ついにこの日が来てしまった。
我々男子にとって、最も重要であり、かつ、生と死の分かれ目を見る日。
そう、その名は。
「バレンタイン……!!」
世の中には別次元の存在……俗に言うリア充という
彼らはこの日、牙を剥き、爪を研ぎ、我々に手痛い現実を突きつけてくる。
確かなこと、俺はそっち側の人間ではない。非捕食者だ。
そして彼らは、特別な力を貰った俺にすら物怖じせずに突っ込んでくるのである───。
◇
放課後、いつものように部室へ向かった。
あーやだね、バレンタインなんて企業が思うがままじゃないか。
チョコ買ってチョコ食って……腹立たしい。
「あっ……こんちゃっす……」
「ん?」
元気がない。
……もしや。
「貴様もそっち側か……」
「そっち?……ハッ!?まさか私に隠された力がまだ……!?」
まぁ隠されているといえば隠されている。
へんだ。勝手に食ってろい。よそよそしくしやがって。
「ん……二人とももう来てたのか」
「はっ先輩!先輩はこっち側ですよね!!」
「こっち側?何を言っているかわからんが……今日の部活は少し趣向を変えるぞ」
「は……」
先輩は後ろ手に何かを持っていた。
「……何を持ってらっしゃるんですか」
「……っ、いや、これは……」
甘い匂いがする。
chocolate。
「ガハッ!!」
「急に吐血!?ど、どうしたんですか先輩!?」
「じ、持病があるのか!?」
いいんだ、いいんだ……安売りのチョコレート買って貪ってやらァ!
「で、趣向を変えるってのは……」
「あの、だな。魔術的な意匠を拵えた、チョコレートを作るという……」
「今日はお腹が痛いので部活休みますね」
「えっ!?あっ、ちょっ!」
チョコレートとかいう茶色の悪魔から逃げ去るため、おれは何部室を飛び出た。
◇
屋上はいつも人がいなくていいなぁ。
……さっむ。
そもそもバレンタインなんて企業のが作り出したまやかし。
非リアにはまったく関係がないんだよぉ。
スマホを取り出し、毎日ログインだけしているゲームを起動する。
久しぶりにダンジョンでも潜ろうかな。
『バレンタインフェア!特別衣装のURキャラクターが出現率アップ!』
……。
なんかやる気失せたな。
……スゥ(息を吸う音)。
「バレンタインなんてクソくらえだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
もちろん小声で。
大声でなんて言えるもんか。
「……えっと……カケルくん」
「フッ。先輩、部活なら行きませんよ。今日はバレンタインの影響で調子が悪いんです」
「先輩、ちょっとこっち来てくれませんか」
笑いにきたのかこのヤロー。
「「これを」」
差し出されたのは赤い包み。
……まさかこれって。
これって!
「ハッピーバレンタイン」
「せっかくですからチョコレートです!手作りですよ」
「……ほへへ、ふふふ」
「うわっ、気持ち悪い笑み」
「黙れ。生まれて初めてなんだよバレンタインチョコ」
いやぁこれは自慢できるわぁ。
今年は勝ち組だな。
「君も男子高校生だな、チョコを貰った途端に上機嫌になって」
「まったく、しょうがない人ですねー」
ええいうるさいうるさい。男性高校生はみんなこんなもんだ。
ホワイトデー、どうにかしないとな。
「あっ、三倍にしてくださいよ!」
「なんだ、そんな決まりがあるのか」
「えぇ!?手作りだろ!?三倍とかあんの!?」
「現金でいいです」
「こせぇなお前!!」
「ははは、元気なのはいいことじゃないか」