僕たち海洋学園は、開催間近のフットボールフロンティアの予選に向けて練習を行っていた。
以前と変わらず各々の足りない部分を鍛えるためにトレーニングを行っているのだが、今日は珍しく早くに練習が終わったのだ。
使った道具を片付け、シャワールームで汗を流した後にジャージに着替えて僕たちは部室へと集まった。
練習中に霧野先生からイレブンバンドを通して連絡があったのだが、何やら重要事項らしい。
海洋イレブン全員が揃ったところで、霧野先生が話を始めた。
「皆さん、とうとうこの季節がやってきましたね!」
今日の霧野先生はいつもより機嫌がいい。何か良い事でもあったのだろうか?そういえば以前も似たようなことがあった気がする・・・
「今回は少し違うかな」
「わっ・・・聖坂君!?ビックリさせないでよ・・・」
「ごめんごめん。因みに何処が違うのかって話だけど・・・まぁ聞いてれば分かるかな」
至極真っ当なことを返してきた聖坂君は、それ以上何も言わずに霧野先生の方を向いた。
霧野先生は皆に紙の資料を配ると、嬉々とした様子で今回の事について話し始めた。
「ユーリ君を除いた今の2年生たちは知っていると思いますが、今年もフットボールフロンティア予選に向けて合宿を行いたいと思います!」
笑顔を絶やさずに言う先生とは対照的に、去年も経験したであろう2年生たちは絶望したような表情をしていた。
先生が合宿について一通り説明した後、今日は解散となった。
「合宿っすか。先輩たちの反応を見る限り、あんまり良い感じはしなさそうっすけど・・・」
「遊びに行くわけじゃないからね。実戦経験を積ませたいんだと思うよ」
僕と沙漠君は帰る途中にスーパーへと寄っていた。そろそろ僕の家の冷蔵庫にある食材が切れてしまうため、その買い出しなのである。
最初の頃は一人で買いに来ることが殆んどだったけど、1年生が入ってきてからは沙漠君が一緒に着いてくることが多くなった。
特に誘っているわけでもないし頼んでいるわけでもないのだけれど、彼は勝手に着いてくる。
僕は彼の事を鬱陶しいとかは思っていないので理由を聞かないし、追い返したりもしない。
話し相手にもなってくれるのでとてもありがたいのだ。
「そういえば神矢先輩、最近悩み事でもあるんすか?休憩中とかよく考え事してるみたいだったんで」
「よく見てるね。たいしたことじゃないんだけど・・・このチーム、あんまり必殺技の練習をしないんだなって思ってたんだ」
そう、僕たち海洋学園の練習メニューはとてもシンプルだ。
朝練はひたすら砂浜を走り、午後連は基礎練習こそ行うもののそれらはランニングの合間に行われる。
そして練習の最後にまた砂浜を走るという徹底的に自分の身体を追い込む練習だ。
走ると言っても色々あるのだが、簡単に言うと持久力や瞬発力など全てを鍛え上げている。
お陰で練習時間内での必殺技の練習は皆無。練習が終わった後に自主的にやる者はいるが、中々形にはなっていないよだった。
「おかげでだいぶ走れるようになりましたけどね」
「沙漠君、最初はすぐにバテてたもんね」
「あれは神矢先輩に合わせようとしたからっすよ!技術だけじゃなくて走りも凄いって、正直お手上げっすよ」
僕たちの練習は基本的に各々にノルマが課されている。勿論ノルマ以上の練習をこなしてもいいのだが、あまり無理をすると霧野先生からストップが入ってしまう。
そのため、自分がさらに磨きたいものに比重を置いて練習を行うものが殆んどで、皆で何週走るだとか、何回筋トレを行うだとかは一切行っていない。
自分たちが満足するまで行うのだ。
「そういえば、神矢先輩がスペインにいた頃はどんな練習をやってたんすか?」
「うーん・・・基本的に自己練習が多かったかな。スペインのチームと言っても、全員がスペイン人ってわけじゃないからそれぞれ自分の足りないものがはっきりしてたんだよ。それと監督やコーチがアドバイスをくれたりね。あ、勿論連携はしっかり全員でやるよ。後は実戦あるのみって感じかな。だから、海洋学園の練習は結構僕に合ってたりするんだよ」
「うちの監督、結構変わってるって思ってたんすけど、世界で考えると普通なんすかね」
「どうだろう・・・でも、自分で足りない部分を補うのは重要だと思うけどね。よし、今日の所はこれぐらいでいいかな。合宿もあるから、あんまり買って腐らせちゃうのも嫌だしね」
いつもより中身が少ないカートをレジまで運び、会計を済ませる。
そのまま帰路に着き、僕は家の前で沙漠君と別れた。
