ジムリーダー、辞めてみました。   作:えだまめ。

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ジムリーダー、辞めてみました。

 

 重厚で、重苦しいような空間。そこには何もなく、周り全てを冷たい無機質に覆われている。例えば、常人ならば数日と立て籠もる事も敵わないだろう。

 そこに、一人の青年が立っている。ただ、己への挑戦者が目の前に現れる事を願って。

 

 どれだけ待ったのか、測り知る事は出来ない。しかし、彼こそがこの空間を治めるリーダーなのだ。

 

 そして、ようやくその時が訪れる。

 一言で表すなら鋼。そんな無機質な空間に息を詰まらせる挑戦者。しかし、すぐにこちらへと強い、不屈の視線を向ける。やはり、ここまで来れただけの事はある。

 

 「最近は退屈でな。お前、なかなか骨がありそうだ。じゃ、アサギジムリーダー、ユズリ。行くぜ!」

 

 

 

 

 

 

 なんて、本日三回目の前口上を言ってから、またも挑戦者を叩きのめす。

 負けるワケがない。地面タイプと炎タイプさえいれば勝てる、みたいな弱い脳味噌で俺のハガネールが屈するワケが無い。

 

 それよりも、そろそろ前口上だるいわ。もう「問答無用!」とか言って短縮しよっかな。

 

 「……ユズリさん。また本気でいったでしょう」

 

 「……ミカンか」

 

 倦怠感に襲われた俺に、計ったように声をかける少女。名はミカン。

 このジムの俺の一つ手前のトレーナー、普通に強いので、自分で倒してしまう事もあるほどだ。

 ちなみに、まだ少女とはいえ、もはや成長の余地が無いほどの“ゼッペキ”の持ち主。

 

 「だってなぁ、みんなゴリ押ししかしなくてよ。何を勘違いしてんのか、【がんじょう】持ちのハガネールは一撃で落ちねぇっての」

 

 「それでも、私が通した人達は十分強いと思った方達なんですから。少しくらい手加減してでもバッジを与えないと」

 

 

 ───バッジ

 各地方にある8つのジム。そこにいるジムリーダー。それに勝つことによって得られる、チャンピオンへのチケット。

 アサギシティにあるこのジムでは、【スチールバッジ】を渡す。渡す時のセリフもちゃんと考えてある。最近は言う機会がめっきり減ったのが残念で。

 

 「お前が選別したトレーナーを、さらに選別すんのがジムリーダーの務めだろ。手抜きの具合なんて分からねぇし、ジムリーダーが途中のトレーナーより弱いって、どういう事だよ」

 

 「ユズリさんは素で強いんですから、『のろい』なんて使わずにいきなりとどめにかかるくらいで良いんですよ。トレーナーさんがゴリ押しなら、ジムリーダーもそれなりに合わせないと」

 

 「『のろい』だって防御しか上がらねぇし、遅いハガネールじゃ先手は取れない。特攻で決めにかかれば絶対に落とせるだろうが。こっちだって技のタイミング、かなりシビアにしてんのよ?頑張ったら勝てるくらいにまで油断してるよ?」

 

 「……ユズリさんが手加減してたなんて……!」

 

 「するわっ!!」

 

 

 最後は俺のツッコミで締める、いつも通りのミカンとの会話をして、近くの台に座りなおす。

 何よりも、今後が心配で、夜も寝れない事もある……けど基本ぐっすり。

 

 「ところで、そろそろジムの内装変えても良いと思わないか?」

 

 「そんな無駄な予算を本部が割くはずないじゃないですか。最近、ここのジムでバッジが取れないって、ウワサにもなってますし、役人さん来ますよ」

 

 「え、それ本当なの?週に3つくらい渡してるから、ただの負け犬の遠吠えだと思ってたのに」

 

 「3つじゃ少ないんです。一日一つくらいは渡さないと、ホントに苦情殺到しますよ?」

 

 ……危険だな。まさかそこまでとは。

 自分としても、いくら負けるのが仕事のジムリーダーでも、ほいほい負けるのは嫌だし、負け続けても協会から苦情くるし。そう、線引きがほしい。一日一つ渡す、とかでいいから。そしたらガンガン勝ちまくるから。

 

 「考えとく。……今日、まだ挑戦者来そうか?」

 

 「良く分かりませんが、天気も悪いですし、あまり人が出歩きそうでは無いですね。用事ですか?」

 

 「最近籠ってばっかだから、外の空気吸うがてら、散歩でもしようかな、と」

 

 こいつらは良いんだ。自分達が負けたら、俺に辿りつくまで外にいれるんだから。俺はずっと待たなくちゃいけないし、まず滅多に負けない。……ああそうか、これがいけないのか!今度からもっと負けよう、そうしよう。

