超次元ゲイムネプテューヌ:リバース・リ・バース 作:ひきがねコート@pixiv名アスラ
イストワールに導かれるまま天界を走る。
「アッシュ、体は大丈夫なの?」
「もう治った。心配するな」
ネプテューヌの声にアシュレイが走りながら答える。
すでに傷は塞がり、戦闘中に傷が開くこともないだろう。
「皆さん!あそこです!」
イストワールが指差した先には幻想的な天界の風景に混ざり、無骨な洞窟が存在していた。
洞窟は入り口からすぐに階段が設置されており、あたりを照明が照らしている。
どう見ても人為的に作られた場所であることは明らかだ。
「ここに……マジェコンヌが……」
「……行きましょう」
階段をゆっくりと、慎重に下りていく。
階段を降りた先には大きな鉄の扉が待ち構えていた。
「…………」
無言でアシュレイが扉を押す。
扉はズルズルと音を立てながらも、素直にその口を開けた。
「……ここは」
「かつて、先代の女神と四英雄がマジェコンヌたちと戦った場所です」
一歩ずつ足を進める。
扉の先には、だだっ広い空間が広がっていた。
部屋の隅や天井に設置された照明以外に何、というものは一つとしてない。
「…………」
不意に、アシュレイの足が止まった。
眼下にはとても古いものだが、血痕らしきものが確認出来た。
しかしそれはほぼ周りの床と同化しており、見つけようと思わなければ見つけられないほどだ。
何故気付けたのか。
その血が這いずった先。
その奥に存在する暗がり。
「ようやくここまでたどり着いたか……待っていたぞ」
「マジェコンヌ……!」
そこには玉座に座るマジェコンヌの姿があった。
「貴様らがここに来たということは、奴は死んだか」
そう呟くマジェコンヌの言葉は酷く無感動で、他人事のような無関心さだった。
「あんたは……何も思わないのか……自分を慕ってきた……息子同然の奴が死んで……何も感じないのか!」
「知るか」
吐き捨てる。
「奴はただの駒の一つにすぎん。私の指示に忠実に従う駒だ。壊れたのなら、また新しい駒を用意するだけの話だ」
今のマジェコンヌにとって、グレイはただの道具だった。
壊れたのなら、代替品を用意するだけ。
アシュレイが拳を握り締める。
「アッシュ……」
「……マジェコンヌ!天界を落とすなんて馬鹿な真似はやめなさい!」
「ふん、やめろと言われて誰がやめるものか!」
ノワールの言葉をマジェコンヌは容易く跳ね除けた。
しかし、それはある意味ノワールにとって好都合な返事だった。
「なら安心したわ。ラステイションを無茶苦茶にしてくれた借り、今日こそ返してあげるわ!」
「アヴニールが好き勝手振舞う間、おどおどと指をくわえて見ているしかなかった非力な女神が何を言う」
マジェコンヌの挑発に、ノワールは一つ鼻を鳴らすのみ。
一歩前に足を踏み出す。
「確かに私はちょっと要領が悪かったり、不器用な感じがあるのは自分でもわかるわ。それでもね、シアンたちの為に良い国にしようって一生懸命頑張ったのは本当。そして、それはこれからも続けていくつもりよ」
ノワールの姿が光に包まれる。
背中まで伸びた白い髪。
身の丈ほどある黒い大剣。
ターコイズブルーの目には女神の証であるマークが浮かぶ。
「だって、私はラステイションの女神なんだから!」
ラステイションの女神、ブラックハート。
「はっ!口先だけは達者になったようだな」
「では、わたくしからは一言、お礼を言わせていただきましょうか」
今度はベールが前に出てきた。
「礼だと?女神の力を失ったことがバレるのを怖れ、一人閉じこもっていた臆病者のお前がか?」
「確かにあなたの言うとおり、わたくしは女神の力を失った自分を否定されるのを怖れていましたわ。臆病者と罵られるのも致し方ありません」
ベールが静かに目を伏せる。
「……ですが、女神の力を失ったおかげでわたくしはあいちゃんやコンパさん。そしてここにいるネプテューヌたちと出会い、わかり合うことができましたわ」
ベールの姿を女神化の光が包み込む。
若草色の髪。
手には緑刃の槍。
女神の証が浮かぶ紫の目がゆっくりと開かれる。
「大切な友人との出会いをくれた貴女にお礼を……そして、それを奪わせないためにも、ここで討たせていただきますわ!」
リーンボックスの女神、グリーンハート。
「それが貴様の戦う理由か?くだらん……他人など操るだけの存在だ!」
「孤独になったあなたには、もう仲間の大切さがわからないみたいね」
マジェコンヌの言葉にブランが静かに返す。
「仲間?ルウィーを奪われ、信者に偽物と罵られ、教会を追い出された貴様から、よもや仲間を説かれるとはな!」
「……起こってしまったことを、変えることは出来ないわ」
小さく息を吐き、脳裏に浮かんだ苦い記憶を追い出した。
「けど、フィナンシェやレジスタンスのみんなは、わたしをずっと信じてついてきてくれた」
ブランが女神化の光を放つ。
氷のように冷たい水色の髪。
携えるは大斧。
炎のように赤い目の奥には女神のマークが燃えている。
「どんだけ惨めになろうと、わたしを信じてくれる人がいる!それだけで命をかけて戦う理由は十分過ぎんだよ!」
ルウィーの女神、ホワイトハート。
「戯言だな……命は利用するもの。自ら命を捨てるなぞ愚かだ」
「お固いなーマジェっちは。友達とわいわいするだけでも結構楽しいよ?」
ニコニコと話すネプテューヌをマジェコンヌが睨む。
「友……そんなもの、なんの役に立つ?そんなものは自らの首を絞めるだけの存在だ!」
「うーん……まぁ、良くも悪くも友達って自分じゃないからさ……喧嘩だってするよ。急にいなくなって、悲しい思いもした……」
ネプテューヌがちらりと横に立つ友人を見た。
