一年前に結成した万術部が廃部ギリギリな件。   作:翠晶 秋

21 / 21
万術部と見えない闇

「先輩!」

「……あぁ、カケルくんか」

「熊は仙が倒してくれました。なんか……経験があったらしくって」

「どんな経験ですか!?」

 

俺も知りたい。

 

「とりあえず、もう一度戻りましょう。レイが奥に行ってしまった以上、時間を無駄にして見失うのも……」

「っあぁ、そうだな……」

 

ん?どうやら先輩の様子がおかしい。

顔が青いし、体調でも悪いのだろうか。

と、顔をじっと見ていると、先輩が苦笑いを浮かべた。

 

「閉所恐怖症なんだ」

「…………」

「洞窟のような狭い所に行くと、押しつぶされてしまうんじゃないかという思考に染められる。エレベーターだって、鏡の設置してあるものにしか乗れない。……笑いものだな、私は」

「…………」

「最初は、成長して大丈夫になったかと自分を試すつもりでいた。……だが、やはりダメだった。今も、またあの洞窟に向かうと思うと、最悪の時を考えてしまう」

 

そうだったのか……。

閉所恐怖症は、別に珍しい特質ではないって習った気がする。

原因は、極度のマイナス思考か、過去のトラウマが大半。

……前者は多分ないだろう。

踏み込むべきじゃ、ないのかも。

 

「じゃあ、先輩はここで待っててください」

「部長がいなくても、やってきて見せますよ!!」

「……あぁ……」

 

まっさか、あの黒退先輩が再起不能になるとは。やはり、トラウマが再起したのかもしれない。

ってことは、戦力は遥のみ。俺は後ろで魔導書を読みながらじゃないと魔術が使えないからだ。

とりあえず、魔導書をいつでも開けるように持ちつつ、遥が先行して洞窟を進むことになった。

先輩は、待っているらしい。

 

「レイちゃん、どこに行っちゃったんですかね」

「さぁなぁ。声かけても反応がなかったし。この奥になにがあるのか……お?あれ、熊じゃないか?」

「うっわあ。本当に倒したんですね。お金持ちの家にあるカーペットみたい」

「あぁ……それよりも気になってるんだが、あいつはどこに?」

「言わないでください」

 

仙の姿が見えない。

ここで待っているはずなのに、この場所にあるのは熊だけだ。

帰ってきてないし、ということは……奥へ進んだ?

 

「いやぁ……参ったな」

「あの人だけ回収して、今日はお開きにしようと思ってたのに!」

「レイちゃんガン無視するつもりだったのかよお前」

「だってだってだって!怖いじゃないですか、幽霊がぼけーっとしながら入る洞窟なんて!」

 

確かにそうだけども!!

でも、後戻りはできない……幽霊がいるんだから悪霊だっているはず。レイはそんな子じゃないってわかってるけど、もしかしたらってのもあるかもしれない。

嫌がる遥の手を引きつつ、奥へ奥へと進んでいく。

だんだん、「山の洞窟の範疇を超えてるだろ」と思うような傾斜やだだっ広い一直線が現れ始め、俺たちも不審に思い始めた。

遥のスニーカー、俺のローファーの音が響き、どこからか垂れ落ちる水音も聞こえる。

静寂に包まれていた。

 

「……先輩」

「どした」

「先輩って、どうして万術部に入ったんですか?」

「ただの興味っていうか、まぁ、他で見たことがない部活だったからかな」

「……言い方を変えますか。どうしてサッカー部を辞めたんですか?」

 

……サッカー部?

 

「この前、この山の天辺で魔法陣を描いて、そこから謎の男が出てきた時あったじゃないですか」

「……あぁ?でもその時お前は蜘蛛の相手をしていたはずじゃ」

「あの後、すぐに戦線から離れて援護に走ろうとしていました。部長が、魔法陣から出てくるのが蜘蛛だけとは限らないって。だから、追いかけてたんですけど」

 

あ……。なるほど、聞かれていたわけだ。

 

『今のが攻撃か?随分としけているようだが』

『うっせえ、サッカー部万年補欠ナメんな!』

 

サッカー部ねぇ。

 

「よければ、教えてくれませんか?」

「なんの意味があるんだよ」

「個人的に知りたいんです」

「教える義理はないだろ。聞いてても面白くない話だし、ありきたりだし、よくある展開だし」

「それでもいいから」

 

……中学生のとき。俺はサッカー部に所属していた。

結局三年間続けていたのだが、最初の一年目で頭角を伸ばし始めた俺は、ハブりや嫌味などのイジメ……にあたる行為を受けていた。

部活内のトラブルであるから、責任は学校ではなく一教師にある。訴えるが、生徒が俺という共通の敵を持つことで統率がとれる事により、教師は聞く耳を持たなかった。

俺は……自分で言うのもなんだが、サッカー部でもエースの位置にいたんだと思う。

最初のうちは、限られた空間の中を縦横無尽に駆け回り、仲間に指示を出すリーダーポジションだった。

かつ、他人よりも練習を重ねてほんの少し強くなったのをきっかけに、周りとも差はみるみるうちに広がり、二年に到達、三年も打倒というとこまで来ていたんだ。

 

頑張ったのに。

努力したのに。

出る杭は打たれる。理不尽。不条理。声は届かず、ただひたすらに世の中の闇をぶつけられるだけ。

年功序列という、自分の都合のいいように場を作る先輩達の、餌にされたわけだ。

 

「……そうだったんですか」

「その後は、サッカー部の奴らが来てない高校を探して、そのまま一年を帰宅部。下手にサッカーを続けてしまった以上、他のことをやる気にもなれなくて」

「できますよ。サッカー以外にも、先輩には才能があります」

「才能か」

「はい。正直、私のアイデンティティーも無くなってしまうような才能が、その体に詰まっています。環境が悪かっただけなんですよ」

 

今更、慰めなんていらないのに。

もう割り切ったこと。

もう諦めたこと。

もう消したこと。

もう……。

 

「先に、行こうか」

「……そうですね」

 

指先に灯りを灯す遥が身を寄せてくる。

ニヤリと笑って、服の裾を掴んできた。

 

「いざというときは壁になってもらいますよ」

「言わなかったら自らなってたのに」

「……嘘ですよ。しません。壁になってしません」

 

遥は指先に力を込め、灯りを強くしてから、今度は年相応の少女のように、華やかな笑顔を見せた。

 

「裏切りませんよ」

 

気を遣わせてる。

そう悟ってしまった俺は、目を逸らすことしかできなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。