「うぉーほっほっほ!それでは皆さん、今日の練習はここまでとします・・・が!その前に少しだけお話がありま~す」
雷門中の新監督である趙金雲が練習中であった雷門イレブンに声を掛ける。すると選手がすぐに監督の所に集まった。
「どうしたんですか監督?」
練習道具を片付けていたマネージャーの大谷つくしと神門杏奈も、自分たちの作業を中断して集まった。
「では子文くん、今日の夕刊を読み上げてください」
「はい!」
監督に指示をされた李子文はいつの間にか皆の前に現れ、手に持っていた新聞を広げて読み上げた。
「本日行われた帝国学園と海洋学園との練習試合ですが・・・18-1で海洋学園の圧勝。前半を0-1で折り返した海洋学園は、後半怒涛の攻めで大量得点。強豪校である帝国学園を下した海洋学園は更に注目を浴びること間違いなし・・・と」
『18-1!?』
「なんだその無茶苦茶なスコアは・・・」
小僧丸が驚愕の表情でポツリと言葉を漏らす。他のメンバーも帝国学園の名はもちろん知っているため、小僧丸同様の反応を見せる。
「海洋学園は今までフットボールフロンティアの全国大会には出場していませんでした。毎年予選止まりで、帝国学園を倒せるほどの力があるとは思えませんが・・・あ!ありました!海洋学園の選手一覧です!」
マネージャーである大谷がタブレットで海洋学園について調べた結果を皆に見せる。皆がその画面の前に集まり、まるで団子のようだ。
「俺たちと同じで11人しかいないのか・・・」
稲森は自分たち雷門と同じ人数の海洋学園に親近感を抱いていた。
「新加入の選手は3人程ですね。1年生の二人は少年団の時のデータがありますね・・・ですが2年生の人はデータが無いようです・・・名前は神矢ユーリ君ですね!」
「ほほぅ・・・これが噂の神矢君ですか」
趙金雲は大谷からタブレットを受け取ると、スクロールをしながら神矢の写真をまじまじと見始めた。
「監督、知ってるんですか?」
「えぇ、まぁ噂程度ですが。彼も円堂君達同様、強化委員として海外から召集されていたのです」
趙金雲のカミングアウトに、雷門サッカー部一同が再び驚きの声を上げた。
「ぜひ一度、手合わせをして頂きたいものですねぇ・・・おーっほっほっほ!」
帝国学園との練習試合に勝利した僕たちはこの練習試合のために取っていた東京のホテルに戻ってきていた。しかし、今の僕たちの雰囲気は試合に勝利したチームのものではない。
一人を除いて海洋学園イレブンの全員がさっきまで夢でも見ていたかのようにボーっとしている。そんな中、メンバーを集めて軽いミーティングを行った後、一旦自由行動となった。
「皆さん、自由行動ですが21時までには部屋にいるように。各部屋に回って点呼を取るので、それまでに居なかった場合はペナルティです。それでは、解散!」
手をパン!と叩いて締めくくった。
「神矢先輩、この後一緒にご飯でもどうっすか?」
ミーティング内容をメモするために使っていた筆記用具を片付けていると、隣に座っていた沙漠君が僕を夕飯に誘ってきた。
「別に構わないよ。でも、ホテルのレストランは高いから行くなら外食にしよう」
沙漠君は僕の提案を快く受け入れてくれた。その後荷物を一旦部屋に置いてくるために自室に戻って片付けていると、同室の銑十郎君が戻ってきた。
「神矢、一緒に飯でもどうだ?」
銑十郎君も僕を夕飯に誘ってくれた。同室だからというのもあるかもしれないが、彼とはそこそこ話す仲であったため、さらに深めるチャンスである。
しかし僕は先に沙漠君と約束してしまっている。確か沙漠君と銑十郎君が普段会話をしているのを見たことはない・・・
「ありがとう。でも、先に沙漠君と約束しちゃってて、一緒でもいいなら・・・」
「構わない。アイツとは話をしてみたいと思っていた」
それなら良かった。じゃあ早速、沙漠君と待ち合わせをしているロビーに向かうとしよう。
携帯と財布を持って銑十郎君と一緒に部屋を出る。そのまま二人で待ち合わせ場所に向かう。すると、先にいたらしい沙漠君がソファに座っていた。僕は彼に声を掛け、銑十郎君も一緒にということを伝えると、彼は快く受け入れてくれた。
