僕たち海洋学園は帝国学園との練習試合を行っていた。霧野先生から課された10点以上の差を付けて勝てという課題をこなそうとしていたが、なんと先に先制点を取られてしまった。
前半戦が終了し0-1で帝国学園が1点リードしている。海洋学園のエースストライカーである蓮基君のシュートは全く通用しなかった。これだけでもチーム全体の士気にかかわるのに、問題は他にもあった。
「おい武蘭!お前ぇどういうつもりだ!!」
皆がベンチに座って給水やら汗を拭いたりとしている中、沙漠君が武蘭君の胸倉を掴んで何やら問い詰めていた。
楓さんが二人を止めようとしたけど、セツナさんに放っときなさいと言われてしまい引き下がった。
「何でシュートを打たなかった!?お前ぇフリーだっただろうが!神矢先輩の作戦だって分かってたろ!!」
沙漠君は怒りが抑えきれないらしく、ずっと同じ剣幕で武蘭君を責め立てる。
彼が怒るのも無理はない。僕は攻め方を変えるとき、事前に沙漠君と武蘭君の二人に作戦を伝えていた。
内容はとてもシンプルなもので、今まで通り攻撃に参加しつつ、積極的にシュートを打ってもらうというものだ。
僕のパスで相手の隙を突くことが出来れば、相手のGKがハイビーストファングを使う前に得点を決めることが出来るはずだった。
しかし武蘭君は絶好のタイミングでパスを受けたのにフリーの蓮基君へとパスを出した。一見正しい選択の様に感じるけど、それは相手の罠。
蓮基君のシュートが恐れるに足らないものだと確信した相手のGKがDFにマークを外すよう指示したのだ。その結果、相手の思惑通りにシュートを打たされ、完璧に止められてしまった。
おそらくこの作戦はもう使えないだろう。たとえ蓮基君がシュートを打たなくとも、少なからず蓮基君以外の誰かがシュートを打とうとしていたことはバレているはずだ。
「同点で後半を折り返せたかもしれないんだぞ!?」
「沙漠君、そのくらいで」
これ以上続けさせるとハーフタイムを無駄にしてしまうため、僕は怒り心頭の沙漠君を宥めることにした。
不服そうな沙漠君だったけど、しっかりと説明してあげると納得してくれたようで、スミマセンと一言謝罪してくれた。
彼をベンチに座らせると、次に僕は武蘭君の方へと歩み寄った。
「沙漠君がごめんね。あそこまで言うとは思ってなかったけど、彼の気持ちも分かる。10点差を付けなきゃいけない今、少しでも早く点が欲しい場面だったはずだよ。必殺シュートを持っていなくても、さっきのタイミングなら十分得点を狙えた。何で打たなかったの?」
僕が質問すると武蘭君は俯いてしまった。このまま黙り込んでしまうのかと思いきや、彼はゆっくりと口を開いた。
「ボクが打つよりも、銀条先輩が打った方が確実だと思ったので」
はっきりとそう言った武蘭君だったけど、その表情は後悔しているような、ためらいのある表情だった。
僕はこれ以上追求することはせずにそれぞれベンチへと座って給水を始めた。少しして霧野先生が皆の前に立って話を始めた。
「課題クリアまで後11点ですね。不可能ではないと思いますので、最後まで諦めずに頑張ってください」
霧野先生は以上ですと言うと、そのまま手に持っていたタブレットを弄り始めた。
皆あっけにとられてしまった。もう少し戦術的な指摘があるだろうと思っていたのだろう。しかし先生がこれ以上喋る気が無いことを感じると、皆不安そうな表情になってしまった。
「後半もこのまま行くぞ。蓮基にボールを回せ」
すると後半の準備を終えた岱貂君が皆の前に立って指示を出した。しかし皆の反応は薄い。それを見た岱貂君は見るからにイライラとし始めた。
「・・・蓮基のシュート、散々止められてただろ?」
「玲夢てめぇ・・・今までも蓮基のシュートで点取ってきただろうが!蓮基以外に誰が決めるんだよ!!」
岱貂君が座っている玲夢君に詰め寄る。胸倉を掴んで無理やり立たせ、玲夢君が持っていた飲み物が芝の上に落ちる。
今にも岱貂君が玲夢君を殴りそうな勢いだが、そんな状態でも玲夢君の表情は変わらなかった。
「・・・いるだろ?帝国学園に通用しそうな奴が一人」
玲夢君はチラッと僕の方を見る。それにつられて岱貂君も僕の方を見てきた。かなり怖い・・・。僕は助けを求めようと隣にいたセツナさんを見ると、巻き込むなと言わんばかりに睨まれた。
「こいつ、今まで一回もシュート打って無いんだぞ?」
こいつとは失礼な。確かに岱貂君とは全く喋っていないけど僕はちゃんと彼の名前を知っている。あ、これは一方的なだけか。
そんなやり取りをしているうちに、主審が笛を鳴らしてハーフタイムが終了した。
僕たちは結局ハーフタイムを有効に活用できずに後半を迎えてしまう。コートチェンジを行い、笛を始めて後半が始まった・・・・・・。
ピー・・・ピー・・・ピピーー!!!
