灯台守の訪問者   作:アンジョロ

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後付けのプロットを無理やり考えたりしていたので今回はモリモリです。



灯台守が訪問者2

夜の帷が降りて建物の窓からはカーテン越しの灯りが漏れている。

数ヶ月前まではこの時間、午後8時近くなっても明るかったが秋口に差し掛かり見てわかる程に日が短くなっている。

 

実にこの時間帯はする事に困る。

先ほどまで一緒に居たビスマルク、夕張とは既に別れていた。

ビスマルクは夜間演習が夕張は工廠に用があるそうだ。

 

今から基地を出て外に行ってもいいが特に外に見たいものがある訳でもないから始末に困る。

あてがわれている部屋も馴染んだもので特に何も置いてないのを知っていた。

そんなわけで寅之助は手持ち無沙汰に基地の中を歩き回っていた。

どこか適当に時間を潰せるところは無いだろうか。

そう思いながら基地内をフラフラと歩き回って既に15分経過しようとしている。

日が落ちて再び風向きが変わっている。

陸海風はいま陸の喧騒を沈黙の海へと吹き流していた。

 

そいつが現れたのはちょうど士官棟のあたり。

士官棟周辺はそれなりに背が高い建物が多くビル風の容量で煽られた風邪が強く吹く。

風上から顔を背けたときだった。

無表情に少し下を俯き猫背気味なそいつを寅之助は見逃さなかった。

 

「やぁやぁ、今日もお疲れ様秘書殿。」

 

敏腕秘書官 山並京介(やまなみきょうすけ)

 

「寅之助、君は全然疲れてなさそうだな。腹立たしいぞ。」

 

普段はよく通る年齢にしては高い声も今は覇気が全く感じられない。

幸薄そうな顔はそのままイメージ通り何かと振り回される、寅之助も山並だけは遠慮なく振り回せた。

 

「そんな事はない、一日中ビスマルクに振り回されて疲れている。」

 

少しどころか、かなり盛って伝える。

途中からビスマルクは完全にただの腰巾着だったため振り回したのはどちらかと言うと寅之助の方である。

 

「振り回すのがあのレベルの美女なら本望だろ。」

 

眉を顰めて声も一段と低くなっていく。

さて本題だ。

 

「ところで夕飯はもう食べたのか?」

「食べてないけど、食べていても無理やり連れていくだろう君は。」

「よく知ってるじゃないか。」

 

と言うわけで鳳翔さんのところに行く。

寅之助と山並、久々のサシであった。

 

・・・

 

居酒屋、というよりも小料理屋。

酒も出しているが料理が絶品であるためどうしても箸が進みすぎる。

寅之助と山並は四人がけのテーブル席に向かい合って座っていた。

 

「おっさんは相変わらずなのか?」

 

本人が居ないところに限らず寅之助は横須賀基地司令である五境(ごきょう)の事を“おっさん”と呼んでいた。

 

「相変わらずだ。」

 

横須賀基地内に置いて五境は恐れられている。

いや、恐れられているよりも畏れられているの方が正しいかもしれない。

過去の実績と今の役職がどうしても不釣り合いなのである。

その指揮を受ける側としては丁度大学でノーベル賞を取った教授の授業を受ける感覚に似ている。

その為かよそよそしい部下の態度が五境の密かな悩みの種であるのだが、寅之助はおろか山並であってもその事は知らない。

 

「なんでいつまでもあそこに居座ってるんだろうな、あの人。早く霞ヶ関行けば良いのに。」

「その話毎回してるぞ。」

「そうか?そうかもな。」

 

他愛の無い取るに足りない言葉の応報が幾らか続く。

 

「そう言えば今日人が少なくないか?」

 

この時間普段であれば店は混み辺りから大声が溢れている。

 

「今は遠征中でな。基地内の戦力は最小限だ。」

「となると第3回目だな。」

「ああ、そうだ。予定では明日の朝に帰ってくるぞ。」

「待てよ、今日帰ってくるなら灯台に俺がいないのはまずいんじゃないか?」

「お前がいなくても妖精が動かすだろ。」

「……それもそうだな。そう考えるとそうか、やっと3回目か。」

 

1回目の遠征は吹雪が寅之助を訪ねる少し前。

2回目の遠征は朝風が来た時である。

今日はその3回目であるらしかった。

 

「今回の目的地はどこなんだ?」

 