その後何処で食べるかの話し合いになったけど、沙漠君と銑十郎君は東京に来たのは初めてのようで何処に行くべきか迷っているようだ。
かく言う僕も、東京に来たことはあっても基本目的は空港であるため、食事に関してはかなり疎い。
「店どうします?東京なら何処も美味しそうっすけど」
「ラーメンはどうだ?」
「いいかも。向こうじゃあんまり食べれないしね」
あまりゆっくり決めていると直ぐに点呼の時間になってしまうため、早速携帯を使って場所を調べ、現地へと向かうことにした。
流石東京と言うべきか、凄まじく人がごった返している。
僕たちは目の回るような人ごみを抜け、やっとの思いで目的のラーメン屋さんに着いたのだが・・・
「すっげぇ行列・・・」
「噂には聞いていたが、ここまでとは・・・」
「ラーメンって凄いんだね・・・」
行列を目の前にしてたじろぐ僕たちだが、折角ここまで来たのに新しく店を探してそこまで行くのは時間が無駄になってしまう。
このまま列に並んで待つのも時間がかかるが、今日の試合の疲れからかこれ以上動きたくないという僕たち3人の心理が働き、お互いの意見を聞くまでもなくそのまま列に並んだ。
「あら?アンタ達もここに来たのね」
列に並んだ直後、後ろから聞きなれた声が聞こえた。
僕たちはすぐさま振り返ると、そこにはセツナさんと楓さんがいた。
二人とも僕たちと同じように人ごみを抜けてきたらしく、少々ぐったりとしていた。
「調べたところ、ここが一番有名だと書いてあったからな」
「ま、そんな所よね。折角東京に来たんだし、来て損は無いわ」
「つーか、なんすかその格好・・・」
沙漠君がセツナさんの格好を見て指摘する。彼が言ったように、セツナさんの今の格好は普段見ている彼女の私服とはまるで違った。
いつもはTシャツにデニムの短パンといった軽やかでラフな格好をしているのだが、今日にいたっては少々可愛らしい格好だ。
「何でもいいでしょ?今日はそういう気分だったのよ」
「セツナちゃん・・・・・・東京に来る前に・・・ショッピングモールでこの服を買ったんだよ。東京に行くなら・・・・おしゃれしなくちゃって言って―――」
「ちょっと楓!?余計な事言わなくていいのよ!」
服装についてはぐらかそうとしたセツナさんだったが、隣にいた楓さんが全て暴露してしまった。
それを聞いた沙漠君は弄りのネタが出来たと言わんばかりにニヤニヤし、僕はいつも強気なセツナせんの意外な一面を見れてほっこりとした表情を浮かべた。
僕ら二人とは別に銑十郎君は特に表情を変えていなかった。
「アンタら二人、後で覚えときなさい・・・!」
いつもならこの辺でパンチやキックが飛んでくるのだが、今僕達は行列に並んでいる最中。
人前を気にしたセツナさんは怒りと羞恥に震えながら必死に耐えている。これは帰った後色々気を付けた方がいいかもしれない。
待っている間ひたすら雑談をしていた僕たちは、体感的には思っていたよりも早く店の中に入ることが出来た。
「何かおススメとかあるのかしら」
「たぶん・・・これ」
「オオモリヤサイマシマシカラメマシアブラスクナメニンニクというやつだな」
「なんすかその呪文みたいなの・・・」
料理の写真は無いが説明文はしっかりと書いてあった。どうやら通常のラーメンより量は多いみたいだが、その分野菜や肉なども多く食べれるらしい。
誰もそれを食べたことが無いので未知の領域である。
「今日はだいぶ動いたし、少しぐらい多くても食べれるんじゃないかな?」
「後半はアンタしか動いてないけどね・・・」
「じゃあ全員同じのってことで。すんませーん!」
食べるものが決まったところで、沙漠君が店員を呼んで人数分の注文をしてくれた。
その後に僕と沙漠君で全員分の水を用意し、ラーメンが来るまで再び雑談を始めた。
「い、今更なんだけどさ・・・・・・今日の試合はごめん!後半僕だけで試合しちゃって・・・」
会話が一段落したところで、僕はおずおずと言った様子で謝罪した。
