Clan of glory 作:おっさん
旅立ちの島。種族ヒューマンを選ぶと最初の出現ポイントとなる初期村の存在する島である。小さな島といっても、島を一周しようとすると、ゲーム内時間で二日は掛かる。結構な広さであり、複数の狩場。そしてダンジョンが存在する。
この他に初期村は二つ。エルフの村とダークエルフの村がある。ただこの三箇所とも距離は非常に離れており、多種族との出会いは相当に時間がかかる。ゲーム内ストーリーで冒険者となったプレイヤーが異種族と出会うのは冒険を重ね上位職へとクラスチェンジする為の推薦を受ける町、テマセックへと移動する必要がある。
何れ高Lvプレイヤーや友人が増えればこの移動も後々楽になるのだろうが、今はこの不便さがゲームを楽しむスパイスになって、フレンドを増やす事に役立っているのだから面白く感じる。無論現実で知り合いがいれば、ウィスパー機能で連絡は取れるし、PTを組む事も可能だが一緒の冒険は出来ない。
実際僧職と呼ばれるプレイヤー、僧職男子も既に初期村である学園の村で同種族のヒューマンのフレンドを多数作り、ボスモンスター討伐も行って金策の環境を作り始めている。他の初期村への移動が可能であるとはいえ費用が掛かり、それも現時点の収入を遥かに超える金額を要求される為に往復が大変なのだから仕方がない。
それに旧作と変更された部分や操作性が違う為、PTプレイやボス討伐の指揮が中々上手くいかない点も多々あるのだ。新しいゲームで快適に状況を動かすのには経験を積む必要がある。こういう時、クランのマスターを経験していると集団の統制とドロップアイテムのオークションに役立つ。そして同時に中々主催をしたがらないという日本人プレイヤーの大多数が抱える問題がありがたくもあり、疎ましくもある。
この多くの日本人プレイヤーが抱える問題、主催をなかなかしない。というのはボス討伐に限ったものではない。例えばPTを野良で募集する人がなかなかいないのもあり、基本的に同じ顔ぶれがマッチを立てており、そのPTL達が連合ボス討伐で各PTのPTLとなる。その関係か討伐に参加すると多くのプレイヤーから挨拶される事も多く、野良PTマッチを開くと直ぐに人が集まり、村でぶらついていると 暇ですか? とPTに誘われ、PTLをまかされる事も多い。
ただそういった状態だとメンバーは固定面子化するという問題もはらんでいる。PTLも気心しれた仲間をいれたいし、上手いプレイヤーをいれたいというのは当然である。今はまだ良いが何れ今いるPTLは次々に先行する事で第二のPTLをする人材が誕生するだろうが、出来る限り、今いるPTL達から情報を経験として蓄積して欲しい所でもある。
ただそんな野良PTのPTL達も何れ実装されるクランにおいて、マスターの一人になるのではないか、と期待されており、僧職もその一人である。それだけに人が集まりやすかった。そして、僧職と同じPTを主催する人間が一緒にいるとその注目度は必然的に二倍に膨れ上がる。
「僧職男子って、やっぱ上位職はヒーラーにするの?」
この日も内藤とペアハントを終えてクエストを新たに受注した後、露天めぐりをしていると良くPTで一緒になる女性メイジと出会い、二人で会話しながら露店を冷やかす事になった。この女性メイジもPTマッチを立てる側であり、ボス討伐の主催をする事もあるためか、自然と視線を集める結果になっている。
「いや、バッファーの予定。金が溜まったら弓道男子とか冒険男子とかの別キャラ動かす予定だけど」
「名前から中身(プレイヤー)と職の特定出来るのが見事だわ」
思わず笑みがこぼれるのを見るとやはり、アイリーンというキャラ名を頂く彼女としては僧職の名前には違和感しかないのだろう。有名な漫画やゲームのキャラクター名が人気で取られたり、旧作で有名になったプレイヤーの名前も優先的に取られやすい。僧職も自分が使っていた名前を取ろうとしたら取られていた口で仕方なくこの名前になったのだが、インパクトはそれなりにあるせいか覚えられやすい。逆に当初は害候補と見られていたり、今も思われている節がある位だ。