寅之助は本来海上自衛隊にとっては外部の人間である。

しかし、灯台守と言う職務に五境との仲が相まってある程度海自内部の事情に精通していた。

 

「沖縄だ。」

「輸送任務か。」

「うん。」

「ふーん。」

「多分君が会った事ある娘たちも出てるぞ。」

「え、マジ?」

「うん、吹雪と最上、後は秋雲も出てるな。」

「ちょっと待て、何でお前がそれを把握している?」

「何でって、艦娘の行動は非番でも事細かに記録する事になってるからな。」

「そうか…。」

「そうだ…。」

「お前も大変だな。」

「本当にその通りだよ。」

 

今、海上自衛隊が行っている艦娘を使った作戦は遠征のみで、出撃は行っていない。

そもそも、人類と深海棲艦の戦いは瀬戸内海が日本の管理下から離れて以来膠着状態にある。

深海棲艦はどうも海中や海上にある人工物をその攻撃の対象と選んでいるようであった。

その為、散々危ぶまれていた陸上への攻撃や上陸、侵攻などと言った事は起きていないのだ。

一時はデマや憶測が飛び交い海岸沿いの街から一気に人が消えた事もあったが徐々に人々は元いた地域に戻りつつある。

それでも今日本一の人口を誇る都市は甲府であった。

 

しかし既に海は人外の手に落ちている事は変わらない。

通行する船はおろか海に掛かる橋でさえ攻撃される。

この状況を打破する為、果ては深海棲艦を撃退する為日本が打った最初の手が遠征であった。

 

「つまりなんだ、そこに満面の笑みで立っているそいつは悲しくも今回メンバーから外された訳だな。」

 

寅之助に言われた山並さっと後ろに振り返った。

 

「なっ!その言い方心外なんですけど。」

「赤城…。」

「殿畑さん酷いです。仕方ないじゃないですか、私たち空母は夜は役に立たないんですもん。」

 

赤城は精一杯抗議の声を上げながら山並の隣の席に着く。

そんな声を無視した寅之助はいつも通りの声をかける。

 

「久しぶりだな赤城。」

「お久しぶりです。」

「待て待て」待ったをかけたのは山並だった。「お前夜間演習は?」

「交代になりました、翔鶴と。」

「翔鶴と?え?なんで?」「翔鶴って初めて聞くな、どんな奴だ?」

 

赤城の暢気な一言に寅之助と山並が同時に口を開いた。

 

「順番にお答えするので待ってください。まずは京介さんです。」

 

そう言って横を向く。

 

「どうやら司令からのお達しみたいです。京介さんの仕事をやりやすくする為だとか。それで私気になって貴方を探してたんです。まずは部屋に行ったのですが居なかったのでこっちかなと。そうしたら殿畑さんの声も聞こえたので、ご一緒させて貰おうかなと。」

「なるほど、そう言う。悪いがな赤城、その仕事はついさっき終えた。」

「あら、そうなんですか。じゃあ遠慮なくご一緒できますね。」

 

寅之助にはさっぱりであるが、どうやら山並には合点が行ったらしい。

山並の仕事とやらが気になるが海自には海自の事情がある、あまり深入りすべきでも無いだろう。

 

「殿畑さんは翔鶴についてですよね?」

「うん?あぁそうだ。」

 

と、唐突に寅之助に話が振られた。

 

「彼女は殿畑さんがここを離れたちょっと後に来た正規空母です。いい子ですよ。何というか、お淑やかと言うか。」

「ふーん。まぁ今度あってみればわかるかな。」

 

寅之助がそう漏らすと赤城は一拍置いた。

 

「さぁ、お二人とも。他に聞きたい事は?」

「「ない。」」

「よろしいです。あ、わたしこれ食べたいです。」

 

赤城はそう区切りをつけると、意気揚々と注文を始める。

それに続いて寅之助と山並も追加で料理を注文する。

 

さて、赤城である。

寅之助が横須賀基地で研修を行っていた時期からの基地付きの艦娘である。

そして何を隠そう、山並と付き合っている。

当時まだ一介の事務員であった山並はその事務処理能力と赤城との付き合いがあって五境の秘書に抜擢されるのである。

どうしても艦娘を戦力として活用する上で橋渡し役が必要であったのだ。

 

「ほら、京介さん。あーん。」

「やめ、おま、恥ずかしいからやめろって。」

 

などと言って寅之助の前でイチャついている。

 

