えーと……どうすれば良いのだろう。
目の前には、椅子に座った幽霊がえんえんと泣いている。
「あの……」
『ぐす……ぐす……』
「とりあえず……涙を……」
差し出したハンカチは、しかし彼女の顔をすり抜ける。
それを見た幽霊少女はさらに涙の勢いを増させ、俺を困らせた。
チラリ。ニマァ。
先輩に視線を送ると口角を上げた先輩の顔見えた。ちくしょう。
なんで俺に慰め係を任命したんですかねぇ!?
「えっと……君、名前は?」
『……わがんない……』
「それじゃあ……レイ。レイちゃんって呼んでいいかな」
『レイ?』
「そう。幽霊だから、レイ」
『うわぁぁぁぁん……』
え、なんで!?そんなにダサかった!?
わかりやすいと思ったのに!
「先輩。幽霊であることにコンプレックスを感じている女の子にその名前はひどいですよ」
「え!?なに、俺が悪いの!?じゃあ、なんて呼べばいいの!?」
ていうかこの子が名前知らないのが悪いじゃん!自分の名前くらい覚えておいて欲しいものですね!
「もうレイちゃんでいいんじゃないですかー……。もうしょうがないです」
「……ごほん。レイちゃん、なんで君はここにいるの?」
『わかんない……眠ってたら、起こされた。私は、その人に呼ばれただけだから……』
「そういえばそうじゃん」
先輩は俺の心───のその先の、記憶を読み取り、降霊術が俺に叩き込まれるのを認識し、それを即座に解析、それでこの子を呼び出したんだそうだ。
先輩から感覚を伝えて貰うと俺にも使えるようになり、彼女の死ぬ一時間前の記憶が流れ込んできた。
他人の記憶が自分に流れるのは変な感じであったが、テレビの目線カメラのような感じだった。
……ところで先輩?どうして目をそらしているんです?ねぇ?もしかしてバレないとお思いですか?普段クールに決めてるクセにこんなところでポンコツ───いってぇ!?殴った、殴ったよこの先輩!俺、なにも言ってないのに!
「心を読んだ」
「そうでしたね、先輩相手に何かを考えたら筒抜けなんでしたね、プライバシーのクソもない」
『え……あの……』
「すまない、流れと形式上レイと呼ばせてもらう。レイ、君がここに残っている理由を教えて欲しい。この教室の幽霊は君だけだった。この土地で死んだ者は戦時中にもたくさんいたはずなのに、だ。つまり、君に何か、他の幽霊とは違うナニカが眠っているはずなんだ。それを解明したい。だから、君に協力してほしい」
『い、いっぺんに言われても……!』
つまり、地縛霊たる原因を探す手伝いするよ、と。
……その推理で話を逸らそう、と。
「…………」
「と、とりあえずはレイ、君の地縛霊たる原因を教えてくれないか?」
「後で話があります」
「お、お手柔らかに頼む……」
おどおどしているレイに話を促す。
レイはあわてつつも自身の記憶を探っているようだ。
『え、と、そもそも私は眠っていたと思うので……』
「しかし、起きたのは君だけなんだ。先ほども言ったが、戦時中にこの場所で死んだ物も多くいる。なにか未練のような物はないか?」
『み、未練』
「何かを考えて、真っ先に思いついた物がそうなる……はずだ」
はずだ?
「わ、私だって
「……そういえば万術部って魔術以外になんの術が使えるんですか?他の術を使っている所を見たことが無いんですが」
「………………」
「うそでしょ?万の術の部活で扱えるのがたった一つ?え?」
「さ、さぁレイ!なにが思いつく?」
『えと……暗いです……あと、石のようなものがあります』
「そうかそうか!では洞窟か穴の線が濃厚だな!裏山に向かうぞ!」
「先輩」
「裏山に向かうぞ!」
『あう、え、待ってください!』
……はぁ。
まぁそりゃそうか。こんな奇特な部活、先輩以外に作りそうもないもんな。
で、三年生の先輩が部長って事は……。
「なぁ、この部活って先輩が作ったんだよな?次期部長は誰になるんだ?」
「えーとこの部活は部長は一番扱える術が多い人がなります。もしも習得した術が同じ数だった場合は実力が一番高い人がなる仕組みです」
「よかった、じゃあ次期部長はお前だな」
一年も前からいるコイツに魔術の腕で勝てるわけが……あれ、こいつ一年だよな。今年入学して来たんだよな。
え?あれ?おかしいぞ?計算だとこいつは中学三年生の頃からこの部活に入っていたことになる。
……はぁ?
中学生にまで先輩の魔の手が伸びていたことに頭を抱える俺に、遥はさらに追い打ちを掛けてきた。
「いえ、降霊術でワンカウントなので術を二つ習得している先輩が次期部長ですね」
「ウッソだろお前」
「マジです」
「マジか……」
……これは、新しい術を遙に覚えさせる必要がありそうだ。
だってこんな頭のおかしい部活の部長になんてなりたくないし。
たしかに術は便利だけど部長になりたいほどじゃないし。
「……嫌がってません?」
「嫌がってなんてないですけど!?はい!!」
「……。まぁ、先輩が部長になるのなんてだいぶ後ですよ。まだ学期の始めじゃないですか」
「まぁそうなんだけどな」
「……ま、すぐに私が追い抜かしますよ!アストロボルグは天才なのです」
そう言って、遙は笑った。
ただし、少し寂しそうに。
「っと、置いてけぼりじゃないですか!先輩、行きますよ!……先輩?」
「あ、うん」
「先に行っちゃいますからね!」
とてとてと駆けてく遙。
先輩は言っていた。俺には才能があるとかなんとか。
いや才能って言われても自覚できないし、それをどこでどう扱えばって思うんだが……それを長い間追い求めてきたヤツにとっては、喉から手が出るほどの物なのだろう。
サッカー部にも、そんな才能をもった人間が数多くいた。
努力は欠かさなかったから、今のアイツの気持ちが分かる気がする。
「才能……」
いつかこれと向き合わねばならない。
自惚れなんかじゃない……と思う。自信はないけど、このまま放置するのも恨みを買うし、宝の持ち腐れだろう。
「『我、万象の理を読み解くも者なり』……」
体が橙色の光に包まれる。
代謝上昇の魔術。
詠唱を口に出す必要は……もはやなくなっていた。
ぐっと力を込め、頭の中で言葉を反復すれば、初級の魔術なら無詠唱でできるようになっていた。
これが、先輩や遙のやっていた『以下略』という簡略方法なのだろう。
「まだまだ二人にはかなわないけど、少しずつ俺も成長してきているのかも」
懸念は【降霊術】を俺に与えた女……くそっ、やっぱり思い出せない。
なにか裏があるような……ううん。考えるのはやめだ。
胸に残るモヤモヤを抑えつつ、俺は階段を全段飛ばしで飛び降りた。