んだ!」
五人が左右に分かれて走り出す。
グレイは魔法陣を回転させ、片方を追いながら剣を打ち続ける。
「オラァ!」
「はあぁ!」
グレイが射出を停止、分解した魔法陣の内2つを背後に回す。
斬りかかってきたブランとノワールの攻撃を容易く受け止めた。
「やぁあ!」
「せぇい!」
今度は前からベールとネプテューヌ。
これも防がれる。
「おおぉ!」
ネプテューヌたちに反撃をしようと動いていた残り2つの魔法陣が突如軌道を変えた。
アシュレイの龍と化した両腕が受け止められる。
左腕の傷が開き、血が噴き出そうと構わず力を込める。
「ぐ……おおぉぉぉお!」
「……シャドウサーヴァント」
ネプテューヌたちの攻撃を受け止めていた魔法陣が衝撃波を放ち、四人の体を後方に飛ばした。
そのまま地面へと張り付いた魔法陣からズルリと黒い何かが伸びる。
粘土のように形を変えていき、黒はグレイの姿を取った。
「へっ、こいつらがわたしたちの相手ってか!」
「アッシュ!後は任せるわ!」
ネプテューヌたちが目の前に現れた幻影と戦闘を開始する。
「さて……」
呟いたグレイがアシュレイを抑えていた魔法陣からも衝撃波を放った。
後ろに下がりながら腕を元に戻し、剣を構え直す。
「これで、二人きりですね」
「…………」
遠、中距離はグレイの独壇場。
かといって体術にも優れるグレイに接近戦では先ほどのように返り討ちに遭いかねない。
だからこそ、グレイの動きを身をもって知っているアシュレイが前に出てきたのだ。
残った2つの魔法陣がグレイの背後へ移動する。
「昔を……思い出しますね」
「……あの頃から、何も変わらない」
左腕の痛みは忘れた。
目の前の男だけに全神経を集中させる。
「さて、始めますか……」
「倒す……何がなんでも……!」
同時に二人が動きだした。
「はぁぁぁあああ!」
グレイに剣を振り下ろす。
リーチは得物を持っているアシュレイの方が上。
グレイの手足が届かない距離をキープする。
「ライトニングボルト」
攻撃を回避していたグレイが不意に呟いた。
反射的に横に飛ぶ。
先ほどまで立っていた位置に巨大な雷が降り注がれた。
「剣は上達したようですが、これはどうですか?」
上空の魔法陣が続けて雷を落としながらこちらに近づいてくる。
アシュレイは一旦離れ、グレイの周りを時計回りに走り、雷から逃げる。
「……っ!」
小さく息を吐き出し、足に力を込めた。
一気に距離を詰める。
「せぇい!」
「見え見えですよ」
着地と同時に右上から剣を振り下ろすが、グレイは難なく回避。
勢いを利用し、そのまま左の回し蹴りを放つ。
「遅いですね」
左腕であっさりと受け止められた。
だが、それでいい。
剣を地面に突き刺し、三本目の足とする。
右足が浮き上がり、狙うのは顔。
しかしそれにさえ反応したグレイの頭が後ろに下がる。
「おっと!?」
靴に仕込まれた刃が伸びる。
グレイの体が弾かれるように背後に離れた。
手放され自由になった左足、空を切った右足の順番に着地。
腰を捻り、剣を投げつける。
「へぇ、やりますね!」
回転する剣の柄を正確に掴んだグレイが剣をそのまま投げ返してきた。
アシュレイも同様に剣を掴み、再びグレイに接近戦を仕掛ける。
「おおぉぉぉお!」
剣を振るい、返し、突き出し、叩きつけ、僅かな隙に正確に差し込まれる拳打をいなしていく。
「フォーム……」
突き出した剣をグレイが後ろに下がって回避。
「ツヴァイ!」
刃が伸びる。
しゃがんでかわされた。
頭上で薙刀を回し、縮こまったグレイに左斜めに振り下ろす。
「動きが緩慢ですよ!」
グレイはしゃがんだまま左手を背後の地面につき、そこを軸にするように下がった。
遠心力の乗った刃が地面に叩きつけられた衝撃で土煙が上がる。
その奥にグレイの顔が現れた。
「フォーム・アイン!」
柄を引き寄せ、薙刀を剣に戻す。
直後、剣の刀身越しに蹴りが打ち込まれ、衝撃に逆らわないように背後に飛んだ。
グレイの正面、アシュレイの足元に魔法陣が現れる。
「「フレイム……」」
打ち出した火球が空中で混ざり、激しく収縮。
開いた掌を相手に向ける。
「「イグニッション!」」
握りつぶす。
爆発的に肥大化した火球の熱線と衝撃波が辺りを支配した。
「っ!?」
息を荒げたのはアシュレイ。