アカウントは5キャラ分のスロットが存在し、5キャラを作れる。これを生かして複数のキャラをもつ事で密かに有害プレイヤーとなる事も出来る。RPGゲームとして十分楽しめる作りとなっていた。
「僧職って旧Verプレイヤーだったよね? どの位からやってたの?」
「サービス開始から少ししてから、かな。途中休止してたからフルでやってたわけじゃないけどね」
「なるほど。だから今じゃ旧Verからなくなった狩場とかに詳しくて進められるかぁ。
CBOBやってない割りに進行早いから何でだろうと思ったけど」
アイリーンはCBからのプレイヤーで旧作も多少プレイしていたそうだが、始めたのが最近の為ゲームそのものの知識しかなく、古い狩場等あまり理解はしていない。CBからの蓄積がものを言っていたのだ。その点β時代の知識のない僧職の存在が珍しくもあり、ゲームそのものの知識もアイリーンにはないもので羨ましくあった。
古い経験すべてが応用できるわけではないが、モンスターの分布や特異性を理解しており、過去のUPや既存のゲームのプレイ経験からどの様なプレイが出来るか、どの様なAI反応があるかを予測している。PTでの指揮も的確で役割分担もこなせる所と会話を盛り上げる等楽しませてモチベを維持させる事が出来る。大規模PvP時の経験からなのだろうとは思うが、これは長時間のプレイをするに重要なプレイ要素であり、得がたいプレイヤーである。
回復をメインとするメイジながら、ヘイトを引き受けているキャラに攻撃するモンスターの後ろに回りこみ、背後からダメージを与える戦い方や、受けの所までモンスターをプルする手腕といい、効率の良いPTを編成するのに手堅い僧職は誰しもがPTに求めるのだが、こうやってアイリーンは自分から真っ先にフレ登録を成功させて、一緒に行動する機会を多く作り出したのは強みに思えた。何れは作るであろうクランに彼を迎えるか、彼が作るであろうクランに入るか、そうなるだろうと思える。
「ゲームをやってれば基本的なAIや動きはかわらないからね。予想は出来るから意外と簡単だよ。
昔の将棋の電王戦みたいなものだし、今なら大分思考ルーティンが増えたからパターンは増えたとはいえやる事はかわらないさ」
見つけた露天を巡って必要な装備の破片を買い取り終えると必要素材を確認していく。このあたりの手際の良さは必要レシピが頭の中に入っているのだろう。
情報がある。生かせる。という事は今プレイヤー達の作り上げる経済においていくらで作れば利益になるか、そういった事を計算できる。狩場やボスで現物装備がドロップした時のオークションでの引き際もそうだ。
実際NPCをおいて代理露天で転売もしているし、既に上位職へと転職した後に必要となる装備も考えているのが僧職である。このあたりは経験がものをいうために、先行して本国(本社のある国)でゲームがUPされていくのだが、いつでもそれに対応できる様にしながら装備を作り、後発で入る友人向けの装備も作る姿は中々頼もしい。
「今度は弓をつくるの? 本当いっぱい作るんだね」
「仲間内で使い終わったら弓道男子でも使えるからな。サブキャラ向けに作って損はないし、現物入手したらそれはそれで別の使い道があるってもんよ。
メインでオーク使ってたから、苦労を覚えてるのもあるさ」
「へぇ。結構効率追求してたんだねぇ」
「とんでもねぇ。オーク使ってた最初の頃なんてネタキャラだったよ」
オークなんて認知されるまでPTはいれなかったしなと笑うとアイリーンが意外そうな表情になる。
「オークって大変だったんだねぇ。ドワーフもだけど」
そうアイリーン呟きながら僧職に続いて歩いていくと、倉庫を経由して必要素材を取り出し、併設されているNPCドワーフが営む鍛冶屋に向かう。今の所実装されている種族はヒューマン、エルフ、ダークエルフだけだが、何れはドワーフとオークも大型UPで追加される事が決まっている。
だが、今はゲーム内にいるドワーフはNPCだけであり、製作はNPCに依頼するしかない。不便であるだけに早く実装してほしい。だが、ドワーフは頑強さと高い体力設定があるのだが、戦闘スキルの少なさによる攻撃力の不足で育成が難しいという欠点がある。それだけに実装が初期にされていない事への不満があり、早期の実装が待たれる種族である。特にドワーフはアイテムを収集する職と製作職に別れ、この二つは重要な職であった。
