灯台守の訪問者   作:アンジョロ

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4人目がまだ思いついていない
取り敢えず3人目です


3人目

感情を表現するのが下手であった。

とは言っても某空母みたいに感情が表情に出ないというわけではない。どうも、自分の心の内を曝け出そうとするとそれを冗談でコーティングしてしまうのである。

ふざける事で無理やり流してしまう。

 

だから筆を手に取った。

絵の中でなら自分の思いを心ゆくまで表現できた。言葉にできない感情を絵に乗せれば良いと思った。

ただその絵自体を他人に見せることはなかった。

私はまた逃げているのだ。

そんな不器用で恥ずかしがり屋な少女は上を向きながら歩いていた。

 

「さぁて、今日はどうしよっかなー。」

 

手を頭の上で組み横須賀鎮守府構内を船着場に沿って歩く。

水面に垂直になっているコンクリート製の岸壁のせいで、砂浜と違い波の音は聞こえない。

壁に当たった波がしぶきを上げて宙を舞い、チャプンと再び海に消える。

 

鎮守府の中で見える景色は粗方描き尽くした、思いも載せ尽くした。

そろそろ、新鮮な物を描きたいところである。

ああ、ならばあそこはどうであろうか。あそこならばきっと新鮮だ。長波は酷く愚痴っていたが。

 

秋雲

 

寅之助が周辺設備の見回りと点検を終えて退息所に戻ると何者かが海を向かってイーゼルにキャンバスを立てていた。

十中八九艦娘であろう、服装が長波と似通っている、というかほぼ同じ。

違うのは髪型、目の前の奴は茶髪…いや、栗色?の長い髪を後ろで一つにまとめている。

 

寅之助はなるべく音を立てない様に気を付けながら退息所に入る。

中の窓からはさっきの栗色の髪が海風に靡いている。

長波と服装が同じということは恐らく彼女と長波の間には、決して浅くはない関係があると見ていい。

となるとこの前の長波の訪問について文句を言いにきたのかもしれない。なるべく関わらないのが身のためだ。

 

今日は朝っぱらから仕事があって疲れている。

だが灯台協会もお役所の一部であるらしい、仕事を終えると報告書が待っている。

一体どれだけの人間がこの文章を真面目に読むのであろうか、そんな事を考えながらPCのキーを叩く。

一度斜め読みをすれば“くそじじい”と読めるように作ってみたこともあったが気づくやつは誰もいなかった。

今回は普通に書こう。

 

 

二時間ほど経ったであろうか。

時計はもうすぐ12時を示そうとしている。

顳顬を揉みながら背中を目一杯伸ばすとコキコキと背中が音を立てる。

 

「確か焼きそばの麺が余ってたよなぁ。肉あったかな?」

 

寅之助はそろそろ昼飯の準備をしようと立ち上がる。

そういえばさっきの奴はもう帰ったかなと思いふと窓の外に目を向けると、絵画用と思われる道具に両手を塞がれた少女が此方を見て立っていた。

目が合ってしまったため、仕方なく窓を開けて少女に声をかける。

 

「ビックリしたぁ。さっきからいらっしゃったようですが何の用ですかお嬢さん、新聞なら結構ですよ?」

「見れば新聞の勧誘じゃないってことぐらいわかるでしょ、っていうか気づいてたなら声かけてくれてもいいじゃん。」

「不審者の艦娘に声かけるほど俺の肝っ玉は大きくない。」

「もう、そういうのは要らないから早く入れてくれなーい?今日晴天だし日差しきついのよ。」

 

名も知らぬ少女は返事を待たずに玄関の方に歩いて行った。

扉の開閉の音がすると中に入ってくる、“ふぃーあつぃー”と言いながら適当な場所に画材を置くと軽そうな声で言う。

 

「秋雲さんだよー、よっろしくぅー。」

「此方としては宜しくしたく無いから、お引き取り願いたいのですが。」

「またまたぁーそんなこと言ってー。所でさっきは立ち上がって何しようとしてたの?」

「いや…だから…。」

「お昼ご飯?そうなら秋雲さんの分も作ってよー。」

「あの…。」

「いいじゃん、いいじゃん。こんな美少女を炎天下の中外に放置したお詫びだよー。」

「……。」

「あれ、なんか言おうとした?」

「いや、いいよ何でもない。」

 

もう諦めた。

あながち、長波が送り込んだ刺客でもおかしくはないかもしれない。

 

「ほい、できたぞ。」

「おぉ、待ってましたーって、何だこれ。」

「つゆ焼きそばだよ、前に青森の黒石ってとこで食った覚えがあってな。普通の焼きそばじゃつまらんから。」

「へぇー、いいねぇいただきまぁーす!」

 

秋雲は手を軽く合わせると、麺を啜り始めた。

 

「うわ、しょっぱい。塩辛過ぎなーいこれ。」

「どうやら青森県人はしょっぱいのが好きみたいなんだよ、だからあそこは短命県。」

「へー、青森出身なの?」

「違う。」

 

秋雲は興味なさそうに“ふーん”と言って再び麺を啜り始める。しょっぱいのはもう慣れたみたいだ。

 

つゆ焼きそばを食べ終わった秋雲は床に寝転がってまるで実家にいるかの様にくつろいでいる。

寅之助は皿を洗い台所から出てくるとソファの上で横になる。

 

「んじゃ俺は一眠りするから適当に帰っといてくれ。鍵は開けっぱなしで良いから。」

「えー、寝ちゃうのー。なんで?」

「眠いから。特に今日は疲れたし。」

「えー、それじゃつまんないー。」

 

