山に麓で、ようやく先輩達の姿を見つけた。レイも一緒だ。
どうやら待たせてしまったらしい。
「すみません、遅れました」
「いや、待ってないさ。……というのも、裏山に来たはいいがどこから捜索を始めていいかわからなくてな」
最近先輩のポンコツムーヴが頻繁に勃発している気がする。
レイの唯一の手がかりは、暗いところと、石のようなもの。
レイは地縛霊だから、学校付近に絞られる。
「この学校の地下はないんですか?」
「学校を建てる時に地盤沈下の恐れがあったら建てないだろう。事前に調査し、洞窟のようなものが無いか確認してから建てたんじゃないか?」
「なるほど」
地頭だけはいいんだよなぁ。
となると、裏山によく潜ってる環境研究クラブのやつらに聞いてみるとか……。
「誰か裏山に詳しい人に聞くといいかもしれませんね」
「裏山に詳しい人か……この中に心当たりがある者」
…………。
いないのか。
「ふむ。そもそも裏山に最近足を踏み入れた奴がいるかという話だな」
「美術の授業ではもう来ない学期ですもんね。……うーん、あ、でもなんか、心当たりはあるような気がします!」
「え?」
「万術部を嫌っていた社会政治の先生がいたじゃないですか。あの人が、多分一年生の人に裏山がどうとかって言ってた気がします」
一年生?
「一年生で、裏山だと?ふむ……一年生といえば、魔力が宿っていそうなキーホルダーを下げた少年がいたな」
「
「魔力の発生源との間に壁一枚挟まれたような感覚だな。よく分からなかった。名字は
いのり?変な名前。
……いや、旗元だって普通に妙な名前だな。
「いのり、ですか……。ちょっと聴いてみますね!」
遥が携帯をタップし始め、こちらはメールの返答待ちのために考察を述べることにした。
「レイちゃん、しばらくたったけど思い出せるものはない?」
『いえ、特には……』
「ふむ。地縛霊は生前の未練が原因で残っているのだと思っていたが、その未練が思いつかないなら仕方がないだろう。もしかしたら、地縛霊とは未練が原因で残っているのではないのかもしれないな」
「と、言いますと?」
先輩は俺の問いに遠くを見つめた。
その方向には裏山の森林があり、風で揺れる音が聴こえてくる。
「なにか別の原因で……それこそ、封印でもされているのかもしれない」
「封印……」
暗い場所と石のようなもの。
くそう、洞窟ってだけじゃ情報が少ないっ。
「臭いとかはなかった?」
『臭いは……特に……いえ、なにか音が聞こえていたと思います。なにか、つんざくような声が……』
「悲鳴、ということか?」
『……どうなんでしょう。悲鳴かと言われると……』
一歩進展、十歩謎が深まった。
どうしたものかと頭を抱えるところで、遥が声を上げた。
「知ってる人いました!連絡先も教えて貰ってます!」
「でかしたぞハルカ。かけてみるとしようか」
「まだその人が洞窟を知ってるかどうかすらわからないのに……」
「カケルくん、
遥がその番号にかけ、先輩がそれを受け取った。
全員で先輩に近寄る。
コール音。
『はい、もしもし』
「祈里 仙君で間違いないな?」
『……はい、祈里です』
男の声が聞こえてくる。
「うむ、久方ぶりだな。私は
しばらく静寂が訪れ、先方から『んん……?』と微妙な声が漏れてきた。
いきなりのことで困惑しているのか?
『あーえーとはい、はい』
違うわこれ、絶対覚えてないやつだ。
生返事にも程がある。
先輩は困ったように眉根を寄せると、再び携帯に語りかけた。
「覚えてないな?それじゃあ……これに聴き覚えは?【
と、ここでようやく思い出したようだ。
『あぁ、あのどんぐり砲の!』
どんぐり砲……?
なんだそれはと先輩を見上げるとデコピンされた。
クッッッソいてぇ、どんぐり砲ってこれのことか。どんぐり
「どんぐり砲……?なんだそれは……あ、いや、まあいい。それで、君は裏山に行ったことはあるかい?」
『裏山……?まあ、はい。あります』
ビンゴ。
先輩は小さくガッツポーズをすると、レイを視界に収めてから慎重に言葉を選ぶ。
忘れてるくらいの面識しかないのだから、下手に機嫌が損なわれたらそれはそれで面倒だ。
「裏山に、洞窟のようなものはあったかい?」
『洞窟?あー……ありますね』
「おっ」
思った以上に事がうまくいっているようだ。
にしてもなんだか蒸し暑い。夏が近づいている証拠だ。
もしも洞窟が大きかったらだいぶ涼しいんだろうけど。
「それは本当かい?だったら、それに案内してもらってもいいかな」
『展開が読めないんですけど、まあ、はい』
「部活動でちょっと、洞窟を探していてね」
これも先輩の巧みな話術と、遥の情報網があったからこそ成せた技か。
そう、みんなが気を緩ませた時だった。
『夏休み中でも部活はするんですね』
……は?
「……なんだって?夏休み?」
『え?今夏休みですよね?え?』
慌ててスマホの日付を確認すると、結婚式の日から二ヶ月以上経っている。
終業式は少し前の日付だ。
「……本当だ。なんてことだ、まったく気付かなかった……。詳しく知りたい!センくん、ただちに校舎の裏山入り口まできてくれ!」
先輩は電話を切ると携帯を見つめ、何かに気づいたように空を見上げる。
釣られて俺も空を見上げると、先ほどまで夕刻特有の茜色だった空はグラデーションを持って赤から水色へと変わっていっているところだった。
「太陽が昇っている……ということは、先ほどまで私たちが夕焼けと思っていた光は朝焼け……?」
おかしい。今の間に何があった?
家族とのメールを開くが、こちらを心配するようなメールは一通も届いていない。
バッと遥を見るも同じようで、先ほど連絡先を手に入れた友達もなにも言わなかったそうだ。
『……!あ、あぁ……!』
悲鳴とも困惑とも近い声。
振り向けば、ただでさえほんのりと透けていたレイちゃんの体が、いっそう薄くなっている。
「朝日だ!」
「承知!」
掛け声に反応した遥が日傘を取り出してレイにかける。
幾分かは良くなったようだが、それでも体調はまだ悪いらしい。
「カケルくん、彼女に魔力を補給してやってくれ!」
「補給!!どうやって!!」
「魔法陣に魔力を込める時と同じで良いはずだ!霊に効くかはわからないが、やってみる価値はある!わた、しは……!!」
先輩が手を広げると、あたりの光度が下がった気がした。
黒いもやのような何かが光を吸収している。
「中級魔術で、どうにか朝日を抑える……!」
透けさせないように慎重にレイちゃんの表面に触れる。
少しひんやりしたが、ハンカチ差し出して透けた時と比べると、大気感が増している。
ええと、魔法陣……。体の一部に見立てて、力を込める感覚……!
「くそっ、誰だか知らないけど、早く来てくれよ……!」
魔力は、減っていくばかりだった。