がんばれアイバー:俺がハンターになった理由 作:姉の犬
前世での死を乗り越えた男、アイバー。
ヲーキドなる神により異世界に跳ばされた挙句、唐突に告げられる死期。
邂逅を果たしたのは、仙人と称される傑物カカロータ。
運命に翻弄される彼の明日はどっちだ!
おっす、おらアイバー=ナイデス。
なんか苗字を訊かれたもんで、正直に「無いです」と答えた結果、望んでもいないファミリーネームが付いた。今後トモヨロシク。
さて、先ず現状を整理してしまうと、ゴミ山のある市内の外れに聳えるナントカ山――そこに建つ山小屋で修行することになった。
これについて、経緯をまとめておこう。
爺さんにナニカサレタ俺は、その後この世界での生活を考えることになった。衣食住がなけりゃ4年待たずに死んじゃうからね。
当初はゴミ山に居る人たちに飯とか水とか言うだけで恵んでくれたんだけど、何がいけなかったのか強面のオッサン達にちやほやされるようになった。
それで、数日はゴミ山に建てられた拠点で世話になることに。その間は相手の派閥がこうだの、俺の力を貸してくれればどうだの、言葉に乗せられるまま、日替わりでやってくる怖いおじさん達と対峙する毎日。
彼らはひと睨みすれば去っていくんだけど、そのうち1発2発殴らないと帰らない人が来たり、気絶させて取り巻きさんに連れ帰ってもらわないといけない場合だとかに発展。
それが止んだ頃には何やら豪勢な部屋を宛がわれ、急激に増えた人員があれやこれやと物騒に盛り上がるのを傍観するに至る。その興奮たるや凄まじく、果ては「淫獣を相手取っていただこう」とかいうアブノーマル極まりない話題が出る程の狂乱となった。あいつら頭おかしい。
それまで暢気にしていた俺であったが、ここまで来るとさすがに危機的状況を察してゴミ山を去ることにした。何も告げずに飛び出したが、人の貞操さえ秤にかけようという連中には後ろめたさなど欠片も抱かなかった。
で、仕事を探すためにゴミ山を出てすぐの市街へ繰り出したんだが……これが運命の分かれ目だった。
役場に行けばどうにかなるとたかを括った俺。警備員さんと接触したのを皮切りに良い感じのトントン拍子で事が進んだのに、ものの数分で問題が生じた。
どうやらこの世界、個人情報の管理が厳格に徹底されてるっぽい。
何と、社会保障番号やらマイナンバーやらに似た番号が世界の皆さんに交付されていて、それがないと職に就けないらしい。でもって、生まれた際に付与されるそのナントカ番号はその後取得申請等が出来ないとか。はっきり言ってやろうか? これで俺は終わりだ。
しかしここで諦めたら俺はゴミ山に逆戻り。人に流されてばっかの人生で4年が過ぎるであろうことは明白である。
なので、必死に喰らいついた。みんな俺を見て引いてたけど、このときばかりは恥も外聞もなく縋りついた。もちろん口頭で、だけど。
そして散々言い合った挙句――俺はキレた。
と言っても、そこはジョンブルを目指す俺である。手を上げることはせず、オーラを爆発させるだけに止めた。物理的な爆破じゃなくて、一気且つ瞬発的に高めることの比喩ね。
体内からオーラを噴出させるだけなんだけど、これをやるといい感じにストレス発散になるのだ。ゴミ山にいた頃は山の頂上で独りぶっ放してた。やった後の賢者タイムを含めて、いわゆる自家発電に似て……何を言ってるんだ俺は。
それで、気付いたら周囲に人が倒れているという状況になった。外が騒がしく、ガス漏れか何かが起こったのかなと考える程度で棒立ちだったけど、一目散に逃げなかったのは好判断だった。
というのも、そこへやってきたのが現在の俺の師匠――カカロータさんだったのである。
俺以外にオーラを「纏って」いる人間は2人ほど相手取ったけど、やつらはどれも申し訳程度のそれ。対して師匠の方はあまりに力強く綺麗だった。しばらく見蕩れてしまった程で、新しい、惹かれるな、とホイホイされてしまったのは仕方ないことである。
そうして、言葉少ななやりとりの末に俺は彼の下での生活を手に入れた。
不安で不本意な日々を過ごしていたけれど、結果良ければ全て良しだ。あのときの師匠は菩薩か何かに見えた。思わず泣くくらい嬉しかったです、マル。
その後、師匠に引き取られた俺はそのままここへ連れてこられた。
そこで取り決められたのが念の制御をするための修行である。ネンではない、念である。違いの分かる男になったのだ。
どうにも俺の念は大分変わってるらしく、師匠からは「およそ人の出せるそれではない、大変な変態とはよく言ったもの」と褒めてるのか貶してるのか分からない太鼓判を押された。そのオーラを上手く操るために、規則正しい生活を心がけながらの修練となったわけである。
早朝に小屋と周辺の掃除、昼と夕方には畑仕事に加えて牛さんと鶏さんの世話をする。各作業と食事睡眠を除いた時間はずっと修行。実に充実した毎日だ。
で、今は小屋の前を掃き掃除している最中である。
「俺の箒が軋んで呻る、ゴミを散らせと轟き叫ぶ!」
余談だが、この掃き掃除というのは俺の地味な特技の1つだ。前の世界でも竹箒担いで汚物を消毒もといキレイキレイしてた。町内清掃において勇名を馳せた掃き屋の逢羽とは俺のことよ!