 

 「そうですね。寝る際くらいしか外にもいないみたいですし、今日くらいは良いんじゃないでしょうか。私が勝って、ジムリーダー不在の事は隠せますし」

 

 「腹黒いな」

 

 「良心的なだけです」

 

 …………………

 

 ………

 

 …

 

 「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ。留守番頼んだ」

 

 「はい。……あっ、この事、ちゃんと私以外のジムトレーナーさんに言っておいて下さいね」

 

 「探すくらいはする」

 

 最後に溜息が出てたかな。気にしないけど。あ、そうだ───

 

 「ミカン」

 

 「はい?」

 

 「───いや、後でいいわ」

 

 この話をするのはまた後の方が良いか。少なくとも、明日。散歩しながら考えをまとめよう。

 

 

 

 

 

 「そうですな、ユズリ君も若いのだし、太陽の光を浴びなくては」

 

 「いいんじゃない?私も洋服買ったりするし、ユズリさん服いつも同じだしね」

 

 順番に、紳士のガジェットさんと、女子高生のリリコちゃん。ツッコミを入れるとしたら、雨降ってて太陽出てないし、服は余計なお世話だ。という所だろうか。本当に服の話は余計なお世話だ。

 

 まあ、二人とも肯定的で良かったかな。もしここで反対されてたら、ちよっと辛いかもだし。

 

 さて、了解は得たワケだけど、行く当てがない。どうするか……バトルタワーとか、どうだろ。詰まる所、挑戦者は発展途上なワケだから弱い。でも、強者達が集まるバトルタワーなら楽しめる……て、それじゃ変わらんか。今日は散歩だ。

 

 しかし、散歩といっても景色が良くないと……そうだ、灯台で良いか。行くまで歩いて、それからは景色でも楽しみながら、ゆっくり休む、と。

 

 「よし、それがいい」

 

 善は急げ、だ。さっさと行くか。……む、急がば回れ?いやいや、今は一刻も早く休みたいから。……馬鹿と煙は何とやら?うるさいわ!

 

 

 

 

 

 「思った通り……景色悪い」

 

 当然かな、雨の降ってる今じゃ景色の良し悪しなんて変わらない。鋼ポケモンも、しきりに身をふるって雨を弾いている。なんだろう、タイプ相性的に水は等倍なんだけど。進化前関係かな。

 

 嫌がるなら仕方ない。モンスターボールに入れやろう。よぉしよし、気持ちいいかぁ?おぉ、よしよし。

 

 ───ポケモンとじゃれるのもここまでにして、今回は体を休めに来たんだ。せっかくの休日に雨ってのも悲しいもんだが、生憎、雨も嫌いじゃない。

 

 「説明するなら、雨の匂いも嫌いじゃないってな」

 

 誰もいないのは分かっているが、ごちてみる。独り言が嫌いな性質でもないしな。

 最近は挑戦者を待つ関係、考え事をする時間が増えた。つまり、閉鎖的なあのジムにいすぎている。一日の大半はあそこで過ごしている。鋼ポケは嫌いじゃないけど、流石にあのジムはやり過ぎだ。考えて?鬱る鬱る。

 

 そもそも、ジムリーダーは俺の意思でなったワケじゃない。気が向いて、ポケモンリーグ本部主催の大会に出たせいだ。たぶん、あれが原因で任命されたんだと思う。

 ジムリーダーにならないかってねぇ、誰でも心躍るんじゃない?断る手段もあったけど、自分が戦ってきた難関に、今度は自分がなれる。よく考えれば簡単なんだけどな。ほとんどジムで過ごして、これじゃ恋愛も出来んわ!

 

 簡単に、性格じゃない。

 俺は適当に旅して、適当に交友関係広めて、適当に人生を過ごす。それが俺の人生だと思ってたし、それじゃないと生きれないと思ってた。

 

 だから、今が息苦しい。ジムリーダーが根本から嫌なワケじゃない。これのおかげで、雲の上だった他のジムリーダーとも上手に関係が作れたし、ジムリーダーの責務から、人の上に立つ大事さも分かった。でも、息抜きの仕方が下手な俺じゃ、ジムに張り付いてるのがやっとで、楽しめない。バトルが、楽しくない。

 

 だから、ミカン(・・・)なんだけどな。

 

 

 おっと、一人だとついつい暗くなる。全部ジムのせいだー!訴えてやる!

