超次元ゲイムネプテューヌ:リバース・リ・バース 作:ひきがねコート@pixiv名アスラ
「とうさん」
まだあどけなさが残る少年が父親を呼ぶ。
その父親はけたたましい音を響かせる工場の中からのしのしと出てきた。
「おう、どうした我が息子よ……ん?」
無精髭が似合う父親が、自分の息子と手を繋いでいる少女に気付く。
「ほほう、ガールフレンドか?可愛い子じゃないか。親はどこにいるんだ?」
「……いない」
「……なんだって?」
息子から発せられた不意の一言に、父親は心の準備など出来ておらず動揺を隠せない。
「土手の近くの公園に住んでたんだって」
「捨て子か孤児か……どっちにしろ親はいないわけか……」
よく見ると少女の服装はボロボロで、なんとか服の形を保っているような状態だ。
目に光はなく、どこを見ているのかもわからない虚ろな目をしていた。
「……とうさん、この子をうちの家族にして上げられないかな?」
「…………」
息子の言葉に父親が黙る。
「……駄目だ」
「……なんで?」
「お前もわかってるだろ?うちは貧乏なんだよ。お前一人を育てるだけで精一杯なんだ」
「じゃあ、この子はどうなるの!?」
「さあな、死ぬ時は死ぬし、上手くやりくりすれば死なないんじゃないか?」
「そんなの……ひどいよ……」
父親の残酷な言葉に息子が俯く。
相変わらず少女は濁りきった目でどこかを観ていた。
「……わかった」
「……そうか、残念だが……」
「僕、もうおもちゃもゲームもいらない」
「……ハァ?」
「僕が甘えるから貧乏なんでしょ?じゃあもう僕はなんにもいらない。ご飯だって食べない。だからこの子を……」
「……お前なぁ、んなこと出来るわけ……」
「あら、いいじゃありませんか」
そう言って工場の中から、作業服がとてもじゃないが似合わない女性が出てきた。
「母さんまで何を言い出すんだ。こいつに我慢なんて出来るわけないだろ」
「あら、出来ないの?」
「……できる!ぜったいできる!」
「……らしいですよ?」
「〜〜〜〜っ!」
父親が頭を掻き毟る。
「でもこいつがいくらおもちゃやらを我慢したところでもう一人養うほどうちに貯金なんてないぞ!?」
「それは私たちが頑張れば良いだけじゃないですか」
「……お前……簡単に言うがなぁ……」
「そ・れ・に」
少年の母親はつかつかと歩みを進め、少女の目の前に座り込む。
少女の首だけが傾き、母親の顔を観た。
「こんなに可愛い子なんですもの。うちの子にするには勿体無いくらい」
「…………」
母親が少女を抱き締めるが、少女は眉一つ動かさない。
「でも、ちょ〜っと笑顔が足りないかな?ほら、笑ってー」
「…………」
少女の目の前で母親がにっこりと笑う。
暫くすると、少女の口の端がほんの少しだけ釣り上がった。
「あ……笑った」
「そうそう、女の子には笑顔が一番よ」
少女の目に少しだけ光が戻ったように見えた。
「……ね、いいでしょう。あなた」
「…………」
母親が微笑んだまま、父親の顔を見つめる。
父親は思わず踵を返して視線を外した。
「……わかったよ」
「ほんと!?」
「そもそも2対1じゃ勝ち目ないだろうが……」
「言い訳なんかしちゃって。でもそういうところも好きよ」
そう言って母親が父親に背中から抱きつく。
「だぁー、やめろはずかしい」
「うふふふふ……」
じゃれ合う両親を尻目に、少年が少女の前に立つ。
「よかったね。これからは僕がお兄ちゃんになって守ってあげるよ」
「…………」
そう言って少年は少女の灰色の髪を撫でた。
「…………」
むくりと体を起こす。
「……夢……か」
夢の世界からアシュレイの意識がゆっくりと浮上する。
「…………」
手櫛で乱れた髪を整える。
女の体になってから、寝起きに髪を整えるのはすっかり癖になってしまっていた。
「……あー」
手櫛をしていると、髪にはほんの少しだけぬめりがあることに気が付いた。
「そういや昨日、バタバタして風呂に入れてないな……」
気だるい体を無理矢理起こし、軽く体を捻る。
パキパキと小気味良い音が鳴った。
