ソードアート・オンライン 〜瑠璃色の痕跡〜 作:☆さくらもち♪
第1層の迷宮区から最も近い位置に存在する街《トールバーナー》にて迷宮区の攻略会議が開かれていた。
参加人数は20人あまりと少なかったが、それでもこの現状を変えたいというプレイヤーなのだろう。
ルカもこの攻略会議には参加しており、1人だけで孤立していた。
「さて、みんな!今から第1層攻略会議を始めたいと思う!」
声高々に注目を浴びるのは見た目だけで言えば好青年。
だが人を惹き付ける雰囲気があり、リーダーシップがあると言えた。
「俺の名は《ディアベル》!気持ち的にはナイトやってます!」
緊迫とした雰囲気を一瞬にして変化させた。
ルカも感心するほど人心の掌握が綺麗に出来ていると感じれた。
「今回この攻略会議を開いたのは、俺のパーティーが第1層のフロアボスを見つけたからだ」
その情報は集まったプレイヤーにとってとても重要だ。
未だに第1層という壁を乗り越えれずにいるSAOプレイヤーからすれば希望の1つ。
最もルカはとっくにその場所を見つけており、取り巻きとボスの行動をある程度まで攻略しきっていた。
「第1層のボスを撃ち破る事が今の現状を切り開く1つの希望の星だ!だからこそ、今ここで力を合わせる必要がある!」
力強い言葉のディアベルに賛同するプレイヤーは多かった。
「じゃあ今からパーティーを組もう!みんな各々自由に組んで欲しい!」
ディアベルはとっくにパーティーがあるが、ルカにはない。
元よりルカはソロ専門のプレイヤーであり、パーティーなどといった協力行動は苦手としていた。
どうしようか、と悩んでいるとルカに声をかける者がいた。
「ねぇ、貴方」
「……はい?」
「パーティーには入っていない?」
「いえ、入っていませんが」
「なら、入ってくれないかしら?人数合わせでもいいから」
女性の声と判断し、その中でも最近聞き覚えのある声色。
完全に信に値するか未だに分からないが、パーティーの件はありがたいと思いルカは受けた。
「はい、構いませんよ」
すぐにルカの目前にはパーティー勧誘の画面が表情され、承諾のボタンを押した。
視界の左上にはパーティーメンバーの情報が表示され、入っているメンバー全員の名前が出ていた。
(3人……)
《Asuna》《Kirito》《Yuuki》の3人の名前が表示された。
「他の2人は……ほら、あそこ」
彼女の示した場所には少年と少女が座っていた。
特に少女の方ははっきりと分かる。
(あの子……確かユウキ、だっけ)
紺色の髪の美少女だったために何となく印象には残っていた。
悪いことをしたとルカは思いながら、考えないようにしていた。
だがあの様子ではしっかり生きているのだなと分かり安堵する。
「お互い知っている方がやりやすいでしょうし……合流しない?」
「分かりました」
あの時はあんなにも死にたがりさんだったのにも関わらず、今はしっかりと芯のある少女になっているのだなと分かった。
元より世話焼きな部分もあるのだろう。
それが少しルカにはむず痒さを抱かせた。
「キリト君、ユウキ。連れてきたよ」
「どうも、ルカです」
至ってシンプルな自己紹介にアスナは苦笑しながらも、キリトとユウキに催促する。
「キリトだ」
「ユウキだよ!よろしく!」
「改めて、アスナです」
お互い自己紹介を終えると攻略会議の編成もぼちぼち終わり始めているようでディアベルが真ん中へと戻り始めていた。
「さて、パーティーは組めたと思うから次はフロアボスについての情報を共有したい」
「ボスの名前は《イルファング・ザ・コボルド・ロード》。そのボスの取り巻きは《ルイン・コボルド・センチネル》。この辺りはβ時代と変わらなかったと聞いている」
「俺が率いるパーティーがボスのターゲットを取る。その間に他のパーティーは取り巻きであるセンチネルの処理をしてもらう。センチネルが終わり次第、ボス隊と合流してもらいたい」
「ここまでに何か意見や質問はあるだろうか?……なければこれにて会議は終えて当日に備えたい」
