一年前に結成した万術部が廃部ギリギリな件。   作:翠晶 秋

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万術部とバレンタイン

 

ついにこの日が来てしまった。

我々男子にとって、最も重要であり、かつ、生と死の分かれ目を見る日。

そう、その名は。

 

「バレンタイン……!!」

 

世の中には別次元の存在……俗に言うリア充という化物(モンスター)がいる。

彼らはこの日、牙を剥き、爪を研ぎ、我々に手痛い現実を突きつけてくる。

確かなこと、俺はそっち側の人間ではない。非捕食者だ。

そして彼らは、特別な力を貰った俺にすら物怖じせずに突っ込んでくるのである───。

 

 

 

 

放課後、いつものように部室へ向かった。

あーやだね、バレンタインなんて企業が思うがままじゃないか。

チョコ買ってチョコ食って……腹立たしい。

 

「あっ……こんちゃっす……」

「ん?」

 

元気がない。

……もしや。

 

「貴様もそっち側か……」

「そっち?……ハッ!?まさか私に隠された力がまだ……!?」

 

まぁ隠されているといえば隠されている。

へんだ。勝手に食ってろい。よそよそしくしやがって。

 

「ん……二人とももう来てたのか」

「はっ先輩!先輩はこっち側ですよね!!」

「こっち側?何を言っているかわからんが……今日の部活は少し趣向を変えるぞ」

「は……」

 

先輩は後ろ手に何かを持っていた。

 

「……何を持ってらっしゃるんですか」

「……っ、いや、これは……」

 

甘い匂いがする。

chocolate。

 

「ガハッ!!」

「急に吐血!?ど、どうしたんですか先輩!?」

「じ、持病があるのか!?」

 

いいんだ、いいんだ……安売りのチョコレート買って貪ってやらァ!

 

「で、趣向を変えるってのは……」

「あの、だな。魔術的な意匠を拵えた、チョコレートを作るという……」

「今日はお腹が痛いので部活休みますね」

「えっ!?あっ、ちょっ!」

 

チョコレートとかいう茶色の悪魔から逃げ去るため、おれは何部室を飛び出た。

 

 

 

 

屋上はいつも人がいなくていいなぁ。

……さっむ。

そもそもバレンタインなんて企業のが作り出したまやかし。

非リアにはまったく関係がないんだよぉ。

 

スマホを取り出し、毎日ログインだけしているゲームを起動する。

久しぶりにダンジョンでも潜ろうかな。

 

『バレンタインフェア!特別衣装のURキャラクターが出現率アップ!』

 

……。

なんかやる気失せたな。

……スゥ(息を吸う音)。

 

「バレンタインなんてクソくらえだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

もちろん小声で。

大声でなんて言えるもんか。

 

「……えっと……カケルくん」

「フッ。先輩、部活なら行きませんよ。今日はバレンタインの影響で調子が悪いんです」

「先輩、ちょっとこっち来てくれませんか」

 

笑いにきたのかこのヤロー。

 

「「これを」」

 

差し出されたのは赤い包み。

……まさかこれって。

これって!

 

「ハッピーバレンタイン」

「せっかくですからチョコレートです!手作りですよ」

「……ほへへ、ふふふ」

「うわっ、気持ち悪い笑み」

「黙れ。生まれて初めてなんだよバレンタインチョコ」

 

いやぁこれは自慢できるわぁ。

今年は勝ち組だな。

 

「君も男子高校生だな、チョコを貰った途端に上機嫌になって」

「まったく、しょうがない人ですねー」

 

ええいうるさいうるさい。男性高校生はみんなこんなもんだ。

ホワイトデー、どうにかしないとな。

 

 

 

「あっ、三倍にしてくださいよ!」

「なんだ、そんな決まりがあるのか」

「えぇ!?手作りだろ!?三倍とかあんの!?」

「現金でいいです」

「こせぇなお前!!」

「ははは、元気なのはいいことじゃないか」

 

 

 

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