「仕方ない。朝風呂でもするか」
アシュレイは部屋を後にし、廊下を歩く。
工場はそこそこ広いが、2分ほど歩けば風呂場に着くことが出来た。
躊躇なく脱衣所へと続くドアノブを捻り、中に入る。
「……あ」
「……え?」
そこには風呂上がりらしきノワールが居た。
一糸纏わぬ姿で。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……邪魔したな」
ドアを閉めた。
「ちょっとぉ!!待ちなさいよおおおぉぉぉおお!!」
……………………
「……と、いうわけだ」
「あんた、ほんといろんなことやらかすわね」
「今回は不可抗力だろうが」
「ノワールさん、元気出してくださいです」
「……もうお嫁に行けないかも」
「朝からラッキースケベに出くわすなんて、アッシュも隅に置けないね!」
「お前は一番黙ってろ」
現在ネプテューヌ達は朝食を取る為にシアンの実家の食堂に集まっていた。
キッチンにはシアンとアシュレイが立っている。
「そういやお前、昔から占い受けるといつも女難の相が見えるって言われてたよな」
「誰のせいだかな」
そう言いながら出来上がった朝食をそれぞれの前に出す。
ちなみにメニューは、コンパは米を主食に魚と汁物などを合わせた和食。
アイエフは簡単なサンドイッチ。
ノワールはトーストとサラダ。
そしてネプテューヌはパンケーキとプリンと言った具合だ。
キッチンに立っている二人はすでに食べ終わっている。
「そういえばお前たち、今日はアヴニールの依頼を受けるんだろ?のんびりしてて大丈夫なのか?」
アヴニールは今やラステイションの一大企業だ。
そんな会社の依頼とあらば報酬は凄まじく、冒険者が殺到しては受ける仕事も受けられなくなる。
「えー、ほんとにアヴニールの依頼するのー?」
「……ネプ公、昨日散々話しただろうが」
「うーん……頭ではわかってるんだけどさー……」
アヴニールの依頼を受けることにネプテューヌは今だ反対気味だ。
「そういや、アッシュの親父さんが言ってたな。『頭と体は切り離せ』って」
「どういう意味よ、それ」
シアンの言葉にノワールが思わず問いかける。
「苦しかったり嫌なことがあっても先に進まなくちゃならないって意味だったと思う」
「そういうことだ」
「うー……わかったよ」
朝食を食べ終えたネプテューヌが椅子から立ち上がった。
「そうと決まれば、早速ギルドに行こう!シアンに貸してもらった武器も早く試したいし!」
「やれやれ……」
「さっきまで嫌がってた人のセリフじゃないですぅ……」
「そういうわけだから、ちょっと行ってくるわね」
「ああ、気をつけろよ」
食堂を出てネプテューヌ達五人はまっすぐギルドへと向かった。
幸い依頼はまだ残っており、適当な依頼を受けたネプテューヌ達は現在依頼人が待っている待ち合わせ場所へと向かっている。
「あいつらか?」
「多分間違いないわね」
待ち合わせ場所には二人の男が立っていた。
一人はスーツを着た長身の男。
もう一人はシワの深い中年の男だ。
「はじめまして、お待ちしておりました。あなたたちが弊社の仕事を請け負ってくれる人たちですね」
「えぇ、そうよ。あなたが依頼人のガナッシュ?」
「はい。この度依頼を出させてもらった、アヴニール社のガナッシュと申します」
長身の男はガナッシュ。
「そして、こちらが弊社代表のサンジュ」
「…………」
中年の男はサンジュと言うそうだ。
「この二人が、アヴニールの……」
「代表自ら外受けの仕事に出てくるなんて、珍しいな」
「もしかして、よほど期待されてるとか?」
「はっはっは。これはこれはご冗談がお上手で」
アイエフの言葉をガナッシュが笑い飛ばす。
「雑談はそのくらいにしておけ。時間がもったいない」
「おや、これはすみませんでした。それでは、今回のあなたたちに依頼する仕事になります」
「待ってました!」
「この辺りは近々我が社の新プラントの設立予定地となっているのです。しかし、工事着工前にして少々厄介なモンスターが棲みついてしまって困っているのですよ」