「けど、そういう辛いことや悲しいことも、全部みんながいるからこそのものだってわたしは思うんだ!」
「ネプ公……」
「嬉しいことも悲しいことも全部ひっくるめたのが今のわたし!昔のことは忘れちゃったけど、今のわたしには今のみんながいる!」
光の柱が立ち上る。
バイオレットの髪。
目の前に現れた大太刀をその手で掴んだ。
青い目には女神の証が輝く。
「みんなの世界を守る為に、わたしはあなたを倒す!」
プラネテューヌの女神、パープルハート。
「ふん!貴様らがどう足掻こうが、滅びから逃れることはできん!世界を滅ぼし、貴様らを滅することで私の悲願は達成されるのだ!」
「……マジェコンヌ、あなたにはもう言葉は届かないのですね」
「……哀れだな」
「何……?」
アシュレイが呟いた。
「悲しい奴だよ……お前は……」
「貴様……何が言いたい?」
「恨まれて、恨み返して、また恨まれる……そんなことを何度繰り返しても何も救われない。何も終わらない」
「案ずるな。全てはここで終わる……この世界と共にな!」
「……正義論に興味はないが、これだけは言える」
アシュレイの体にアンチエナジーが取り込まれていく。
黒い炎の中から黒髪の男が現れた。
「あんたは、間違ってる」
背負った剣を引き抜き、突きつける。
これが、最後の戦い。
「……来るが良い!」
「あんたの悲しみ……俺が……俺たちが断ち切る!」
剣を胸の前まで引き戻し、同時に駆ける。
彼我の距離は瞬く間にゼロとなった。
「はぁぁぁあああ!」
アシュレイの剣とマジェコンヌの槍が噛み合う。
そのまま得物を打ち鳴らし、火花を散らす。
「ぬん!」
不意に放たれた掌底を剣の腹で受け止めた。
その反動で後ろに下がると同時にノワールとベールが前に。
「はぁ!」
「遅い!」
ベールの突進をいなしたマジェコンヌの頭上に影が射す。
特大の炎を蓄えた剣を振りかぶったノワールがそこにいた。
「ヴォルケーノダイブ!」
剣が地面に叩きつけられると同時に強烈な爆風が辺りを襲う。
マジェコンヌは魔力障壁を展開。
衝撃を和らげつつ追撃を回避した。
「見えているぞ!」
障壁を背後に回す。
回り込んだブランが斧を振りかぶっていた。
「ナメんな!」
振り抜いた斧は障壁と激突し、砕き割る。
「ちぃ!」
「せぇぇぇええい!」
直後、マジェコンヌの腹にネプテューヌの飛び蹴りが刺さった。
吹き飛ぶマジェコンヌを先回りし、剣を構える。
「ビクトリィー……スラッシュ!」
渾身の一撃がマジェコンヌの体を捉えた。
さらに吹き飛び、地面に叩きつけられる。
「……今のは、痛かったぞ」
そして何事もなかったかのように立ち上がった。
「そんな……効いてないの!?」
「言っただろう、痛かったと」
そう言うマジェコンヌの体に刻まれた傷を黒い何かが覆う。
それが消えた時、そこにあったはずの傷はなくなっていた。
「再生した!?」
「おそらくあれは、アンチエナジーの力です!」
「だったら再生出来なくなるまで叩くだけよ!」
ノワールが一人マジェコンヌに突進していく。
「だが足りない……」
「レイシーズダンス!」
マジェコンヌは初動のサマーソルトを飛んで回避。
ノワールも追いかける。
ハイキックは逸らされたが、続く回し蹴りがマジェコンヌの槍を弾き飛ばした。
「もらった!」
ノワールが剣を振るう。
響いたのは金属音。
「足りないぞ」
「……え?」
マジェコンヌが手にしていたのは、黒い大剣。
ノワールの手に握られている物が、マジェコンヌの手にもあった。
呆気にとられているノワールの腹にマジェコンヌのつま先がめり込む。
「がふ……」
天井に背中を打ち、そのまま落下。
その下には剣を掲げたマジェコンヌ。
「落ちろ!」
剣を叩きつけられ、ノワールの体が弾丸のように弾かれる。
「ノワール!」
飛んできたノワールの体を偶然近くにいたアシュレイが受け止めた。
「おい、大丈夫か!」
「けほっ……大丈夫、じゃないわよ……!」
「ンの野郎!」
ブランが手から複数と魔法弾を生成。
「ふん」
それを見たマジェコンヌの剣が光を放ち、形を変える。
今度はブランの斧になった。
同じく手から魔法弾を生み出す。
「打ち砕け」
「ゲフェーアリヒシュテルン!」
全く同時に同じフォームで魔法弾を打ち出した。
空中でぶつかりあったそれが冷気の爆風を放つ。
「ぐっ……押し負けた!?」
明らかに爆風はブランの方に傾いていた。
青白い冷気を突き破り、マジェコンヌが現れる。
「っ!?」
「油断はいかんな」
ブランが斧を凪ぐが、それを見透かしたようにマジェコンヌはしゃがんで回避。
「吹き飛べ!」
そのまま斜め下から抉るように斧が振られる。
わき腹にめり込み、飛ばされた勢いのまま壁にクレーターを作った。
「はぁぁぁあああ!」
背後からベールが槍を突き出す。
その一撃は同じ槍で弾かれた。
「くっ……レイニーラトナピュラ!」
お互いが高速で槍を突き出す。
触れるのは切っ先だけ。
鏡に攻撃しているように正確に防がれる。
「遅いな」
その内の一発。
マジェコンヌは僅かに刃を下にずらし、突かれると同時に跳ね上げる。
「なっ!?」
たったそれだけでベールの槍を止めた。
頭上で槍を回し、遠心力のまま無防備なベールのわき腹に芯を叩きつける。
「ぐ……う……!」
弾き飛ばされ地面を転がったベールに追撃しようとしたマジェコンヌが足を止めた。
「やぁ!」
「はぁ!」
「やはり来るか……」
マジェコンヌが振り返り、右手に紫の太刀。
左手に再び黒の大剣を呼び出す。
それらでアシュレイとネプテューヌの剣を受け止めた。
「くっ……なんてパワーなの……!?」
