近頃、ダンジョンでは竜咳が流行っているそうです。 作:ハムウィック
主命を果たすべく香花を探索していた狼は、獅子猿の卑劣な罠により迷宮都市オラリオの超人気スポットたるダンジョンへ叩き落される。なんとか命拾いした彼は、リヴィラの街に迷い込み、ダンまちキャラとの凄惨なラッキースケベを果たしたのだった、、、
◾️第3話! 心のケアは大事と存じます。
「ヒ、ヒィッ」
狼はよく覚えていないが、一際凄惨な死に方をしたらしい。
顔面に刻まれた強烈な恐怖によって、しばし籠を被って震えていたが、ひとまず緊急用のおはぎを食んで精神を落ち着け、身を起こした。
傍にある鬼仏に手を合わせ、どんな形であれ無事逃亡できた幸運に深く感謝した。
(なんなのだ、あれは…。新種の赤鬼だろうか。葦名は変わってしまった…。アレには全く勝てる気がしない)
狼の勘が正しければ、新種の赤鬼は複数体いた。その上、いずれの新種もあの酔いどれ女医を凌駕する剣気を有していた。単体であればある程度食らいつくことは可能だろうが、乱戦になればまず勝てないだろう。
(とにかく、この森は危険すぎる…御子様にご報告せねば…おはぎ…頂戴せねば…おっこめ…ピチャ…)
狼はまっすぐ仏渡りで帰投した。
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「…まとめると、覗き魔と思しき不審者がいて、逆上したティオネがうっかり頭を吹き飛ばしてしまったが、その後遺体は影形も残さず消えてしまった。そういうことかな?」
言わずと知れたロキファミリア団長、フィン・ディムナは殺人現場に居合わせたロキファミリアの構成員と幹部を集め、なんとか事態の収拾を図ろうとしていた。
一名を除いて、皆顔が青ざめている。
「ティオナはなんとか間に割り込もうとしたが、間一髪で間に合わなかった。彼の…こう、血とか、そういうのを至近で浴びてから、こんな状態が続いている、と。」
ティオナのみ、なにやら様子がおかしかった。
顔は赤らみ、涎が垂れ、目は焦点が合っていない。
明らかに酷い酩酊状態になっているようだ。
先人も警句を残していたのに。かねて血を恐れたまえよ、と。
「まぁ、恐らく一過性の心理的ショックだろう。こういったものを見るのは初めてでもないだろうし、時間が経てば元に戻ると思う。たぶん。こっちはそういうことにしておいて…」
とにかく、どうにもならなそうだけど問題に切りをつける。管理職たる彼の責務である。
(遺体も痕跡も消えてしまった彼のことだが、正体も不明、所属も不明か。一瞬だったから顔もよく覚えてはいない、と。服装から鑑みて極東系のファミリアの可能性があるとのことだが、確証もない。せめて痕跡さえ残っていればもう少し手立てがあるのだけれど)
現状として、被害を訴える人間もおらず、謝罪する対象も分からないため、打てる手立ては無いに等しい。それに、ただでさえ今は遠征の最中。そのような不確定事項にリソースを割くほど余裕はない。従って、この案件はとりあえず遠征後に対応しよう。フィンはそう考えた。
「ともかく、事態は理解できたよ。彼にも落ち度がない訳ではないが、その、今回のことは非常に不幸な出来事だった。明らかな過剰防衛だ。一ファミリアを代表して、彼に対して、とても申し訳なく思う。」
沈痛な顔で、そう続ける。
「ティオネ」
フィンは真摯な表情で、ティオネに向き合う。
決して声を乱すことなく、粛々と告げる。
「殺す気までは無かったのは分かる。だけど、相手が覗き魔でかつ悪臭を放つ正体不明な不審者とはいえ、何も警告せずに殴りかかるのは間違っている。君も第一級冒険者なのだから、自身の膂力くらい理解しているだろう。相手のステータスの低さは関係ない。いずれ、似たような事態は起きていただろう。」
