帝国学園との練習試合が始まった。僕たち海洋学園は、霧野先生から課された10点以上の点差を付けて勝つという課題をこなすため練習をしてきたのだけど・・・
「10点差を着けなきゃいけないのに、1点取られちゃった・・・」
右サイドバックを任されている楓さんは今にも泣きそうな表情である。この失点の責任が自分の判断の遅さによるものだと感じているからだろう。
「切り替えなさい楓。相手は強豪校よ?そう上手くいくものじゃないわ」
そんな彼女をセツナさんが優しく励ました。その反面・・・
「逢野!アンタDFなのよ?!もっと慎重にディフェンスしなさいよ!」
蓮基君の方へ向かっている最中の岱貂君にセツナさんが怒鳴った。彼は今回の失点に一番絡んでいる人物だ。しかし彼はセツナさんを無視し、蓮基君の方へ向かった。
無視されたセツナさんはその場で地団太を踏みながら顔を赤くしてさらに怒っていた。それを今度は楓さんが宥める。
「悪い・・・」
「気にするな岱貂。すぐに取り返してやる。なに、1点ぐらい変わらないさ」
岱貂君が蓮基君に謝罪をした。どうやらこの二人は仲が良いらしい。それにしても、蓮基君のシュートが通じない今、新たに得点方法を考える必要がある。
「ねぇセツナさん」
「何よ?」
岱貂君に無視されたせいか、心なし機嫌が悪いセツナさん。
彼女の隣にいる楓さんが再び宥めると、今度こそいつものセツナさんに戻ってくれた。
「攻め方を変える必要がある。そのために協力してほしいんだ」
「攻め方を変える?」
セツナさんは怪訝な顔をする。少ししてから、話してみなさいと言ってくれたので、提案することにした。
「今の僕たちの攻撃パターンは一つしかないんだ。蓮基君にパスを回して、そのままシュートを打つ。今まではそれでよかったかもしれないけど、今は完璧にそれが抑えられている。彼も気づいてないはずはないんだけど・・・。話がそれちゃったね。攻め方を変えると言っても、単純にシュートを打つ人を増やすだけなんだ」
「アタシにも打てってこと?」
打てなくはないけど・・・と考えるそぶりをするセツナさん。
恐らくは必殺シュートを持っていないのだろう。帝国学園のキーパーは思っていたよりも反応が良い。普通のシュートではまず決まらない。そうなるとあのハイビーストファングを破る必殺技が必要になる。
「必殺シュートが打てそうな人は他にいないかな?」
「残念だけど、アタシたち2年の中で打てるのは蓮基だけよ。今までアイツがシュートを決めてたから、誰も必殺シュートの練習はしてこなかったのよ」
これは想定外だ。確かに今まで蓮基君がシュートを打っているところはほとんど見たことないが、まさかそもそもが打てないとは思っていなかった。
となると残りは1年生。武蘭君と沙漠君だ。プレーを見た感じ二人とも初心者ではなさそうだけど、武蘭君のプレーは少し引っ掛かる所がある。
ただそれが何なのかは分かっていない。とにかく今はその二人に任せてみるとしよう。
「セツナさん、パス回すからよろしくね」
「前みたいに取れないのは嫌よ?」
そう言いながらもニヤリと笑うセツナさん。以前みたいに体力に余裕があるからだろうか。ひとまずここで話は終わりにし、試合再開を待つ。
ピー―!!
再開のホイッスルが鳴り、試合が再開した。
僕は聖坂君からボールを受け取ると、そのままセツナさんへとパスを回す。
「んっ・・・!」
僕のパスに飛びつくように反応するセツナさん。相手は僕のパスに反応できなかったらしく、驚愕の表情を浮かべていた。
「(相変わらず速いけど・・・何とか反応出来るし追いつける!)神矢!」
そのまま少しドリブルをしたセツナさんは、僕にリターンをくれた。
ボールを受け取った僕はそのままドリブルを開始した。すると、前方から不動君がボールを奪いに来た。
「貰ったぁ!」
「沙漠君!」
今度はすかさず逆サイドの沙漠君へパスを出す。しかし、それを狙っていた相手がスライディングでパスカットを試みた。けど・・・
「何て速さだ・・・!」
「うおぉぉぉ・・・と、届いた!(今までパスを出されたことはあるけど、取れたのは初めてだ・・・)ナイスパスっすよ神矢先輩!」
沙漠君の方も何とかトラップできたみたいで、相手に詰められる間に僕にボールを返す。
僕が味方にパスを出して受け取ったらリターンをする。それを何度か繰り返し、気付けば僕たちは帝国学園のゴール前まで来ていた。
「絶対にシュートを打たせるな!」
相手キーパーがDF陣に指示を飛ばす。すると武蘭君、景君、セツナさん、沙漠君にそれぞれマークが付く。
そして僕には不動君と・・・
「これ以上好きにはさせない!」
「調子に乗りやがって・・・!」
この試合で始めて対面する風丸君だ。彼は雷門から来ているということもあってそれなりに興味はある。クラリオ達に負けてから数か月が経った。あれからどれくらい成長しているのだろう・・・
それを見極めるべく、僕は二人に突っ込んでいった。
「2対1で勝てると思ってんのかよ!舐めんな!」
「待て不動!」
僕に釣られて飛び出してきた不動君を躱し、風丸君との一騎打ちに持ち込む。
右へ身体を揺さぶってすぐに左へ抜けようとする。すると風丸君はそのフェイントには引っ掛からずに付いてきた。しかし・・・
「ボールが・・・?!」
僕のフェイントに食らいついてきた風丸君だったけど、肝心なボールの行方を見ていなかった。
フェイントをかけている最中に、僕は右サイドの武蘭君へとパスを出していた。
「行けぇ!武蘭!!」
同じ一年生ということもあってか、沙漠君が大きな声で激励する。
意表を突いたパスにより、帝国DFは反応できず、武蘭君は完全なフリーだ。
相手のゴールキーパーも僕のDFをしていた風丸君に僕が隠れており、パスの出どころとタイミングは分かっていないはず。
もし必殺シュートが無くとも、得点できる可能性は十分に高い。
誰もが得点を期待していた。が・・・
「銀条さん!」
なんと武蘭君は逆サイドの蓮基君へとパスを出した。パスを受け取った蓮基君はフリーだったということもあり、そのままシュートを打った。
「今度こそ決めてやる!アンカー・・・ショットォ!!」
今回の試合3本目とな蓮基君の必殺シュートが帝国ゴールを襲う。
しかし・・・
「馬鹿な・・・!」
相手のGKは、蓮基君の渾身のシュートを今度は片手で止めてしまった。
どうやら、蓮基君のシュートを完全に見切られてしまったらしい。
「帝国も舐められたものだな。この程度のシュート、いくらでも止められる」
右サイドからシュートを打つと見せかけて左サイドからのシュート。一見意表を突いたように見えるけど、今までの流れから蓮基君がシュートを打ってくることは想定内だろう。
相手GKの身体の向きは最初から僅かに蓮基君の方を向いていた。相手DF陣もわざと蓮基君にパスを出させるようにマークを外していた。本来彼のマークについているはずの風丸君が、僕の方に来たことが何よりの証拠だった。
ピピー!!
僕たちは流れを掴むチャンスをものに出来ず、未だに得点0で前半を終了した。
これどうやって10点とるんだろうなぁ・・・