「言った筈だ。私は貴様らの力をコピーし、女神をも超えたと!」
腕を振るい、二人を弾き飛ばす。
「猿が人間に勝てると思うか!?」
マジェコンヌが一瞬で距離を詰め、三人が剣を打ち合う。
二体一にも関わらず、押しているのはマジェコンヌ。
「貴様らは私にとって……」
再び弾き飛ばされた。
マジェコンヌが二本の剣を腹の下で交差させる。
「ただの小賢しい猿に過ぎん!」
それを振り払えば、放たれた光の刃が二人を飲み込んだ。
「ふん、他愛ない」
静かになった部屋を見渡しながらマジェコンヌが玉座へ歩く。
中断していた天界落としを再開するつもりだ。
「……まだ生きていたか」
マジェコンヌが振り返ると、そこには瓦礫をどかしながら立ち上がるネプテューヌとアシュレイの姿があった。
「誰が……死ぬかよ……」
「わたしたちは、自分の為に戦ってる訳じゃないわ」
ノワールが剣を杖に立ち上がる。
「私たちの背中には、下界の……ゲイムギョウ界のみんなの命が掛かってるのよ!」
ブランが壁から体を引き抜き、ふらつきながらも立ち上がったベールの隣に立つ。
「彼らが、わたくしたちの背中を押してくれる……」
「これじゃあ、死んでも死に切れるかっての!」
全員が再び武器を構えた。
「負けられない……意地があるんだよ!」
「……ならば、何度でも殺してやろう!」
マジェコンヌが走る。
狙いはブランとベール。
「ぬん!」
左手の大剣がブランの斧と噛み合う。
続けて右の太刀。
「させませんわ!」
「バレているぞ!」
太刀を背中に回し、背後からの槍の一撃を防ぐ。
そのまま回転切りで二人を弾き飛ばした。
「シレットスピアー!」
マジェコンヌが魔法陣を展開し、ベールに向けて魔法の槍を打ち出す。
それを間一髪回避したベールは自身の槍をマジェコンヌに向かって投げた。
「どこを狙っている!」
しかしそれはあっさりとかわされてしまう。
武器を失ったベールにマジェコンヌが迫る。
「終わりだ!」
マジェコンヌが太刀を突き出す。
「それは……」
目を閉じ、一歩を踏み出した。
刃が肩を抉るが、怖れず進む。
「どうでしょう!」
更にもう一歩。
懐に入り込み、踏みしめると同時に背中を押し当てる。
鉄山靠。
「ぐおぅ!?」
鈍い音と共にマジェコンヌの体が後ずさる。
背後から殺気。
「どぉりゃぁぁあああ!」
ブランが斧を振り下ろす。
左手の大剣で受け止め、反撃の右が迫る。
「ベール!」
ブランの左手が翻る。
マジェコンヌの太刀が弾き飛ばされた。
「確かに受け取ったぜ!」
ブランの左手には先ほど投げたベールの槍が握られていた。
そのまま剣一本となったマジェコンヌに連撃を浴びせる。
「こいつで……」
斧を振り上げる。
ガードの上からマジェコンヌの体を強引に空中へ跳ね上げた。
斧を投げ捨て、槍を構える。
「どうだぁぁぁああ!」
放たれた槍が剣を砕き、マジェコンヌの腹を貫いた。
「が……ぐふっ……!」
着地と同時に血を吐く。
腹には風穴が空いていたが、それもすぐにアンチエナジーの集合体が埋め尽くし、修復を始めた。
「タスク・ディザスター!」
アシュレイの声。
「行くわよ、ノワール!」
「ヘマしないでよね!」
ネプテューヌとノワールがマジェコンヌに連続攻撃を仕掛ける。
「なめるなぁぁぁああ!」
マジェコンヌは二本の剣を再召喚し、それを迎撃。
「はぁぁぁあああ!」
「ぬ……ぐぅ……!?」
先ほどのダメージが残っているのか、マジェコンヌが徐々に押し負けていく。
「もらった!」
ネプテューヌが剣を弾き、その一瞬の隙にノワールが蹴りを見舞った。
「おおぉぉぉお!」
「せやぁぁぁああ!」
三人が剣撃波を放つ。
衝突した剣撃波はマジェコンヌのそれを飲み込み、マジェコンヌに斬撃痕を残した。
「アッシュ!」
「終わらせるぞ!タスク・ミッシングパープル!」
二人がマジェコンヌへと走る。
「オラオラオラオラ!」
電撃を纏ったアシュレイの連続切りがマジェコンヌを捉えた。
「ネプ公!」
一瞬で背後に回り、掌底でマジェコンヌの体を吹き飛ばす。
そこをネプテューヌが飛んできたマジェコンヌをかち上げ、結界に閉じ込めた。
「これが、わたしたちの全力よ!」
そのまま高速で斬撃を浴びせる。
「行きなさい!」
ネプテューヌの締めの一撃がマジェコンヌの体を真上に吹き飛ばす。
天井を砕き、外に出た。
「これで……」
ネプテューヌも飛び上がり、マジェコンヌを追撃。
更に上空へ。
ラストに高く打ち上げる。
「トドメだぁぁぁああ!」
そこに先回りしたアシュレイが真っ直ぐに剣を振り下ろす。
流星のように落下したマジェコンヌは地面を削り、やがて止まった。
「はぁ……はぁ……」
アシュレイとネプテューヌの後を追って、ブラン、ベール、イストワールの三人も地上に上がってくる。
「……ぐ……がはっ……!」
これだけのダメージを受けてなお、マジェコンヌは生きていた。
とはいえ、最早まともに動ける体ではなく、回復も追いつかない有様だ。
「何故だ……女神を超える力を得た私が……何故負ける……!」
「マジェコンヌ……もう、良いだろう?」
アシュレイが剣を下ろす。
「お前の負けだ……もう、戦う必要はない」
「なんだと……?」
「俺たちを……女神を……世界を壊したって、きっとお前は何も救われない……」
そして手を差し伸べた。
「もう、何も壊さなくても良い……誰かを恨むこともない……それで良いじゃないか……」
「……………………」
「頼む。この手を取ってくれ」
全ては、悲しみを断ち切るため。
彼が望んだことを、アシュレイは彼女に申し出た。
「……フフフ……」
マジェコンヌが柔らかく笑い出す。
「ハ、ハハハ……」
そしてそれは
