近頃、ダンジョンでは竜咳が流行っているそうです。   作:ハムウィック

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第1話 想定リスク?糞食らえ!

竜胤の御子の忍・隻狼は、主命により葦名の秘境・菩薩谷を訪れていた。

 

菩薩谷は、巨大な仏像が並び立つ急峻な渓谷だ。一見荘厳なパワースポットだが、武装した猿の群れが巡回しており、おおよそ人の立ち入る場所ではない。うっかり足を踏み外せば落下死、運良く生き残っても谷底の毒沼による中毒死が付いてくる。隻狼は自身のモチベーションが谷底をぶっちぎるのを感じていた。

 

思えば、菩薩谷に至る道中も散々だった。世界観にそぐわない精度の狙撃銃で全身蜂の巣にされたり、ブサイクに八つ裂きにされたり、蛇に追い立てられたり、猿に銃撃され毒沼に叩き落されたり、死亡回数は百に上る。

 

だが、可愛い我が主のためならば仕方がない。隻狼は凝り固まった眉間の皺をほぐしながら、任務の妨げとなりそうな猿共の尻穴に愛刀を突き刺して回っていると、目的の溜まり池を見つけた。

 

主命は、菩薩谷の深奥、変若水の溜まり池に咲く香花を回収すること。

池を見渡しても、それらしい花は見当たらないが、奥に洞がある。

恐らくは洞中に香花があるのだろう。

思わず安堵の溜息を漏らした隻狼であったが、すぐに眉間の皺が深くなった。

洞の入り口に、体毛の白い、巨大な猿が一匹。

 

(また仏師殿の竜咳が酷くなるな)

 

ここ数日の隻狼死因ランキングのトップは猿だ。なかでも白い奴は特に厄介で、先日鉄砲砦を突破しすっかり慢心していた隻狼をタイマンでボコボコにした。その敗北経験は隻狼にとって軽いトラウマになっている (その後、白い奴にはこっそり背後から借りを返した)。いわんや今回は猿、白い、に加えてデカイ。明らかに厄ネタだ。

 

(アレが噂に聞く魔猿・獅子猿か。だが、幸いヤツは今尻をこちらに向けている。己が縄張りの中とはいえ、油断をさらすその間抜けさよ。まさか卑怯とは言うまいな。)

 

どこぞの山賊上がりの武将気取りならともかく、己は忍びである。

然らば、わざわざ厄介そうな難敵と正々堂々戦う必要はない。

隻狼は、愛刀・楔丸を抜き、獅子猿の背後から足音を消して忍び寄った。

刃先が尻に沈もうとした直前、獅子猿が身を翻した。

 

(馬鹿な、感づかれたか。不覚をー)

 

狼の視界が真っ茶色に染まった。

 

ーーーーーーーーーーー死ーーーーーーーーーーー

 

(とったなくっっっさ!!!)

 

隻狼は近くの鬼仏(セーブポイント)で息を吹き返した。

自身の着物は茶色に染まり、悪臭を放っている。

どうやら、獅子猿は目にも留まらぬ速さで脱糞し、それを隻狼に投擲。忍殺を確信していた隻狼は回避が遅れてしまったため、当たりどころ悪く即死したようだ。

隻狼はこれまで数多くの死を体験したが、ここまで屈辱的な死は珍しい。

 

(獣畜生めが、成敗してくれるわ。)

 

隻狼は獅子猿への復讐を固く掟に定めた。

 

ーーーーーーーーーー死×20ーーーーーーーーーー

 

どこからか、恨めしげな咳音が聞こえる。

隻狼は全力でそれを無視し、獅子猿へ幾度も立ち向かった。

全ては我が愛しき主のために。

 

(猿めは尻を切りつけられるともんどりうって転ぶ)

 

獅子猿の嵐のような殴打を掻い潜り、尻に一太刀。

たまらず転んだ獅子猿の尻に、火吹き筒の銃口を当てる。

 

(ここだ。)

 

ゼロ距離で火吹き筒を発射。はらわたを業火が直撃し、獅子猿は絶叫、正気を失ったように暴れ回るが、倒れず。

 

(呆れた頑丈さだが、)

 

隻狼は獅子猿の首元まで駆け上がると、獅子猿の首に刺さっていた太刀を両手で掴み、

 

(んんんんんんさらば!!)

 

全体重をかけ、テコの原理で獅子猿の首を落とした。

 

 

ーーーーーー忍殺 shinobi executionーーーーーー

 

 

ぐしゃあ、と首の落ちる音がした。

 

(菩薩谷の獅子猿、類稀なる強者であった。)

 

残心ののち、愛刀をおさめ、洞へ足を向ける。

 

(さて、例の香花を回収するか)

 

首を失った獅子猿はピクリとも動かない。

 

(その前に服を洗うか。香花に臭いがついたら面倒だ)

 

隻狼がそんな益体も無いことを考えていると、

ふと、後ろに気配を感じた。

 

(まさかー)

 

振り返ると、

首の無い獅子猿が立っていた。

獅子猿の首元の切断面が激しく脈打ち、

 

『◾️◾️◾️◾️ーーーーーっっ!!!!』

 

隻狼は怖気ついて死んだ。

 

ーーーーーーーーーーーー死ーーーーーーーーーーーー

 

「ひぃっ」

 

隻狼は近くの鬼仏で息を吹き返した。

 

(死ぬほど驚いた。彼奴、物の怪の類であったか…)

 

厄ネタもここまで盛れば大したものだと、隻狼は大きく溜息をついた。

怨霊に有効な装備を整えて、池に再度向かったが、

 

(いない?)

 

池はもぬけの殻であった。

細心の注意を払って洞の中に侵入するが、そこももぬけの殻。

香花らしきものは見当たらなかった。

 

(しかし、洞の奥からかすかに芳しい香りがする。さては猿め、花を手折って奥に逃げ込んだか)

 

洞はどうやら長く地下へ続いているようで、足元の池の水も洞の奥へ流れ込んでいる。

 

(手ぶらでは帰れまい。追うか)

 

隻狼は、洞の奥へ足を踏み入れた。

 

 

そこが、どこへ繋がるかも、知らないで。




ーーーーあとがきーーーー

はじめまして。
クロスオーバーということで、両原作様へのリスペクトを忘れずに頑張りたいと思います。拙筆ですが、よろしくお願いします。

また誠に勝手ながら、本作品の隻狼は皆さんのプレイしている熟達の忍ではなく、私個人のチキンプレイに基づくクソ雑魚チャキチャキチワワです。この作品は、そんな貧弱チワワが怪物と英雄のひしめくダンジョンに迷い込んだらどうなってしまうのか?というお話です。苦しげな咳音が聞こえる、、、

なお、鬼仏無しのダンジョン攻略は亡者化必至だろうということで、本作品ではダンジョン中にいくつか鬼仏が点在しており、死亡後最も近くにある鬼仏で回生するというEASY設定で行きたいと思います。なので、本チワワは九郎様へのホウレンソウ、半兵衛とのいちゃいちゃ、エマ殿との酒盛り、お米様とのスキンシップ、ステータス管理等をダンジョン攻略と並行してやってます。ちゃっかり。

今後、余裕があれば、あとがき等で本チワワのステータスや、現在ぼかしてるとこも補完していこうかと考えています。

それでは、処女作ですが、よろしくお願いします。
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