がんばれアイバー:俺がハンターになった理由   作:姉の犬

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これまでの『がんばれアイバー』

 修行が一段落するや野に放逐された青年、アイバー=ナイデス。
 大願成就に必要な大金を手にするため、一路目指すは天空闘技場――の、筈が。
 道中出会った少女に拉致され、これを下すも、何やら怪しい雲行きとなる。
 ホモホモしい謎勢力もチラつく中で、彼の運命に標は有るのか!


08_286 示されたライセンス

「やっぱり小説はいいね! 心情的に特別な分野だよ、惹かれる。だが、実践ではやはりSSだ。新しい一次創作が出る今でも――。

 ワケ知り顔がこざかしい理屈でSSを評価する。原作より伸びた投稿ペース。拙くなった文体。ピュアに執筆を追求していないと。

 ──笑わせるね、何も見えてないくせに。

 ──その時、その作品を目にした者だけが、SS、この本質を知るのよ!」

 

 よう。無事レベル判定をこなしたナイスガイ、アイバーだ。

 冒頭の長ったらしいポエムで察しがついてるだろうが、現在、俺は再び痴少女とドライブをしている。元ピザ屋勤務のタクシー運転手と気が合いそうなドラテクでな。つまり速い。

 気のせいかも知れないが、判定後のゼシカ嬢は前回にも増して熱が入っていた。今も何やら延々と語っているけど、とりあえず無視しておこう。絶対に重要な話じゃない。2ベリカ賭けてもいいよ。

 

 しかし、気のせいかな。天空闘技場がどんどん小さくなってるような……うん、気のせいじゃないね。

 訝る間に、景色は照明と金属の文明華々しいものから茶と緑の牧歌的なそれへ変わり、そして目的地が天空闘技場ではないと確信した辺りで終点を迎えた。

 近くに湖を臨む小高い丘――そこへ建てられた高層ツインタワーの下に停車したのだ。

 

 天空闘技場には及ぶべくもないが、それでもかなりの高さを誇るであろうコンクリート剥き出しのビル。ガラスは嵌っておらず、その頂上付近に見える建材や重機のくたびれ具合から、建設途中で打ち捨てられたものであることが窺えた。外壁に廻らされた規制線を示すテープの存在から、2棟とも一般の立ち入りは禁止されている様だが……。

 見た目から感じる若干の侘しさを煽るように、茜色の斜陽が絶妙なコントラストを生んでいた。……俺ってば詩人だねえ。

 

「それで、何だ、ここは」

「何って、試験会場だよ」

 

 あれれー、おっかしいよー。試験、さっき終えたばかりだよね(コミカルからシリアスへの転調的コナソボイス)

 あの闘いは何だったの?

 

「それと貴方、このルート使ったってことは申し込みしてないよね? この端末使って情報入れてくれれば捻じ込めるから、早くしてね」

 

 俺の疑問をよそにタブレット端末を押し付けてくる小娘。そのうざやかなキメ顔がむかつくが、言われるがまま端末に表示された必要事項を入力する。名前と年齢と――まあ本当に最低限のもので、苦い記憶として残るあの番号がなかったのは幸いだ。

 入力後に不備がないか確認して端末を返す。

 

「ところで、試験と言ったが先ほど手合わせしただろう」

「じゃあ、右のビルの入り口まで行ったらインターホンを鳴らして、用件を訊かれたらペパロニのピザを届けにきたって伝えて。激ウマを強調してね。それで会場に案内されるから」

 

 ゼシカ嬢、俺の話を聞いてるか?

 

「いや、それよりもさっきの手合わせは──」

「会場についてからは時間まで待機していればいいよ――と、伝えるのはこれくらいかな。それとこれ、わたしのホームコード! 試験が終わったら連絡してね。これは手続きじゃなくてプライベートだよ。待ってるから!」

 

 ……そうか。分かった。こいつはつまり、バカなんだ。バカだ、バカバカ。ぜんぜん愛しくない。

 俺はバカのバカたる性質を理解して折り合いをつけ、ホームコードの記された紙切れを手にした。たしかSNSアカウントみたいな物だろ? どうするかは保留として、受け取るだけならタダだからね。病気以外なら何でもイタダくぜ。

 