「ハーッハッハッハッハッハ!!」
狂気を帯びていた。
「っ!?」
「アッシュ!」
ネプテューヌの悲鳴にも似た叫びにアシュレイが手を引く。
手の平に熱が走った。
「何も壊す必要はない!?誰も恨む必要もない!?誰も救われない!?」
マジェコンヌの手にした剣にはアシュレイの血が滴っている。
「元より私は救いなど求めていない!否!救われる者など存在する必要もない!」
狂気に飲まれたマジェコンヌが叫ぶ。
「女神を殺し!人間を殺し!世界を殺し!私自身をも殺す!その為に私は全てを投げ打ったのだ!」
「歩み寄る気は……分かり合う気はないのか!」
アシュレイの言葉はマジェコンヌの耳に届かない。
届く筈もない。
「貴様らに……究極を見せてやろう!さぁ、這いずれ!恐れよ!幕切れだ!」
マジェコンヌの体におぞましい量のアンチエナジーが吸い込まれていく。
「ぐ……おおぉ!?」
急な突風に押し出され、地面を転がった。
「……おい、なんだよ……これ……」
「これが……マジェコンヌ……なんですの……?」
「マジェコンヌ……あなたは人の姿すら捨て去ろうというのですか……?」
黒い霧が晴れた時、そこにいたのは先ほどのマジェコンヌとは似ても似つかない存在だった。
頑強な黒い皮膚に、巨大な爪と翼。
体の節々には赤黒い角が突き出し、その姿はドラゴンに見える。
しかしそれから発せられるプレッシャーは次元が違う。
「グオオォォォオオ!!」
「ぐ……クソ……!」
アシュレイが剣を構える。
構えたつもりだった。
「はぁ……ちっくしょ……!」
手にした途端に剣は手から滑り落ちた。
もう限界だった。
振り返れば、他の四人も女神化を維持するだけで精一杯。
とても戦える状況ではない。
「……こんなところで……終わりかよ……」
諦めたようにアシュレイが膝を突く。
すると眠気が襲ってきた。
「悪い……もう……無理だ……」
それに逆らうことなく、アシュレイは静かに目を閉じた。
「それじゃあ、行くですよー。さん、にー、いち……こんぱー!」
不意に聞こえた声に、アシュレイの意識が一気に覚醒した。
顔をあげる。
「はーい。みんな、盛り上がってる?今回限りの生放送、コンパの部屋の時間よ!」
「コンパに……アイエフ?」
「進行はプラネテューヌの看護学生、コンパとわたし、ゲイムギョウ界に吹く一陣の風、アイエフでお送りするわ」
そこにはカメラの前で笑顔を振りまくコンパとアイエフの姿があった。
カメラを持っているのはアイエフの友人だろうか?
視線が合うと、コンパが手を振った。
どうやら幻覚ではなさそうだ。
「わたしたちは今、女神様のお家……天界に来てるです!」
「さぁ、よーく見ておきなさい。これが今ゲイムギョウ界を滅ぼそうとしてる存在よ!」
カメラがマジェコンヌを捉える。
生放送と言っていたということは、今下界ではこの醜悪なマジェコンヌの姿がお茶の間のテレビに映っているということになる。
「そして、この化け物と戦うのは我らが四女神と……えーと……勇敢なる若者!」
「みんな怪我してるです!」
「けど、五人は絶対こいつに勝つわ!テレビの前のみんな!自分の信じる女神様を信じてあげて!」
「……好き勝手言いやがって……」
ヒーローショーか何かと勘違いしているんじゃないかと思うアイエフの言葉で少しだけ気が紛れた。
しかしそれはアシュレイの気を紛らわせるだけでは終わらなかった。
「これは……!」
イストワールが声をあげる。
五人が顔を上げると、いつの間にか自分たちがいる浮島を虹色の幕が包み込んでいた。
ネプテューヌたちが立ち上がる。
「凄い……内から力が漲ってきますわ……!」
「いーすん、これは?」
「これはシェアストリーム。高密度のシェアが幕のようになる現象です」
「そんなこと、ありえるの?」
「理論上は不可能ではありませんが……まさかこの目で見られようとは……」
「これなら、誰にも負ける気がしねぇぜ!」
四女神が再び武器を構えた。
シェアの量は衰えるどころが更に増え続けている。
「ガ……グゥ……オ……!」
逆にマジェコンヌは苦しそうに声をあげた。
アンチエナジーがシェアエナジーとぶつかり、お互いに相殺しあう。
「……それじゃ、ここで中継と繋いでみましょうか!」
「中継のヒロムさーん!出番ですー!」
アシュレイがポケットから携帯を取り出し、テレビと繋いだ。
丁度画面が切り替わり、ヒロムが写し出されたところだった。
『……えーっと?もうこれ撮れてんの?……あ、マジで?はい、中継のヒロムでっす!』
「ヒロム、今何処にいるの?」
『俺は今、プラネテューヌのプラネタワー前広場にいまーす!教会からあぶれた人でいっぱいだぜ!』
ヒロムが一歩横にズレると、尋常じゃない量の人が集まっていた。
「それじゃ、現地の人たちの言葉を聞かせてちょうだい」
『了解!ネプ子……じゃなかった、パープルハート様たちに一言!』
『パープルハート様!頑張ってください!』
『あんな奴に負けないで!』
『早く帰ってきて、またうちのプリンを買って頂戴ね!』
ネプテューヌへの応援の言葉が電波に乗って天界に響く。
しかしそれだけではない。
『実は俺、パープルハート様よりブラックハート様の方が好きでしたー!』
『私、グリーンハート様のファンになります!』
『ブランさーん!俺を殴ってー!』
『うおぉぉお!みんな頑張ってくれー!』
プラネテューヌから自国以外の女神を応援する声さえ聞こえてきた。
『あの……!』
『ん、何だいお嬢さん?』
不意に女の子がヒロムに話しかけてくる。
『えっと……女神様と戦ってる男の人の名前ってわかりますか……?』
『当然知ってますとも!あいつの名前はアッシュだ!』
