偽船長を倒したらー? 船が爆発した。
爆破オチとかサイテー! お前の仕業か手フェチ殺人鬼吉良吉影!(濡れ衣)
幸いにも爆発による怪我人はいないようだ。皆の邪魔にならないようボートの端へ寄り、海水でびっしょびしょになったロングヘアーを絞る。水がぼたぼたぼたと音を立てて海に落ちる。このまま天日干しされると髪に塩がくっついてえらい事になりそうだ。出来るだけ早めに真水で洗いたい。
「琢磨、大丈夫か?」
「ああ、問題ないよ典明」
承太郎はポケットに入れていた煙草が湿気っているのに気付いたのか舌打ちをする。そうだ、全員アヴドゥルさんの
……あれ? そういえば俺、偽船長をどうやって倒し――――――?
『――あれはどうでもいい存在だ。故に、「どうして」などと疑問を抱く必要はない』
――――ああ、そうだそうだ。
『あえて攻撃を食らって、相手がトドメを刺そうと油断して寄ってきたところに一撃を加えた』んだった。
――遠くのような、近くのような。不思議な感覚だ。何処かで誰かが笑ったような気がした。
――だが、そう感じたことも、記憶も。すぐに白に染まり……彼の中から消えた。
ジョセフさんから水が入った水筒を受け取った家出少女は、不安そうに俺達は何者なのかと問いかける。密航しようとしたら謎の怪奇現象に巻き込まれ、しかも漂流するときた。運が悪かった、で済む話ではない。
家出少女に対して隣にいたジョセフさんが言葉を返す。ジョセフさんの言葉で少しだけ安心したのか水を口に含んで…………思いっきり吹き出す!
「みんなあれを! 見て!」
貨物船改めストレングスの能力で魔改造された小舟だ! ここまで近付いているのに誰も気がつかなかったのはスタンドである程度音や見た目を誤魔化していたとかなのだろうか?
……わかんね。まあ今その考察しても遅いか! もう目の前に船あるし!
皆ダカダカと足音を立て、急いで船に乗り込んで行く。俺も行こうかと足をかけて……引っ張られる感覚。家出少女は俺の服の裾をきゅっと握って無言の訴え。
……俺でいいのか家出少女よ。典明の方が対応いいと思うぞ。まあ悪い気はしないから一緒に登るんだけどね!
皆甲板に揃う。恐ろしいほどにこの船は静かだった。耳をすませど人間の生活音は聞こえてこない。
「猿よ、オリの中に猿がいるわ」
家出少女の指差す先には彼女の言葉通りに猿がいた。典明がオランウータンだ、と種類を言い当てる。
「…………ねぇ、斎王……だっけ? あれ、何?」
家出少女に服をちょいちょいと引っ張られ、オランウータンがいる檻に近寄る。檻の中、隅になにか置かれているのを見つけたようだ。
そ、それは……! どすけべブックス! 女子の目の前でおもむろに広げるなー! 読むなー! グヘヘって顔をこっちに向けるなー!
やめろー! こんなのオランウータンじゃない! 俺の知ってるオランウータンは……森の人で……皆を笑顔に……。
猿なんぞどうでもいい、とジョセフさんが部屋の中から外へと視線を移す。
「!! アヴドゥル! その水兵があぶないッ!」
誰も触れていないクレーンのフックが大きく揺れる。その先には一人の船員。すぐそばまで迫っている危機に気付いていない。
ジョセフさんの声を聞いたアヴドゥルさんが気付いた。が、間に合わない。俺は、スタンドを――。
『――《アルカナフォースVIII-STRENGTH》』
当然、正位置。
《アルカナフォースVIII-STRENGTH》の正位置の効果は相手モンスターのコントロール奪取。効果は正常に発動し、がくん、と急激にフックの速度が落ちて……動きは止まった。
『ほう……成る程。下等な存在であれども、腹立たしいと思う頭はある、か』
船のスタンドの一部分の制御が出来なくなったその瞬間。檻の中にいる類人猿が反応したのを、『ソレ』は見逃さなかった。
「なッ、何だぁ一体!?」
「誰も触ってないのに! 勝手に動いたぞ!」
戸惑う船員を横目に、『ソレ』は今回の運命についてどうするかを考える。この運命の流れを変更する必要はない。よって自分が手を出す必要はないと考え、先程の類人猿の反応を適当な誰かに伝えるだけにしようと皆を見る。
