ぷるぷる。
ふにふに。
「そうなのよ!そしたら鍋の中にいて!びっくりしちゃったわ!不思議なこともあるのねーって!」
「母さん……少しは危機感を覚えてくれよ……」
「人参美味しかったぷる!」
どうやら俺たちが異世界に行くのと入れ替わりでスライムがこっちの世界に来たらしい。
で、スライムは魔力の痕跡を辿って放浪の末に俺の家に侵入。
家宅捜査中に母さんが買い物から帰って来て大慌て。とっさに物に隠れたが、それがシチュー作るための鍋だったらしく、鍋を開けた瞬間に互いに目が合ってびっくりしたとか。
人参のないシチューをすすりながら話を進める。
「まさかおとぎ話やゲームとかで見るスライムがこんなに賢いとは思わなかったわぁ」
「ボクはスライムの中でも異常個体ぷる。それには深い理由があるぷる。言わないぷる」
「…………」
「暴力反対ぷる!伸びる!伸びるぷるーっ!」
「翔、やめてあげて!ぷるちゃんが可哀想よ!」
無駄に感触が良いスライムボディが悲鳴を上げる。
「言うぷる!言うぷる!だからやめるぷる!」
「吐け。つらつらと吐け」
「ぷええ……。ボクは本来ならスグに勇者に殺されちゃう存在ぷる。けど、その勇者は案外優しい人だったぷる。ボクを殺さずに生かしてくれたからボクは勇者についてったぷる。いつしか勇者は空にそびえるお城の城主になってたぷる」
「空にそびえる城?」
「ちょっとボロかったぷる。確か名前はアトランティスとか言ったぷる。勇者がそう言ってたのを聞いたぷる」
「アトランティス……」
「そのうちアトランティスには沢山の人が来たぷる。みーんな凄く強かったぷる。目に見えない物質を作り出せちゃう人とか、おっきな魔剣を背負っていた人もいたぷる。いつも本を読んでる女の子もいたぷる。みんな笑顔で、楽しそうだったぷる。……けど、次第に人は来なくなったぷる。勇者は『つながーるの最期なんだ』って言ってたぷる。……それで、勇者は独りになったあとも城にいたぷる。それで、ボクにオレンジ色の石をくれたぷる。飲み込んでみたら、それは経験値を圧縮したものだったぷる」
「経験値?」
「生き物の記憶ぷる。生きとし生けるものは、みんな経験の記憶を持ってるぷる。生命にとどめを刺したその時、その生命の記憶を吸収できるぷる。例外もあるけど、吸収すると、記憶───経験値が集まって、宿主……吸収した人のことぷるね。その宿主を、1つ上の格に昇格させるぷる。それがレベルアップぷる。……もちろん、ボク達スライムは弱いからめったに経験値なんて得られないぷる。勇者は経験値の研究をしてて、圧縮した経験値を作り出すことに成功したぷる。こうすれば、弱い人でも一気にレベルが上がるぷる」
勇者。城。アトランティス。経験値。レベルアップ。
頭がこんがらがりそうだ。
「それで?」
「ボクはたくさんレベルアップしたぷる。知能が賢くなったぷる。人語を話せるようになったぷる。擬態、擬色ができるようになったぷる。たくさんのレベルアップのおかげで、ここまで強くなれたぷる。……勇者は、強くなったボクを野に放ったぷる。『お前にアトランティスは小さすぎる』って、広い世界にボクを降ろしてくれたぷる。でも、ボクはやっぱり勇者が好きぷる。勇者の魔力を追っていたら、知らない場所に転送されていたぷる。でも、その場所が一番勇者の魔力の匂いが濃かったぷる!それで、匂いを追っていたら、この家についたぷる……」
「あらあら、ウチの家系に勇者が?すごいわぁ」
「たぶん、近くに勇者がいたんじゃないかと思うぷる。……そういえばお前、なんだか勇者の魔力の匂いがするぷる」
「は、俺!?俺が勇者!?」
「違うぷる」
違うのかよ。
スライムは俺に近づいて俺の服の匂いを嗅ぐ。
……スライムなのになんでこいつは良い匂いしてるんだ。
「うーん……多分お前の知り合いに、勇者がいる……ぷる?」
「なんで疑問形なんだよ」
「匂いが違うぷる……いや、勇者の魔力の匂いはするぷる!でも、なんか違うような……」
「何が違うの?その勇者の魔力って、どんな感じなの?教えてぷるちゃん」
「ぷる……勇者の魔力は、色に例えると緑色っぷる。でも、こっちの匂いは……黒っぽいような気がするぷる」
魔力に違いなんてあるのか……?
ゲームとかだと魔力を分け合うとかいう技があるから、違いなんてないものだと思っていたけど。
とにかく、このスライムは勇者を探して来たわけだ。
……異世界でまおうが言っていた。勇者に気をつけろと。
「なあスライム」
「ぷる?」
「その勇者探し、俺も手伝う」
「いいっぷる!?ありがたいぷる!……でもなんで急に?」
「なんか気になるんだよ。勇者って存在がさ」
「なら、会ってみたらもっときになるぷる!勇者は優しいぷるから、きっと仲良しになれるぷるぅ!」
スライムが跳ねて喜ぶ。
……胸騒ぎがするってわけじゃないけど、なんとなく、何かが起きそうな予感がする。
勇者って、結局なんなんだろう。
空になったシチューの皿を眺めながら、俺は考えていた。
『〜♪』
ん?メール?
差出人は……ああ、先輩か。
◇───◇
『親族が結婚式を開くらしい!』
『へぇ、おめでとうございます』
『良ければ結婚式の日、来ない?』
『?』
『その結婚式場は新郎新婦の亡霊が出るらしいくて』『出るらしくて』
今タイピングミスしたな。
『なるほど?』
『霊術とか取得できそうだから万術部でお邪魔しない?』
『構いませんよ。遥は?』
『ハルカから提案されたんだ』
『あー……』
『それじゃあ、地図と日程を教えるな(^^)』
先輩、メール慣れてないのかな……。
絵文字の使い方……いや、よそう。
◇───◇
「『わかりました』っと……」
「どうしたの、翔?」
「なんか先輩の親族の人……多分従兄弟とかそういうのが、結婚式開くんだって」
「まあ!おめでとうって伝えといて!」
「うん」
「その結婚式、ボクも付いて行っていいぷる?」
ここで手を挙げた───手なんかないけど───のはスライム。
「どした」
「人間の結婚式、興味あるぷる!」
「あー……まぁ、いいと思うぞ」
「やっぷる!」
問題はない……よな?
別にバレなければ騒ぎになることもないだろうし。