「とんでもない事が分かってしまった」
部室に入るなり、先輩はこう呟いた。
「何が分かったんです?」
「実はな……体育器具庫で拷も……ごほん、拷問をしたんだが」
「咳をした意味無し!」
「痰がな」
「誤魔化しじゃなかった!」
先輩の手には長さがまちまちの毛がくっついたガムテープが。
……なぜだか、スネのあたりがふわっとした。
「それで、何が分かったんですか?」
「驚くなよ。……あいつ、本当に異世界の者らしい」
「はぁ!?」「異世界!!」
先輩から放たれた一言に俺は驚愕し、遥は身を乗り出した。
「実はな?奴は魔王のいる異世界から来たらしく、キャッピーはその魔王に捧げられる生贄らしい」
「なんてファンタジーな……!」
「行きたい!異世界超行きたいです!」
「残念ながら異世界へのゲートはカケルくんがコーヒー色に染めてしまった」
「何やってんですかぁ!!」
ぽかぽかと俺を叩いてくる遥。なぜだ、悪いことはしていないはず。
「キャッピーもどこかへ行ってしまった今、迂闊に動くこともできん」
そう、キャッピーは足が癒えた瞬間逃げていったらしい。
まるで何か大切なものを見つけたように。
思わず反射で攻撃魔術を放った先輩だが、そのレーザーはキャッピーの足にかすっただけで避けられたという。
「他は?」
「魔法陣や異世界の事を聞き出そうと思ったのだが、あいにく、毟り取る毛がなくなってしまってな」
やっぱりスネ毛じゃねえかオイ。
敵のはずなのに同情してしまった。
……って、待てよ?
「魔法陣って俺が書きゃいい話じゃないですか?」
「……ッ!!」
「あ、忘れてました!アレ書いたの先輩でしたね!」
「いますぐ書いてくれ!!」
「おっ」
先輩が肩を掴んで顔を近づけてくる。
心臓が跳ね、先輩の髪が顔にかかる。
「は、はい……」
蚊の鳴くような声で返事をすると、先輩は不器用な笑みを浮かべ……。
「っ。す、すまないカケルくん!つ、つい我を忘れて……」
一気に顔を赤くした。
えっ、何この可愛い生き物。
いつもの凛とした黒バラのような先輩が一気に赤く染まっていったぞ。
ニヤついた顔でチョークを持ってきた遥からチョークを受け取り、部室の床に魔法陣を書いていく。
できた。
ヘキサグラム、六芒星。
今度は召喚ではなく移動のイメージを込めた。キャッピーとあの男を思い浮かべて。
結果は上々。触れたら光り始めた。試しに小石を乗っけたら光りに包まれ消えて行った。
「出来ました。あとは入るだけ……だと思います」
「よくやった。まずは私がちゃんと異世界に行けるか確認してくる。五分たっても私が戻ってこなかったら召喚の魔法陣を描いてくれ」
「わかりました。このアストロボルグ、きっかり五分計らせて頂きます!」
「え、俺が行きまもごっ」
遥に口を塞がれる。
ひっぺがそうと奮闘していると先輩はさっさと魔法陣に乗っていってしまった。
「ああなると部長は人の話を聞きませんから」
そう苦笑する姿はまさしく常識人のもの。
なんというか、普通にヒロインの顔だ。
この笑顔に何人もの男が墜とされたんだろうな……。
根拠?何人もの男どもから『紹介してくれ』とせがまれたからだよ。
そこまでご執心なら部活に入ればいいのに。
そこで魔法陣が輝き出し、さっき消えた人影が現れた。
「よし、無事帰ってこれたな」
「成功でした?」
「あぁ。今、外は曇りだが、魔法陣の向こうは晴れていた。植物も見たことないものばかりだ。おめでとうカケルくん、成功だ」
じゃあ、もう異世界に行けるってことか。
最近は異世界モノのライトノベルが流行りらしいから、結構ワクワクしている。
魔導書を持ち、身支度を整え、いざ行かん異世界へ。
猫耳獣人とかいるのだろうか。もしいるなら、会ってみたいものだ。
◇
「お……?」
「うむ、 場所は変わりないな」
「異世界です!んーっ、空気が美味しい!天然物の匂い!」
魔法陣に乗った瞬間にビュウと風が吹き抜け、若草の香りが肺いっぱいに広がる。
カッと晴れた空。
ううん、ホントに異世界っぽい。
きょろきょろと辺りを見渡していると、後ろから「お、おい」と声がかけられた。
「え……?」
「な、なんだこれは!?」
そこには先輩がいた。
黒髪のてっぺんに猫のような耳を生やした、先輩が。
「可愛い!部長可愛いですぅ!!」
「や、やめろ、撮らないでくれ……」
先輩の黒セーラーとスカートの腰辺りから、細い尻尾が生えている。
なんというか……コスプレ衣装のようだ。
「どうしたんですか、その格好」
「わ、私も知らないのだ。最初に来た時はこんなもの無かったはずなのに……まさかカケルくん、魔法陣に乗る時に何か変なイメージを与えたのではないか!?」
言われて思い出す。
『猫耳獣人とかいるのだろうか。もしいるなら、会ってみたいものだ。』
「アレかー……」
「あるんだな!?心辺り!!……はあ。どうして私がこんな……。私よりも、アストロボルグの方が似合っているのに……」
「いやいや。私は似合いませんよー。部長だから似合うんだと思います。……ポーズしながら『にゃん』って言って貰って良いですか」
「……にゃん」
「ハイおっけーでーす」
やるんかい。
「……まあ、見た目以外にはデメリットはないようだから、よしとしよう。それよりも、異世界だ、異世界。ここには魔力がたくさん充満していそうだ。ここらの草も、採取していこう」
「らじゃー!」
猫耳のまま採取をしていく先輩。
ふりふりと揺れる尻尾につい目を奪われ───はっ。頑張れ俺。俺はケモナーじゃないぞ。
自制心をブーストして精神HPを削りながら散策していると、足元で「ぱきゃ」と音がした。
反射的に下を向くと……。
「──────ッ!!」
ガイコツがいた。
多分男の骨だ。ゴツゴツしてる。
ナイフを持っている腕が粉々だ。俺が踏んだから。
すぐ離れて跪く。
なんまんだぶなんまんだぶ。
カラカラという音が聴こえて思わず顔を上げる。
ガイコツと目があった。君、さっきまで反対側向いてたよね。
「ご健在でいらっしゃいましたかー……」
脱兎のごとく駆け出すも、足を掴まれすっ転ぶ。
腕が片方ない彼の姿はホラー。まさしくホラー。
「ひいいいい!このっ、テメェ離せオラ!!ちょっ、なんで頭蓋骨砕いて生きてんだよ!」
魔導書で叩いて頭蓋骨を砕くも、あんまし効果は無さそう。
ふつう弱点ですやん。なんで動いてんだよこんちくしょうめ。
近くにあったナイフ……スケルトンの所持品であろうものを肋骨の隙間にねじこむ。
てこの原理で肋骨をこじ開けると中に光る宝石的ななにかが固定されていた。
うん、これが弱点だよね。みてわかる。
手を突っ込んで宝石を引っこ抜けば、スケルトンは黒い粒子になって消えて行った。
い、意外に強かった。
そんなわけで、発見した異世界人は魔物でした。おわり。