「なるほど。そのモンスターの討伐が今回の仕事なのね」
ノワールがガナッシュの話に先回りして答える。
「その通りです。この後、私と社長はこの辺りの視察があるので、それが終わるまでにモンスターの討伐をしていただきたいのです」
「討伐さえ出来れば手段は貴様らに任せる」
「なーんだ。思ったより簡単な内容だね。てっきり手作業で部品とか作るような面倒臭いのかと思ってたよ」
「わたしも細かい作業は苦手なので助かりました」
「こんぱってそういうの苦手そうだもんね」
「おい看護学校生、それでいいのか」
「説明はこれで以上です。くれぐれもミスをして例のモンスターを我々が視察している方に逃がさないよう気をつけてください」
「言われなくてもわかってる。行くぞお前ら」
アシュレイの言葉に全員がその例のモンスターとやらがいる方角に向かって歩き出した。
「……社長、あの黒髪の少女ですが」
「お前も気付いていたか」
ネプテューヌ達が見えなくなった後、ガナッシュとサンジュが口を開く。
「はい。コスプレにしては、あの方に似すぎているかと」
「確か、昨日から失踪していたんだったな」
「なので、その可能性も十分かと……どうしますか?」
「どうするも何も、本人かどうかわからんことにはどうしようもない」
サンジュが目だけを動かし、ガナッシュを睨む。
「ただ、目だけは離すな」
「かしこまりました」
二人の会話を聞く人は誰もいなかった。
……………………
「うーん、やっぱそう簡単にアヴニールの出展物がわかるはずないかぁ……」
「ま、そんなに物事が順調に進むわけないわよね。幸い、依頼がモンスターの討伐なわけだし、シアンの武器のテストぐらいはして帰りましょ」
思い出したようにネプテューヌがノワールの方を向く。
「そういえばさ、今日からノワールも一緒に戦ってくれるんだよね」
「えぇ、そうよ」
「だったらさ、あいちゃん。ちょうど手頃なモンスターがいることだし、ノワールの実力を見るためにもこの辺りでテキトーに一回戦おうよ」
ネプテューヌの言葉が聞こえたのか、あたりのモンスター達が次々と近寄ってきた。
「随分私も甘く見られたものね……いいわ。私の実力、その目に刻むといいわ」
「じゃあ、勝った方が負けた方のプリンをもらうってのはどう?」
「またプリンか……」
「望むところよ。ま、当然勝つのは私だけどね」
ノワールがショートソードを取り出し、構える。
「それはどうかなー。わたしだって負けないもんねー!変身!」
ネプテューヌが光に包まれ、その中から似ても似つかない人物が現れた。
「わたしも本気を出させてもらうわ」
「おいこら。それ本気とかそういうレベルじゃないだろ」
「ちょっと!?あなただけ変身するなんて卑怯よ!」
「なら、あなたも変身すればいいじゃない」
「っ!?」
ネプテューヌの言葉にノワールが短い悲鳴を上げる。
「ねぷねぷ、普通の人はねぷねぷみたいに変身できないですよ?」
「相変わらず酷い無茶振りをするわね……」
「(び、びっくりしたぁ……てっきりバレてるのかと思ったじゃないの)」
ノワールがホッと詰まっていた息を吐いた。
「けど、勝負は勝負よ。手加減はしないわ」
「プリンが関わっている時のねぷねぷは、相変わらず妙に本気ですねぇ……」
「じゃあ、俺たち三人は見てるだけで良いんだな?」
「えぇ、暫く休んでいていいわよ。あいちゃん、審判をお願い」
「はいはいわかったわ。それじゃあ……スタート!」
アイエフが手を叩くと同時にネプテューヌとノワールがモンスターに向かって駆け出した。
「やぁ!」
ノワールの鋭い一撃がモンスターに打ち込まれる。
追撃の一閃でモンスターの姿が光になって消えた。
「セイ!」
ネプテューヌは大太刀で目の前のモンスターを攻撃。
背後から近付いてきた数体のモンスターを振り返りざまに纏めて切り裂く。
「いただき!」
ネプテューヌの攻撃で吹き飛ばされたモンスターにノワールが突きを打ち込み、トドメを刺した。
「ノワール!それはわたしの獲物のはずよ!?」
「ふふん、仕留め損なったあなたが悪いのよ!」