煙の向こうから伸びた鎖がアシュレイの足を掴んだ。
次に自分の身に起こることを予知し、垂直に跳ぶ。
「う……おおぉぉぉお!?」
体が一気に引っ張られ、そのままグレイを中心に振り回される。
凄まじい遠心力が体を襲うが、剣だけは離すまいと力を込めた。
「さて、あなたはどうしますか?」
風の音に紛れてグレイの呟きが聞こえる。
軌道上に割り込んだ魔法陣から槍が生えた。
「マジかよ!?」
この勢いで槍に突っ込めば、確実に死ぬ。
防御は意味をなさない。
アドレナリンが湧き出し、一瞬の内に凄まじい量の情報が脳を駆け巡る。
「間に合うか!?」
思考を終え、実行に移す。
アシュレイが意を決し、自由な左足をハサミに変異させる。
そして絡め取られた自身の右足を脛から切り落とした。
トカゲの尻尾切りと同じ原理だ。
遠心力のまま打ち出されたアシュレイの股を槍の刃が通りすぎていく。
「ぐっ……」
右足の無い状況で着地など出来るわけもなく、無様に地面を転がる。
「なるほど……しかし……」
顔を上げたアシュレイの目の前にはグレイが立っていた。
顔を青くするより早く腹部に衝撃。
転がった先で、また衝撃。
「はぁ……ぐぅ……」
「ハイ・グラビティ」
「があぁぁぁああ!?」
立ち上がろうとしたアシュレイの体に強烈な重力波が襲い掛かる。
内臓が潰れ、口から血が吹き出た。
「…………」
「……これがあなたの終わり……ですか」
呆気ないものですね、と付け足したグレイの手に魔法剣が生み出される。
その矛先は未だ幻影と戦っているネプテューヌに向けられていた。
それを投げつける。
「!?」
しかしそれは直前で阻止された。
殺気に振り向いたグレイの顔面に拳が叩き込まれる。
「まだ……終わってない……!」
転がっていた右足にはいつの間にか蔦が伸びており、何処かに引きずられていく。
そしてそれは在るべき場所に戻った。
「あんたを倒すんだ……今日、ここで!」
しっかりと両足で立ち、杖にしていた剣を地面から引き抜いたアシュレイが叫ぶ。
「……良いでしょう」
グレイが立ち上がり、投げようとしていた剣を構えた。
「これで……終わりです」
お互いに正眼に構え、その時を待つ。
「……………………」
「……………………」
今。
「おおぉぉぉお!」
「はぁぁぁああ!」
刃が噛み合い、火花を散らす。
お互いに剣を弾く。
体勢が崩れたのはアシュレイ。
「トドメです!」
突き。
狙いは喉。
「そこだ!」
「なっ!?」
隙を晒したのはフェイク。
アシュレイの蹴りがグレイの剣を砕いた。
剣を掲げ、振り下ろす。
「……お見事」
そう言ったグレイは、笑っていた。
「影が……」
「消えましたわね」
ネプテューヌたちと戦っていた幻影が突如霧散。
それは戦闘が終わったことを示していた。
ネプテューヌがアシュレイと合流しようとするが、ベールがそれを押し留めた。
「はぁ……はぁ……」
アシュレイが疲労から変身を解く。
目の前には自らの師が横たわっていた。
「……私は……何がしたかったのでしょうね……」
自分の手にへばりついた血を眺めながらグレイが呟く。
「……グレイさん」
「…………」
「俺を襲ったモンスター……あいつなんでしょう?」
「……どうしてそれを?」
「……声が……聞こえるんですよ……あいつの声で……アッシュって……」
それは初めてアシュレイが変身した時に聞こえた声。
そしてアシュレイが自らの正体を明かされた時に聞こえた声。
体に響く、あの、声。
「……そう、ですね……私の知る、全てを話しましょう」
グレイの話にはまだ続きがあった。
一人残された男……グレイは封印された母親……マジェコンヌを助ける為、様々な地を転々とした。
魔術を極め、書物を片っ端から読み漁り、どんなことも全てその身に吸収した。
そして遂にマジェコンヌの封印を解くことに成功。
しかし、既にマジェコンヌはグレイの知る優しい人物ではなくなっていた。
それからグレイはひたすらマジェコンヌの手足として動いた。
イストワールを封印し、産まれたてのネプテューヌたちを高度な情報操作により仲違いさせ、守護女神戦争を再発。
エネミーディスクを作ったのも、サンジュをそそのかし、アヴニールを発足させたのもグレイだ。
全てはマジェコンヌの為。
また彼女のあの優しい微笑みを見たい。
その為にグレイは行動してきた。