「こ、こんなことが・・・・・・」
試合終了の笛と共に風丸がフィールドの上に崩れ落ちる。他の帝国学園メンバーも疲れ切った様子で立ち上がれずにいた。スコアボードには1-18と書かれており、帝国学園対海洋学園の練習試合は、海洋学園の勝利で幕を閉じた。
「まだこれ程の差があるとはな」
練習試合の様子を観客席から見ていた鬼道有人は静かにその場を立ち去った。そのまま現在在学している星章学園へ帰るべく帝国学園内の通路を歩いているときに、ポケットに入れていた携帯から着信音が鳴り響いた。
「・・・灰崎か。どうした」
『どうしたじゃねぇよ。見に行ってんだろ?帝国の練習試合。どーだったよ』
電話の向こうから聞こえてくる挑発的な声に、鬼道は静かに返した。
「帝国は負けた」
『はっ!そーかよ。ま、あんな雑魚相手に手間取るようじゃ俺の敵じゃねぇ。んで、相手はどこだったんだ?』
「あいつらは、たった一人の選手に負けた・・・・・・んっ!?すまないな灰崎、話は帰ってからする。切るぞ」
電話の向こうから怒鳴り声が聞こえるが、鬼道は構わず電話を切った。
鬼道はその場に立ち止まり、奥から歩いてくる人物を待った。
「初めまして、霧野監督ですね」
「あなたは・・・鬼道有人君ですね。初めまして、海洋学園監督の霧野です」
鬼道に話しかけられた霧野は笑顔で対応する。お互いに相手の表情から軽い探りを試みるが、鬼道はゴーグルをしており口元は無表情、霧野は笑顔を崩さずに保っている。
「監督の噂は色々な人から聞いていました。データ収集に長けており、選手それぞれに別々の指示を出す。一見それはチーム連携を崩すように見えるが、結果的にチームの力を最大限に引き出している」
「聞かなくても資料に残っていたでしょうに・・・と言うのは野暮でしょうか?」
「ふっ。流石に過去の資料とはいえ、女性の年齢を探るような事はしたくなかったものですから」
「ふふふ、これは先輩としてしっかりと指導するべきでしょうか?」
霧野は鬼道に先程まで浮かべていた物とは違う笑みを向けると、彼はそれをものともせずに遠慮しておきます、と返した。
お互いにひとしきり静かに笑った後、霧野はすぐに表情を変えた。
先程とは違う、何かを見透かそうとする顔だ。
「さて、本題は何ですか?」
「では単刀直入に聞きます。なぜあのような指示を出したんですか?」
「あら、私は試合中に指示を出したつもりはありませんよ?」
「試合中の話ではありません。ハーフタイム中に海洋学園の選手たちが言っていたことです」
おそらくそれは10点以上の差を付けて勝てという指示の事でる。元々帝国学園に在籍していた鬼道にとって、海洋学園イレブンに出された指示は思うことがあるのだろうか。
「一歩間違えればチームを崩壊させかねない指示です。ですが、あなたが賭けに出るような事をするとは思えません。何か確信があったに違いない」
「勿論確信はあります。ですが、私の思い通りになるか、それとも君が言うように崩壊するか、それはあの子達次第ですよ・・・・・・それと、帝国学園はあなたの星章学園と、私たち海洋学園に敗れたことで新たに監督を招き入れるそうです。これで帝国学園も少しは昔の様に強くなれるでしょう」
霧野はそう言うと、用があるので私はこれで、と言ってその場を後にした。
イナイレの強さ関係って不思議ですよね