言い訳はリアルが忙しかったからです
横須賀鎮守府では狭い箱庭の中で娯楽を求める艦娘たちのために、情報共有の場として隔週で壁新聞が掲示される。
今日は三週間ぶりにそれが更新されていた。
掲示板の前には人だかりができていて、周辺では何人もの艦娘たちがその感想を語り合っている。
その様子を柱の陰から見ている少女は一人口角を上げニヤニヤと笑っている。
「フフフ、そこにある情報は又聞きの情報です。が、待っててください皆さん、明日は久しぶりのお休みですので私が直々に赴きます。そしてより面白いことをお届けいたします。秋雲さんから忘れていった絵の回収も頼まれていますしね。」
人だかりに背を向け歩き去って行く少女の目は五月の温度を上げつつある太陽光のようにギラギラと光っている。
空からはその太陽がコンクリートの地面をあたためていた。
「はぇー、綺麗なところですねー」
階段と坂を登り切り灯台の足元に到着した青葉は思わずそう漏らした。一枚撮っておこうと思いカメラを構えると後ろから声がかかった。
「なんだ、画家の次は写真家か?鎮守府の中には結構多彩な人種がいるんだな。」
青葉はいきなり声をかけられて少し狼狽えるがすぐにいつもの調子を取り戻す。
「どうもぉ、青葉です一言お願いします。」
今度は寅之助があっけにとられる番だった。
「えっと…艦娘はアポイントメントという言葉を知らないのかな?」
焦ってひねり出した言葉がこれである。
「は?何言ってるんですか?」
「いやな、最初の吹雪が来た時は連絡があったんだよ。だからそれ相応の対処ができた、心の準備もできた。」
寅之助は攻め立てるように続ける。
「それがなんだ、その後に来た長波といい秋雲といいなお前といいなぜ一言よこさない。ここにだって機密のようなものもあるんだぞ?」
「はぁ…」
青葉が圧倒されて返答に困っていると寅之助は呆れたように問いかける。
「それで一体何のようだ?そもそもさっきなんて名乗った?」
「青葉です。」
「そうか…で何の用だ?」
青葉は待ってましたと言わんばかりの笑顔を作り、
「はい!取材に来ました」
そう元気よく答えた。
取材を受けるというのは実に不思議な体験である。
どうなるかわからない記事のために、何なのかよく分からない質問をされる。
ボロを出さないように気をつけてもまるで意味はない。
どの発言が“ボロ”になるかは記者が決める。こうして取材を受けていると、なるほどペンは剣よりも強しとはよく言ったものだと思う。
当の寅之助もよく分からん質問を青葉に大量にぶつけられ、それを捌くのに必死だった。昨日の夕飯とか絶対何にも使えないでしょ。
しかも最近めんどくさくてカップ麺しか食べてないし。
しばらく質問の嵐をいなしていると青葉が急に静かになった。目を向けてみるとあたりをキョロキョロと見回している。
「何を探しているんだ?」
「いえ、何でも…っあ!」
青葉は突然叫んだあとそそくさとこっちに向き直る。
しばらく焦ったように目線を泳がせた後また質問を再開した。
「なにも無かったように質問を続けるな、何を見つけたんだ?」
「いやーははは、まあいいじゃないですか。そんな事より質問に答えてください!」
怪しき事この上ないが気にしない事にした。このまま追求しても何も出てきそうにないし。
「うーん、今日のところはこんなもんですかね。」
永遠につ続くかに思われた質問攻めが突然終わった。
「じゃあ青葉は帰ります、有難うございました」
「ん、そうか気をつけろよ。」
「あ、そうだええっと。あそこに飾ってある絵ってどこで手に入れたんですか?」
「ああ…あれか?前にここにきた奴が置いて行ったんだよ…上手いから飾って…。そういえば次来る奴には一言よこすように言っとい…って居ないし。」
良くも悪くもどこまでもマイペースな奴だった。
なんだかあいつを見ていると人間関係について考えるのがバカらしくなってくる、そんな気がした。
気がしたでけだと思いたい。
「それで…例のブツは回収できましたか?」
「すみません失敗しました。」
「え⁉︎なんでさぁ絶対回収してきますて言ってたし間宮券だって渡したじゃん、青葉さん!!」
「うっ、だって飾ってあるんですもん。額縁付けて…大体秋雲さん、そんなに大事なもんなら自分で取りに行ってください。」
「そ、それは。」
「それに殿畑さん、上手いから飾ってるっていってましたよ。」
秋雲の上顔が真っ赤に染まる。
「それが一番嫌なんだよ。あーもうどうしよう。」
「兎に角、どうしても取り戻したいならご自分で取りに行ってくださいね。青葉は今から文字起こしと編集作業があるので。」
そう言って青葉は巡洋艦寮に戻って行った。