ネプテューヌが群れの中心で暴れ回り、ノワールが群れから離れた敵やネプテューヌが仕留め損なった敵にトドメを刺していく。
モンスター達は見る見るうちにその数を減らしていった。
「凄いです!モンスターさんがどんどん倒されていくです!」
「あの数を相手にできるネプ子はもちろんだけど、ノワールのフォローも凄い精度ね」
「流石に言うだけのことはあるな……っと!」
飛んできた二体のモンスターをアシュレイが二人の方向へ蹴り返す。
「これで……」
「終わりよ!」
飛んできたモンスターをネプテューヌとノワールが同時に切り裂いた。
「わたしの勝ちね」
「何言ってるのよ、私の方が早かったわ」
「いえ、わたしの方がコンマ二桁早かったわ」
「はいはい、ストーップ!二人とも同時だったわ。だからこの勝負は引き分け。いい?」
このままでは永遠に言い合いが続きそうだということを察知したアイエフが間に割って入る。
「そんなはずないわ!」
「そうよ!私がネプテューヌと互角なわけないわ!」
「あーもう!二人共しつこい!!」
「「ひぃ!?」」
アイエフの凄まじい剣幕に二人が縮こまった。
「審判さんが引き分けって言ったら引き分けです。でないと、二人プリン、わたしとあいちゃんで没収するですよ?」
「「それだけはやめて!」」
二人の声が重なる。
「なら、仲良くするです」
「やれやれ、仲が良いんだか悪いんだか……」
……………………
「ねぇあいちゃん。今日のお仕事って結局どんなモンスターを倒せばいいんだっけ?」
森も中ほどまで来たところでネプテューヌが口を開いた。
「大型のモンスターみたいよ」
「他に特徴は?」
「ないわ。さっき貰った資料にはそれしか書いてなかったわ」
「使えない資料だな……」
「あなたを責めるつもりはないのだけど、この情報だけじゃわからないわね……」
「そんな時は誰かに聞いてみるです」
コンパの提案はもっともだが、正直こんな森の中で人に会う確率は限りなく低い。
「さすがにそんなに都合よく誰かいるわけ……」
「ほぅ、まさかこんなところで見知った顔に出会うとはな」
ノワールが言い切り終わらないうちに木陰から三角帽子を被った青い長髪の女が出てきた。
「……あなた、誰?」
「私の名か?……そうだな、ここでもMAGES.とでも名乗っておくとするか」
「MAGES?」
「MAGES.だ。それでは最後の.が抜けている」
三角帽子を被った女はMAGES.と名乗った。
「うー……ん、あまり発音上関係ない気がするんだけど……MAGES.だね、おっけーい!」
「ふっ、お前はあの時もそう言っていたな」
「ねぷ?あれ?もしかしてわたしを知ってる人?」
「よかったですね。ねぷねぷ。やっと知り合いに会えたですよ」
どうやらこのMAGES.はネプテューヌと知り合いのようだ。
もっとも、ネプテューヌの方は記憶喪失で知り合いと認識できていないようだが。
「……その言い方だと、まるでネプテューヌが記憶喪失のようだな」
「そのとーり!けど、よくわかったね」
「私くらいになれば、言葉の断片から真実を導き出すなど容易いことだ。しかし残念だが、私はお前たちの力になれそうにはない」
「……どういうことです?」
「話せば長くなるが、私はここではない世界から次元を超えてきたのだ。故に、私の知っているネプテューヌはそこのネプテューヌではない」
「どういうことです?何を言ってるかわからないですぅ」
別次元や並行世界の話はコンパには少し難しすぎたようだ。
今にも煙を吹きそうになっている。
「……つまり、MAGES.はここではない別の世界から来たってことよ。そうでしょ?」
「ほぅ……さすがはアイエフだ。理解が早くて助かる」
「女神だけじゃなく、アイエフのことも知ってるんだな」
「あぁ、ここに居るほとんどの者は知っている……だが、お前だけは知らない」
そう言ってMAGES.がアシュレイを指差す。
「私の知らない存在……お前は何者だ?」
「……俺はただのお節介焼きだ。こいつらが心配でプラネテューヌからくっついてきたんだ」
