灯台守の訪問者   作:アンジョロ

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誤字修正の報告を入れた回に誤字るって言う…本っ当に報告ありがとう御座います。


8人目

シーレーンが崩壊し人類が危機に晒されてもセミは元気だ。

数日前に土の中から這い出てきた彼らはそれまで静かだった森の中を騒がしく囃し立てる。

こいつらの鳴き声を聞くとうるさいと思いながらも自然と浮き足立つのは多分僕だけじゃないだろう。

まだ無邪気でただただ毎日が楽しかった子供時代を思い出す。

 

「ふふ、あはは。」

 

何故だか笑いが溢れる。

こんなに気分が良いのは久しぶりだ、きっと今日はいい日になるだろう。

彼には大いに期待しよう。

 

・・・

 

夏の海は最高だ、力強い太陽光は海面で反射しその威力をさらに強める。

しかしその勢いも強い潮風で全て洗い流される。

特に灯台が位置する高台はその分だけ風が強い。

こう言う時は宿舎の窓を全開にして吊るしたハンモックの上でゆっくりと時間を過ごすに限る。

 

「ようやっとの…暇…。」

 

噛み締めるように寅之助は呟いた。

数日前までの激務が嘘のように静まり返っている。

艦娘の活躍によって船の往来が多少…いや、少しだけほんの少しだけ現れ始めた。

それに伴い全国の灯台守達は行き来する船と艦娘を全てカウントしなければならなかった。

そのカウントを自動化するプログラム、というか設備を妖精達と共に作っていたのだ。

その妖精達は今灯台の屋根で潮風に吹かれている。

そんな至福の最中ノックの音が聞こえてきた。

 

最上

 

「久しぶりだね寅ちゃん!」

「その寅ちゃんって言うのいい加減やめないか?」

「良いじゃないか呼びにくいんだもん君の名前。」

 

人の本名に対して随分と不躾なこいつは寅之助の古くからの知り合い…と言うより幼なじみである。

 

「どうせ言っても直す気ないのは分かり切ってる。」

「わかってるじゃないか。」

 

最上の戯言を聞き流す。

 

「せっかくの暇で至福な俺のひと時を押して最上は一体なんの用なんだ?」

「用がなきゃ来ちゃダメなの?」

「なんでそこで上目遣いを使うんだ?まぁそれは良いけど、別にダメってことはないけどさ、わざわざあの心臓破りの坂を登ってまでくるところじゃ無いでしょここは。」

「良いじゃ無いか昔は特に用が無くても一緒に遊んだだろう?」

「それとこれとは話が違うような気がするけど…」

「違わないよ。」

 

最上は珍しく人の言葉を遮って力を込めて言い放った。

寅之助は驚いて最上の方を向く。

最上も真っ直ぐこちらを見ていた。

 

「違わない。」

「……そっか、そーゆーもんか。」

「そっかって、ちゃんと伝わってるのかな?」

「伝わってる、伝わってるって。」

「うーん、君のそれは昔からにわかには信用できないからな。」

 

そう言って最上は手元の漫画に目を向ける。

言われてみれば昔から最上はよくうちに上がってきては蔵書の漫画を読み漁っていた。

いつだったか少年漫画で楽しいのかと聞いたこともあった。

あの時は“楽しいよ、かなりね”とただ言われた気がする。

全く不思議な奴だ。

何が楽しいのか全くもって判らない、別に迷惑してるわけでは無いから良いのだが。

ただ漫画を読み漁るのは良いけど本棚を漁るのはやめて欲しかった。

いろいろ隠してあるのだへそくりとか薄い本とか。

そいつらを隠す為にわざわざ最上が絶対に読まないであろうゲームの分厚い攻略本を買いその中に挟んでいた。

そう、昔と言えば昔からだ、最上はよく“昔から”と言って子供時代を引き合いに出す。

 

「おや?その顔は……なんか疑問が浮かんだようだね。」

 

何こいつ、怖い。

 

「あ、うん。まあそうなんだけど。」

「聞かせてよ。」

「いや…最上は良く昔を引き合いに出すだろう。それはなんでかと思ってな。」

 

最上よ、なぜ顔がパッと輝く?

身を乗り出して今にもソファーから落ちそうだ。

 

「そうか…そっか、寅ちゃんと気づいてたんだ!」

「気づいたと言うか、ふと思っただけだよ、それに」

「それでも構わないさ!」

「ああ…そう?」

 

また言葉を遮った。

 

「それで?なんでなの?」

「フフ、知りたい?」

「まあまあ知りたい。」

「そっかぁ、まあまあかぁ。じゃあ教えない。」

 

めんどくさいな。

 

「嘘嘘、めっちゃ知りたい。」

「それでも教えないー。」

「イラ」

「声に出てるけど?」

「いかんいかん、つい本音が口をついて出てしまった。そんなに重要な事なのか?」

「えー、ヒントは乙女心だよ乙女心。」

 

なるほど判らん。

 

「これっぽっちも判らないのだが。もう少しヒントないのか。」

「えー、そうだなぁ。」

 

やたらと上機嫌だ。

さっきから足をばたつかせている、犬だったら尻尾を振り回しているところだろう。

 

「強いて言うなら優位性の確認かな?」

「優位性?何が?何に対して?」

「そこは…言えない。」

 

判らん、ますます判らん。

こうやって良く俺の事を煙に巻いていた。

少年漫画を読んでて楽しいのか聞いた時もこんな感じだった気がする。

 

「もう!そろそろ気付いてもいいと思うんだけどな!」

 

また急に強い言葉が出ている。

情緒不安定かこいつ。

すぐに最上はハッと気付いたような表情を浮かべ拗ねたように喋り出した。

顔を俯け耳まで真っ赤にして。

 

「最近さ、いろんな艦娘がここに来たんでしょ?」

「ああ…来たぞ。この前なんか」

「そう、それだよ!」

「それ?」

 

最上が真っ赤な顔を上げる。

 

「ええ!?まだわかんない?……ええっとだからね…僕が…その、その子たちに対して優位でいたいと言うか…何というか。」

 

寅之助の顔はまだ疑問符で埋まっている。

 

「いや、判らん。なんでだ?」

 

寅之助が不思議そうに続ける。

 

「今更優位性を示したところで最上が一番であることには変わらないんだぞ?」

「ああ!まだ判って…って、え?何だって?」

 

最上が今日一日驚いて、今日一日滑稽な顔を浮かべている。

 

「いやだから、今更優位性を示しても変わらないぞって。」

「違うその後」

「最上が一番である事には変わらんぞ?」

「う!!」

 

首絞められたみたいな声を出し最上が慌てたように目を逸らす。

そして急に立ち上がったかと思えば玄関に駆け出した。

 

「じゃ、じゃあ。今日はこれで。」

「あ、おい待てそんなに走るとコケるぞ。」

 

そう言ったときにはもう玄関から飛び出していた。

地雷踏んだかな?

ちゃんと埋め合わせとかんと、拗らせるとめんどくさいからなぁ。

 

・・・

 

「はぁ…。」

 

灯台が位置する丘を駆け下りた最上はバス停にもたれ掛かってため息を付いていた。

 

「何やってんだ…僕は?」

 

そんな最上を嘲笑うかのようにひぐらしが鳴いていた。




そう言えばこの作品プロットとかが全くないので自分でもこれからどうなっていくか判らないんですよね…。
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