家に入って買ったものを一通り冷蔵庫に詰めた後今日の練習で使った服を洗濯にかける。ついでにお風呂を沸かし、今日の疲れを取ることにした。
「日本のお風呂ってやっぱりいいなぁ~」
スペインでは味わえなかった長風呂を毎日味わえる日本に僕は満足していた。サッカーのレベルこそまだまだ世界の足元にも及ばないけど、こればかりはトップレベルだろう。
携帯で音楽を流しながら入浴を楽しんでいると、不意に流していた音楽が止まり、着信音が鳴り響いた。
「こんな時に・・・・・・もしも~し」
『何よだらしない声ね』
「なんだセツナさんか・・・」
電話が鳴った時にはすぐに出るようにとお母さんから教えられていたためつい出てしまったが、相手はセツナさんだった。
彼女はなんだって何よ!アタシじゃ悪いわけ!?と叫んでいる。
「ご、ごめんって・・・ところでどうしたの?こんな時間にめすらしいね」
『・・・少し練習に付き合ってほしいのよ』
「えぇ、今お風呂に入ってるんだけど・・・」
『あぁ・・・通りで声が響いてるわけね。なら無理にとは言わないわ。いつもの砂浜で練習してるから、気が無たら来て頂戴。それじゃあ』
僕が返す前にセツナさんは電話を切ってしまった。彼女にしては珍しく、あまり元気がない様子だった。
それに少し焦っているように感じる。
「明日にでも話を聞いてみようかな・・・」
流石に既にお風呂に入ってしまったため身体も心もオフの状態だ。今から練習する気は起きなかったため、明日詳しく聞いてみようと思ったところで、再び携帯から着信音が鳴り響いた・・・・・・
「神矢来ないなぁ~・・・」
「流石にこの時間じゃ来ねぇって言ったのに・・・」
一度それぞれの家に帰った海洋学園のイレブンの数名が、普段使っている砂浜で特訓を行っていた。
目的は単純にスキルアップである。普段の練習から基礎体力や走力は鍛えており、本人たちも力が付いているのは実感している。
しかし肝心な技術的なスキルは未だに身に付いていない。正確に言うと身に付いていないわけではないのだが、以前のような帝国学園と行った試合の内容を繰り返すわけにはいかないのだ。
先程から彼らは、ペアを組んで一対一を繰り返し行っている。
「そろそろ休憩にしましょ。無理は良くないわ」
セツナの掛け声で各々が休憩に入る。1時間ほど前からこの練習を行っており、ある程度回数をやってからペアを変えて再度行う。
これをひたすら繰り返しているのだ。
「やっぱり・・・練習の後だと・・・疲れるね・・・・・・」
「無理はするな」
楓は地面に座り込み、そんな彼女に銑十郎が飲み物とタオルを渡す。
全員身体は付かれているが何か物足りない様子である。それもそのはず、以前の練習試合でユーリのプレイを見せられて以来、皆それに追いつこうと必死なのだ。
「やっぱり、神矢に来てもらうのが一番だよね~・・・」
「・・・・・・アイツ風呂入ってたんだろ?流石になぁ・・・」
「でも、事前に言えば神矢先輩なら来てくれると思うっすけどね」
暁や霊夢、沙漠もユーリの存在を必要としていた。
そんな皆の様子を見ていたセツナは、一旦場を引き締めるべく手を叩いた。
「ほら、休憩終わり!さっさと続きやるわよ!」
「相変わらず休憩みじけぇ・・・」
「これも練習の一環だからね~」
「こういう時のセツナさんって、霧野先生に似てるよね」
セツナが先程したように手を叩く行為は霧野先生がよく行う仕草だ。その仕草が様になっており、皆がオォ~と頷く。
「バ、バカなこと言ってないで始めるわ・・・よ・・・って神矢!?アンタいつからいたのよ!」
「さっき来たばっかだよ。丁度皆が休憩してるとき」
セツナさんの反応で僕の存在に気付いた皆は、一斉に僕の方を向いた。
全員が全員驚いた顔をしているのでちょっと面白い。
「メンバーは今日の練習の時と同じなんだね。ところで、どんな練習をするの?」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。アンタ今日は来ないもんだと思ってたわ」
セツナさんの一言に皆がうんうんと頷く。
「ホントはそのまま寝ようかと思ったんだけど、気が変わってね」
「ま、何にせよ来たからには最後まで付き合った貰うわよ」
その後僕が支度を終えたところで練習を再開した。
まさかこの練習が、後々大きな変化をもたらすことを僕たちは知らなかった。
アレスの天秤のゲーム発売まだかな!
多分ワールドホビーが終わってからだな!