「それじゃあわたしは帰るけど、小耳に挟んだ話だと、今年はミソカっていう大変に変態な受験者がいるんだって。気をつけてね、ウェイバー」

「アイバーだ」

 

 それだと悪徳の都に浸かっちゃうから。タブレットの内容確認したばかりでなぜ間違えるんだ。

 呆れる俺をそのままに、ゼシカは3体のネンソーホーと揃って投げキッスをして去った。さらばだ、紐パンツ。絶対に戻ってくるんじゃないぞ。そして二度と会うまい。

 

 しかし、変態がどうとか言ってたな。俺も昔言われたクチだが、わざわざ判定員が注意を促すくらいだ、そいつは真正のそれだろう。

 ふぅむ……ミソカね。そいつとは関わらないようにしよ。

 

 ○

 

 ――これ完全に(試験会場に)入ってるよね。

 紐パンツの指示通りに行動したら、ビルの1階にあるエレベーターで屋上近くと思われるフロアに案内された。コンクリ打ちっぱなしの広間にこれという物はなく、しかしレベル判定を待つ選手達で溢れていた。ざっと300人は居るんじゃねーかな。

 

 部屋の奥は一面に渡り壁がなく支柱が数本あるばかりで、向かいのビルが丸見えだ。当初の見立てどおり中々の高所のようで、入室からずっと強風が吹き込んでいる。

 俺は豆みてえな顔をした係員から番号札を受け取って、目立たない隅のほうへ移動した。ちなみに、札に記された番号は315。これが選手の数だとすると、目算に狂いはないようだ。勘の冴えばパフォーマンスに直結するからな、何よりのことだ。

 

 改めて全体を眺めるに、少なくとも単純な格闘で負けそうな奴は見当たらない。ということにしておく。お山で散々懸念していた野生の念使い――それが2人ほどいる気がするが、たぶん見間違いだろ。うん、そうだ。何も……! な゛かった……!

 

 そうして空間に身を任せ同化すること少し。大半の選手の一瞥を受けてからは少々の視線が残る程度で、これといった変化はない。となると当然、性欲――じゃなくて退屈を持て余す。練でもして軽く気合を入れておこうか、と殊勝な考えが頭を過ぎったその時、

 

「きみ、新顔だね。試験は今回が初めて?」

 

ぽっちゃり系中年というか、筋肉に脂肪を乗せたレスラー型の肉付きをした男が声をかけてきた。

 自己紹介によると、この笑顔が似合うおっさんの名前はトンパ。34回も試験を受けているベテランらしい。レベル判定を34回とは……闘技場には未知のシステムがあるのかもしれない。

 

 さておき、俺は過度な善意には警戒で応える常識人。選手の有力株や判定試験の心構えをあれこれ教えてくれてはいるが、内容など捉えずに右から左に聞き流しておく。こういう人種はどこまで信用していいものか分からな……ファッ!?

 待て。待て待て。やつの腰部背面、そのボディーバッグから覗いて見えるアレはまさか――。

 

 ●

 

 過酷な試験に渦巻く絶望・悲愴・怨嗟のドラマ。六等から一等迄の新星が瞬き、一瞬の後に枯れ行き消光する―――その尋常ならざる興亡のリアル。高い美術的価値を誇る名画にも勝る情景に、トンパは至上の愉悦と快楽を見出した。

 その演出に熱中し生き甲斐にすらした彼は「新人潰し」と称されるに至った。

 幾人もの獲物に見え陥れ、幾度もの試験に臨み乗り越え、培った彼の洞察力と危機管理能力はこの場の受験者の中でも特に抜きん出た物であった。

 その彼の経験と本能が、けたたまく警鐘を鳴らした。

 

「チャリヲ置いてけ」

 

 ―――トンパは戦慄した。

 たったの一言だ。否、厳密にはその言葉と共に向けられた双眸が、如何な手管より雄弁に脅迫の意を伝えたのだ。

 睥睨─―─ただそれだけの所作で、先程まで有象無象の新人にしか過ぎなかった青年が、悪性と凶気に塗れた獣へと豹変した。

 

「チャリヲ置いてけ。なあ、チャリヲだ! チャリヲだろう!? なあ、チャリヲだろそれ」

 