誰も声を発さない。
それが合図のように、ディアベルは会議を終えるため閉めようとする。
「ちょっとまってんかー!」
急な乱入者に騒然とするも、ディアベルは驚きはありながらも冷静に乱入者を見ていた。
「わいの名は《キバオウ》ちゅーもんや」
「それでキバオウさん。何かあるのかな?」
「あるに決まっとるわ!こんなかにβ上がりのもんが混じっとる!」
「βテスター達がどうかした?」
「βテスター共はワイらビギナーを置いて一目散に街を出ていったことや!それのせいで死んでった者に対する誠意を見せろちゅーことや!それが出来んと背中は預けられんし、預かれん!」
正論といえば正論なのかもしれないとルカは思考する。
だが、それと同時に。
何故無関係の他人に手を差し伸べねばならないのだろうと。
「……馬鹿みたい」
「……あぁ!?今の誰や!」
キバオウは自身へと呟かれた言葉の主を見つけようと全員を睨みつけながら探す。
そんな中、ルカはさも気にしていないように立ち上がってキバオウの元へと向かった。
「なんや、我」
「名乗る必要性を感じない」
「餓鬼が……舐めとんちゃうぞ」
「全員、自分が可愛い。だから手を出さないし、助けもしない。それが何故駄目なのか、理解ができない」
「β共は先にこのSAOをプレイ出来たんやろうが!なら情報を開示すんのが普通やろうがい!」
「それが既に分からない。情報を開示するのは個人の自由。貴方に指図される言われはない」
ルカの正当な正論に何も言えなくなってきているキバオウは悔しげながらも憎しみげな目はルカに向けていた。
一触即発の中、1人のプレイヤーが声を上げた。
「これが何か、知っているだろうか」
そのプレイヤーが手に持っているのは道具屋に置かれていたり、無料で配布されているガイドブック。
「当たり前や。ワイも持っとる」
「そうだろう。これは《始まりの街》の道具屋で無料で配布されているからな」
「なら、それがどうしたんや」
「これを作っているのはβテスターだ」
ガイドブックというお助け本、運営が、茅場晶彦が用意しているとは到底思えない。
であれば誰がその本を率先して作っているかなど自明の理だ。
「くだらない。何も言い返せないのなら最初から言わなければいいのに」
そう言い残すとルカは元の席から多少離れた位置に座った。
パーティーメンバーには迷惑をかけないようにと考えた結果である。
「βテスター達にも、その本人達にも言いたい事はあると思う。だが、今ここで争えば第1層の突破は出来ない。お互い協力し合うのが最善だ」
ディアベルの演説により、険悪な雰囲気は消える。
彼のリーダー的存在は戦力としては別であっても士気を上げる重要なポジションだった。
「それでは、これで以上とする!解散!」
ディアベルの最後の言葉を仕切りにプレイヤーは帰路へと向かった。
ルカも立ち上がってどこかに行こうとすると、手を掴まれた。
「待って」
「ん……」
ルカを引き止めようと掴んだのはユウキだった。
天真爛漫さは消えて、真剣な表情へと変わっている。
「今から何処に行くの?」
「……言う必要性は」
「パーティーメンバーだから」
「人数合わせと言われて入っただけです。協調性はないと自覚しているので」
それでも手を離そうとしないユウキにため息をつく。
「はぁ……少し外でぶらつくだけです。宿の場所はメッセージで送ってくれれば向かいます」
「分かった!ごめんね、引き止めて」
彼女を途中で放り出した負い目があるからか、罪悪感はあった。
一目見てルカに興味を抱かせた彼女だったために、普段は出ない感情が溢れ出ていた。
「全く……」
だがそれも嫌なものでは無かった。
自分でも極端だとは分かっていながらも治せるものではないと理解していたから。
だからこそ、こうして彼女によって人間らしさが感じれるのは感謝していた。
「適当に、数十分」
見上げた空の色は紅く染まろうとしていた。
それは、昔見た風景のように。
酷く懐かしく感じられた。