竹箒を振り回して感触を確かめ、穂先を始め各所に不備がないか確認。一端の職人気取りで格好つけてると――。
「やってるな、アイバー」
やってきた師匠を確認するや、掃き掃除から一転してコンマ1秒で跪く俺。この機敏な動きは修行初日で身につけた。こっちの世界に来てから身体能力や成長速度が人外レベルなのは気のせいではない。
「今日は予定を変更する。区切りがついたら道場に来い」
端的に告げる師匠に、俺も首を振って答える。3ヶ月も共に過ごせば勝手も分かってくるもので、このやりとりで師匠の考えも察せられる。
つまりアレだ。日ごろ頑張る俺に、何かご褒美をくれるに違いない。
○
掃除を切り上げた俺は、山小屋に併設された道場にやってきた。この道場、日本のそれに酷似しており中々落ち着く。普段の修行でも利用しており、掃除するときも含めて心身ともに引き締まる思いである。
さて、本題である師匠の要件だ。
その顔をいつもより若干引き締めた師匠を見て、俺は「あ、これはご褒美じゃねーな」と瞬時に悟ったのだが、おくびにも出さずに向かい合った。
胡坐をかく師匠に対して足を投げ出して座り込むのは無礼かとも思うが、俺の意思に反して体がそう促すのだから仕方ない。無礼な物言いも同様だ。
この世界に来てから感情表現や発言に若干の修正が入るのはどうにかならんものか。――などと憂う俺の前では、毎度のことだけど師匠が少し浮いてる。ダルツムかよ。
「アイバー。お前がここに来て少し経つが、そろそろ自分の念系統を知る時だと考えている」
いつも通りスパッと告げられる言葉。俺はどんな仕打ちを受けるのかと内心ビクついていたため、胸を撫で下ろす。
ああ、系統ね。あの発によるオーラ性質のアレね。知ってる知ってる。仕置きじゃないならなんでもいいや。
安堵と共に出た「どうでもいい」という俺の相槌に師匠は「もう少し喜ぶかと思ったが――」と漏らしてから続けた。
「今までの修練で、お前はきちんと念能力に纏わる技術や知識を修めた。絶に関しては奇妙この上ないが、それは置いておけよ。基礎体力も及第点、精神修養を怠っていないのも見りゃあ分かる。
つまり、その変態オーラを十分に使いこなすための土壌は養えたわけだ。お前の考えは知らんが、とっくに発に取りかかって良い状態なんだよ」
ほほう、それでそれで?
