ソードアート・オンライン 〜瑠璃色の痕跡〜   作:☆さくらもち♪

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第9話

普段よりも深いまどろみから目覚める。

時刻を見ればお昼を回っており、昨日の最後は夕刻だったため、かなりの時間寝ていたことになる。

 

「ん……」

 

隣にはユウキが寝ており、自分の足で寝室に行った記憶もないため、運んでくれたのだろうと察する。

1度起き上がろうとすると、途中で起きれずにベッドに倒れ込む。

ルカのお腹に手が回されており、ユウキが離すまいとしっかりと捕まえていた。

 

「ユウキ」

 

起きれないルカの暇潰しに、ユウキに触れて時間を潰す事にしたルカはユウキの方へ向く。

 

「……えい」

 

ツンツンと寝ているユウキの頬を突く。

柔らかい感触を楽しんでいるとユウキも覚醒してきたのか、目が微かに開こうとしていた。

 

「ぁ……ぅ……」

 

まだはっきりと目覚めていなくともユウキの目の前にはルカという大好きな相手が映っていた。

引っ付くように抱きしめると、ルカの首に頭を埋める。

 

「あぅ……くすぐったい……」

 

「んふふー……」

 

「ユウキ、起きてる」

 

「……ばれた?」

 

はっきりとルカを見ているユウキは寝ぼけていないと分かる。

それでもなお強く抱きしめるその手は緩むことは無い。

 

「ルカだぁ……」

 

「……もう逃げない、のに」

 

「ホントに?」

 

逃げる気がないルカは頷くと、ユウキの手が緩んだ。

その瞬間にベッドから抜け出る。

 

「友達、心配してない?」

 

「……してるかも」

 

「なら、一緒に行こう?」

 

「いいの?」

 

ユウキが言いたいのは、ルカが衆目に晒されて良いのかということ。

人嫌いのルカが人混みに居て大丈夫なのかが未だ分からない。

ユウキとルカはお互い知らない事が多すぎた。

 

「ん……ユウキが近くに居るなら。大丈夫」

 

「なら今から行く?」

 

ルカが頷くと、ユウキもベッドから降りて準備を始めた。

ルカもローブを着て容姿を隠すと、ユウキと共に家を出る。

相手に連絡をしているようで、行く場所を告げられた2人は待ち合わせの所へ向かう。

 

「あっ!アスナー!」

 

「ユウキ!」

 

待ち合わせにいたのはユウキの親友であるアスナ。

《血盟騎士団》副団長という座は決して暇ではないものの、このために時間を空けてまでユウキに会いに来ていた。

そして、2人は気づいていないが男性プレイヤーが虎視眈々と2人を狙っていた。

美少女でありながらも、自己をはっきりと持つ強い意志、分け隔てない性格、異名を持つ程の裏打ちされた実力。

はっきり言えばモテないわけがない。

 

「ん……ユウキ」

 

まだルカの中で育ちきっていないその想いでも。

自分以外の男に触れられたり、視線を集めるのが不満になっていた。

 

「嫉妬した?」

 

「……した」

 

ルカの感情が自分にだけ向かったことが嬉しかったのか、ユウキはくすっと笑う。

 

「アスナ。話したいことあるから場所変えない?」

 

「ええ。私もあるから」

 

人目を集めている自覚はある2人はルカを連れて、階層を移動する。

数分ほど歩くと一軒家の前で止まる。

 

「ここ私の家なの」

 

案内されたのはアスナの家。

階層によって家の相場があり、アスナの家がある階層はその中でもセレブ系が買うもの。

 

「上がって、2人とも」

 

アスナに言われ家に入ると、シンプルな家具が多いものの、装飾があったりとアスナ自身のセンスの良さが出ていた。

 

「さて……ユウキ。その子は?」

 

ずっとアスナが気になっていた相手。

ローブの中を見ようとすると逸らされてしまい、見えなかった為に素直に聞くことにした。

 

