「はぁっ、はぁっ……まだつかないんですか!?」
「え。先輩、もうバテたんですか?」
「もう少しだ、頑張ってくれ」
裏山。
結構急な斜面であるソレを、部員二人はガンガン登って行く。
途中途中でぼそりと詠唱が聞こえたり二人の体が淡く光っているということは、代謝を上げて運動能力を活性化させているのだろう。
重くなるから本は置いていけと言われたから置いて来たけど、これもしかして持ってきた方が良かったんじゃないのか!?
「ぜぇ、ぜぇ……」
「ついたぞ、ここだ」
「ひーっ、やっと、ですか」
急に先輩が立ち止まり、振り返って引き上げられる。
大きな空間のようになっていて、ピクニックでも出来そうだ。
「中心に大きな岩があるだろう?」
「ふう、ありますね」
「あれから膨大な魔力を感じる。媒体魔術に良く使えるだろう」
いや知らんけど。
「フィー!きんもちいいー!」ところころ転がってる
「今は削り出す事は出来ないが、表面部分でも充分に媒体としての力を発揮するだろう」
「そーなんですか」
「どれ。一つ、君の思い描く魔法陣を書いてみろ」
魔法陣って、あの魔法陣か?
儀式に使うようなやつ。
「魔法陣、ですか?」
「あぁ。心配するな、別にどれが正解というわけでは無いんだ。ただ単に、君の魔法陣が見たくなっただけさ」
チョークを受け取ると、「その魔法陣の意味も考えてくれよ」と言われた。
意味、意味ねぇ……。
俺の中の魔法陣って、何かを召喚するイメージがあるんだよな。
グリフォンやマンティコアを想像しながら、魔法陣を書いて行く。
まぁるくて、ヘキサグラム……。
「うむ、なかなか良い魔法陣じゃないか」
「そ、そうですかね……よし、できた」
魔法陣を褒められるってなんだかな。
「よし、発動させてみろ」
「無茶がありすぎませんかねぇ!?」
「大丈夫。最初はみんな発動しない。大事なのは、いかに魔力の存在を認識できるかだ。さぁ、やり方はなんでもいい、やってみろ」
先輩に背中を物理的に押されて前に出る。
壁の側面に魔方陣書いちゃったけど、発動するのだろうか、コレ。
そんな一抹の不安を感じながらも、お手製の魔方陣に触れると……。
「……ッ!?」
「ぶわあああああ!なんですかこれ!」
「なっ、えっ、ちょっ!?」
魔法陣が光り出し、旋風を巻き起こした。
眩い光に三者三様、先輩は目を見開き、遥は寝転がったまま旋風に吹き飛ばされ、俺は何が起こっているのかわからず、立ち尽くす。
光はどんどん強くなっていき、閃光が視界いっぱいに広がり……!
「ぐる」
よく分からん獣が召喚された。
ライオンのような外見だが、大きさがでかすぎるし、何より尻尾が蛇二匹分はあるくらい長い。
ツメも鋭く、牙は大きく……。
まさに、『異世界のモンスター』って雰囲気だ。
「やったじゃないかカケルくん!まさか、初めてで魔法陣での召喚に成功するなんて!」
「え、あ、そうですかね?」
「いや本当にすごいです!いいなぁ、その才能が私も欲しかった!」
二人におだてられ、気分が高揚してくる。
もしかして俺、魔術の才能があるのかもしれない。
召喚された獣は状況が飲み込めていないのか、不思議そうに辺りをキョロキョロと見ていた。
「こいつ、どうするんですか?」
「うむ。本来ならもといた場所に返すべきだが、そのもといた場所はわかるか?」
「いえさっぱり」
「だろうな。幸い召喚履歴は残っているから、場所の特定ができるまでうちで飼うことにしようか」
「「飼う!?」」
俺と遥二人で飛び出す。
そうだよな、いくらなんでも飼うのは無茶だよな。
「そうですよね、このままだとかわいそうですもんね!飼いましょう!」
あれっ、ちょっとニュアンス違くないか。
目がキラキラしている。
「ふむ。ではそこな獣よ」
「ぐる?」
「我が学園に入ることこそ出来ないが、この裏山で人目につかないように生活してもらおう」
「がお」
あっ、よかった、こんなでかいヤツ部室に入りきらないもんな。
それにしてもこのライオンもどき、やけに肝が座ってるというか……おとなしいな。
まるで人の言語がわかっているみたいだ。
「じゃあ、名前つけましょうよ!んーと……キャッピー!」
「ぐるあ」
「……嫌がってるみたいだけど?」
「えーっ!いいじゃないですかキャッピー!ねぇキャッピー、キャッピぃー!」
とたん、キャッピー(仮)にまたがる遥。
キャッピーの名前こそ嫌がったものの、キャッピー(仮)は乗られても暴れない。
キャッピー(仮)はなかなかの巨躯。もし暴れて遥が振り落とされたら大怪我をする確率があるのを理解してるのか。
「こいつ、頭良いですね」
「そうだな、カケルくん。なかなか良い魔力が宿っていそうだ、鍛えたらとてもよい戦力になるな」
「なにと戦う気なんすか……」
しかし、鍛えたら、ねぇ。
まるで真っ白な白紙のページ……あっ。
「ねぇ先輩、こいつの名前なんですけど、【ノート】って名前───」
「ッ!!そこにいるのは誰だ!ハァッ!!」
「っどわ!?」
俺の言葉を遮って、先輩は手のひらからオレンジ色に光る球体を放つ。
───【魔力球】。
練った純粋な魔力をボール大に圧縮して、勢いよく放つ魔術。本に書いてあった。
魔力球は風を斬り、近くの木に激突、鳥は羽ばたき、遥は目を丸くし、キャッピー(仮)は牙を剥き出しにして臨戦態勢。
数秒待つ。誰も出てくる気配はない。
「な、なんなんです?」
「……誰かがいる。恐らく、キャッピーを狙っているのだろう。この状況ではその確率が一番高い」
「備えないと、ですね」
「あぁ。そのために、もっと魔力を集める練習をしないとな」
「えっ」
「当たり前だろう」と先輩は付け足す。
「まずは、君に魔力球を覚えてもらわないとな。よし、次回からの活動は部室ではなくこの裏山の広場に集まること」
「はーい!」
まさか、また山を登らないといけないのか!?
「勘弁してくださいよぉ……!」
俺は疲れ果てた足を思いながら、