大海原中との練習試合から数か月が経ち、僕はだいぶサッカー部に馴染んできた。
学年も上がり、新3年生は受験のため引退。
残った僕たち2年生と、新たに加わった1年生とで新体制が出来上がった。
今日もいつものように練習に参加するべく海洋学園グラウンドにいる。
一緒に過ごした月日のわりに少しずつではあるがチームメイトとも積極的に話せるようになった。今のところはFWの銀条 蓮基君(10)、MFの銀条 セツナさん(6)、DFの浅見 暁君(2)、GKの鉄垣 銑十郎君(1)、そして新しくFWの聖坂 景君(11)にMFの古旗 玲夢君(5)とも話すようになった。
そんなことを思いながら練習を始めようと皆が準備をしていたら、始まる前に全員が集められ、霧野先生からあることを告げられた。
「今日は皆さんに大事な報告があります♪」
何故だか今日は霧野先生の機嫌がいい。表情はいつもと変わらず笑顔だけど、声にいつも以上の明るさがある。
ただそんな霧野先生とは対極に、他のメンバーの表情はあまり良くない。
「聖坂君、これはどういう・・・?」
僕はたまたま近くにいた聖坂君にこの状況の説明を求めた。すると聖坂君は苦笑いのまま僕の方を向いた。
「監督がこういう時って、大抵強いところとの練習試合なんだよね・・・」
僕たちは沖縄の中学校であるため相手校の数が少ない。それに加えてその中でも上位に位置する学校と言えば、僕たちの海洋学園と以前戦った大海原中の2校である。
そうなると必然的に他の県の中学校との試合になるけど、その場合飛行機や船などで移動することになる。
やはり試合のためとはいえ移動時間が長いのはつらいのだろう。大海原中との練習試合以降、他校との練習試合は無かったため、他県との試合のための移動手段には少し期待している。
「多分神矢君が考えてることとは少し違うかな」
「え、そうなの?」
どうやらそうではないみたいだ。ならばいったい何なんだろう・・・。
僕が悩んでいると、実際に監督の話を聞いた方が早いよと聖坂君に言われた。
「来週の土曜日に練習試合を組みました!相手は東京の帝国学園です♪」
霧野先生が対戦相手を告げると、皆がどよめいた。
それ程強い相手なのだろうか?ここに来てから全開のフットボールフロンティアについて少し調べていたけど、帝国学園は確か全国大会の一回戦で世宇子中という学校にボロ負けしたはずだ。
しかもその世宇子中は決勝で雷門中に敗れている。さらには雷門中もクラリオ君達が率いるバルセロナオーブに完敗。やはり今回も僕はサポートに回るべきだろう。
「そしていつもの様に、皆さんには課題を出したいと思います♪」
その一言で皆の士気がさらに下がっていく。おそらく聖坂君が言っていたことはこの課題に関することだろう。
思いつく課題と言えば、ボールタッチやシュートの回数に制限をかけたり、新たな技やタクティクスの実戦投入など色々なことがある。
少なくとも、このチームに足りないことを気付かせる、あるいはその場で改善させるためのものであることは確かなはずだ。
いったいどんな課題を・・・。
「今回の帝国学園との試合・・・・・・10点以上の差を付けて勝ってもらいます」
『えっ!?』
10点・・・!?
それはいくらなんでも・・・。
霧野先生の表情を見る限り冗談ではないことが分かった。さっきまでのにこやかな表情ではなく、真剣である。
声のトーンもいくらか下がっていた。
「帝国学園にはかつて天才ゲームメーカーと呼ばれていた鬼道 有人君がいましたが、彼は現在星章学園に強化委員として配属されています。今の帝国学園となら、これくらいは問題ないと思いますよ」
僕も含めて皆はまだ、開いた口が塞がらないといった様子だ。
場の空気が静まり返ってしまった中で、ある人物が突然立ち上がった。
あれは・・・蓮基君?