内容は今日の練習試合のことである。霧野先生から課された10点以上の差を付けて勝つという課題をこなすために頑張ってきた僕たちだったけど、帝国学園に一点を許して前半を終えてしまった。
更には蓮基君のシュートは全く通用せず、武蘭君は相変わらずシュートを打つ気が無かった。
なので僕たちは攻め手が無く途方に暮れていたのだ。僕は悩みに悩んだ末、ある手段を取った。
それは・・・
「あだっ・・・!」
僕が謝罪をしている最中に、なんとおでこにデコピンを食らった。
そこそこな強さだったため、思わず額を抑えながら犯人と思われる人物の方を向く。
「ほんっと今更よね。言うならミーティングの時に言いなさいよ。でも・・・アンタのお陰で勝てたし、課題もクリアできた。アンタ抜きじゃ絶対に無理だったわよ」
「それに・・・神矢君のプレー・・・・・・すごかった」
「俺が不甲斐ないばかりにすまなかった」
「神矢先輩はもっと胸張ってくださいっすよ」
それぞれ違った反応を見せるセツナさんたち。そんな彼らの反応に、僕は少し戸惑ってしまう。
「でも・・・」
「いつまで気にしてんのよ!そりゃあ、全員が全員快く思ってるわけじゃないでしょうけど、間違いなくアンタは正しいことをしたわ」
僕が未だにくよくよしていると、セツナさんが喝を入れてくれた。
そんな言葉に僕は少し救われたのか、心が軽くなった気がした。
「まぁ、俺の思った通り神矢先輩は凄かったっすよ。おっ!ラーメン来たみたいなんで、早速食べ・・・ま・・・」
丁度タイミング良く店員さんがラーメンを持ってきてくれた。のだが、その量は僕たちの想像をはるかに超えていた。
大きめのどんぶりにこれでもかという程に乗せられた野菜とニンニク。面は恐らくその下に大量に埋まっているのだろう。さらに器の淵側に溜まっている大量の油。そして肉厚に切られたチャーシュー・・・・・・
それを見た僕たちは、一瞬言葉を失った。
「ま、まぁ・・・時間はまだ全然あるわ。少しずつ食べましょ」
セツナさんの言葉に全員が頷き、箸を手に取って食事を始めた。
「な、何とか食べきれたっすね・・・」
「もう限界だよ・・・」
「これがラーメン・・・」
僕たち男性陣は何とかラーメンを感触することが出来た。お腹をさすりながら、3人とも水を少しずつ飲んで休み始める。
しかし問題は女性陣だ・・・
「これ以上は・・・」
「む・・・り・・・」
セツナさんは何とか2/3を食べ終えた。あの小柄な体格によく入ったものだ。それに引き換え楓さんは、見た目的には半分減ってはいるのだが食べたほとんどが野菜。麺はほぼ丸々残ってしまっている。
「少し席を外すぞ」
そう言って銑十郎君は席を立った。恐らくトイレに行ったのだろう。何気ないその行動が、大きな意味を持っていたことを僕たちは知らない。
「・・・ねぇ琴音?」
「なんすか?」
箸を止めたセツナさんが、顔を俯かせて沙漠君に話しかけた。
何故だろう・・・嫌な予感がする。
「アンタさっき、アタシの服装について笑ってたわよね?」
「な、何のことだか・・・」
沙漠君も気づいたらしく、顔を反らして何とか逃れようとする。
「選ばせてあげるわ・・・・・・このラーメンを食べるか・・・アンタの鞄の中にリバースするかよ」
「な、何てこと考えやがる!!」
セツナさんからとんでもない問題発言が聞こえたが、きっと気のせいだろう。
だから沙漠君が顔を引きつらせながら冷や汗を流しているなんて絶対に気のせいだと思いたい。
「か・・・神矢・・・・・・くん」
「もしかして楓さんも・・・わっ!」
何となく予想は付いていたけど、どうやら楓さんも限界らしい。
口元に右の手のひらを当てて涙目でこちらを見ている。こころなしか身体も少し震えている気がする。そして空いている左手でどんぶりを少しずつ僕の方へ・・・
「い、頂きます・・・」
流石にこの状態の楓さんに無理強いをさせるつもりはない。そもそも誰も知らないでこのラーメンを頼んだのだ。誰も悪くない・・・
僕と沙漠君は、意を決して麺を食べ始めたのだった。
僕もラーメン食べたい()