俺の視線を受け、師匠は後ろ手に隠していた物を前へ出した。
何の変哲もない普通のグラスである。そこに水が並々と入っており、水面に焼き海苔が1枚浮かんでいた。昨日のおかずじゃないか。
「念の系統については座学で教えたな。強化・変化・具現化・特質・操作・放出――と6つの系統があり、六性図に基づいて修得率が配分されるわけだ。そして、その系統を見極めるための方法に水見式を用いる。こいつは他流派のやり方なんだが、一般に知られている最も簡単な方法だ」
系統の判別方法については、これまでの勉強では習わなかったことだ。
淀みなく続く師匠の講釈によれば、このグラスに手を近づけ練を行うことで自身がどの系統に属しているのかが分かるらしい。ちなみにこの水見式なる方法、系統判別と同時に発それ自体の修行にもなるそうだ。
これまで水見式に臨まなかったのは、発を除く自力の伸長を優先した結果のようである。その方が発の延長上にある固有能力の研鑽に役立つらしいが、難しいことは分からん。
ややこしい説明に頭が熱暴走しそうだったが、ここでようやく分かりやすい事態が起こった。
師匠の発である。
グラスに添えられた手の先には、小さな噴水が出来あがっていた。こぼれた水が、いつの間にか設置されていた桶に溜まっていく。
「これが強化系の反応だ。見てのとおり、水の量が増すのがその証だな。このように、水見式での系統判別はグラスに生じる変化が物差しとなる」
得意顔の師匠の手元では鯨の潮吹きなど目じゃないくらいに水が溢れ続けている。強化系すげえな。ちょっとの水があれば当座の生活には困らないじゃないか。増やせるんだもの。どころか、砂漠地帯での商いで生計が立てられるのでは?
邪な感慨に耽っている俺をよそに、再度グラスを整える師匠。そして、増水で流れた海苔を再び水面へと戻し、ずいとこちらへ突き出した。
「見せてもらおうか。お前の念能力の系統とやらを」
何かっこつけてんだこの人、柄でもない。――などと言おうものならお仕置き必至なので、言葉を飲みこんでグラスへ意識を向ける。
できれば俺も強化系がいい。さっきのパフォーマンスによって水を無限に獲得できることを知った俺の頭の中では、それを利用した商売のプランが駆け巡っていた。
――結果。
「具現化系だな、お前は」
親方、グラスから不純物が! と叫びそうになるほど大量の石灰じみたゴミカスを見て、師匠が軽く告げた。水中に山と沈殿するカスの塊は今の俺の不満そのものである。なんだよ、いくら爺さんにゴミ山へ落とされたからって、念までゴミが絡むことないだろ。
「強化系が良かったんだが」
思わず漏れた言葉に師匠は、
「アイバー。お前は今まで戦いの中で生きてきた。だから戦闘に一番適した強化系に惹かれるのは分かる。だが、オレはお前が具現化系で良かったと思っている……なぜだか分かるか?」
などと神妙な顔で問うてきた。出会ったときから感じてたけど、この人なんか俺のことを危ない人間だと思ってない?
そのことについて触れようにも、場の空気がそれを許さない。ついでに俺の体も許してくれない。しばらく口を開けないでいると、どう受け取ったのか師匠が再び話し始めた。
「具現化系は能力のバランスをとるのが難しい。特有の尖った性質を安定させて制御せねばならない緻密な系統と言える。だからこそ俺は、お前にぴったりだと思った。本能に任せて殺しに浸かってきたお前に、無軌道とは対極の指向が付くことは大きなプラスとなるだろう。一度殺したお前自身の気質、それから離れるには丁度いいんだよ。それが理由だ」
師匠は口元を緩ませ、それから、と続ける。
「本来なら、それと分かった念能力者にはよく考えて具現化する物を決めろ、というのが相場だが……お前は、もう決まっているようだな。そして、それについてオレは賛成だ。他人がなんと言うかは知らないが、少なくともお前に適していると思うぞ」
え?
「竹箒だろ。いや、何も言うな。オレには分かってる」
は?
「アイバー、2週間だ。その間水見式による発の修行をし、その後にいよいよオーラの物体化を目指す」
違うな、間違っているぞ!
――くらい勢い良く否定できれば良かった。しかしそこは俺。うん、流されたよ。
隠してても仕方ないから言う。俺、対人関係苦手なの。爺さんに押し切られたのも、ゴミ山で強面に担がれたのも、役場で面倒事起こしたのも、全部俺の付き合い下手が招いた結果である。加えて、先に述べたとおり謎の表現規制が入って性質に拍車がかかる。
平たく言えばコミュ障じゃな。
まあ、そのあたりはともかく。
具現化系能力を修得することに躊躇はない。コミュニケーション不足も、今は忘れよう。しかし、なぜ師匠は俺が竹箒に惹かれているなどと思ったのか、これがわからない。
こうして言い訳や工夫の余地のないまま、俺の竹箒具現化への道が決まった。
NEXT HUNT
その時、1つの星が月夜の中で瞬いて消えた。
その時、1つの純心が終わりを告げた。
次回『ナイトメア・ビフォア・サクセス』
――黒の歴史が、また1ページ。