万術部と詠唱
授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
これより放課後、部活動の時間だ。
荷物をまとめるため、ロッカーに教科書を押し込んでいく。
「せーんぱーい」
そういや、もう俺は帰宅部じゃない。
新人の部員だ。
「せーんぱーい!」
だからこそ、反応しなければいけないとは思っているのだが。
「あ、やっとこっち向いた」
「……お前なんでここにいんの?」
先程から、遥が俺の顔を覗き込んでいたのだ。
「部長から連れてきてくれって言われたので」
「そっか。もうすぐ終わるから待っててくれ。……よし、できた」
「よぉーしじゃあしゅっぱーつ!」
「ちょっ、手ぇ引っ張るな!この……こいつ無駄に力強ぇ!」
◇
「今井月、ただいま到着しました!」
「は……。旗元……。ただいま……到着ゲッホゴホ!」
息切れがやばい。
なにせ手を引かれたまま五階分くらい階段で降りたのだから。
「うむ、ちゃんと来たな。では、これより部活動を始める」
「はい!」
「はい……」
「ではまず、カケル君にはこれを」
渡されたのは茶色の冊子。
『詠唱魔術入門編』とある。
「これは……?」
「魔術と呼ばれる現象を発生させる詠唱をまとめた本だな。他にも読心術などがあるが、今回の活動では魔術を使っていこう。ハルカ、本は持っているな?」
「あります!」
二人が取り出した本は渡されたモノよりも少し分厚く、表紙の色も緑色だ。
『詠唱魔術中級編』。
……なんか悔しいな。
「ではカケル君。冊子の25ページを開いてくれ」
「よ……。うわ、びっしり」
沢山ならんだ文字列の上に、ひときわ太い字で書いてある。
タイトルだろうか……『代謝上昇』……?
「魔術や読心術などを行使するには、術者の処理能力や代謝が重要だ。魔の
「逆に言えば魔術は生贄が必要だから発動がめんどくさい術でもあったんですけど……」
「代謝……つまり、体の脂肪に蓄積されるエネルギーを生贄に魔術を発動させる方法を編み出したのだ」
つまりは使えば使うほど痩せる、と。
女子必見の方式だな。
「すごいですね」
「そして、今から行う詠唱が、その代謝能力を上げて生贄にする効率を良くする物になる」
「魔術を使うときは結構重要になるので、覚えておくといいですよ」
「よし。ではこれより、詠唱を始める。今回は息を合わせる必要はない。自分のペースで結構だ」
「はい!『我、万象の理を読み解くも者なり、心理を読み解き……」
目を閉じた遥が詠唱を始める。続けて部長。
……暗記か。
慌てて俺も音読を始める。
なんというか『我』やら『森羅万象』やらこの歳になって読むのはかなり恥ずかしいが、しかしこれも部活動。
必死に読んでいくとどんな原理か本が徐々に光り始め、やがて風が吹き始めた。
「……を見つけ、読み、万里の動を収めたまえ』」
詠唱を全て読み終えると、一瞬、ほのかに俺の体が発光した。
体がぽかぽかする。
なるほど、代謝か。
「ふむ……。初めてのわりにはなかなか筋がいい」
「あれ。結構早口に読んだつもりなんですが」
「あぁ、それはだな。詠唱の省略をしたんだ」
省略?
「ある程度詠唱に慣れると、感覚で魔術の発動がわかるようになる。だから、詠唱も省略することが可能なんだ」
「へぇ……」
「極めれば無詠唱もできるらしいですね」
無詠唱か。
代謝が良くなるということは、無詠唱でこの詠唱ができれば運動が得意になったりするのだろうか。
この先を知りたい。なぜかやる気が出てきた。
部長は紅茶を人数分入れ、そして一口すすった後。
「では、魔術の練習がてらに裏山に行こうか」
と行ったのだった。