 そうそう、気分を高く持って。ハイテンション……はやり過ぎだから、テンション上げてこう。

 

 そういえば、最近カントーにも行ってねぇな。お隣さんだってのに、ジムリーダーは暇がねぇよ。

 聞けば、オーキド博士が直々にポケモンを手渡した子がいるらしい。お孫さんと、その友達だったかな。出来る事ならお会いしたいもんだ。どんなポケモンを渡したんだろうか、気になる事山の如しだ。

 

 

 しだいに、うつらうつらと船を漕ぎ出す自分。思っていた以上に疲れが溜まっていたらしい。それならばさっさと家に帰らないと、そう思う俺の思考もだんだん鮮明さを失っていった───

 

 

 

 

 ふいに目が覚めた。何とも体が気怠い。熟睡した気がするのだが、体のあちこちが軋む。

 だから、ここが自分の家の布団の上じゃない事は分かるのだが、目が霞んで良く見えない。

 

 「ユズリさん」

 

 聞きなれた声。返答したが、声が掠れて聞こえたかどうかは怪しいな。今日は特別寝起きが悪い。数回喉を鳴らし、目を擦る。

 

 うむ、やっぱりだ。

 

 「おはよう、ミカン」

 

 「確かに……早いですね」

 

 ここは灯台の一番上。昨日来た所だが、どうやらそのまま寝てしまったらしい。

 歯切れの悪そうなミカンの返事を疑問に思いながら、今の状態を確認する。「早い」とは、時間の事だろう。日も昇りきってない。

 

 「こんな時間に灯台に用か?」

 

 「……疑問としてはユズリさんに対しての方が多いと思いますが、はい。アカリちゃんの様子を見によく来るんです」

 

 アカリちゃんは……灯台の灯り役のデンリュウの名前だったはずだ。灯りだからアカリとは、何とも安直なネーミングだが、分かりやすい。しかし、ミカンがポケモンの世話をしに灯台までわざわざ足を運ぶとは、見かけ通りだ。予想を裏切ったりしない。

 

 「優しいな、ミカンは」

 

 「どうしたんですか。そんな慣れない言葉使って」

 

 言いたい気分だったんだよ、そう言って大きく伸びをする。ゴキゴキと鳴る体に快感を覚えながら、さて、今は5時前くらいか。

 

 「こっちからの質問としては、何でこんな所にいたんですか?」

 

 「昨日来てそのまま寝てた」

 

 「……」

 

 簡潔な答えに呆れるミカン。あんな顔をされるのもよくあることだ。初めは気にしたもんだが、今ではたいして気にならない。

 しかしその空気のままでは心地悪いので、アカリちゃんに話しかけるミカンの近くによって話題をふる。

 

 「アカリちゃんって、毎日面倒見てんのか?」

 

 「毎日来ては無いですが、来てあげないと寂しいから。毎日灯台を照らしてがんばってるアカリちゃんだって、遊んであげないといけません。ご飯あげたりもしますよ」

 

 「……うん、優しいな、ミカンは」

 

 「や、やめて下さい。本気っぽくて気持ち悪いです」

 

 年齢にそぐわず大人なミカンにさっきと同じ言葉をかける。確かに、さっきより感情こもった感じになったから、恥ずかしがるのも不思議じゃない。恥ずかしがるミカン。こちらはあまり見れない。記憶しておこう。

 

 ついでに、良い機会だ。今のうちに話しておこう。時間を取るのも面倒だし、本当良い機会だ。

 

 「アカリちゃんの世話ってどれくらいかかる?」

 

 「あと少しで終わりますが……。なんですか、もしかしてやりたかったですか?」

 

 「いや、そうじゃない。話がある。詳しくは昨日言おうとした続きだ」

 

 「ちょっと待って下さいね」

 

 話を聞くや否や、手早く作業をこなしていくミカン。かなり手馴れた感じだ。いつからやっているのか、聞いてみるのも良いかもしれない。

 

 おそらくは朝食だろうポケモンフードをアカリちゃんの前において、ミカンはこちらを向いた。

 

 「で、話って何ですか?」

 

 「ああ、荷物しまってからでいいよ。重要な話じゃないから」

 

 「そうですか」

 

 そう言って先に荷物を片付けさせる。どうやら、この後にアカリちゃんと遊ぶ必要もあるらしく、遊び道具だけは手元に置いたままにして、ミカンはどうぞ、と話を促した。

 

 「ああ、実はな、ミカン」

 

 そう言葉を切って、空気を読む。何ですか?と、首を傾げるミカンは年相応の少女の仕草。大人びた様子でもいいが、家では親に甘えているのだろうか。そんなどうでもいい疑問を抱いて、満を持して言葉を紡ぐ。

 

 「ジムリーダーを辞めようと思う」

 

  

 

 

 




主人公の名前は「ユズリハ」から。柚子じゃないよ!こっちはアニメで出てたから!「ハ」の所は省略しました。
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