「確かに、黒い気配がするが、悪というわけでもない。興味深い存在だ」
「俺の話はどうでもいいだろ?こっちは聞きたいことがあるんだ」
MAGES.の半分独り言に近い話をアシュレイが断ち切り、こちらの要件を済ませようと話を進めた。
「いいだろう。だが、ある情報が欲しいのでな。情報交換だ」
「いいわよ。で、そっちが欲しい情報って何?言っておくけど、世界の秘密だとか元の世界への帰り方とかそんなだいそれたことは知らないわよ?」
「なに、簡単なことだ。ドュクプェの売っている場所を知りたい、ただそれだけだ」
「ど、ドュクプェ?……コンパ、知ってる?」
ドュクプェなる謎の売り物にアイエフが困惑をありありと浮かべながらコンパにタライを回す。
「初めて聞く名前です。ねぷねぷは知ってますか?」
「全然知らないよ。ノワールは?」
記憶喪失のネプテューヌはもちろん。
コンパも知らないようだ。
「私も初耳ね……その、ドュクプェってのは一体何なの?」
「ドュクプェを知らないだと!?選ばれし者の知的飲料ことデュクテュアープエッパーを知らないというのか!?」
どうやらドュクプェなる売り物はデュクテュアープエッパーという飲料らしい。
「アッシュ、あなたは知ってるかしら?」
「……知ってる」
「そりゃあそうよね……そんな無駄に呼びにくい飲料なんて知ってるわけ……知ってるの!?」
アシュレイの言葉に思わずノワールがノリツッコミを披露した。
「おお!それは本当か!?」
「俺が知ってるドュクプェと同じならな。やたら薬臭い炭酸飲料なんだが……」
「何を言う。あの香りと独特の風味が良いのではないか!」
「……どうやら同じ物みたいだな」
「では、そのドュクプェがどこに売っているのかを私に教えてくれ!」
MAGES.がアシュレイの肩を掴む。
「さあ!さあ!」
「わかった、わかったからせめて落ち着け」
「む……」
現在MAGES.の顔は読んで字のごとくアシュレイの目と鼻の先にあった。
「す、すまない。私としたことが少し興奮していたようだ」
「追い打ちをかけるみたいになるが、もう一ついいか?」
「……どうした?」
「実は、ドュクプェはもう非売品になってるんだよ」
「……なん……だと……?」
「ねぇアッシュ、非売品ってどういうこと?」
固まったMAGES.の代わりにネプテューヌが話を聞く。
「ドュクプェっていうのは俺の……と言うか俺の親父の知り合いが作っていたんだが……いかんせんコアすぎる味のせいで売り上げは芳しくなくてな。発売から三ヶ月で撤収。もう工場もアヴニールに取り壊されてる」
「だってさ、MAGES.」
固まっていたと思われたMAGES.が懐から携帯電話を取り出し、誰かと連絡と取り始めた。
「もしもし、私だ。ドュクプェが存在していたという証言を手に入れた。現物を手に入れるとなるともう少し調査が必要だ……あぁ、そちらも引き続き調査を行ってくれ……それでは幸運を祈る。ルクス・トュネーヴェ・イメィグ・ノイタミナ・シスゥム」
そう言ってMAGES.は携帯を切った。
「アヴニール……ドュクプェの工場を取り壊すとは……」
「……誰の電話か知らないけど、次はこっちの質問に答えてくれるかしら?」
「……あぁ、そうだったな。それで、お前たちが知りたいこととは何だ?」
「この辺りに棲んでる大型のモンスターはいないかしら?」
「なんだ、そんなことか……そいつなら……」
MAGES.が振り返る。
直後、獣の唸り声が響き、それと同時にMAGES.が杖を振り魔法陣を展開。
「こいつのことか?」
「……多分な」
MAGES.の魔法によって拘束された巨大な狼型のモンスターが拘束を解こうと暴れていた。
「どうせお前たちのことだ。このモンスターを倒すのだろう?手伝ってあげたいが、私も急ぐ身でな。これしきのことしか出来ない」
「いいえ、十分よ」
それを聞いたMAGES.が森の出口へと歩き始める。
「その拘束は後20秒で解ける仕組みだ。では、私はここで失礼する」
そう言ってMAGES.は武器を構えたネプテューヌ達の脇をすり抜けていった。
