万術部と気まずい空気
……。
「せ、仙くん……その」
気まずい。
「聴いてくれ。空良が好きだ。昔から好きだった。お前が───飛ばされて行方不明になったとき、俺はお前の親よりも───自信がある」
所々聞こえない。けれどもきまずい。
「──────っ」
「もう一度言うから。この際だから言うから。だから、心山 空良さん」
隣の遥が顔を赤くしている。
「俺と、付き合ってください!」
人の告白を見るのってこんなにきまずいんだな。
式も終わって一息ついて、新しい力を手に入れるために教会の鐘の下でステンバーイしていたのだが、眼下であの男が告白を始めやがった。
出るに出れねぇ……。
「もう……。ずるいよ、仙くん」
「………………」
遥があわあわと、そしてニマニマとしている。
やっぱりこういう恋愛事情は好きなのだろうか。
「喜んで」
隣で遥が立ち上がり。
小声でこう言った。
「ヒャアもう我慢できねぇ!!」
鐘の横についている紐を思い切り引っ張り、コーンという音を響かせた。
鐘が鳴ったのと同タイミングで、空良とかいう女子高生と男の体が蒼い光に包まれる。
光が収まる頃には、二人の衣服は新郎新婦のようなウエディングドレスとスーツになっていた。
奇跡起きた……!
「親父がくれた写真集の中に、ちょうどその花束の写真があったんだ」
「花束の?」
「そう。花言葉が書かれててさ。確か……」
調べてみる。
スマホ、ネット使い放題プランでよかった。
赤いツツジは【恋の喜び】、ベゴニアは【愛の告白】
遥に見せると「ん゛ん゛っ」と口を押さえた。
いやーこれは……うん、これは……。
甘い。口の中が甘い。
この間も遥は鐘を鳴らし続けている。
てぇてぇ!てぇてぇ!てぇてぇ!と言っているらしい。
……やがてお似合いの二人は出ていった。
遥は最終的に鼻血を出していた。
とりあえず寝かせたら、『フリージア』って曲が似合いそうなポーズになっていた。
ダイイングメッセージは「(そのてぇてぇを)止めるんじゃねぇぞ……」らしい。
そんなに書けたらまだまだ元気じゃねえか。
とにかく、遥は尊い(?)の過剰供給と夜のお休みタイムが来たらしいのであえなく撃沈、俺の隣で鼻にティッシュ突っ込みながらすやすやと寝息を立てている。
それで、肝心の霊が出てこない。
缶コーヒーを煽って式場を見渡すも、それらしき影は見当たらない。
……ハズレだったのかなぁ。
カフェインにも慣れてきて、うつらうつらと俺も船を漕ぎ始めた時。
ギィ、と扉が開いた。
黒退先輩だ。どうしてそこに。
眼下を見渡すと、すでに黒退先輩の目の前にあの新郎……楽さんがいた。
いつの間にそこに!?眠すぎて気づかなかったか!?
「……まずはご結婚おめでとう、楽」
「ありがとう、深幸。いつの間にそんなに大きくなったんだい?」
「セクハラとして受け取ろうか」
「勘弁。俺はそんなつもりで言ってない」
互いに軽口を叩き合っている。
「楽。これはどういうことだ?」
「どういうこと、とは?」
「お前……なにか仕組んでいるだろう」
「……へぇ?心当たりがありすぎてよくわからないな」
「クッ……伊達に300年生きてるわけじゃないな」
「恐れ入ったよ。読心術を習得しているだなんて。計算外だったなあ」
「人を簡単に操作できると思ったら大間違いだぞ」
「まぁ、それはアトランティスで身にしみたさ。……ところで、【色違え】なんだが」
【色違え】……?
「なんども言わせるな。そんな物には出席しない」
「……十二宮の封印が、もうじき解ける。幸い、それはレオだけで、エリースと勇者が消滅させると思うけど……レオもすぐに復活する。もし、十二宮が全員解放状態になってしまったら……それこそ、アストロボルグが復活して手がつけられなくなる」
「にわかには信じがたい話だ。それにアストロボルグだと?数千年前に滅んだと文献に出ている」
アストロボルグって、遥の中二病ネームのやつじゃん。
神話のって言ってたけど、実在するの?
「だがアストロボルグは神だ。誰かに力を与えれば、誰かから全てを奪う気まぐれ野郎だ。当然、神は復活する」
「……ただの女子高生を、神話大戦なんぞに巻き込まないで欲しいがな」
「俺だって、最初はただの高校生だったんだぞ。……結果的に300年くらい生きることになったけども」
「オカルトか?生憎だが私は魔術の類しか信じぬ」
「俺は全てを見てきた。神話大戦、そして勇者でもないのに神に挑んだ軍の人間も。千影だって、魔力を研究しようとした連中から逃れるために、元の親が捨てたんだぞ?……そういえば、将軍の名前は」
「それ以上は言うな。人智を超えている」
「おっと、これはすまん。316歳にもなると、持っている知識をひけらかしたくなる」
待って待って、理解が追いつかない。
つまり、あの楽は……なんだ?何かのボスなのか?ドンなのか?
で、アストロボルグは実在しているってこと?
アストロボルグと楽さんは過去に戦ったことがあって、一時は倒したけど復活しそうだからその戦いに先輩を巻き込もうとしている、と?
……超展開じゃん。
「さっさと言いたいことを言ったらどうだ?核心に迫りそうになればすぐにはぐらかす」
「まぁ、簡単に言うことなんてできないさ。だって、俺の後ろに……っていうか鐘のところに、悪ーい少年が聴き耳を立てているからね」
「……なんだと?その少年とは?」
「まぁ、君には関係ないさ」
話し声が聞こえる……けど、理解する余裕は無かった。
俺の喉に、冷たい刃が押し当てられていた。
「良い度胸です。……そこは買いますが、兄さんたちの話を勝手に聞くのは良くないのです」
「ッ……俺はただ、霊が関係するような力を探しに来ただけで、やましい気持ちは」
「……霊?」
コクリとうなづく。
「……なるほど、深幸さん、遥さんと一緒に新たな術を探しに来たと」
「なんでわかるんすか」
「読みました。心を」
みーんなみんな、読心術。
首の刃が離れる。
振り向くと、結婚式の時に楽さんと唯さんを迎えに来た女の人がいた。
「では……そうですね、頭を出してください」
「頭を?」
「はい」
髪を掻き上げて額を出すと、手が当てられた。
女性はそのまま目を閉じて、ぶつぶつとうわ言を呟く。
「兄さんの力の一部をコピーし、与えました。名前はレギオン───いえ、【降霊術】といったところでしょうか」
「こう、れい、じゅつ」
「寝て起きたら使い方も頭に入っているはずです、ではお休みなさい」
一瞬、視界がボヤける。
途端に頭に強烈な頭痛が走り、俺の意識は強制的にシャットダウンした。