『ありがとうございます……』
改めて女の子が赤い顔でカメラの方を向いて一言。
『あ、アッシュさん!頑張ってくらひゃい!……く、ください!』
それだけ言った女の子は逃げるように人混みの中に飛び込んだ。
『……アッシュとかいう奴!負けたら承知しねぇぞ!』
『四女神の中に一人だけ男かよ!末長く爆発しろ!』
『アッシュ!絶対に勝ってくれよ!』
『お前が!お前たちが!俺たちの最後の希望だ!』
《アッシュ!アッシュ!アッシュ!アッシュ!》
鳴り響くアッシュコール。
携帯をしまい、立ち上がる。
いつの間にかアシュレイの体はほのかに光っていた。
「……暖かい」
「アッシュ!?それは……!」
「アッシュさん、もしやあなたは!」
地に落ちた剣がゆっくりと浮き上がる。
「……刮目しろ……これが俺の!変身だ!」
アシュレイの体が光の球に包まれた。
その光は分裂し、形を変える。
銀に染まったコートと剣。
傍にはプロセッサユニットが浮かぶ。
青い目にスタート、そして再生と呼ばれるアイコンを模した光が現れた。
「アッシュが……女神化した!?」
「いえ、これは女神化ではありません!前例がないので何が違う、とは言えませんが……」
姿は男のまま、全身を銀のプロセッサユニットに包まれたアシュレイの足が地から離れ、宙に浮かぶ。
「アッシュ、大丈夫?」
「問題ない」
「グ……オオォォォオオ!!」
吠えるマジェコンヌに銀の剣を突きつけた。
これが、最後の戦い。
「さぁ、クライマックスだ!」
これが、旅の終着点だ。
「グアァァァウ!!」
マジェコンヌがその巨体からは想像できないスピードで突進。
拳を振り下ろす。
「あたらねぇよ!」
全員がその場を散り、岩盤を砕く一撃を回避。
そのままブランが反撃を行う。
「バァァァァアアァァアアア!!」
「うお!?」
しかしそれはマジェコンヌの強烈な咆哮による音波砲により足が止まり、無効にされた。
動けないブランにマジェコンヌの牙が迫る。
「ブラン!」
ノワールがブランに半ばタックルするように、デッドゾーンから逃がした。
「そこだ!」
「せい!」
アシュレイとベールがマジェコンヌの翼に武器を振り下ろす。
翼膜を引き裂いた。
だがその傷は次の瞬間には再生する。
「なんだと!?」
マジェコンヌが二人にに尻尾を振り下ろした。
それによって地面から噴き出した炎の柱が襲いかかる。
出来る限りの全力で後ろに下がり、ギリギリ攻撃を避けることに成功した。
「今のマジェコンヌはアンチエナジーの塊です!物理的なダメージはほとんど効果がありません!」
「じゃあどうしろってんだよ!」
「直接シェアエナジーをぶつけてください!そうすれば相殺反応でダメージを与えられるはずです!」
「ゴアァァァアア!!」
そうイストワールから言われた直後、アシュレイにマジェコンヌの爪が迫る。
「直接ぶつける……」
爪を受け流し、すぐさま構え直す。
光が手にした銀の剣を包んだ。
「はぁ!」
振り下ろした刃はマジェコンヌの腕に真一文字の傷跡を残す。
マジェコンヌが痛みに呻いた。
腕に刻まれた傷は黒く硬化し、再生する気配はない。
「ガァァァアア!!」
マジェコンヌが地面を踏み抜き、上空へ飛び上がる。
口元に魔法陣が展開された。
「ちぃ!」
超巨大な熱線がマジェコンヌの口から発射される。
射線上のアシュレイは魔力障壁を展開。
「ぐ……う……おおぉぉぉお!」
凄まじい重圧がアシュレイを襲うが、なんとか熱線を弾く。
軌道を逸らされた熱線は浮島に巨大な風穴を開けた。
「グオオォォォオオ!!」
更にマジェコンヌは周囲に無数の魔法剣を召喚し、それを雨のように落下させる。
「いい加減……」
アシュレイが降り注ぐ剣を切り払いながら距離を詰める。
「ゴアァァァアア!!」
マジェコンヌの拳をかわし、それを脇に挟んだ。
「大人しくしろっての!」
そのまま全身でマジェコンヌの巨体を地面に投げつける。
マジェコンヌはそのまま地面に激突し、その巨体を土に埋めた。
「今だ!」
アシュレイが叫ぶ。
「さぁ、行きますわよ!」
暴れながら地面から起き上がるマジェコンヌにベールが槍を構えて突進。
「ガァァァアア!!」
赤黒い爪が迫る。
それが触れる直前にベールの姿が掻き消えた。
「キネストラダンス!」
ベールが現れると同時に風の刃がマジェコンヌの体を刻む。
その刃は甲殻を砕き、傷口を黒く染めた。
「グオオォォォオオ!!」
薙ぎ払われた大木のような尻尾を脇で受け止める。
「そのままじっとしてろよ!」
そこに割り込むのはブラン。
空高く飛び上がり、斧を頭上高くに構える。
「ぶった斬れろぉぉぉおお!」
振り下ろされた一撃がマジェコンヌの尻尾を寸断した。
「グ……ガァァァアア!!」
「これで!」
「決める!」
ネプテューヌとノワールが走る。
マジェコンヌは翼を羽ばたかせることで生み出した真空波を放った。
ネプテューヌは飛び上がり、それを回避。
「トルネードソード!」
ノワールは光を纏った剣を凪ぐ。
真空波が掻き消え、道が出来た。
「これで……トドメ!」
紫の太刀による渾身の一撃がマジェコンヌの胴を切り裂いた。
「ガ……ゴ……グ……!」
マジェコンヌの体がゆっくりと倒れていく。
「グウゥ!」
しかしマジェコンヌはすんでのところで踏みとどまった。
そのままその大きな翼で自らを覆う。
「いい加減倒れなさい!」
ノワールが急に動かなくなったマジェコンヌに剣を構えて走った。
振り上げた剣が降りるよりも先にマジェコンヌが禍々しいオーラを放つ。
「きゃぁぁああ!?」
それに触れた瞬間、ノワールが凄まじい勢いで弾き飛ばされた。
「くっ……シレット……」
「待て!」