MAGES.の言葉通り、きっかり20秒後に拘束陣が光の粒子となって消える。
「さぁ、来るぞ!」
拘束が解かれ、自由になったモンスターが吠えた。
モンスターが大きく息を吸い込む。
「全員逃げろ!」
アシュレイがそう言った直後、モンスターの口から強烈な空気砲が発射された。
なんとか横に飛んでそれを回避する。
「せいや!」
素早く接近したアイエフが前足を切りつけ、モンスターにダメージを与えた。
反撃の爪をバックステップでギリギリかわす。
「っ!?」
だがそれをよんでいたのか、モンスターがまだ空中にいるアイエフに向かって突進してきた。
「アイエフ!」
変身したアシュレイが蔦でアイエフを掴み、キルゾーンから引っ張り出す。
「ごめんなさい、助かったわ」
「気にするな」
言葉は短く、素早くモンスターを正面に捉える。
モンスターが再び突進を仕掛けてきた。
アイエフとアシュレイが左右に分かれる。
標的はアシュレイのようだ。
間合いを測ってモンスターが飛び掛かってくる。
「おらよ!」
飛び掛かってきたモンスターの頭を踏みつけ、アシュレイが飛び上がる。
するとモンスターは空中で素早く身を翻し、なんと木を蹴り付けて飛び上がったアシュレイ追撃を行った。
「ざけんな!」
「てぇぇぇえい!」
「やあぁぁぁあ!」
アシュレイが爪を剣で受け流すと同時にネプテューヌとノワールがモンスターを切りつけて吹き飛ばす。
「あの巨体でとんでもない身軽さだな……長期戦はこっちが不利だ」
「だったら速攻で決めるだけよ!」
「おっけー!一気にやっちゃうよー!」
三人が走り出す。
モンスターが息を貯め始めた。
「俺が隙を作る!トドメは任せたぞ!」
ネプテューヌとノワールが左右に分かれる。
アシュレイは気にせず走り続ける。
モンスターの口から先ほどより強力な空気砲が発射された。
「当たるかよ!」
アシュレイが走る勢いのまま地面を蹴る。
足下を暴風が通り抜けた。
「これなら……」
突如アシュレイの右腕が肥大化し、赤黒い鱗が敷き詰められた巨大な龍の腕に変化する。
「どうだぁ!」
地面を抉りながら繰り出されたアッパーがモンスターの顎を捉え、その衝撃で巨体が勝ち上がった。
「ネプ公!ノワール!」
打ち上げられたモンスターに追従するように二人が跳ぶ。
「メガ・ド・ダーイブ!」
「ドロップクラッシュ!」
二人の打ち下ろしの形で放たれた技がモンスターにクリーンヒットし、地面に激突したモンスターは暫くもがいた後、光となって消えた。
「終わったな」
「いやぁ、今回も楽勝だったね。ノワールも意外と強いし」
「ま、当然よ。あなたもなかなかやるじゃない」
「えへへー、ノワちゃんに褒められたー」
「なぁっ!?誰がノワちゃんよ!?変な呼び方しないで!それに褒めてない!」
戦闘が終わって早々にネプテューヌとノワールが漫才を始める。
「さっきまでと比べて、随分仲良くなったじゃないあの二人」
「昨日の敵は今日の友です。仲良しが一番です」
「あいつらの場合は喧嘩するほど仲がいいとも言うがな」
「シアンの武器のテストも終わったことだし、今日は一先ず帰りましょ」
この後ネプテューヌ達はガナッシュにモンスターを討伐したことを報告し、シアンのいる食堂へと帰った。
「たっだいまー。シアンー、武器のテスト終わったよー」
「お、意外と早かったな」
ネプテューヌがシアンから預かっていた武器を返す。
「それで、アヴニールの方はどうだった?」
「その話なんだけど、今回はハズレだったわ」
「ま、そう簡単に情報を漏らすほど馬鹿じゃないだろうしな」
「わかったのは、アヴニールが新しい工場を建てようとしていることくらいね」
「あいつら、また工場を作るのか!?」
ノワールの言葉にシアンが声を荒げた。
「工場がどうかしたの?別に企業が工場を作るくらい驚くほどじゃない気がするんだけど」
「作るだけならな。あいつらは工場を作る土地を得るために森を伐採してるんだよ」
「おかげでラステイションの自然環境はもうめちゃくちゃだ」
ただでさえ発展途上国であるラステイションの空気は悪い。