 喰い殺される、と悟った。

 相手が何を求めているのか、それは解る。先に触れた彼の生き甲斐、新人潰しに用いる小道具―――即ち、携行鞄に収納した缶ジュースに目を付けられたのだ。

 これが只の飲料であれば即座に渡しただろう。それで命が買えるのだ、勿論の事である。しかしこの場合は事情が違う。何せ、差し出すべき品には強力な下剤が仕込まれているのだから。

 言われるまま渡し、その後に薬効が顕わとなれば報復は必至。或いはその場で混入を見破られて攻撃を受ける事もあろう。

 

 要求が飲料という括りだけなら、まだ遣り様が有った。相手の警戒を解くべく、自身が含む為の健常なそれを用意してあるからだ。しかし、今回対象となった銘柄にそれは無い。

 トンパの受験歴に於いて最上の、後悔するにしきれぬ手抜かりであった。

 だが、この場で悔悟に浸ったところで状況が解決する筈は無い。

 彼は数秒の、しかし深い黙考を経て腹を括った。

 

「此処に来るまでにトラブルもあって、もしかしたら中身がダメになっているかも知れない。だが、その場合でも命だけは勘弁してくれ」

 

 声と躰は情けなく震え、失禁手前まで萎縮した状態でそれだけを絞りだした。(だが、彼を嗤うなかれ。現在のアイバー相手にこれだけ出来ただけで上等である)

 

「お前の命はいらん。チャリヲだけ置いてけ」

 

 ぶっきらぼうにそれだけ言うと、最悪の脅迫者はトンパの手から有る限りの獲物を奪った。

 訝るかの様な視線を向ける様子からして、含有された下剤には気付いているだろう。にも係わらず、青年は一本二本と飲み下して行く。

 その光景に、先程とはまた別種の恐怖がトンパを満たす。

 堪らぬ迫力であった。止まらぬ狂気であった。まるで汚泥を強引に嚥下させられ、心臓を鉄線で締められるかの様な。その情の前では、攻撃の無い事実に対する安堵など忽ちに霧消してしまう程の。否、この情念を励起される事が即ち攻撃の一手であるに違いないとすら確信させた。

 

(狂ってやがる……!)

 

 トンパが内心でその様にごちるのも無理は無い。しかし、これは的外れな見解だ。

 彼のいう「狂い」とは人の理に依って規定される物であり、獣の不文律の埒外の事である。であれば、それに与するアイバーにしてみれば尋常の沙汰であるに相違無かった。

 トンパ本人からその気が失せて久しいとしても、ハンター試験に臨む以上、如何な面妖奇天烈も受容せねばならない。それは、未知への挑戦を本懐とする、ハンターとしての素質を問う物であればこそ。

 怯える心は恥ではない。しかし、こうして動じてしまったという事実は、何よりも明確な敗北の通告であった。

 

 この後、トンパは知己の受験者伝に知る。その獣はハオズ市のゴミ処理区画―――通称、廃棄街の無秩序・混沌を数日の内に調律し、彼の地の君臨と統治を刹那の享受で飽き、同市内自然保護区に姿を消したとされた人物である事を。

 そしてこの情報は秘密裏に受験ベテラン組で共有され、アイバーは要注意人物の筆頭となった。これは彼から障害の多くが除外された事に他ならず、受験に当って喜ばしい事態なのだが、しかし肝心のアイバーは……。

 

 ○

 

 キンッッッキンに冷えてやがる!

 その低温を堪能して、3本の3本目になるチャリヲを喉へ流し込む。

 ――このわざとらしいウォーターメロン味! 悪魔的だ! し得る、チャリヲのために犯罪の1つや2つは! 身に染み渡るぜ、牛乳くらいがせいぜいの生活に馴染んでしまった今の俺にはよォ。

 

 お山では修行の都合で泥水を啜る羽目になったり、小屋での飲食を除いて凡そ人の食事は望めなかったからな。

 チャリヲのパッケージを飾る「チャリ出来た」のフレーズで御馴染みのイキったガキ共も、今は菩薩の心で眺められるってもんよ。この世界にもあるとは思わなかったがな。

 

 ともあれ、チャリヲを何本もくれたトンパさんは俺の中で優しいおじさん枠に認定された。試験中、何か心遣いできるところがあれば積極的に配慮しようと思う。忖度はあります。アイバープロミス。

 