魔法陣を展開したベールをアシュレイが止める。
「これは……不味いことになりました……」
「いーすん?何が不味いの?それに、なんでマジェコンヌは急に動きを……」
マジェコンヌは変わらず翼を閉じ、動かない。
まるで何かを待っているかのようだ。
「マジェコンヌは今、体にアンチエナジーを溜め込んでいます」
「溜め込む?なんでそんなことをしなきゃならねぇんだよ?」
「……まさか!」
アシュレイの頭に浮かんだのは考えうる限り最悪の状況。
「マジェコンヌは、自爆しようとしています」
「……そうなったら、どうなる?」
「天界はおろか、下界さえも飲み込み、不毛の大地に変えてしまうでしょう」
「何よそれ!?ならなおさら早く止めないといけないじゃない!」
ノワールの言葉にイストワールは首を振る。
「今マジェコンヌが展開している防御結界は、同時に起爆スイッチでもあります」
「マジェコンヌ一人だけでもこの天界をチリにする程度のアンチエナジーは持ってる……つまり……」
誰かが犠牲にならなければならない。
選べなければ、全てが死に絶える。
「俺が残る……お前らは……」
「っ!駄目!絶対駄目!」
アシュレイの言葉をネプテューヌが遮った。
「わがままを言うな!このままじゃ全員が死ぬんだぞ!」
「だからってアッシュが死ぬのは嫌!みんなが死ぬのも嫌!いっそわたしが……」
「ふざけんな!お前には自分の国があるだろうが!」
「お二人とも喧嘩はやめてください!」
「……………………」
全員を沈黙と絶望が支配する。
選べるはずもない。
タイムリミットだけが刻一刻と近付く。
「あーもう!じれったいわね!」
意外にもそれを破ったのはアイエフだった。
「ここまで来て!今まで出来もしないこと全部ひっくり返してきたのに!なにこんなところで諦めムードに入ってるのよ!」
「そうです!諦めちゃ駄目です!」
そう言う二人の足は、震えていた。
目の前の死に怯えながらも、ネプテューヌたちを信じる。
何も出来ないからこそ、何かをする。
「……言いたくなかったが、一つ……可能性がある」
アシュレイが、呟いた。
「可能性?」
「恐らくだが……結界を破壊してから解放まではタイムラグがある……」
「まさかその隙に逃げるのですか?」
「いや、ラグは恐らく持って数十秒だ。間に合わない」
「だったらどうすんだよ!?」
「……お前らの力を、俺に預けてくれ」
アシュレイは気付いていた。
自分の体の異変。
それはこの奇妙な姿だけではない。
「今の俺は……アンチエナジーに加えて、他者のシェアエナジーを操ることが出来る」
「他者の……!?」
「まさか、女神の力を束ねようというのですか!?」
アシュレイが静かに頷く。
「ラグがどれだけの時間かはわからない、俺が四女神全員の力を受け止められるかどうかも、そもそもそれでマジェコンヌの蓄えたアンチエナジーに打ち勝つことが出来るのかも」
わからないこと尽くしだ。
そして失敗すれば、ここにいる全員が生き絶える。
成功すると思う方がどうかしている。
「……上等だ!やってやろうじゃねぇか!」
「分の悪い賭けほど、燃えるものはありませんわ」
「そうね。それしかないなら、あなたに全部託すわ」
だというのに、誰一人として反対する者はいない。
今まで苦楽を共にした仲間の絆。
「アッシュ……」
「ああ……」
再び五人が武器を構える。
「行くぞ!!」
アシュレイの声に全員が魔力を集中させる。
まずは第一段階。
結界の破壊。
「ゲフェーアリヒシュテルン!」
「シレットスピアー!」
「バニシングバスター!」
「32式エクスブレイド!」
「カエルム・ルーメン!」
五人の特大魔力が放たれた。
それらはマジェコンヌを取り囲む結界に衝突し、黒い火花を散らす。
「いっけぇぇぇええ!!」
巨大な亀裂が入り、結界が砕け散った。
すぐさまマジェコンヌの目の前に黒い渦が生まれる。
それは光を飲み込むブラックホールのようにも見えた。
イストワールが叫ぶ。
「今です!女神の力を、アッシュさんに!」
「おうともよ!」
ブランが手の平から白く光る球を放った。
アシュレイはそれを掲げた銀の剣で受け止める。
「……後は、頼んだわよ」
変身の解けたブランが小さく呟き、少しだけ笑った。
「次はわたくしです!受け取ってくださいな!」
ベールが打ち出した緑に輝く球を剣で受けると、一気に剣から光の柱が立ち上る。
「帰ったら、みんなでランチでも食べに行きたいですわね」
風になびく金色の髪を抑えながらベールが微笑んだ。
ブラックホールはどんどんその大きさを膨張させていく。
「いい?外したら承知しないわよ!」
黒く光るノワールの力が剣に吸い込まれると、光の剣は更に輝きを増した。
「最後はあなたよ!ネプテューヌ!」
最後に残った親友の名をノワールが叫ぶ。
「アッシュ!」
紫の光。
光の剣はマジェコンヌを飲み込むほどのものとなった。
「……やっちゃえー!」
ネプテューヌが拳を突き上げる。
「……力、貸してくれるよな?」
 ̄ ̄ ̄ ̄ う ん ____
アシュレイの周囲に浮かんでいたプロセッサユニットが光に包まれ、剣に吸い込まれた。
「グ……ゴ……オオォォォオオォォォオオ!!」
ブラックホールが砕け、破壊エネルギーが放出される。
「……これが!俺の!俺たちの!女神と!人間の力だ!」
剣を振り下ろす。
「これで……終わりだぁぁぁああぁぁぁああ!!」
黒と白の光が、触れ合った。
「…………」
振り下ろしたアシュレイの剣。
その先には、マジェコンヌ。
「…………」
黒い石のように固まったマジェコンヌはやがてゆっくりと倒れ、砂のように崩れ去る。
優しく吹いた天界の風が、黒い砂を吹き飛ばした。