オークは珍しく人が操作できる。このゲームでは神が作り出した種族であり、無論完全にモンスター化したNPCオークもいる。そんな彼らの性能はある意味突き抜けている。例えばステータス配分でみれば力と体力、精神が特化している。これは前衛と後衛もであり、脳筋種族なのだ。特に異質なのはオークのメイジはPT全体やクラン全体に効果のある魔法を使えるバッファーである事だろう。同時に知識が低い為成功率は低いが単体ないし広範囲に影響するデバッファーでもある。彼らは後に来るであろう大規模PvやGv、戦争でその真価を発揮して活躍する。
アタッカーは更に特殊である。近接職しかなく二つの職しかない。だが上位までいくとその異常性が際立つのだ。
一つは破壊者と呼ばれるJobになる。彼らは両手武器と槍を扱え、足の遅さにより機動戦には不向きだが、狭い場所や対ボス戦において凄まじい程の攻撃力を叩きだせるダメージディーラーである。重装備と足の遅さを攻撃力と体躯で補い、時にはヘイト管理をする盾からモンスターのヘイトを奪う事も出来る。これは盾がプラーとなり受けをオークがするというヘイトスキルなしで管理が出来る程だ。
もう一つは暴君と呼ばれるJob。武器は己の拳であり、拳法家と思えばわかりやすい。拳の武器を身に付ける大柄なインファイターだが、破壊者と違うのはオークに関係の深い動物の特性を身に宿す事である。各動物の力を身に付ける事で攻撃力を失うが脅威的な移動速度。移動速度を失うが攻撃力と防御力を身に宿す。といった状況に応じた戦い方が出来る各状況に応じた戦い方が出来る。
そして一番の特色は、この二つの職は常時仕えるスキルと、危険時、HPの残量によって特定のスキルを発動出来る。リスキースキルとも呼ばれる危険時に一発逆転が出来るスキルだが、これをあわせて使う事により、常識的にあり得ない攻撃力や防御力を見せる。例えば破壊者は全てのスキルを合わせると装備やLv次第では防御力は200%を超え、デバフ耐性も向上して70%前後まで上昇する。攻撃力もクリティカル率が100%、攻撃力500%と脅威の跳ね上がり方をするが、その最大効果時間は1分である。
問題は発動させるのに一時的にHPを30%まで削らないといけない事で狙って発動させる場合、あらかじめ味方からダメージを受けるか装備の付け替えでHPの上昇や低下を使って作り出すしかない。
暴君は少数PTでその効果を発揮する。動物の力を身に宿すがHPが6割を下回った時その威力が増大する。さらに30%を下回るとその効果は最大を迎える。攻撃力と防御力の上昇、クリティカル率も装備と合わされば技術の低いオークですらカンストする脅威の上昇を見せ、常の攻撃が7割方クリティカルになるという常識外の攻撃である。問題は効果を維持させる事。常にHPを30%以下でその状況を維持するという事が必要なのだ。
これは運営側が当初想定していたプレイとは完全に乖離していた様だ。一歩間違えば使用者が死亡しPTが壊滅するのを維持するのだから当然なのだが、回復アイテムや装備の着脱、緊急時のバッファーのヒール連発で維持する等、通常ではあり得ない狩りスタイルをしている。
問題はこれを実現するのはプレイヤーの理解と実現する為の装備やアイテムをそろえる資産力。何より協力するプレイヤーの判断力が問われる。ただ基本的にリメイク内容が最初期の流れを踏襲しているとはいえ、これらのスキルはなくなるか改変されてオークは弱体化するのではないか。というのがもっぱらの噂であるが。
「はっはっはっ。よう来たな若いの」
鍛冶屋に入るとAIだけあって会話のパターンが少ないが昔と比べて随分と反応のパターンが増えているNPCが声をかけてくる。今回のこのドワーフの挨拶も増えたバリエーションの一つである。他にもNPCにソーシャルアクションや愛を囁くとこのドワーフに限らず、色々な反応をかえしてくれるのだ。これも昔のゲームと比べて変わった点であろう。
「装備を作りたい。猟師の弓だ」
「素材は集めているか?」