とある日、グレイはマジェコンヌからある指令を受けた。
指令は、ルウィーのシェアエナジーを研究している人物を殺し、その研究物を奪うこと。
グレイはそれを実行。
しかし問題が起きた。
殺害現場を子供に見られたのだ。
研究者には娘がいた。
グレイは親同様に殺そうかと思ったが、どうしてもその少女を殺めることができなかった。
グレイは少女の記憶を消し、ルウィーから離れたラステイションの河原に捨てた。
記憶を消された少女は後遺症で精神崩壊に至ったが、そんなことはグレイにとってはどうでも良いことだ。
後に少女は街の少年に拾われ、暖かい家庭で幸せに暮らした。
マジェコンヌの計画が順調に進む中、グレイはラステイションの街で剣を振る少年を見つけた。
なんとなく、グレイは少年に剣の振り方を教える。
すると少年は自らを先生と呼び、様々な知識を求めた。
人付き合いの久しいグレイは人に教授することにのめり込み、少年に自らの長い長い旅で得た知識を伝えた。
ある日、少年が自らの妹をグレイに紹介する。
グレイは目を疑った。
その妹は、かつて自分が記憶を奪った少女だったからだ。
久々にマジェコンヌからの招集をかけられたグレイは彼女から新しい指令を受けた。
それはかつて自分たちと戦った女性の魂を持ってこいとの事。
グレイは初めて反論した。
『殺すのではなく、分け与えた力を引き出すだけではダメか』と。
グレイはすでに知っていた。
あの少年の妹こそがあの女性の生まれ変わりだと。
答えは、非。
グレイは絶望した。
絶望しながらも、彼女に従うことしかできなかった。
計画は、成功。
少女は死に、その魂の回収にも成功した。
その成果に対し、マジェコンヌはひとつ鼻を鳴らしただけだった。
グレイは悟っていた。
自分ではこの人を救うことは出来ないと。
そして、この悲しみの連鎖を断ち切ることも出来ないと。
グレイは女神の力を引き抜いた少女の魂の残りカスに新たな体を与え、野に放った。
少女はかつて生活を共にした少年とひとつになった。
当然だ。
グレイ自身が少女に頼んだのだから。
彼と共に世界を旅し、そして、この悲しみを終わらせるように、と。
少年が得たアンチエナジーを操る力は、少女の魂に残った女神の力の残滓が原因だったのだ。
「後は……あなたの知るままです」
「…………」
アシュレイは、何も言えなかった。
グレイの目から涙が流れていたからだ。
「私は……何をしてきたんでしょう……?」
その涙は贖罪。
その言葉は懺悔。
「お母様を守れず、彼女を見殺しにし、あの子の親を奪い、あの子自身さえも殺め、そして……あなたの運命さえ狂わせた……!」
涙が、流れる。
「そして今、世界さえ壊そうとしている……」
その涙も、血に食われて消える。
「私は……私は……!」
「……あなたがやったことは、間違ってたかもしれない」
その涙をアシュレイの手が受け止める。
消えないように、しっかりと。
「でも、それでも……」
アシュレイがゆっくりと言葉を紡ぐ。
「あなたは、俺の先生です」
グレイも、その言葉を静かに受け止めた。
「……あなたに、2つ、お願いがあります」
「なんですか?」
「彼女を……止めてください……悲しみを……その剣で……断ち切るのです……」
「……わかりました」
師からの言葉を、声を、胸に刻む。
「もう一つ……顔を、よく見せてください……」
血に濡れた手がアシュレイの頬に添えられた。
それを拒む理由は無い。
「……本当に……よく似ています……」
手が、滑り落ちた。
「……『アッシュ』……向こうで……待っていますよ……いつまでも……」
グレイがかつて、彼に初めて出来た友人の名前を呼んだ。
光が、放たれる。
「お別れです……」
光が収まった時、アシュレイの目の前には緑の大地が広がっていた。
彼が世界に残したものは何一つなかったが、アシュレイの心に何か、とても大切なものが新しく根を下ろした。
「…………」
「……アッシュ」
アシュレイの背後から変身を解いたネプテューヌの声が届く。
「行こう。終わらせるんだ、全部!」
「……うん!」
残すは、ただ一人。
全ては、悲しみを断ち切るために。
はい、作中に散りばめられた伏線を全て回収した第24話でした。
グレイを倒し、残るはマジェコンヌのみ。
次回が最終回となります。
お楽しみに。