書き溜めって難しいですね
帝国学園との練習試合を終えて東京から沖縄に帰ってきた僕たちは、次の日から今まで通り練習を始めた。
今までと少しだけ違うのは、走力トレーニングはそのままに練習が全体練習から個人練習に変わったところだ。
監督からの指示は一つ。各々足りない部分を自由に練習せよということだけ。僕たちはその指示に従い、それぞれが練習を始めた。
「行くわよアンタ達!」
「・・・何でボクまで」
「DFの練習だからね~。古旗はDF寄りの癖に全然守備しないし~」
個人練習といっても、必ず一人で行わなければならないわけではない。
自分の足りないと思ったところが同じ選手同士で練習するのも一つの選択肢だ。僕たちは今、3vs3でミニゲームを行っている。
ルールはOF3人、DF3人にGKを1人加えて攻守を固定して行っている。
OFはセツナさん、沙漠君、僕の3人。
DFは玲夢君、暁君、楓さんの3人でに加えてGKの銑十郎君がいる。
この練習の目的はDFの連携。流石にDF陣だけで守備の練習は出来ないため、僕たちOF陣が手伝っているのだ。
「じゃあ始めるよ!」
僕が3人の真ん中に立ち、沙漠君にパスを出してゲームをスタートさせる。
特に今回はポジションを決めてやっているわけではないので、状況に応じで自分がどこにいるべきか、誰をマークするべきかという状況判断が必要になってくる。
「銀条先輩っ!」
沙漠君が僕にリターンをする。そのまま今度は逆サイドのセツナさんにボールを出そうと思っていたのだが、丁度タイミングよく玲夢君が彼女へのパスコースを塞ぐ位置に立った。
僕はセツナさんへのパスを辞め、もう一度沙漠君の方を向く。
それに気づいた楓さんがすぐさま沙漠君のマークへ付くべく走り出した。それを確認した僕は、楓さんが動いたことによって出来たスペースに向かって沙漠君へのパスを出した。
「あっ・・・!」
「カバー任せて~!」
楓さんのカバーに入った暁君が沙漠君に一対一を仕掛けようとしたのだが、沙漠君はダイレクトで再び僕にパスを返した。
「行くよ、銑十郎君!」
「来い、神矢」
僕はパスを受け取ると、そのままシュートの体制に入った。
今回はDF陣の連携強化のための練習であるため、威力よりはコースを重視してシュートを打つ。
銑十郎君は先程沙漠君がいたサイドの方へ移動していたため狙うは逆サイド。上手く狙えたと思ったんだけど・・・
「はぁ・・・あのバカまたやったわ」
セツナさんが額を手に当ててため息をつく。楓さんは苦笑いで、銑十郎君もやれやれと言った感じだ。
「てか、浅見先輩あれとどいちゃうんすか・・・?」
「軽く蹴ったつもりは無かったんだけど・・・」
僕が打ったシュートはゴールに入ることは無かった。しかし、GKである銑十郎君が止めたわけではない。
なんと、先程まで沙漠君の方にいた暁君が反応し、僕のシュートに飛びついていたのだ。
ただ一つ問題が・・・
「浅見、アンタ何回言えば分かるのよ!手使うなって言ってるでしょ!!」
そう、暁君はシュートを止めたものの、方法は手だったのだ。
彼はGKではないため勿論ハンド。これまで練習中に何度か手が出てしまうことがあり、そのたびにセツナさんに怒られている。
「ご、ごめんって~・・・。中々野球の癖が抜けないんだよねぇ、あははは!」
「セ・・・セツナちゃん・・・・・・抑えて」
セツナさんに怒られるたびに笑って返す暁君。これがいつもの光景であるが、日に日にセツナさんの怒りが増しているような気がする。
その後も何回かミニゲームを繰り返し、キリの良い時間までやったところで、僕たちは一度休憩を入れることにした。
「流石に沖縄は暑いね・・・東京の涼しさが恋しいよ」
「・・・今更何言ってんだよ。まぁ・・・神矢がこっちに来たのが涼しい時期だったし、無理もないか」
給水をしてからグラウンドに寝転んだ。海洋学園のグラウンドは人工芝であるため、気温が高いとすさまじい程の熱気がこもる。
それを忘れていた僕は、寝転んだ際の熱気で起き上がる気力を無くしてしまった。
「神矢先輩?大丈夫っすか?」
「う~ん・・・おやすみ・・・」
「そんなところで寝たら脱水症状に・・・・・・神矢先輩、真面目に起きた方がいいっす・・・」
「もうちょっとだけ・・・むにゃ・・・」
沙漠君が寝そべっている僕の身体を左右に揺らして必死に起こそうとする。しかしその揺れでさらに心地よくなってしまい、僕は一向に起きなかった。
「神矢先輩っ!マジでヤバいですって!」
「うぅ、ねむ・・・い・・・あれ?」
僕が目を開けると、僕の顔を覗き込むようにして見ている人物がいた。
しかも今は丁度お昼なので、寝転がっている僕が目を開けると日光が入ってくるはずなのだが、そんなことは無く、丸い何かが僕の上にあった。
これは・・・日傘?