これ以上は取り返しがつかないことになりかねないのだ。
「このままじゃ、ラステイションが住みにくくなってしまうです」
「じゃあ、それを防ぐためにも、もう一度アヴニールの仕事を受けてみましょ」
「そうね。今回がダメでも、次で情報が手に入れられるかもしれないわ」
「でもってー、隙あらば秘密工作しちゃうもんねー」
「おいおい、あんまり過激なのはよしてくれよ?」
「話はそれくらいでいいだろ?一仕事して腹が減った」
「まったく……わかったよ。少し待ってな」
騒ぎ声が大きくなっていく食堂を影から見つめる男がいた。
「……ほう、あの方を付けて来てみれば、これはまたおもしろい話をしているようですね」
スーツを着た長身の男だ。
「そうですね。ここいらで一度、我が社に逆らうとどうなるか、身を持って味わってもらうとしましょうか」
そう言ってガナッシュは街の闇の中に消えていった。
……………………
「……だいぶラステイションの状況がわかってきたわ……これがネプテューヌたちのおかげ、っていうのがちょっと癪だけどね」
現在ノワールは部屋に戻り、自分の考えを自分なりにまとめているところだった。
「……でも解せないわ。国の発展のために企業が力をつけるのは分かる。むしろ、早くプラネテューヌに追いつくために私が推奨したいくらい。なのに、行き過ぎた自然破壊はやり過ぎよ」
腕を組んだまま立ったり座ったり歩き出したり立ち止まったりとかなりせわしなく動き回る。
「いくら科学が発展しても、それで人が住みづらくなってしまったら元も子もないわ……アヴニール、か。このまま国を乗っ取って何をしようとしているのかしら……国がこんな状況じゃ、守護女神戦争なんてやっている場合じゃないわ」
ひとしきり歩き回った後、ベッドに勢いよく座り込んだ。
「それに、むかつくけど、ネプテューヌもそんなに悪いやつじゃなさそうだし……今さら倒すなんて、そんなことできるわけが……」
「ノワール!こんどこそ一緒にプリン食べよー!」
「ひゃいっ!?」
部屋の扉を勢いよく開けながらネプテューヌが顔を出す。
「あれあれ?またまた驚かせちゃった?ごっめーん」
「もう、あなたって人は!……で、今日は何の用よ?」
「うん。美味しそうなプリン買ったからノワールと一緒に食べようと思って」
「……ごめんなさい、今はちょっとそういう気分じゃないのよ」
「ええぇー!ノワールも!?」
ネプテューヌがオーバーリアクション気味に驚く。
「あいちゃんとこんぱに断られ、アッシュはどっか行っちゃってるし、そしてノワールにも断られたらわたしは一体誰とプリンを食べればいいの!?」
「一人で食べればいいじゃない」
「わかってないなー、ノワールは!」
ちっちっちとネプテューヌが人差し指を振る。
「プリンっていうのはね、一人で食べるより、誰かと一緒に食べたほうがずーーーっと美味しいんだよ!」
「だとしても、寝る前に甘いモノなんて嫌よ、太るもの。それにもう眠いし」
「そっかぁ……」
「そういうことだから、今日はもう寝るわ」
「それなら、仕方ないよね……」
しょぼくれたネプテューヌが踵を返し、ゆっくりと扉へ向かう。
「……ごめんなさい」
「うぅん、気にしないで。こんな時間に誘ったわたしも悪いんだしさ」
「…………」
「……はぁ、ノワールと一緒にプリン食べたかったなぁ」
「……けど」
「……ん?」
「あなたがどうしても、プリンを私と一緒に食べたい、って言うなら、一緒に食べてあげてもいいけど?」
「ほんと!?」
ノワールの言葉でネプテューヌの顔に花が咲いた。
「えぇ。あなたがどうしても、っていうならね」
「うわーい!ノワール大好きー!ノワールならきっと、一緒に食べてくれるって信じてたよ!」
そう言いながらネプテューヌがノワールに抱きつく。
「ちょっとネプテューヌ!?いきなり抱きつかないで!」
「ごめんごめん、つい嬉しくてさ。じゃあ、そうと決まれば早速行こう!」
「えぇ!?ちょっ……ちょっと!?どこに行くのよ!?」
ネプテューヌは狼狽えるノワールの手を引いて部屋の外へと連れ出した。