「《幻想者》だよ」

 

「こんなちっちゃい子が?まだ小学生ぐらいじゃない?」

 

「ボクと対して変わらないと思う。でも会ったのは第73層の迷宮区だから間違いないよ」

 

「……それで?その子どうするの」

 

「ずっとボクが探してた子だから。一緒にいるつもりだよ」

 

《幻想者》というプレイヤーが為してきた事は決して悪になるものは少ない。

《笑う棺桶》の単独殲滅こそ、危険性を感じさせるものの、こうやってアスナとユウキの前に居る分にはただの小さな子供だった。

 

「まぁ……ユウキがしっかり手綱を持つなら良いんじゃない?」

 

「持てるかな……」

 

ルカの事を深くはまだ知らないユウキは知らなければならない事が多い。

手綱を持つ所か、お互い知らな過ぎる為にユウキが想いを伝えてもルカが拒絶する範囲に入ってしまえばそれも叶わなくなってしまう。

捕まえて告げても不安は多いユウキだった。

 

「ユウキ、好きなんだね」

 

ルカから見たアスナの印象はそれが大きい。

親友という立場であっても妹の身を案じる姉のような人になろうとしていた。

 

「《攻略組》には、入らない。でもユウキと一緒には居る」

 

「……あなたが今までやってきた事を考えても、未だに危険と思う人は多いわ」

 

「そう思うなら、別に。人にどう思われるかなんてどうでもいいから」

 

ルカが今まで生きてきた上での思考の果て。

自分と身近な人以外は排他的な思考になったルカにとって他人からの評価などあってないようなものだった。

 

「随分と排他的ね……階層攻略が預かり知らぬ内に踏破されなくなるのなら《攻略組》としては何も言うことはありません」

 

《攻略組》メンバーの筆頭として。

《血盟騎士団》の副団長として。

アスナは様々な可能性を考えて、それで告げた。

 

「そしてここからはユウキの親友として言うのだけれど。その……付き合ってるの?」

 

アスナとして気になった部分がそこだった。

お互い指を絡ませながら手を繋いでいる事を考えれば分かるものの、本人たちから聞きたかった。

 

「ボクの方は言ったよ。ずっと好きで追いかけてたから」

 

「そう……それで、《幻想者》は冷たい言い方だし……名前教えてもらっていい?」

 

「……ルカ」

 

呟かれたように教えられたルカという名前に聞き覚えがあった。

 

「ルカ……もしかして第1層の時の……?」

 

その可能性を聞けば頷かれ、ユウキの執着にも納得してしまった。

 

「それは……ユウキが捕まえるのに必死になるわ……」

 

《幻想者》=ルカとなれば、ユウキの想い人は姿を見つけるだけでも必至。

そんな相手を捕まえるとなればユウキが死にものぐるいで強くなろうとする理由も理解する。

 

「姿は見せないのね」

 

「ん……」

 

アスナに言われルカはローブを脱ごうとすると、その手をユウキに止められてしまう。

不思議に思いつつ脱ぐのを止めるとユウキはぎゅうっと抱きしめる。

 

「たとえアスナでもルカの姿は見せないもん!」

 

「あなたね……」

 

ふしゃーと威嚇する猫のように断固拒否するユウキに苦笑しながらも、その後は談笑してアスナの元を離れた。

 

 

 

「ねぇ、ルカ」

 

「ん……」

 

「ボクって独占欲とか執着心とか色々強いみたい」

 

「何を、今更」

 

SAO最強プレイヤーとして君臨する《幻想者》を捕まえたユウキは普通ではないだろう。

 

「向こうに戻っても、一緒に居てね」

 

「……約束」

 

「うんっ!」

 

指切りなど、いつしたのか。

久しい約束のやり方だな、と。

ルカはたった1人の家族を思い出しながら懐かしく思った。

 

 

 


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