海洋学園にいる人物の中で日傘をさしている人は殆んどいない。生徒は勿論のこと先生側も少ない。僕たちに用がありそうな人で日傘をさしている人物と言うと・・・・・・
「お、おはようございます霧野先生・・・」
「はい、おはようございますユーリ君。確かまだ練習中だったはずですが、よく眠れましたか?」
今まで感じていた暑さが嘘のように消えていき、逆に冬でも感じることは無いと思う程の寒さが襲ってきた。
俗にいう冷や汗だ。僕の目の前にはニッコリと微笑む霧野先生の顔が。日傘のお陰で逆光は無いため、はっきりと先生の顔が見える。
「さてユーリ君、これは何の練習ですか?できれば詳しく教えていただきたいですね♪」
「あわわわ・・・!さ、沙漠君っ!」
先程まで僕を起こそうとしていた沙漠君に助けを求めるが彼は申し訳なさそうに顔を反らした。他にもセツナさんは自業自得だと言わんばかりの顔、楓さんは苦笑い、暁君はいつも通りの笑顔、銑十郎君に至っては僕の方を見てすらいない。
「ユーリ君がまだここの気候に慣れていないことは分かっています。それに伴った休憩は勿論許しますし、そもそもイレブンバンドで皆さんの健康状態もある程度分かるので、無理をさせるつもりもありません。ですが・・・グラウンドに寝そべるのは頂けませんね」
「はい・・・ごめんなさい・・・」
項垂れる僕に、霧野先生は言葉を続けた。
「本当なら罰として学校からビーチまで30往復程が妥当でしょうが、今回はお使いで手を打ちましょう」
「お使い・・・ですか?」
霧野先生は懐からメモが書かれた紙を取り出すと、それを僕に渡してきた。
そこにはぎっしりと買い物リストが書かれておりその多くがサッカー用品である。おそらく備品の補充や練習に使う新しい道具などだろう。
「お金は勿論部費から出るので、安心してください。それと一人だと大変でしょうから、皆さんで手分けしてお願いします。他の6人も一緒に。その方が時間を節約できますからね」
『え?』
唐突に買い物に駆り出されることになった僕たち。人数が増えれば楽にはなるけど、流石に7人は多いような・・・
「連帯責任ですので♪」
『・・・・・・。』
「うっ・・・!」
6人からジト目を向けられ、僕は自然と正座をしていた。
「では、今日中にお願いしますね♪」
「・・・何で僕まで」
「あはは~・・・こればっかりは古旗と同感」
「全くよ・・・」
「でも・・・・・・・皆でやった方が・・・確かに早いよね」
「効率的だな」
「今練習時間中なんすけどね」
「ホントにごめん・・・」
僕たちは監督に頼まれた者を買うために、近くのスポーツ用品店まで来ていた。
僕は沖縄に来てからよくこのお店に通っている。皆もそうみたいで、店の中でばったり出くわすこともざらではない。
「こんなことになるなら、いつもみたいに起こせば良かったわ」
「あの起こし方は勘弁・・・」
「服びしょびしょになるしね~」
「しかも巻き込むのやめてほしいんすけど・・・」
セツナさんの言う起こし方とは、大きなバケツ一杯に入れた水を寝ている僕たちの顔にぶちまけるという方法だ。
確かにしっかりと起きれるのだが、いかんせんビックリするのでやめて欲しい。
「これとこれと・・・後はこれもだね」
「随分多いな」
「監督にしては・・・珍しい・・・」
「・・・カートにして良かったよ」
次々とカートに用品を詰め込んでいく。頼まれていた物を全て入れたところで、僕たちは会計を行った。
ざっと3万円ぐらいだろうか。店員さんに金額を言われた僕たちはギョッとしたが、先生から渡されたお金で十分買える範囲だった。
僕はおつりを受け取るとそれを封筒にしまう。そのまま皆で袋を手分けして持ち、店を後にした。
「今日はホントに暑いね・・・」
「神矢君・・・大丈夫・・・?」
「確かに例年より暑いな」
「しょうがないわね・・・ほら、あそこでアイスでも買ってきましょ」
セツナさんの提案により、僕たちは近場のアイスクリーム屋さんで休憩することにした。
いつもは混雑している時間帯だけど今日は運が良かったみたいだ。念のため他の人にとられないように素早くテーブルを確保すると、皆疲れからか誰もテーブルから離れようとしなかった。
「行ってきます・・・」
誰に言われることもなく、僕の身体は自然とカウンターの方へ動いていた。
「はぁ~・・・癒されるわ」
「確かに美味いな」
「流石有名店だね~」
「・・・ところでさ、ここのアイスってそこそこ高かったと思うんだけど、よく人数分買えたね」
玲夢君がふとそんなことを言う。すると、他の皆も確かにそうだという反応を示し、全員僕の方を向いた。
「お金なら大丈夫だったよ。だってほら・・・・・・さっきの御釣りがあったし!」
『・・・・・・。』
その後学校へ戻った僕たちは、学校とビーチを30往復させられたのだった。
神矢君ってかなりの問題児だよね()