「…………」
「……勝ったの?」
「……多分な」
不安げなノワールにアシュレイが曖昧な返事を返す。
「……ねぇねぇみんな!」
「ネプテューヌ?どうかしましたか?」
ネプテューヌが全員を呼んでなにやら耳打ちをした。
それを聞いた反応はみんなそれぞれ。
「ね、いいでしょ!?」
「なんか馬鹿っぽくて嫌なんだけど」
「まぁ、ネプテューヌらしいといえば、らしいですわね」
「馬鹿正直ね」
「というかただ馬鹿なだけだろ」
「あーもう!そういうのいいから!」
アイエフがカメラを五人に向ける。
「それじゃ、行くよー!せーの!」
「「「「「ピース!!」」」」」
……………………
「あ、そのお肉もーらい!」
「ちょっと!それ私が焼いてたお肉よ!自分が食べる分は自分で焼きなさいよ!」
あれから3日。
ネプテューヌたちはプラネタワーの屋上広場でバーベキューを楽しんでいた。
「……ベール、離しなさい。そのしいたけはわたしのよ」
「いいえ、これはわたくしが初めから狙っていたものですわ」
元々はネプテューヌが強引に進めたこの計画だったが、ノワールたちも隕石やモンスター被害で忙しい中、なんとか予定を組んでくれたのだ。
おかげで今、こうして楽しく食事をすることが出来ている。
「ていうかネプテューヌ、あなた野菜も食べなさいよ!栄養が偏るわよ!」
「細かいなーノワールは。こういうところでは、何も考えずに自分が食べたいのを食べるのが良いんだよー!というわけでそのお肉もよこせー!」
「いい?キノコといえばわたし、だからこのしいたけを食べるのにふさわしいのはわたしよ」
「いいえ、このしいたけに限ってはわたくしにも譲れないものがありますわ!わかったら箸を離していただけませんこと?」
そんな仲睦まじい様子をアシュレイは眺めていた。
「何やってんだか……」
「みんなで協力してマジェコンヌを倒したっていうのに、ちょっと目を離したらこれなんだから……」
「ねぷねぷたちらしいです。ケンカが出来るのも平和になった証拠です」
「それもそうですね……おや?」
不意にイストワールが持っている通信端末に連絡が入る。
「どうかしたのか?」
「いえ、シェアクリスタルに何か異常が発生したみたいなんです」
「……それ大丈夫なのか?」
「取り返しのつかないことになってもいけませんので、ちょっと見てきます」
そう言ってイストワールが広場を後にしようとする。
「……イストワール」
「はい?なんで……」
アシュレイに呼ばれ、イストワールが振り返った。
そして全てを理解した。
「……わかりました。アッシュさんが使っていた部屋はそのまま残しておきます」
「助かる」
「……それでは」
「ああ」
短く会話をし、イストワールは広場から出て行った。
アシュレイは踵を返し、ネプテューヌたちを通り過ぎる。
「あれ?アッシュ?そっちにはお肉はないよ?」
「ネプ公」
「……?」
「お別れだ」
「…………え?」
ネプテューヌが呆気にとられた声をあげる。
「えっと……どういう意味?」
「そのままの意味よ」
ネプテューヌの疑問に答えたのはアシュレイではなく、ノワールだった。
「元々、わたくしたちが集まったのはこのためでもありますしね」
「仲間の新しい旅立ちよ。素直に見送ってやりなさい」
そう。
この集まりは祝勝会でもあり、アシュレイの送別会でもあるのだ。
ノワールたちが無理をして予定を合わせてくれたのもそういった事情があったから。
「わたし……何も聞いてないんだけど……」
「わざとよ。あんたに話したら反対するに決まってるわ」
「……いつ、決めたの?」
「……最初からだ。会った時から、このゴタゴタに決着がついたら一人旅に戻るつもりだった」
最初から。
あの自然公園でモンスターに襲われているネプテューヌとコンパを助けた時から。
「わたしたちと一緒にいるのが……嫌だから?」
「……最初は、そうだった」
アシュレイが俯いたネプテューヌの前に立つ。
「俺は、もう一度世界を見てみたいんだ。あいつを失った悲しみを忘れようとして剣を取ったあの時の曇った目じゃなくて、今の自分にどう世界が写るのか……あいつと一緒に」
昔ではわからなかったこと。
今ならわかること。
それを確かめる為に。
「……アッシュ」
軽くぶつかってきたネプテューヌに腕を回し、頭を撫でてやる。
「……また、会えるよね……?」
「俺は……会いたいね」
いつまでもこうしているわけにもいかない。
頃合いを見てネプテューヌを引き剥した。
「さて……そろそろ行く」
広場の外周に取り付けられた柵の方へと歩く。
「しっかりやりなさいよ」
「ご縁があれば、またご一緒しましょう」
「……バイバイ」
「たまには連絡よこしなさいよ!」
「ねぷねぷ……アッシュさん行っちゃうですよ?」
「…………」
アシュレイがため息を一つ吐き出した。
「……ねぶっ」
俯いていたネプテューヌの頭に何かが覆い被さる。
それを手に取ってよく見てみると、見慣れたボロボロでつぎはぎまみれのコートだった。
顔を上げると、アシュレイと目が合う。
「俺にはもう必要ない。お前にやるよ」
それだけ言って、また歩き出した。
黒い炎を通り抜け、変身を終える。
そして柵の手前で止まり、足元に魔法陣を展開。
「コンパ」
いつも通り、朗らかな笑みを浮かべる。
「アイエフ」
その隣で呆れながらもみんなを見守る。
「ノワール」
強がっているが、今にも泣きそうだ。
「ベール」
顔の横で小さく手を振る。
「ブラン」
珍しく、にっこりと笑っている。
「……ネプ公」
最後に、コートを抱えた少女の名前を呼ぶ。
もう、その顔に影はない。
アシュレイが振り返り……
「……またな!」