船員達は勝手な行動をとり――まあ、スタンドを知らないのだから仕方がない。それも運命だ――フックが勝手に動いた原因を探りに向かう。
ジョセフ、花京院、アヴドゥル、ポルナレフは2組に分かれ敵を捜索しようと甲板で話し合っている。
今回の敵は承太郎が対決する。深く考えずとも適任者は一人しかいなかった。
「あの猿、スタンドが見えているようなそぶりを見せた。気をつけた方がいい、承太郎。皆は気付いていないようだから伝えにいってくるよ」
皆の後を追い、この場から去ろうとしたところで承太郎に肩を掴まれる。
「待ちな。てめーは一体誰だ? 何を知っている?」
「……何、とは? 何のことを聞いているんだ?」
「斎王琢磨に聞いてるんじゃねえ。その中にいる『お前』についてだ」
――まさか、『ワタシ』に気付いているのか。この人間は。面白い。少しばかり相手をしてやろう。
『――数奇な運命を辿る星よ。ハジメマシテにしてはずいぶん面白いことを尋ねるな。自分が何かなど、理解できている人間の方が少ないのではないか?』
「そんなことを聞いてるんじゃねーぜ、質問に答えろ。『お前』は何を知っている!」
く、く、く、と笑う。
何がおかしい、と男は問う。
『世界を崩す定めを背負う星よ。この世には知らずとも良い事がある。例えば、『天国へ行く方法』……おっと、今の君は知らないか。今の君が覚えておくべきなのは、知らない日記は中身を開かずそのまま燃やしておけという事だけだ。――さて、質問に答えようか。ワタシは路傍の小石のような、どこにでもある、どうでもいい存在だ』
明らかな嘘。そんな答えで彼が納得できるはずはない。
『おお、怖い怖い。……ああそうだ。あの猿がスタンド使いだと仮定するならば、女性を一人にするのは危険なのではないか?』
その言葉でやっと家出少女とやらの存在を思い出したのか、承太郎は少女が消えた方向に足を向ける。
「チッ……てめー、また出てきたら覚悟しとけよ」
『いいやその必要はない。忘れるさ、すぐにな』
「ッ! 一体な――――」
『《白のヴェール》、全てを隠せ』
ふわり、と承太郎に純白のヴェールがかかる。人が触れることなど出来ない穢れなき真白の薄布。かつての光の象徴。それに触れた承太郎は全身の力が抜け、目の焦点は合わず虚ろになる。
記憶の操作、思考の染め上げは『ソレ』にとって容易いこと。『ソレ』に不都合な部分だけを消し、疑問に思っていたことは空っぽの白に。
『……ふむ、これで大丈夫だろう。そら、早くあの少女のヒーローになってこい』
覚醒途上の頭を抱えながらも、承太郎は家出少女を救いに駆け出す。だが、『ソレ』は動かない。
斎王琢磨は手の届く範囲の人物を助けたいようだったが、『ソレ』に船員達を助けようという気は無い。『ソレ』にとって彼等はどうでもいい存在だからだ。
『しかし、ヒーロー、か……嫌な響きだ』
自分の言葉で顔をしかめる。かつて自分が敗北を喫した闇。その闇が使っていたのがヒーローと名のつく存在だった。
『…………』
『ソレ』は決して忘れない。忌々しいあの存在を。ここがかつて自分が産まれた世界とは異なる世界だとしても。
奴らは光を完全に消滅させたいようだが、それは不可能だ。闇があるならそこには光がなければならない。
……その理論は逆もありえる? それは知っている。だがそれが全てではない。
私は闇すら残さない光だ。全盛期の力を取り戻せば全てを光で包むことは可能だ。今はどうなのか、と問われると耳が痛いのだが。
――このまま彼等と旅を共にすると、『私』と『ワタシ』は運命の元に消える。彼等が負うべき死の運命を肩代わりして消えてしまう。そうだと分かっている。分かっているのに……それを『ワタシ』は嫌っていない。
『我々の先に待つ破滅の運命。これも、『私』から『ワタシ』への"■"なのだろうか……っふふふ』
……気が付いたら貨物船の床に下半身埋まっていた件について。
いででででででで! このままじゃスタクル全員真っ二つに! 下っ端に! プラ/シドになるうううううううう!! なんとかしろ承太郎ー!
破滅の光の存在なんとなく気付いてた太郎が破滅の光の存在忘れちゃった太郎になりましたが、そのお陰で斎王に対する対応が今までよりマシになるので大丈夫です。