「……で、なんでプリンを食べるのに外に出なきゃいけないのよ」
現在二人はシアンの工場から歩いて五分ほどにある公園近くの土手に並んで座っている。
「ふっふーん。ノワールは知らないと思うけど、プリンって外で食べるともーっと美味しくなるんだよ!」
ネプテューヌが空を見上げると、ノワールもつられて同じように顔を上げた。
「ほら、夜空も綺麗!」
「……ほんと。綺麗な夜空」
「でしょー!この間、一人で食べた時に偶然外に出て気づいたんだ」
「あ……その、この間はせっかく誘ってくれたのに断って、その……ごめんなさい」
「気にしないでよ。わたしが強引に誘ったのも悪いんだしさ。それに、今日こうやってノワールと一緒にプリン食べられたから」
「まったく、あなたって人は……ん?」
「どったのノワール?」
「あれ、アッシュじゃない?」
ノワールが指差した先には帰路へついているアシュレイの姿があった。
「本当だ!おーい!アッシュー!」
自分を呼ぶ声に気がついたアシュレイがネプテューヌ達の方へと近づく。
「……何してんだ、お前ら?」
「ノワールとプリン食べてるんだよー」
「そんなことは見れば……まぁ、いい」
アシュレイがネプテューヌの隣に座った。
「こんなところで何をしていたの?」
「……子供の頃、よくここら辺で遊んだのを思い出して、なんとなくな」
「……そう」
アシュレイの姿を見て、ノワールの中でアシュレイに言われたことが反響する。
「……ねぇ、ネプテューヌ。ひとつ、聞いていいかしら」
「なに?預金残高意外だったらなんでもいいよ」
「……もし、もしよ」
決心して、その質問を投げかけた。
「あなたが、女神だったとして、今のラステイションを見てどう思う?」
「…………」
「国と守護女神戦争。あなたなら、どっちを取る?」
「んー、わたし難しいことはよくわかんないよ。おまけに女神様じゃないし」
「……“もし”よ、“もし”」
そう言われてネプテューヌが暫く考え込む。
「んー……わたしなら、困ってる人が目の前にいれば、まずは助けてあげたいかな。それで、えっと、ハード戦争だっけ?それが駄目だったとしても、わたしが女神様なら助けた人の笑顔があれば、それはそれで満足だもん。あ、あとおやつのプリンね」
「ネプテューヌ……あなた……」
「ブレないな……悪い意味で」
「なにおー!?……あれ、ノワール?」
「……いいえ、なんでもないわ」
ノワールの顔がすっきりとしていることをアシュレイは見逃さなかった。
アシュレイが立ち上がり、歩き出す。
「あれ、もう行っちゃうの?」
「そろそろ眠くなってきたし、それに……」
「それに?」
「見たいものもみれたしな」
そう言ってアシュレイは手をひらひらと振りながら工場へ帰っていった。
「……行っちゃったね」
「そうね……あなたの卵プリン、ちょっと美味しそうね。一口くれないかしら?」
「ん?いいよ。じゃあノワールのチョコレートプリンも一口頂戴!」
「えぇ、いいわよ。はい、あーん」
ノワールがプリンを掬ったスプーンをネプテューヌの前に差し出す。
「あむ!んーっ!ほんのりビターなチョコがなんとも絶品な味わい!まさに、まいうー!」
「もう、あなたばかり美味しい思いをしてズルいじゃない。ほら、私にも。あーん」
「はい、あーん」
お返しに今度はネプテューヌがノワールにプリンを食べさせた。
「はむ。んーっ、こっちのプリンも甘くて美味しいわ」
「でしょでしょ!一人で二つ食べるより、こうして食べたほうがずーっと美味しいんだよ!」
「ふふっ、そうね」
「ねぇ、ネプテューヌ」
「ん?」
「……ありがと」
「?」
それが、ノワールの中で揺らいでいたものが固まった瞬間だった。
はい、過去回想からの謎ラッキースケベから始まる第6話でした。
自分で書いといてアレですがラッキースケベシーン要るぅ?
アッシュ君が特にリアクションする訳でもなく今後の伏線張りにもならないシーンとか存在価値が無いのではないだろうか。
あっても無くても進行に関わらないシーンはどの程度の頻度と長さで挟むのがベストなんでしょうね。