 そうやって一息いれてるうちに、周囲の視線が少し増えたのを感じた。例の野生の念使いからもビンビン感じる。……いや、いないいない。気のせいだ、誰がなんと言おうといないったらいないんだ。この試験はイージーモード、古事記にもそう書いてある。

 色々と疑念やら不安やらに襲われる俺。

 が、フロアに乾いた音が響くことでそれも終わった。

 

 音の出所へ目を向けると、そこには拍手をする男――を映した大型のモニターがあった。

 画面の男は、恰幅の良い壮年といった見た目だった。髪を後ろへ流し、角張った顔と鋭角に整えられた眉からは自信溢れる気性が窺える。スーツ姿も合わさって、絵に描いたような「お偉いさん」を思わせた。

 まあ何が始まるかなんて察しがついてるし、周りの選手もそうだったので彼の話に耳を傾けることにする。

 

 が、俺の平静はそこまでで終わった。

 試験官――トネガク=ユーコーと名乗ったそいつが放った一言が耳朶を叩き、そして俺のメンタルは5枚の防御札などお構いなしとばかりにワールドブレイクされたのだ。

 

「これより第286期ハンター試験を開始する」

 

 おいおっさん、今この試験のこと……なんつった? ハンター試験、そう言ったよなあ?

 

 師匠から聞いたことがある。世の中にはハンターとかいうすげーやべー連中がいるって。そのハンターになるには試験に合格しなけりゃならなくて、その試験は腕っ節だけでは到底突破できないって。でねーと市井にアマチュアハンターが溢れたりはしねーって。

 つまり、頭の悪い俺では合格不可能! ブレイクされた防御札にトリガーはない。詰んだ。タイアリッシター。きゅーいーでぃー(証明以前の絶望的な何か)

 

 呆然とする俺を他所に、トネガクは受験者らと回りくどいやりとりをした後、芝居がかった口上で次のように締めくくった。

 

「第一次試験――この試験のルールは至ってイージー。細かな決め事は一切ない。ただ、誰よりも早く。1秒でも早く、向かいのビルにある、この会場と同じ階に位置したフロアへ辿り着けばいい。合格者が一定数に達するか、または制限時間が尽きた場合、残った者は失格となる。

 お分かりかな? ただ辿り着くだけ。信じがたいほどの受験者救済内容……!

 さあ、夢多き受験生諸君――放たれよっ! 勇者たちの道! 第286期ハンター試験、その一次試験『ブレイバーズロード』へ!」

 

 セリフの終わりと共に、室内で唯一隣のビルが丸見えとなっていた側がライトアップされた。顕わとなったのは、ツインタワー間に渡された鉄骨による足場だ。それが都合三本ほど、か。

 なるほど、説明と照らし合わせると、高高度で命綱なしの平均台渡りをやれってことだろう。一見すれば余裕である。だが、さっきも言ったとおりこれはハンター試験だ。罠のやべーやつが十重二十重にあるだろうことは確定的に明らか。

 となると――。

 

「……(ウチ)帰ろ」

 

 まあ、こうなるな。

 そもそもの目的からして違うから、今の俺には意欲も熱意もない。

 周囲のやつらがそれぞれに反応を示す中、俺は失意と共にエレベーターへ乗り込んだ。

 さようなら一攫千金、こんにちは落胆。こいつは素敵だ、全部台なしだ。

 

 紐パンツに任せるまま連れてこられた遠方で、どうやって闘技場への帰路を探そうか。見つけたとして足はどうするのか。そんな不安だけが、俺の心を占めていた。

 プランB? ねーよンなもん。




NEXT TARGET
 ハンター試験で踵を返したアイバー

 バトルジャンキーとして彼へ執拗に絡みつく変態

 運命の行方は?

 そして、どのようにしてアイバーは変態から逃げ出すのか?

 次回、がんばれアイバー『じ0ker』

 彼の後ろに立つな、命が惜しければ

<2020/10/25> ○最新話08を投稿   (∪^ω^)個人的なエター認定基準である、1年放置を目前にしていたイヌ……。  優先順位の低さから後回しにしてたらコレですよ。  最悪こんな感じだけど、投げないし消さないから気長に付き合ってほしいイヌ!

  • うん
  • いや
  • どうでもいい
  • そっとしておこう
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