「いいじゃないですか。どうせ殿畑さんしか見てないじゃないですか。」

「そう言う問題じゃなくて…。」

 

面白くなってきたと言わんばかりに寅之助は茶々を入れる。

 

「そう言う問題だぞ、赤城、もっとやったれ。」

「はい!ほらほら山並さん。殿畑さんは私たちをくっつけてくれた謂わばキューピットじゃないですか。そんな人の前で恥ずかしがる事無いですよ。」

「そうだそうだ。」

 

全員少しずつ酔いが回ってきて箍が外れだす。

 

「わかった、わかったから。ほら。」

 

遂に折れた山並が赤城の差し出す箸に口を付ける。

と同時にシャッター音がなった。

赤城と山並が揃って寅之助の方を振り向く。

 

「毎度ありぃ〜。」

「なっ、ちょ寅之助!消せ今すぐ消せ。」

「そうですよ、殿畑さん。恥ずかしいです!」

 

口々に寅之助を責め立てる。

 

「消せと言われて消す奴が居るかよー。赤城には後で送ってやるからな。」

「おい、てめぇ。本当にマジで。赤城もそんな甘言に騙されるなよ。」

「………きっとですよ?」

「約束する。」

「赤城いいいぃぃー。」

 

気の抜けていくような山並の断末魔は尻切れトンボのごとく酒気に紛れて虚空へと消えた。

 

・・・

 

呑んだ夜は何度もトイレに起きる。

これは多分寅之助だけでは無いはずだ。

酒は利尿作用の塊である。

そのため水分補給と言って酒を飲むのはより一層体内から水分を排出させる行為であるため危険だ。

山並、赤城のカップルとはあのまま一緒に飲み続け日が変わる前辺りで解散となった。

それから一人充てがわれた宿舎に戻り寝ようとしていた。

しかし、今夜もご多分に漏れず寅之助は何度もトイレに起きていてやがて寝るのがめんどくさくなってぼーっとただ白む空を眺めていた。

 

丁度5時を半刻程回っていただろうか、寅之助の携帯電話が鳴った。

出てみると灯台付きの妖精であった。

 

『あ、よかったです。ちゃんとかかったです。』

「おう、どうした。」

『しょうとうきょかをおねがいします、だいちょうさん』

「了解した、消灯を許可する。」

『ありがとうです。』

 

切れた電話から耳を離す。

そう言えば今日は遠征隊が帰ってくると言っていた。

どうせこのままここに居ても暇だし散歩がてら出迎えにでも行こうかと思い立った。

 

日の出前の海は良いものだ。

街の喧騒は無く、ただ海鳥の鳴く声と波の音がこだます。

最も岸壁だらけの基地内で波の音は聞こえない。

外に出た寅之助はまだ暗い道を一人歩いていた。

道端の街頭は一人迫り来る朝日に立ち向かうかのようにまだ煌々と光っている。

そう言えば艦隊の具体的な帰投時間を聞きそびれていた。

 

「あぁ、やらかしたな。」

 

と、一人ごちる。

横須賀基地において艦娘が帰投する岸壁は決まっている。

そこで待っていればいずれくるだろうと言う希望的観測に身を任せることにした。

 

到着した艦娘用の岸壁にはまだ誰も居なかった。

どうやら完全に早過ぎたようだ。

寅之助は近くにある自販機でコーヒーを買うとその横のベンチに腰を下ろす。

岸壁には数羽のカモメが止まっている。

どこからかコーンコーンと言う何かを打ち付ける音が響く。

その音に混じって見知った声が聞こえた。

 

「あれ、寅之助じゃん。こんな所で何やってるの?」

 

夕張だった。

 

「どうにも寝付けなくてな遠征の出迎えでもしようと思って。」

「成る程。」

「夕張は?」

 

そう聞き返すと、夕張は後ろを指さした。

 

「その遠征の子達が使った艤装を工廠まで持ってくのよ。」

 

なるほど。

昨日の夜の用とはこれのことか。

 

「その準備に一徹を要したのか?」

「そうよ。」

「となると、昨日訪ねたのは迷惑だったのか?」

「いや、あの時間部屋で寝てたら完全に間に合わなかった。ある意味助かったわ。」

「そう言う事なら。」

 

良かった。

 

「何時に帰投予定なんだ?」

「後30分くらいかしら。………まさか貴方、帰投時間知らずにここに居たの?」

「……そうだけど。」

 