「トレードする」
NPCにトレードを申し込むとNPCが直ぐに自動で受諾する。トレードウインドには必要アイテムが表示されており、自動適用をプッシュするとインベントリから必要アイテムが必要数トレードウインドに移される。
OKをプッシュすれば後はNPCドワーフが炉の前に移動してアイテムを作り始める。ゲーム内の世界だけあって気温や湿度は再現がなされないため、燃え盛る炎を前にしても熱気を感じる事はない。技術的な話ではインプラントを埋め込んでいれば、味覚や嗅覚を刺激する事も熱気も感じる事があるそうだが、脳内で強い暗示効果を生み出す為、疑似体験を脳が本物と判断し体や脳へ強烈な負荷やストレスを与えられる事があるので禁止されている。
昔、火傷する程でもない熱量の物体を体に当てられた時に、その部位に脳と体が勘違いして火傷に起こる水ぶくれが生まれるという実験が起きた。右腕を失った人間があるはずもない右腕の痛みを感じる。という事もある。人間の体は意外と不便であったり、勘違いから錯覚を起こす事もある。ゲーム内でそういった危険を排除する為に感覚はカットされているのだ。
「そうそう。私やっと祈りセットそろえたよ」
「おー。がんばったな。
祈りセットがあれば貧乏なWIZなら防具は40位まで引っ張る事できたりもするからな」
「それに見た目もかわいいしね」
「これで中身がただのおっさんで無ければなぁ」
「うっさい爺!」
あっかんべーをしながらインベントリを開いて装備を変更して適用を押す。一瞬でグラフィックがさし代わり、今まで白い平民が着ているようなローブだったものが紺色と灰色を基調としたローブ姿へと変わる。ただボトムはミニであり、ロングブーツと合わさる事で随分と男性プレイヤー視線を集める絶対領域が出来上がる。
初期職が装備できる装備の中で屈指の人気がある装備グラフィックであるが、人気があるのはそれだけではない。このゲームでは装備にセット効果が付与されている。祈りのローブセットであれば上下とブーツを揃える事で魔法詠唱が15%アップする。この上昇量は極めて大きく、転職後装備できる直ぐ上のグレードだと最大5%しか伸びない事を考えると極めて大きなセットボーナスなのだ。
ただし、防御力は絶望的であり、MP上昇ボーナスも非常に低い。ただ事実、旧作では装備がそう簡単に購入できない時代にはLv40までそれで引っ張るwizも種族によっては存在していたほど効果は大きい。
アタッカーであるwizで推奨される装備のセット効果は種族特性の差もあるが、ソロで限定してみた場合、基本モンスターを一撃死させる攻撃力ないし、敵からの被ダメを受けない連続した攻撃を可能とする速度が好まれる。故にこの祈りのローブは詠唱速度UPの効果は瞬間火力を高める事で大きなウェイトを占めるが、恩恵はそれだけでない。スキルディレイにも影響を与える為に結果攻撃の連発に繋がり、安全にモンスターを倒せる事になる。ダメージを受ける回数の軽減は狩りの安定を生むのだ。問題はMP回復での休息だが弱点を減らす意味合いからもこの装備構成は人気が高い。
無論種族特性の違い、狩場の特性やPTでの戦い方と、状況に応じてセット効果で知性をUPする効果のあるローブや対スキル防御効果も好まれるのだが、現状実装はされておらず、必然的に祈りセットはメイジ職屈指の人気となっている。
「どーよ! かわいいじゃろ!」
かわいらしくポーズを取ると本当キャラは可愛いのになと思うがそれは口にしない。そのかわりに口にする言葉はあくまでもこうなってしまう。
「パンツみえてるぞ!」
「うっさいすけべ!」
まるで中学生の会話の様なやり取りが響く。実際このゲームは露出も大きく、魔法詠唱や攻撃モーションに限らずあらゆるモーションでパンチラをしていた。その為エルフをエロフ等と呼びもしていたし、設定上ダークエルフは性に奔放ともされていたこともあった。それを知る世代ではある意味慣れているし、ふざけた会話になるのだが、現在では相手を選ばないとセクハラになりかねない為、僧職も相手を選んでいる。ハラスメントが昔より厳しいので中々難しい時代になっているとも言えるため、おっさんたちには辛い時代でもあった。