車に揺られて新しい家に来たのももう4ヶ月前のことである。世間一般では俗に言う夏休みに入ろうとしていた。高校に入学しても場所を変えただけで俺の行動は以前と変わらなかった。
入学した高校は田舎の小さな高校だった。生徒数100名ほど。校門に続く道は桜並木が生えそろっていたのを記憶している。
いつものように授業が終われば家に帰る。やりたいことも遊ぼうと思う心も俺の中にはなかった。部活動も特に入りたいと思えるものもなく、強いて言うなら帰宅部エース...とのことだ。
クラスの人間関係というものも希薄だった。そもそも田舎の高校とは地元の出身が多く、人数が少ないため、大抵が顔見知り...だったりする。初日は質問責めにあったが、少し時間が経てば嫌でもわかる。俺が何の特徴もない中身が空っぽな存在だということを。
趣味が無い、好きなものがない、興味を持たない、これでは話をしても無意味だろう。感覚としては精巧に造られた返事を返すだけのロボットだろう。そんな俺がクラスから孤立するのは当然の摂理だった。
もちろん、そんなことは分かりきっていた。だから、流行りのファッション、芸能人、今時の高校生が興味を持ちそうなものを調べたりしたが何の感情も湧かないのだ。むしろ、なぜ好きなのか教えてもらいたい所だが、それを一つ一つ尋ねるのはおかしなことだろう。
高台の家の前からは海が一望できる。きれいだな、とは感じたがそれまでだった。僅かな新しい環境への興味はものの数秒で終わった。
こうして俺の高校生活は何事もなく過ぎ去り夏休みに差し掛かった。
夏の日差しが窓から降りかかる。その暑さで俺は目を覚ました。ベッドから起き上がり、喉が渇いたのでリビングに行き、蛇口を捻りコップに水を入れる。人間としての生理現象は普通にあるようだ。と朝から自己嫌悪に陥った。
俺は自分が嫌いだ。感情が薄いのも、何の特徴も無いのも嫌いだ。しかし自分が嫌い、という感情は群を抜いて強く感じている。なぜかは分からないが...
どうやらリビングの時計を見てみると小さい針は5、大きい針は12の所を指していた。朝早く起きすぎてしまったらしい。どうするかな...と考えていたら母さんが起きてきた。
「あら、おはよう。夏休み初日から早いわね。どうして?」
「おはよう、暑いから目が覚めたんだ。特に意味はない」
「そう...じゃあ朝の海でも見てきなさい。今日はとっても晴れてるわよ。」
俺の返答に母さんはいつもとは違うことを言った。いつもなら『そう、ご飯にするわ』とでも言うはずだったが...
「よく分からないが行ってくる」
「朝ごはんまでには帰ってくるのよ。」
夏休みが始まっても寝るだけの生活を心配したのだろうか。二年間履き続けた所々破けた靴を履き玄関のドアを開ける。燦々と降り注ぐ太陽の熱気に若干顔を顰めながら、俺は坂を下っていった。
ものの数分で俺は堤防に立っていた。下には白い砂浜が堤防の端まで続いている。目の前には透き通るような青い海があり水面は太陽の反射でキラキラと輝き、空は雲ひとつない青が広がっていた。
母さんが来ていれば『ん〜、最高!』とばかりに両手を広げながら全身で自然を感じたのだろうか?おそらくそうする。
「かぜ、気持ちいいですね」
後ろから声をかけられ、少し驚いたが、振り返りって声の主を目に入れる。そこには自分より頭一つ分小さい女の子が居た。にこっと笑いかけられる。
その特徴的な青い瞳は海と空両方の良いところを取ったのかキラキラと澄んだ目をしていた。
なんとかヒロインを出せました。流石に朝から不穏な空気を醸し出す主人公に母から気分転換しろ、と言い渡されました。