夕張は“はぁ”とため息をつくと被りを振る。

 

「全く、いつも変わらないな寅之助は。」

「俺もそう思う。」

 

“ずずっ”と寅之助がコーヒーを啜る音が再び沈黙を作り出す。

しかし、その静寂も山並が赤城に引き摺られて来たことで破られた。

 

「ほらほら、しっかり歩いてください。もうすぐですよ。」

「ううう、気持ち悪い。」

「ほら、殿畑さんも夕張さんももう来てますよ。」

「そんなん知るか。」

 

ふらふらと足元のおぼつかない山並を赤城が半分背負っているような構図である。

すかさず寅之助が反応した。

 

「赤城動くな、いま写真撮ってやる。」

「なっ、ちょい待て、離せ赤城俺が悪かったちゃんと自分で歩くから許して。」

「別に私は怒ってませんよ?寧ろ久々に頼ってくれたような気がして嬉しいです。」

「じゃあ離せ、頼むから。」

「嫌です。」

 

無常にもまた寅之助のスマホからシャッター音が鳴った。

 

山並と赤城の到着により岸壁は賑やいでいった。

彼らを皮切りに多くの艦娘や職員がやって来たのだ。

さながら授業参観に来た父母の様相を呈している。

最も多くは寅之助の知らない人々であり、向こうも寅之助を一職員だろうと思っているみたいであった。

そして(まさにその通りであるのだが)重役出勤とばかりに最後に基地司令、五境が現れた。

 

「気をつけ!!」

 

誰かが声を上げた。

思い思いに話していた集まっている面々も黙って背筋を伸ばしている。

五境が敬礼をした手を下ろした時再び号令が飛ぶ。

 

「直れ!」

 

緊張した空気が一気に弛緩した。

再び話し声が出始めた。

五境は集まっている人間や艦娘からの挨拶に答えながら寅之助の方にやってきた。

 

「おはよう、寅之助クン。よく眠れたかな。」

「おはようござます。いつも通りでした。」

「そうか。」五境は寅之助から目を離し山並見る。「いつも通りか。それは良かった。」

 

やはり顔色の優れない山並はむりくり微笑んだ。

 

五境が来てから十数分後、誰かが水平線を指差して“来たぞ!”と叫ぶ。

集まった頭が一斉に海を見た。

確かにその先にはゆらゆらと人影が踊っている。

時間とともに人影は大きくなりやがて形がはっきりしてきた。

それと共に周囲から拍手や歓声が上がる。

中には指笛を吹いている者もいた。

 

旗艦である軽巡洋艦を先頭にして吹雪や最上など寅之助の見知った艦も見られる。

五境は気付いたら陸で待つ集団の先頭に出ていて岸壁には着眼する艦娘を迎えていた。

陸に上がろうとする艦娘たちが伸ばした手を五境がしっかりと握り陸に引き上げる。

陸に上がった艦娘は背負っていた艤装を外しそれを夕張がそそくさと回収していった。

隊列の最後に居た最上が五境に引き上げられると同時に更に歓声が上がった。

仲間たちに囲まれた最上は明るく微笑んでいる。

 

「殿畑さん。」

 

赤城が前を向いたまま喋り出した。

山並はその横でベンチに腰掛けて項垂れながらダウンしている。

 

「これを貴方に見せるのが昨日の京介さんの仕事でした。」

「仕事?」

「ほら、私がいるとスムーズに進むって。」

 

そう言えばそんな事も言っていた気がして“ああ”と声が出た。

 

「五境さんは、いや、私達はこれを貴方に見せたかったのです。」

 

赤城は寅之助をまっすぐ見据えて続ける。

 

「これからですよ殿畑さん、これからなんです、私達は。」

 

“だから”と、そう言って赤城は再び前を向く。

 

「いつかまた、戻ってきてくださいね。部屋はいつも通りあの場所にありますから。」

 

言われた寅之助は散る気配の無い人集りを見つめながら小さく、けど確かに。

 

「そうだな。」

 

と呟く。

 

「いつかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに。

遠征艦隊の出迎えがあった朝。

ビスマルクは部屋で点呼ギリギリまで寝ていたらしい。

後で夕張から聞いた話であった。




次から観音崎に戻ります、きっと
2021 2/3 誤字訂正 報告本当にありがとうございますm(_ _)m
新規投稿に合わせて登場人物整理も随時新しくしてるので覗いてみてください
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