寅之助は秋雲のぼやきを無視してソファーで横になり寝る体制に入る。

 

どうやら寅之助は本当に眠ってしまったらしい、規則正しい寝息が波の音と被って聞こえてくる。ソファの側のテーブル上には水の入ったコップが置かれている。

 

手持ち無沙汰の秋雲は部屋の粗探しを始める。

とは言ってもシンプルすぎるほどの部屋である。ここにはテーブルの他にデスクと思わしき机がある。

散らかり放題の机の上にはぐちゃぐちゃの書類の他に天球儀とノートPCが置かれている。

ドアを開けて玄関の方に行くとキッチンがある。食器棚の中に食器は無く、そこはインスタント食品で埋め尽くされている。

冷蔵庫の中には1/4のキャベツ、賞味期限切れの牛乳と調味料が少々入っているだけだ。

これだけでも不健康な生活を送っているという事がわかる。

 

これは萩風なんかをけしかければ面白いことになりそうだと思いながら秋雲はリビングへと戻る。

ソファに腰を下ろし背もたれに寄っかかるとロフトが目に留まった。当然秋雲は梯子を登る。上には布団が敷きっぱなしになっている。

そしてその中で眠っている妖精さん。

………妖精さん⁉︎

 

鎮守府では見たことのない姿をしている。黄色いレインコートの様な服を着て枕元には変な形のステッキの様なものが置いてある。

先端に化け物の目のようなものが付いている。

秋雲は何も見なかった事にして静かに梯子を降りようとしたが、梯子が軋んだような音で妖精さんが目を覚ましてしまった。

目をこすりながら起き上がると秋雲を目に留める。

 

「だれですか?おまえは。」

 

舌ったらずと言うか鼻にかかる声というか、そのような声がした。

 

「うーん、えーっと。寅之助さんの友達?」

 

完璧に困惑した秋雲は口調と思考がごちゃごちゃになっている。

 

「うそですね、だいちょうさんにともだちは居ないです。」

 

妖精さんは眼を細めてしたり顔である。世間一般からすれば誇っていいものではないと思うが。

 

「だいちょうさん?大腸?台帳?」

「なにいってる?だいちょうさんはだいちょうさんです。」

「ああ、台長さんかそういう事ね。彼ならそこでねてるよー」

「ああ、またねてる。でもきょうはあさからしごとだったからゆるせるです。」

 

秋雲も落ち着きといつものペースを取り戻したようだ。梯子から降りきるとソファーに座りなおす。

 

「朝から仕事って何やってたかわかるー?」

「それはきみつだから教えないです。」

 

秋雲は“ふーん”と興味なさげな返事をすると、思いついたように先ほど置いた画材を取りに行く。

持ってきた画材をソファの前に設置すると絵の具を練り出す。

部屋の中に鼻を刺すようなクラっと来るような臭いが立ち込める。

妖精さんはウーウー唸ると、フラフラしながら窓を開ける。

 

「なにをかくつもりです?」

「うーん?ちょっと寝顔を書いてやろうと思ってね。」

「ちんじゅふでみせるです?」

「いやー、見せないよ。私の絵はそんなに上手くないし恥ずかしいし。」

「じゃあいいです。」

「良いのか。」

 

それだけ言うと妖精さんはロフトへ戻って行く。

秋雲はその姿をちらりと見ると、筆をとって絵を書き始めた。

 

 

西日が部屋へと差し込んでくる時間になってきた。

夢中で仕上げの筆を動かしている秋雲の目に集まってくる数人の妖精さんは入らなかった。

粗方描き終わった秋雲は深く息を吐く、そこでやっと数人?匹?の妖精さんが集まっているのに気づく。

 

「描き終わったです?」

 

先ほどの妖精さんが聞いてくる。

 

「うーん、まぁ、一応。」

 

秋雲が少し考えるように言う。

 

「まっててくれてありがとう。」

「じゃあ台長さん起こすです。全員突撃!」

 

1人の妖精さんの号令とともに、周りの妖精さんが文字通り寅之助に向かって突撃する。

四方八方からの衝撃を受けた寅之助は“うぎゃ”っと悲鳴を上げて飛び起きる。

 

「お前たちは毎度毎度どうしてそんなやり方しか取らないんだ?」

「普通に起こしても起きない台長さんが悪いです。」

「それもそうか。」

「あ、納得しちゃうんだ。」

 

秋雲は思わず突っ込む。

妖精さん達と寅之助の目がこっちを向いた。

 

「なんだお前、まだいたの?」

 

寅之助が心底不思議そうに尋ねてくる。

 

「艦娘って外の出歩き制限されてんじゃねーの?」

「あたしは今日終日休みだし、ちゃんと許可取ってますー。」

「さいですか。でも門限とかいいのか?もうそろそろ17時回るぞ?」

「え、あ、やべ。あたし帰るわ、じゃーねー。」

 

秋雲は反射のように立ち上がるとガチャガチャとした画材を抱えて飛び出ていく。

寅之助は秋雲が出て行ったのを確認し、再び書類との格闘に突入した。

 

18時に近づく横須賀鎮守府の正門。守衛として勤めている男は一人の艦娘が走って来るのを見てホッと一息をついた。

 

「セーフ!」

 

息を切らして正門を通り抜けた秋雲は男の方を向いて両腕を広げる。

男は黙って頷くと正門を閉めた。

何度か深呼吸をした秋雲は持っていったキャンバスが一つないのに気づく。

 

「あっちゃー、忘れたかー。まあいいや、次行く子に回収してもらおう。」

 

まったりとした口調で言うと寮の方へと歩き出した。

 

 

 

 




そろそろ駆逐艦以外を出したいところ

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