「これまでは君の分別に期待して、多少の粗暴さには目を瞑っていたが、今回は取り返しのつかない事態に発展する恐れもある。僕の監督責任でもあるが、この遠征が終わったら、事態に進展があるまで、ホームで謹慎していなさい。」
「ごめんなさい…団長になんて迷惑を…」
ティオネは俯き、ただ謝罪を繰り返す。
「…その、消えてしまった彼のことだが…通常なら、遠征を延期にしてでも彼の遺体を所属ファミリアに届け、誠心誠意謝罪したいところだ。だが、遺体が唐突に影形もなく消えてしまうなど、尋常の人間では有り得ない。これは私見だが、恐らくティオネが攻撃したのは何らかのスキルによる分身か、変身能力を持つ新種のモンスターのどちらかだろう。だから僕としては、今回のことがファミリア間の抗争に発展するような深刻な事態とは考えてない。けど、確証もない。それを確認するためにも、まず彼の身柄を早急に明らかにする必要がある。」
「ただ、今回の遠征に支障をきたすようなことはできない。多くの人々の期待や支援を背負っているわけだからね。そこで、この遠征が終わった後で、可及的速やかに彼の身柄についての調査を実施。調査の結果を基に、対応を考えて行きたいと思う。」
「もしここにいる皆に異論がないようなら、今話した方針について、後でファミリアの皆に伝えておくよ。同じ過ちが起きないよう、注意喚起も含めてね。遠征については、予定通り明日から街を出発する。それでどうかな?」
「私としてはなるべく早急に調査を始めた方が良いとも思う。だが、今回の遠征にそんな余裕は皆無であることも理解している。多少対応が後手になってしまっても仕方がないか。」
と、言わずと知れた最強の魔法使い、リヴェリア。
「儂としても、異論はない。」
と、言わずと知れた最強の肉壁、ガレス。
「分かった。それでは、今の方針で進めるね。ついでに、ヘスティア・ファミリアにも伝えておく。彼女達も現場に居合わせていたし、ショックを受けていたようだから。遠征についても予定通り進めるから、各自準備を怠らずにね。それでは、解散してくれ。」
方針が決まり、とぼとぼと解散する一同。
フィンとしてはティオネのことも心配だったが、ファミリアの団長として、ケジメをつけなければならないときもある。少なくとも現段階では、個人的にフォローすることはどうしてもできなかった。
「全く、ままならないものだね…」
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一方、御子の忍びは。
「狼よ、どうしたその顔は!エマ殿、はよう来てくれ!」
「…狼殿、それは俗に言う、覗きでは?
また、葦名の領域は菩薩谷までであり、その奥は葦名を超える人外魔境の地と聞いております。弦一郎殿の手は、そこまでは及んでいないはず。恐らく狼殿の接触された女衆は、その隣国の方では?」
「…その状況では、のぞきと思われても仕方ないな。相手方の反応が過剰過ぎるが。もし可能なら、そのような強大な勢力との敵対は避けたい。ただでさえ葦名の周りは敵ばかりであることだしな。狼、まずは香花の探索を再開してくれ。あと、もしそなたが可能ならば、その女衆と和解しつつ、勢力の規模や目的を探ってほしいのだが…できるだろうか?」
「………」
「…ほれ、そなたのためにおはぎを握っておいたぞ。」
「…御意。」
「くれぐれも、敵対されないよう。ご安全に…」
「…承知した。」
「…私もついていった方がよろしいでしょうか。」
「不要だ。」
拙いものですが、ご覧いただきありがとうございました。
あんまり話が進みませんでした…すまない…
次回、第4話! 激戦!助太刀!大惨事!
の予定。
少し時間がかかってしまいますが、ご容赦ください。
もし宜しければ、今後とも何卒よろしくお願いします泣