そう言って顔を前に戻す。
そして魔法陣を踏み抜き、空へと飛び出した。
瞬く間にプラネタワーから離れていく。
「……ねぇ、さっき……」
「えぇ、見ましたわ」
「アッシュ……笑ってたわね……」
「しかも満面の笑みで……」
「あんな風に笑うアッシュさん、初めて見たです」
ネプテューヌが走り出す。
柵に腹を押し付け、両手を口の横に持っていく。
大きく息を吸い、一言。
「アッシュぅーー!!まったねーー!!」
自分の小さな体をよく見えるように、飛び跳ねながら手を振った。
かけがえのない大切な人が見えなくなろうとも。
「ね、ネプテューヌさん!大変です!」
「あれ?どったのいーすん?」
息を切らしながらイストワールが広場に飛び込んできた。
「先日の一件でプラネテューヌ……いえ、各国のシェアが異常な集積を記録しました!」
「ん、別に良いことじゃん。何がそんなに大変なの?」
「それで、シェアクリスタルから……」
「シェアクリスタルから?」
「新たな女神が産まれたのです!」
「「「「「「ええぇぇぇええぇぇえ!?」」」」」」
大きな翼を広げ、グライダーのように空を滑る。
その眼下には、世界が広がる。
「…………」
『言った通りでしょ?』
「……そうだな」
人がいて、街があり、国となり、世界がある。
「……良い、世界だ」
『……それじゃ』
「ああ……」
「『次は何処に行こうか」』
……旅はまだ、始まったばかりだ。
これは、かつて『剣の英雄』が、ただの不幸な男だった時の物語。
その後、彼は女神たちと再会を果たすが、それはまた別のお話。
おしまい。
はい、リバース・リ・バース最終話でした。
ここまで長々とお疲れ様でした。
とは言っても、ネプテューヌ系二次創作の中ではかなりこじんまりとした作品だと自分では思っています。特に短くしようとした覚えは無いんですけどね。
まぁ私の性格上風呂敷を広げ過ぎると畳む前に飽きると分かっていましたのでこのくらいが丁度良かったのかも知れません。
ハーメルンへの投稿は多分もうしないと思います。
渋の改ページ方式に慣れてると場面転換がしにくくて……。
ではでは、ご閲覧ありがとうございました。
以下は作者のどうでもいい所感です。
さて、最終話を書いた当時の心境はあとがきや一周年記念のまとめに書きましたので、改めて自分の作品を見直した現在の所感をば。
なんというかやっぱりアレですね。今でもそうですが、ストーリーを長く引き延ばすのは苦手です。
今作、次回作のベースになっているリバ1、リバ2を題材にしててもハーメルンだと余裕で100万字を越えている作品が割と多い。
個人的にはネプテューヌは世界観は大きいけどストーリーは小粒という印象です。あっても無くてもいい話が多い。本筋だけならスーファミゲークラスだと思ってます。
正直なところ、そんな豆粒みたいなストーリーでどうやって100万字とかいう軽く引くケタの字数を書くことが出来るのか気になります。
惰性で続けるのは良くありませんが、読み終えた時に満足感を感じて欲しいのも事実。
読み飽きず、かつ物足りなさも感じない塩梅に話を引き延ばす術はこれからも勉強していきたいです。
次、うちの子1号アシュレイについて。
私は彼が大好きです。
オリ主二次創作あるあるに、ひとりの作者の分身たるオリキャラを「その時不思議な事が起こった」で複数の世界観に出張させるというものがあります。平行世界の別人だけど同一人物というパターンもありますね。
私はそれが嫌いです。
オリ主二次創作というものは、完成した料理に上から調味料をぶっかける行為です。
ならばこそ、異物、違和感は極力排除すべきなのです。
最高級の刺身に「私が好きだから」という理由で生クリームをぶち撒ければそれは最早生ゴミです。
つまり、一つの原作に対し世界観に則したオリキャラを作るべきという事です。
そんな私が複数の世界観にアッシュ君を投下してどんな動きをしてくれるか妄想するくらいアッシュ君が大好きです。
今回改めて見直していて、その理由に気が付きました。
アシュレイという人間が特別ではなかったからです。
本来アッシュ君は一般的な家庭に生まれた疑り深いながらも家族と友達を大切するごく普通の人間でした。
生まれつき特殊な能力を持っている訳でもなく、人知を超えた何者かに選ばれた訳でもない。
そんな彼が何故世界を救うなんていう大それた物語の主人公たりえたのか。
その理由は、ただ偶然出会っただけ、なんです。
ダスティと出会ったのも、グレイと出会ったのも、ネプテューヌと出会ったのもただの偶然。
物語ですのでそこの匙加減は作者である私の管轄ですが、それはそれ。
特殊な家庭に生まれたり、特殊な能力を持っていたり、神の手違いで死んでチート能力を貰って転生したりするよりはよっぽど現実的と言えるでしょう。
何はともあれ、アッシュ君自身に特別なことは何もなく、出会った人たちが特別だっただけの事なのです。
アッシュ君は勇者ではないので、よく曇るし迷います。
数奇な運命に巻き込まれながら、世界ではなく自分に由来する壁にぶつかり、乗り越える。
国の為とか世界の為ではなく、ただ自分の命を、隣の人を守りたいから剣を振るう。
そんなある意味等身大の姿が私は好きだったんでしょう。
可愛い子には旅をさせろ、とか獅子は我が子を千尋の谷に落とすとか言いますし、彼にはもっと色々な障害を立てて、それを打ち砕いて成長して欲しいと思っています。
という事で駄文もこれで終わり。
お付き合い頂きありがとうございます。
本当の最後です。
渋で投稿中の次回作の方も、良ければ見て頂けるとありがたいです。泣いて喜びます。
ではでは
しからば
さようなら