「よく聞けお前ら!相変わらず監督の課題はむちゃくちゃだが、俺にボールを回せ!10点ぐらいすぐに決めてやる!!」
蓮基君の一言で皆は、特に1年生の子達はやる気を取り戻したみたいだった。
それにしても、以前から思っていたけど蓮基君に対するチームの信頼度はとても高いように感じる。
以前セツナさんが言っていたようにシュートは基本蓮基君が打っている。海洋学園のFWは3人いるけど主な得点源は彼。けど、他のFWがシュートを全く打たないのは気がかりだ。
次の帝国学園戦、本当に10点以上の差を付けるのなら、他のFW二人の得点も必ず必要になる。
「では皆さん、早速練習を始めますが・・・・・・今日から試合まで、練習は走り込み以外禁止とします」
「なっ!?待ってください監督!走り込みだけで課題をこなせるとは思えません!やはり必殺技や連携に時間を使った方が!」
霧野先生の指示した練習内容に、いつも冷静なはずの聖坂君が反論した。確かに走り込みも重要だけど、それだけでは到底攻撃力は上がらない。
ポストプレーを行い攻撃の中心となる役割を担っている聖坂君だからこそだろう。でも、今年の海洋学園は1年生が入っても控え選手がいないので、試合を走り切るスタミナは確かに重要だ。
だけど走り込みならメンバー全員が毎日行っていることである。並大抵の学校よりかは遥にスタミナがあるはずだ。
「聖坂、監督の指示に従うべきだ。今まで監督が間違ったことを言っていたか?」
そんな聖坂君を鉄垣君が宥める。聖坂君は元々熱い性格ではないので、すぐにいつもの調子を取り戻した。
「他に意見のある子はいますか?いないようでしたら、早速練習を始めてください♪」
それから試合までの間、今までに無いくらい長い距離を、多くの坂を、全身に負荷をかけながら行ったのだった。
「これが帝国学園・・・」
試合当日。僕たち海洋学園は、予定していた帝国学園との練習試合のために帝国学園を訪れていた。
これは本当に中学校なのだろうか。ここまで大きく、さらには道路まで敷かれているような学校はそうそう無いだろう。
「早速グラウンドへ向かいますよ。くれぐれも迷子にならないように気を付けてくださいね?特に・・・ユーリ君?」
霧野先生が僕の方を見てニッコリと笑う。その後に続々と皆が僕の方を見てきた。中には苦笑いや呆れ顔、今にも怒り出しそうだが必死に耐えているメンバーもいた。
それもそのはず、僕たち海洋学園は飛行機に乗って東京へやってきたのだが、東京の空港へ着いた時、僕が迷子になってしまったのだ。
実の所、空港内のトイレに行った帰りに日本の売店がとても珍しくて寄り道をしてしまった。
その結果、ものの見事に迷い、皆と合流できたのは予定していた空港を出発する時間の1時間後。
僕を探しに走り回っていたセツナさんにはこってり叱られ、聖坂君からはフォローのしようが無いといった表情をされた。
「では行きますよ。玲夢君、沙漠君、ユーリ君をしっかり見張っていてくださいね」
僕の後ろにいた玲夢君と琴音 砂漠(ことね さばく)君が返事をした。霧野先生を先頭に2列で進んでいく。沙漠君が最後尾で、その前に僕と玲夢君が並んでいる。
「なんでぼくがお守なんか・・・はぁ、めんどくさい・・・」
「そう言うんじゃねぇよ玲夢。折角神矢先輩と話せるチャンスが出来たんだ。ここんとこランニングばっかで碌に会話できなかったからなぁ」
「お前・・・僕が先輩だって忘れてるだろ?」
気だるげに喋るのが玲夢君で学年は僕と同じ2年生。そんな彼に対してかなりラフな喋り方をするのが1年生の沙漠君だ。玲夢君と沙漠君は役割こそ違うものの同じMF。お互いに通じるものがあるようで、よく二人で話をしているのを見かける。
「二人はほんとに仲がいいね」
「俺は神矢先輩と仲良くなりたいっすけどねぇ。スペインにいた時の話とか聞かせてくださいよぉ」
「お前ホントやだ・・・」
控室に到着するまでの間、3人での会話を楽しんだのだった。
「これからスターティングメンバーを発表します。と言っても、11人しかいないからポジション発表ですけどね」
皆が着替え終わり、アップが始まる前に今回のスタメンが発表された。
FW 銀条 蓮基(2年) 聖坂 景(2年) 飛渡瀬 武蘭(ひとのせ ぶらん)(1年)
MF 神矢 ユーリ(2年)
銀条 セツナ(2年) 琴音 砂漠(1年)
古旗 玲夢(2年)
DF 逢野 岱゙貂(2年) 浅見 暁(2年) 漸次 楓(2年)
(おうの だいてん)
GK 鉄垣 銑十郎(2年)
次回から帝国学園戦!!!